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96話 よくある 侵入者

 昼前に昼食を終え、部屋で運動着に着替えると、やる気満々の側仕えたちが待つ中庭へ向かう。

 今日で鬼ごっこともしばらくお別れか。

 過酷だった内容の思い出しか浮かばないけれど、命を懸けた真剣な勝負を知った。そんなことが起こらないことが一番いいのだけれど、側仕えたちには命を守る武術をもう少し教えてあげたかった。

 そう部屋のドアを開けた時、白いヴェールを被った側仕えと出会った。どうやら訓練中は、その時の現場を意識して行うため着用したと、朱色の髪を持つ彼女が言う。そんな彼女は昼食の片づけをしていたらしく遅れたようだ。

 僕たちは一緒に中庭へ向かい、外へ出た――その時、目の前の惨劇に驚愕し言葉を失くしてしまった。

 側仕えが二人、地に倒れているのだ。ナイフを構えた残る一人が僕たちの方に振り返る。

「侵入者です。扉を閉めてください」

 そう叫んだその瞬間、いつものように全身が白に覆いつくされていた側仕えが突然吹っ飛んだのだ。

 え? 侵入者? どこに? そう身構えると、隣にいた側仕えもナイフを手に構える。

 中庭を見る限り、倒れている側仕えたち以外の姿が見えない。

 覇気を、と集中する間もなく、

「あれ? ギルどうして君がここに?」

 誰も見当たらなかった中庭に、突如姿を見せたのは黒髪のユウキ様だった。

 大聖堂を見学していたら廊下で迷い、ここに辿りついたと言うユウキ様。

「でもここに来るには鍵のかかったドアを」

「あ。もしかして通路があるドア? 探知魔術で見つけて、もしかしたら宝箱でもあるのかな、てダンジョンと間違えちゃって」

 鍵開けちゃった、そう嘲笑う。魔術で強引に開けたらしい。

「庭を探索していたらこの人たちが突然襲い掛かってさ、思わず。なんか白いもの被っているから怪しい集団なのかって。なんか変なもの召喚している軍団なのかなっと。悪魔でも呼び出しそうな雰囲気があるじゃない、この人たち」

 そう嘲けるユウキ様に、隣の側仕えから強い覇気を感じた。そして「うわぁぁぁぁ!」突如叫びをあげると、彼女が突然ユウキ様に立ち向い出したのだ――不意のことだったので止める暇がなかった。

 ナイフを手に側仕えがユウキ様に斬りかかる。慌てて追いかけそれを止めに入る。

 ダメだ! 

 倒された仲間になのか、侵入者に対してなのか、それとも悪魔という言葉になのか、彼女は頭に血が上って我を失っているかのように見える。

 ユウキ様には『ブースト』という筋力増強の魔術があり、しかも彼自身力その能力を制御出来ない。地に倒れている側仕えを見れば、彼女が敵わないのは一目瞭然だ。

 『ブースト』

 覇気が側仕えより弱いユウキ様は、彼女の攻撃にたまらずまた詠唱を唱えた。

「ユウキ様、手を出してはダメです」

 そう声を張り上げ、神経を集中し、地へ視線を落とし、彼の動きを探る。

 見つけた! 

 ユウキ様を見失った側仕えの脇へ回り込み、両手のひらを突き出す。

「ぎゃっ!」

 手のひらからユウキ様に触れた感覚がしたかと思えば、目の前で姿を見せた彼が地に転がる。

 間に合っ――え? 

 不意に脇腹から痛みを感じた。

 視線を落としてみれば、振り返った側仕えの手にしていたナイフが僕の脇腹に刺さっているのだ。

 急に僕がやって来たものだから、本能的に彼女は動いてしまったのかもしれない。なぜなら――

 自身のことよりも聖女様を守るための拳術。刺し違えてもとどめを刺す拳術。側仕えたちの拳術は人を守ることがあっても『守られる』ことがないのだ。

 時間が止まったのかと思うほど、側仕えと向き合う。

 ゆっくりとナイフから手を放した彼女は悲愴な表情を見せ、大声で叫び出した。

 そして僕は刺された痛みから膝から崩れる。

「ヒール」

 そう声がして目の前のユウキ様が立ち上がた。そして僕の異変に気付いたのか近寄ってこようとする。

「ダメですユウキ様。すぐに大聖堂へ戻ってください」

「で、でもナイフが」

「いいから早く」

 しかめ面の僕は、隣りで叫んでいた側仕えの覇気が大きくなったのを感じていたのだ。ユウキ様に飛び掛かろうとした彼女を、地を蹴り彼女を取り押さえる。すると刺されたところから激痛が走り苦悶する。

 正気を失くしてしまった彼女が僕の腕を解こうと暴れだす。そのたびに痛みが全身を駆け巡る。

「どうしたのですかこれは」

 最悪だ。着替えが終わった聖女様が中庭へやって来たのだ。彼女は今、ヴェールを被っていないはずだ。

 『土の壁!』 

 そうイメージし入り口を塞ぐ。

「騒がしいな――」

 『土の壁!』

 長女の館から出てきたお姉様たちを壁で囲む。

「ギルここはもしかして」

「そうですユウキ様。ここは聖女様の館です。無断で入れば処分されます。だから早く大聖堂へ戻ってください」

 取り押さえている側仕えが暴れるたびに走る激痛。集中力が薄れ、魔術が消える前に早くこの場を去ってほしい。

「処分? それって処刑?」

「そうです。だから早く」

「でもギルの傷が」

「ここにも……白の魔術が使える聖女様がいます。だから……早く」

 喋っただけで、そう腹部からの痛みで顔が歪む。

 お願いだから落ち着いてください。混乱している側仕えを強く抱き寄せる。

「わかった。またあとでねギル。えーとお大事に」

 迷い込んでしまった場所を理解してくれたユウキ様は踵を返し、この場から駆けて去っていく。彼の覇気がどんどんと遠のいていく。そして彼の気配が感じなくなると僕はイメージしていた魔術を一斉に解いたのだった。

誤字脱字ありましたら報告をお願いいたします。


ここまで読み進めていただきありがとうございました。

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