91話 よくある 忖度する戦姫 その⑩
リリー視点になっています。
落ち着きを取り戻したユーディー様がわたしから離れ、頬を拭い、泣き腫らした顔を整える。
「取り乱してしまい申し訳ございませんでした」
「いえいえ。気持ちはわかりますから」
身なりを気にする彼女に笑みで答える。
しかし――と地にめり込んでいるオレンジ色の球を見下ろす。
もしこのアースボールがわたしが考えている通り、最高硬度の土の魔術なら彼女はとんでもないことをしたことになる。
「どうかしましたか?」
隣で一緒に覗き込んでいきたユーディー様は、相変わらず察しが悪いようだ。
「一先ず魔術を解放しましょう」
と『アースボール』を土に変えてもらい、持論を述べた。すると事の重大さを理解したユーディー様が驚愕する。
「幸い明日で前期が終了するので、このことははっきりとするまで黙っていた方がいいと思います。なぜオレンジ色をしていたのか。せめてそのことがわかるまでは」
「そうですか」
とがっかりとする彼女にふと思った。
ここまで必死に魔力硬度を上げたかった理由は? なにかあるのだろう。
「ところでユーディー様。魔力硬度が上がったらどうするつもりだったのですか?」
そう探りを入れてみる。
「みんなに自慢ですか?」
「そのようなことは、いたしません」
はっきりと言い放つ彼女。ウソではないようだ。今まで虐げられてきた彼女ならあり得ると思ったのだけど。
以前まで弱々しかった彼女がほかに望むこととは、一体なにがあるのだろう。見当もつかない。
考え込でいる彼女にわたしも首を捻る。
「やはり他言無用の方がよろしいのでしょうか」
上目づかいで、物乞うような表情を見せるユーディー様に思わず仰け反り怯む。
確かにこの魔術は彼女のものだ。わたしがどうこう言える理由はない。
「わたしはそのほうがいいと思うだけですので、あとはユーディー様が決めることだと思いますが」
「しかしここまで出来るようになったのは、リリー様の力添えがあってのこそですし」
「でも頑張ったのはユーディー様ですし、なによりもこの魔力はユーディー様自身のものですから」
戸惑う彼女に、この際思い切って訊ねてみる。
「ユーディー様はこの魔力で本当になにがしたいのですか?」
しかし首を振り、口にはしてもらえなかった。
「申し訳ございません」
ただそう謝るだけだったが、ウソをつけない彼女から一つ確信を持てたことがある。
簡単に口を割らないことから、東西の領地で関係がなにかあるということ。そしてなにか大きなことを考えていること。
あと、これは恐らくだが、彼女は一人でことを起こそうとしているのではないだろうか? 彼女には親しい人の話は聞かないし、魔力硬度も一人でなんとかしようとしていた節もあったのだから。
そこまでわかっていても、これ以上無理強いして聞くことは出来ないし、したくない。なぜなら――
わたしは一歩ユーディー様に近寄り、跪いた。
「リリー様一体なにを!」
そう愕然とする彼女に頭を下げる。
「わたしは今日までユーディー様のことを弱々しい人だと見縊っていました。しかしここ最近のユーディー様の行動を見ていて、それは大きな間違いだと気づかされました。真っすぐで芯を持った人だと気づかされました。どうか、これまで蔑んでいたことを詫びさせて頂きたいと存じます。そして更に、罰を与えていただきたいと存じます」
「ちょ、ちょっと待ってくださいリリー様。なにを仰っていらっしゃるのですか? すぐにお顔を上げてください」
「それは出来ません。どうかわたしに罰を」
「できません。そのようなことわたくしには」
「そうですか。ならば職員室へ行き、ユーディー様を蔑んでいたことを告白してまいります」
「なにを! わたくしはそのように思っていません。そもそもリリー様が心の中で思っていたことです。わたくしは耳にいたしておりません」
「今申しましたが」
「な! し、しかしわたくしはそのように受け取っていません」
そう彼女が怯んだ隙を見て更に追い打ちをつく。
「ユーディー様もギルに対して同じようなことを思ったのではないでしょうか? 『これから同等の立場で側にいられるために』と」
言葉を失くしてしまった彼女の性格からして、そうだったのだろう。いや、好意を持ってしまったからか。
「もう一度申し上げます。わたしに罰を」
声を上げ、決意の意を見せる。すると頭上でため息をつくのを耳にした。
「わかりました。ではリリー様に罰を与えます。卒業式までに瞑想を半刻まで出来るようになってください。それが罰です」
「ありがとう存じます」
礼を言い、立ち上がると胸に手を添え、宣言する。
「ガーネシリア領リリーは、卒業までに瞑想を半刻まで出来るように努めることをここに宣言いたします」
「確かに聞き届けました」
困り顔のユーディー様にニッと笑みを浮かべる。
「あとユーディー様」
そう言って彼女のサファイアのような瞳を見据える。するとわたしが差し出した右手に驚いたのだった。
「リリー様これは」
「ユーディー様の心意気、根性に感服いたしました。これは東西の姫としてではなく、罪を与えし与えられし者同士でもなく、ただの人としての申し出です。どうかわたしと『友』になって頂けませんか?」
「わたくしがリリー様と?」
わたしは頷く。彼女ならわたしが求めている『友』として申し分はない。
「しかしわたくしはリリー様の『友』のギル様に」
「もうちゃんと罰は受け取っているではないですか。しかも、そのための努力をわたしは見てきました。そういうことも全部ひっくるめて、どうかわたしと『友』に」
俯いてしまったユーディー様は思案する姿を見せ、しばらくしてゆっくりと顔を上げる。
「今のわたくしには、リリー様の想いに応えることが出来ません」
そう断りを入れてきた――が、左手を差し出してきた。
「でも、こんなわたくしで良ければ、卒業後、罪が無くなりましたら正式にお願いいたしたいと存じます」
思わず、プッと吹き出してしまう。そうだった。ユーディー様は見かけによらず頑固な人だった。
わたしは右手を引っ込め、差し出された彼女の左手を握る。
「わたくしはこの学園へ入学して本当に良かったと心から思います」
また泣き出しそうな顔に微笑し、
「わたしも同じくよかったと思います」
と、お互い強く手を握り合ったのだった。
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ここまで読み進めていただきありがとうございました。




