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83話 よくある 忖度する戦姫 その②

リリー視点になっています。

「ギルの教えてもらった通りにすると魔力に弾き飛ばされると」

「はい。最近魔力の靄がはっきりと感じ取れるようになったのですが、近づいて行こうとすればなにかに阻まれているような忌避感があり、少し強引に歩みだすとさっきのように」

 うまくいかないことに肩を落とすユーディー様。ギルがいない今、誰にも頼る人がいないのだろう。エザベルの情報だとユーディー様は西側ではあまりいい待遇ではないということらしいから。

「でも、ギルはその魔力を固めることが出来ているのですよね」

「そう仰っていました」

 ギルに出来てユーディー様に出来ない。

 彼と彼女の違いは――性別。複属性であること。

 彼にあって彼女にないものは――体力。武術。

 その呟きにユーディー様が、

「武術は魔術に関係ないかと」

 とツッコミを入れられた。

 確かに魔術とは関係ないかと納得する。

「でもリリー様の仰る通りだとすれば、わたくしにはギル様から教えていただいた方法では魔力硬度が上げられませんね」

 がっかりと悲しそうな表情を見せる。

「でもユーディー様。魔導士になった貴族たちは同じことをしているのではないですか?」

「どうでしょう。ここへ入学するまで教わっていた講師からは聞いたことがありませんが」

「ということはギル独自の方法ですか……そうなるとやはり彼がいないと難しいですね」

「せっかくギル様が教えてくれた方法がうまくいきかけていたのに、残念です」

 恭しく右手を眺めながら気落ちするユーディー様。

 ふと思う。彼女の話しぶりからしてさっきのように吹っ飛び、気を失うことは初めてではないのだろう。おそらく部屋で何度かあったに違いない。その時、家具などに体をぶつけたに違いない。彼女はもしかすると気を失ったのはそのせいだと思い、ここ、なにもない芝を選んだのではないだろうか? ポーションの準備もそれなら納得できる。

 今回は、たまたまわたしがいたからよかったものの、気を失うのはちょっと危険すぎる。そう危惧する。

「このやり方は、ギルと再会した時にした方がいいのではないでしょうか」

「え? でも……そ、そうですね」

 わたしを一度見た彼女は再び右手を見つめ、その手のひらをきつく握りしめた。その姿は、まだ頑張れるといった風に見える。本当にウソをつくのが下手だな、と大息が零れる。

「ユーディー様。わたしに瞑想のことが詳しい人に心当たりがあります。一度訊いてみましょうか」

「しかし。申し訳ないです」

「いえ。わたしも瞑想に興味がありますので」

 これはウソではない。ギルはわたしと模擬戦をした時に言っていた。長期戦の時、集中力も体力を奪うと。だから集中力を上げようと思っていたのだ。そのために瞑想をと。

「だから今度瞑想の仕方を教えていただけませんか?」

「わたくしでよければ喜んで」

 顔を綻ばせるユーディー様が約束してくれる。

「これでギル様と同じ方法で」

 と、前口上が形無しだ。そこまでギルと一緒がいいのだろうか。それではまるで――

 そう思いかけて思わず口を押えた。

 今わたし――なにを、思い浮かべて――

 ちらりと隣へ視線を向ける。

 柔らかな笑みで右の手のひらを見つめるユーディー様は、頬を朱に染め乙女の表情している。

 それではまるでギルのことが――好き? 

 そのように見える。

 ウソでしょう。だって彼女は婚約事件で婚約を破棄したはず。

 いや、ちょっと待って。そう自問自答する。

 ユウキ様との模擬戦の際、彼女からハイポーションを受け取らなかった時、彼女のあの涙はギルが傷つくことに? 

 でも、あれは西側の陰謀のはず。

 でも、ギルと一緒に走り込みをしていたのを見かけた時、そういえばすごく楽しそうに見えた。

 それにギルと別れの際、手を差し伸べられた時も今と同じ乙女のような恥じらいを見せていた。

「あ、あのうユーディー様?」

「はい」

 眩しい笑みが向けられ、思わず仰け反ってしまう。

「婚約破棄のことなのですが」

 ユーディー様の気持ちを推し量るつもりで話しかけたのだけれど、彼女はハッとして頭を下げてきた。

「罰を受けている身でありながらリリー様の手を煩わせるようなことを」

「いえ、そういうことではなく、そのう……後悔はしていないのですか?」

 え? と彼女の表情が愕然となり、明らかに挙動がおかしくなった。

「なにを、どうして、ままま、まさか」

 あたふたと手を振り回し、彼女の頬どころか顔中が炎のように赤く染まった。

 ウソがつけない彼女。少々不憫だと思うけれど――

 そういった恋話には疎いわたし。

「そ、そ、そうですよね」

 とこっちまで釣られてあたふたとなる。

 エザベル! こういう時、どうすればいいの? 

 お互い顔を引きつらせながら言葉を失ったのだった。

誤字脱字ありましたら報告をお願いいたします。


ここまで読み進めていただきありがとうございました。

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