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45話 よくある 西側からの申し出

 魔術使いとは、のんびりと生活していても、魔術で十数メートル離れた相手に攻撃ができるらしい。そのため魔術使いは体力作りなど殆どしないようだ。もちろん武術や剣術も。そのような時間があるのなら魔力硬度を上げた方が効率はいいからだと思う。

 休日から二日目。黒のケープを羽織り身支度が整うと自室を出た。

 男子寮には騎士団組が多く、廊下を歩いている僕をちらちらと見てくる。

 昨日から学園の敷地内では、ある噂が広まり始めているのだ。それは、騎士学園の主席ことリリーと魔術使いの僕との模擬戦のことだ。リリーの体力不足とはいえ、模擬戦で僕が勝ってしまったのだから。ある意味、僕にとっては醜聞となっている。勝負に負けたリリーが噂を広めているとは考え辛い。そもそも負けたことを話しまわるなんて、恥ずかしくてしないと思う。

「複数の属性を持っていて、剣術もできるって、本当かよ」

 まただ。そんな声をちらほちと耳にしていた。なんだか悪目立ちしていて嫌な気分だ。

 しかし勝負に負けた彼女は、

「おはよう」

 と元気いっぱいで、周囲の噂など全く気にしていない。むしろ楽しそうだ。

「マルセーヌ様から解放されたみたいだから。模擬戦が終わってからお茶会の誘いがないのよ」

 模擬戦。その言葉に僕はこめかみを摩る。エザベルさんと出会ったときの恐怖が頭をよぎる。

 しばらくは街へ出ないようにしないと。そう反省をした。

「頭、まだ痛むの? 頭鍛えた方がいいわよ。あのようなこと、しょっちゅうなのだから」

 慣れているのか、反省する気がないのか、リリーはケロッとしている。そもそも頭ってどうやって鍛えるものなのか、教えてほしい。

「しかし、ギルもすっかり有名人になったわね」

「え?」

「今、騎士組の女子たちの間で話題になっているわよ」

「どういうこと?」

「あのときいたヴァーリアルの騎士組の子たちが、交流会で興奮しながら模擬戦の話をしていたわ」

 やっぱりあの貴族様たちか――寮の騎士組に忌み嫌われるような発言をされている根源がわかって項垂れる。

「気づいている? 騎士組の女子たちの羨望の眼差し。なんでも最近流行りの『騎士物語』に登場する人物に似ているらしいわよ、ギルが」

「まさかウィードルド出身?」

「バカね。戦う姿に決まっているでしょう。能ある鷹はなんとかってやつよ」

 隠していたわけではないのに。ただ、剣術を披露することがなかっただけで。そう苦笑いをこぼしながらリリーと校舎の前で別れた。


 教室のドアを開けると、黒髪のユウキ様が大きな声で僕の名を呼んできた。

「ギル! 剣が使えるんだって。騎士団組の人に勝ったって聞いたけど。実は俺も。いやー、同じクラスで剣が扱える人がいたなんて」

 黒い瞳を輝かせながら詰め寄ってくる。

「ユウキ様。ギルと比べるなんて。ユウキ様のあの剣術は神の業ですよ。比べるには格が違い過ぎますよ」

「そんな風に言われると照れちゃうな」

 メイスター様の言葉ににユウキ様がはにかむ。

 するとマードリック様が席を立ち上がり、含みのある笑いを見せた。

「そうだユウキ様。一度ギルと剣を交えてみればどうですか? そいつは、剣舞大会青年の部、二連覇をしているリリー様に勝ったんですよ。もし、ギルを倒せたらユウキ様が王都の青年の中で一番が証明できますよ」

「リリー様って確か、背のちっちゃいあの姫様だよね。彼女、王国一位だったの」

 ユウキ様が驚愕しているけれど、僕の方がもっとびっくりして開いた口が塞がらない。

 聞いていないよ。リリーが王都一位なんて! 

 驚いている僕の耳に、あんなちっちゃい子が……もしかして、この世界の騎士って強くない? とユウキ様の呟きが耳に入ってきた。

「ユウキ様。このあたりで勇者様ってところを見せてやりましょうよ」

「見せる?」

 ユウキ様がマードリック様に首を傾げた。

「そうですよ。ギルと勝負して」

「勝負かあ……一番はともかく、久しぶりに剣を握りたいかも。どうギル。模擬戦しない?」

「マードリック様! それはいかがなものかと」

「黙っていろ! ユーディー……様。女騎士たちにいいように噂されているのだぞ」

 ユーディー様が彼女らしからぬ大声を上げたけど、マードリック様の怒声に消沈していく。

「なあギル。いいだろう。ユウキ様と勝負しても」

 嫌悪感のある顔つきでマードリック様が声をかけてくる。彼の態度はともかく、ユウキ様の剣術には興味があるけれど、鳴りを潜めてしまったユーディー様は僕に小刻みに顔を横に振っている。それに教室の雰囲気からといい、あまり気が乗らない。

 ここは丁重に断ることにする。

「僕は魔術の勉強をしに来たので。それに魔術使い同士が剣術で模擬戦というのは……」

「だよね。魔術使い同士だもんな」

 嘲笑うユウキ様も異様な空気を読み取ってくれたようだ。

 ならばどうでしょう――そう口を挟んだのはメイスター様だ。

「女子寮ではユウキ様の戦いを見たことのない人たちが、拝見してみたいと言っています。そこで、ギルの力添えを借りて軽く手合わせというのは? 二人もお互いの力量は気になっていると思えますが?」

「なるほど。手合わせか」

 ユウキ様の言葉と同じで、僕も心で呟いていた。軽く剣を交えるぐらいなら。と。

「ボクはそれでも構わないけど、ギルはどう?」

「それなら……」

 同じく賛成をしてみるが、大きく顔を振っているユーディー様が気になっていた。


 昼休みに食堂で食をしていると、リリーが飛び込んできた。息を切らせて。姫様だというのに走ってきたようだ。

「ギル、あなた、なにを考えているの?」

 唐突のその第一声に首を傾げる。

 すると食しているトレイの傍に、リリーが光る小瓶を叩きつけるように置いた。

「なに、この綺麗な小瓶は?」

「ユーディー様からよ!」

「仲直りしたの?」

「していないわよ」

 リリーはまだ、婚約事件のことでユーディー様に怒っているのだ。

 でも、許していない相手から物を受け取るなんて。どういうことなんだろう? 

「ユーディー様から聞いたわ。あなたユウキ様と模擬戦するんですって!」

「模擬戦じゃないよ。手合わせだよ」

 リリーが額に手を当て、やれやれと頭を振る。

「じゃ聞くわ。手合わせと模擬戦、一体なにが違うのかしら?」

 なにがって……剣を交えて……あれ? 

「……えーと、なにが違うの?」

 呆れ顔になっているリリーに訊ねてみた。

 どうやら西の領地の貴族様たちに、うまく乗せられてしまったらしい。ユウキ様と勝負するように仕向けられ、口車に乗せられてしまったのだ。どうやらマードリック様たちは、貴族様たちの前で、僕が負けるところを見せたいようだ。

 人差し指でツンツンと突かれながらリリーの説明に納得した。

 どうしたら……。と顔が引きつる。

「もうどうしようもないわ。模擬戦は今日の放課後みたいだから。マードリック様はもう、騎士学園の訓練場予約したらしいわ」

「そんな……」

「どうせ、ユウキ様の剣術が見られるとでも考えていたんでしょう」

 脳筋のリリーに咎められるとは。返す言葉もない。

「でも、どうしてこの小瓶?」

「なにを言っているの。これはハイポーションよ」

 初めて見る燦然と輝く綺麗な小瓶にハテナとなる。

 ポーションには青と赤があり、青では体力が、赤では体力や打撲など軽傷を回復させてくれるらしい。

「ハイポーションはそのほかに、骨折や深く切られた傷まで治してくれるわ。この量だったら、振りかければ、切り落とされた指ぐらいならくっつけられるわ」

「それってすごく貴重なんじゃ。どうしてユーディー様が」

「これ、大金貨一枚はするわよ」

 だい……光る小瓶を手に取ろうとする手を止めた。

 なんで――その言葉が出ないぐらいに驚いた。

「わたしも持っているけれど、出し惜しみしたわけじゃないわよ」

 リリーが勘違いしないよう釘付けしてくる。

 ユーディー様が彼女のところへ、今日の模擬戦の話をしに来たらしい。自分がリリーに許してもらえていないこともわかっているのに。そして、リリーにハイポーションを僕に渡してほしいと言つけられたのだ。

 リリーは騎士希望なので魔術使いよりケガをする確率が高い。だから、高価なハイポーションは無駄にはできないだろうと、ユーディー様が自分の分を持ってきたようだ。

「押し切られたのよ。あと、止められなくてと謝っていたわ」

「ユーディー様が……でも、ただの模擬戦だよね。大袈裟なんじゃ」

「ユウキ様の強さを知らないから、ギルは」

 リリーはユウキ様の模擬戦を見たことがあるらしい。

 リリーが王都に到着した日、王城へ、ドラゴンの討伐をしてもらったユウキ様にお礼の挨拶をしに行ったと言う。そのとき、模擬戦を申し込んだと付け加えた。

――僕には、お礼がついでのように聞こえてしまう。

 しかし、リリーのお父さんに却下されてしまったようだ。

 そこで、王都の騎士との模擬戦を見せてもらうことで話をまとめたようだ。

――やっぱりお礼がついでだと思う。

 王城にいる騎士は、親衛隊組の卒業生でないと務まらない。すなわち、かなりの凄腕の貴族様ばかりなのだ。

 その騎士たちでも、ユウキ様の模擬戦には鉄甲冑をつけて臨んだらしい。なぜなら、ユウキ様の攻撃を生身で受けたらケガでは済まないというのだ。

「そんなに強いのユウキ様って」

「ええ。わたしは模擬戦をしなくてよかったと思ったわ」

 脳筋のリリーにそこまで言わせるとは――僕は唾を飲んで続きを聞く。

「開始と同時に、ユウキ様は消えたのよ」

誤字脱字ありましたら報告をお願いいたします。


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ここまで読み進めていただきありがとうございました。

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