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97話 よくある しばしの別れ

 今年の剣舞会の副賞に、ユウキ様が倒したドラゴンの牙が選ばれたらしい。王都から保管場所の大聖堂まで、その護衛役としてユウキ様がついてきたらしい。

 到着後、大聖堂を見学している途中ユーディー様とはぐれ、聖女様の館に迷い込んだようだ。

「ユーディー様と二人で? でも彼はイストレア領で夏は過ごすと……」

「なんでも二人は、なにか調べ物をしていて寮に残っていたらしいが」

 そうなんですか、と桃色の髪のお姉様に頷き、食堂で腰かけていた僕は出された紅茶に手をかけた。

「今回は妹が本当に申し訳ないことをした。すまなかった」

 突っ立ったまま頭を下げ、側仕えが誤って僕を刺したことを詫びてくる。

「やめてください。あれは事故なんです。どうか頭を上げてください。そんなことよりみんなは大丈夫なのですか?」

「ああ。白の魔術で大事には至らなかった。少し混乱しているようなので今は自室で眠らせている」

 お姉様が隣りの椅子に手をかけ腰を下ろす。

「それでユウキ様の処分はどうなりましたか?」

「ドアをこじ開けたということもあったが、勇者はなんでも追及するものだから、ということで不問となったらしい。まあ、西側の領地がなにか手を打ったのだろうが。幸い、君のお陰で聖女様の顔は見られていないしな」

「でも……あそこに聖女様がいたら……」

「そうだな。もしいつものようにヴェールを被って妹たちと一緒にいたら、そう想像すると背筋が凍る思いだ」

 お姉様は頭を抱えながら嘲笑する。

「それとマーレから手紙を預かっている」

 昼の騒動で、手紙を出していたことをすっかり忘れていた。

 ありがとうございます、とそれを受け取り、中身に目を通す。

 明日の朝、十の鐘に大聖堂まで迎えに来てくれるようだ。格安の宿舎も手配済みだと書かれていた。手持ちが少ないので『格安』ということを強くお願いしておいたのだ。

 よかった。そう安堵する。

「そうか、明日でしばらくお別れか」

「はい。いろいろとありがとうございました」

「ハイポーションのこともそうだが、妹たちのことは、いい変化が出て楽しい半月だったよ」

 僕もいい経験をした。いろいろなことを知ることが出来た。

 顔を見合わせる僕たちは目笑し合った。


 昨晩の夕食といい、早朝トレーニングといい、そして朝食の時も重々しい空気に包まれていた。

 消えるユウキ様に一撃も与えられなかったこと。僕に怪我を負わせてしまったこと。側仕えたちには大きな失態なのだ。落ち込むのも無理はない。彼女たちに負け続けている、弱い僕には、どう声をかけてあげたらいいのかわからなかった。

 せっかく側仕えたちと仲良くなったというのに、このまま気まずい感じでお別れをするのは嫌だと思う。

 荷造りを終え、窓の仕切りを閉めようと中庭を眺めていた。

 あと半刻ほどでここを出ていく。

 僕はテーブルの上でコップに浸かっている白い花へ目を向けた。


「ギル様。マーレ様が大聖堂に到着したようです」

 椅子から立ち上がった僕は彼女の姿を見てがっかりとした。

 側仕えの彼女がヴェールを被っていたのだ。覇気を感じ取ってみると朱色の髪の彼女だ。

 誤って僕を刺してしまったことをまだ気にしているのだろうか? 顔を合わせられないということなんだろうか? 

 足早に僕の荷物のもとへ歩む彼女に声をかける。

「あのう。この半月ほどお世話になりました。刺激的で楽しい時間でした」

 その言葉に振り返ってきた彼女へ、中庭で探し、今しがた摘んできた白い花を差し出す。

「昨日は大変なことがありましたが、今度来た時は、また素顔で会えることを楽しみにしています」

 白いヴェールが僕と僕が手にしている花を見比べる。

「あ、あのう……わたしは」

「あれは事故です。僕は気にしていませんから」

「でも、わたしのことを人だと信じてくれた人を……わたしは……わたしはやっぱり悪魔だったのかもしれません」

「そんなことはありません!」

 僕は声を大にして否定する。そして、顔を逸らす彼女の手を取り、その手のひらに花を乗せると、僕は彼女のヴェールに手を添えおもむろと脱がせた。

「悪魔だったら、そのように涙を流して泣いたりしません」

「わたしは……ギル様に」

「気にしていませんよ。だから笑ってください……そのほうが可愛いですし、お似合いですよ」

 と、白い瞳を潤ませる彼女に微笑む。

 気に病まないように、そう思って言ったつもりだったけれど、さらに大粒の涙を見せた彼女が僕の胸に飛び込んできた。

「申し訳ございませんでした」

 そう何度も何度繰り返しながら。

 聖女様のようにうまく励ませられないや。そう朱色の髪に手を添える。

「今度会った時は笑って出迎えてくださいね」

 頭を撫でながら声をかけると、

「はい」

 と、返事する彼女が泣き止むまでしばらく待っことにした。


 館と大聖堂の連絡口の前に、聖女様と側仕えたち四人が見送りに来てくれていた。

「ここに来たお陰でポーションが作れるようになり、魔術陣の授業も受けられそうです。ありがとうございました。三カ月後にまた来ます。お世話になりました」

 手を胸に当て、茶色い髪の聖女様に礼を言う。

「こちらこそ、ハイポーションの作製ではお世話になりました。三カ月後までに聖水を用意して待っています。あと、瞑想も半刻は出来るように頑張ります」

 聖女様がそう微笑む。

 次にヴェールを被っている四人の側仕えの前に立つ。

「いろいろと勉強になりました。もっと鍛錬を積んで、次は絶対に勝たせていただきます。半月、お世話になりました」

 そう挨拶をし、彼女たちの手を取り、白い花を手渡していく。

「次、来たときは素顔……」

 挨拶を言いかけるより前に、突然彼女たちがヴェールを脱ぎだした。

「絶対に戻ってきてください」

「今度も負けません」

「武術。練習を続けていきます」

「待っています」

 そう言って白い瞳を向けてくる。

 元気になってくれてよかった。思わず顔が綻ぶ。

「はい。次、会えることを楽しみにしています」

 そう挨拶を済ませ、僕はカラクリの壁に手を添えた。


 狭い通路を進み、窓のない部屋に着くと女性神官が待っていた。彼女は次の神官長候補らしい。どこかに欠員が出るまで、ここのカラクリ扉の番をしていると聖女様が言っていた。

「こちらのわたくしの部屋でマーレ様がお待ちになっています」

 大聖堂の一室に案内され、ドアが開けられると淡い青のドレスに身を包んだマーレ様とケープを纏った女性がソファーに腰かけていた。

「ギル様。お待ちしていました」

「お待たせして申し訳ございません」

 立ち上がった二人と挨拶を交わす。

「こちらはアタシの世話役ガブルリアです。彼女はアタシの魔術の先生でもあります」

 僕を一瞥したガブルリアさんが気丈な態度で挨拶をしてきた。

「始めまして。ガブルリアと申します。お嬢様が大変お世話になっています」

「ギルといいます。こちらこそ今回はお世話になります」

 手荷物を床に置き、挨拶を返す。

「それでは参りましょうか。馬車を待たせていますので」

 はい、と返事をした時、案内してくれた神官に呼び止められた。

「ギル様。この度はわたくしの不手際により、大変な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」

 そう詫びてきた神官が言うには、どうやら彼女は王都から届いたドラゴンの牙の保管業務を手伝っていたらしい。そのため、扉の監視が手薄になってしまったようだ。

「大丈夫です。この通り体は大丈夫ですから」

 身体を捻って見せ、安心してくださいと微笑む。

「なにかあったのですか? ギル様」

「いえ。大したことでは。では行きましょうかマーレ様」

 僕が荷物を持つと、ガブルリアさんを先頭に大聖堂をあとにした。

一時大聖堂を離れ、次話より剣舞会となります。


誤字脱字ありましたら報告をお願いします。


コメント、感想、気になったことなど受け付けています。よろしればお願い板増します。


ここまで読み進めていただきありがとうございました。

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