表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/272

33話 よくある閑話?

 ウィードルド育ちだということで、入学してからいろいろなことがあった。授業にも寮の生活にも、だいぶんと慣れてきた。食事のとき以外は、ずっと部屋に閉じ籠っているのだけれどね。

 でも、その時間は毎日シャマルさんへ手紙を書き、授業のことなんかを報告したりしている。優しい彼女は毎回返事をくれる。たまには、日常であった楽しいことを教えてくれる。それを読んだり返信を書いたりする時間は楽しかった。

 明日は初めての休みだ。しかも二連休ときている。なにをしようか。二日間ずっと部屋にいるのも……。

 学校が休みの日は、シャマルさんたちと貴族様の側仕えは寮に入ることはできない。基本、学園内で外部の人間との接触が許されていないのだ。生徒が授業を受けている時間のみ、寮への入室が許されているらしい。

 だから残念なことに、今夜は手紙を書いても読んでもらえないのだ。

 明日の予定が立たない。一層のこと、休みなんかいらないのに。

 食堂で夕食をとりながら、そうぼんやりとしていた。

「気が抜けているわね」

 うわっ! ――前置きもなくいきなり現れたリリーにびっくりした。

 抜けた顔をしている僕の隣に彼女が腰を下ろし、ふと気になったことを訊ねてみた。

「リリー。僕が食事のとき、毎回ここに来ているけれど、いいの?」

「いいって?」

 キョトンとするリリー。

 僕は視線を上へ向けてみる。二階では貴族様たちの唯一の楽しみ、交流会が行われているはずだ。貴族である彼女も出席しなくていいのだろうか? 

 僕の言いたいことを理解したのか、彼女が肩をすぼめる。

「挨拶程度に顔さえ出しておけば別にいいわ。大して楽しいわけではないし」

 リリーは交流会には全く興味がないらしい。リリーらしいと言えばそうなんだけれど。

「毎日似たような話だったり、自慢話だったり、なにが楽しいのか。それに――」

「それに?」

 リリーは言いにくそうに呟く。

「最近マルセーヌ様がしつこいというか、いろいろと話しかけてくるのよね」

 しつこいって! それは陰口では。

「姫様に対してそんなひどい言い方してもいいの?」

「わかっているわ。でも、マルセーヌ様とわたしよ。話しても楽しい話題はないわよ。なのに、なぜ声をかけてくるのかわからないわ。それに最近、お茶会の誘いがかかるのよ。断るのも大変なんだから」

「いいじゃないか。姫様同士、女子同士、話してみれば。繋がる話題も見つかるよ」

「ギル。マルセーヌ様とわたしよ。本気で共通の話題なんてあると思っているの?」

 リリーにジト目で見られて、気品あるマルセーヌ様を思い浮かべてみる。

 背筋を伸ばし、物腰が柔らかく、落ち着きのあるマルセーヌ様。

 今、僕の目の前で頬杖を突き、強い者に食いつく、本能のままに行動するリリー。

 似ても似つかない姫様。二人がする会話の内容が全く想像できない。

 どう? ――と訊ねられ、体のいい言葉も浮かばず、思わず顔が引きつる。

「でしょう。沈黙が続くのは目に見えているわ」

「もしかしてリリー。ここへ逃げてきているの?」

「そういう訳ではないわ。二階にいるより、ギルとこうして話している方が楽しいからよ」

 楽しい? 毎回愚痴を言い合ったり、お互いの授業の話をしたり、そんなことしか話していないような。でも、そんな他愛もない話でも僕は心休まるんだけど。リリーもそう言うことなのかな? 

 口にパンを含み、そんなことを考えた。

「ギルは明日なにするの?」

「なにも予定がなくて悩んでいたところなんだ」

「それじゃ明日、ギルの魔術を見せてくれない?」

「魔術? 別にいいけれど。どうして?」

「風の魔術よ。一度見てみたいじゃない」

 瞳を輝かせるリリー。薪割や乾かすことしか役に立たない魔術に期待されても。

「別にいいけれど、大したことはできないよ」

「いいわよ、いいわよ」

 と、興奮気味に何度も頷く。

 明日の予定が出来たのは良かったけれど……楽しい一日になればいいな。そう再び食を進めた。


 翌日、昼食を終え、ケープを羽織った僕は部屋を出た。

 最近、廊下や階段で貴族様たちと出会うと、黒のケープのおかげで道を譲ってくれる。毎回、申し訳なく思いながら、急いで足を進めるように心がけている。

「お出かけですか?」

 玄関でアルギニオさんに声をかけられ、

「学校の訓練室へ」

「左様でございますか。いってらっしゃいませ」

 と、挨拶を済ませ外へ出た。

 早朝トレーニングのとき、リリーと昼の一の鐘で待ち合わせと決めていたのだ。

 扉を閉めると、ちょうど昼の一の刻を知らせる鐘が響く。でも、リリーの姿が見えない。仕方なく、階段の脇にあるベンチに腰を下ろし待つことにした。

 どうしたんだろう。なにか予定が出来たんだろうか? 空に浮かぶ白い雲を眺めながら、心配はしていないけれど気になる。

 半刻ほどして、女子寮からリリーが現れた。

「ごめんなさいね。待たせたわね」

「どうかしたの? なにかあった?」

 立ち上がった僕がリリーに訊ねると、疲れ気味のリリーがため息をついた。

「マルセーヌ様につかまって……お茶会の、ね」

 マルセーヌ様! とびっくりした。姫様は穏やかに見えるんだけれど、見かけによらず積極的! 今日は休みだというのに。

 ほぼ毎日声をかけられているリリーが、しつこいと言っている意味を少し理解できた。

「一度ぐらいお茶会付き合ってあげたら、どう?」

 魔術学校へ歩み始め、僕は苦笑いを見せるリリーを覗き込む。

「過去に何度かお茶会をしたことがあるの。そのときの話聞きたい?」

 マルセーヌ様とリリーの会話の内容。ちょっと興味が湧くってものだ

「マルセーヌ様は見ての通りよ。最近読んだ本や音楽の話題、習い事のダンスに絵画の話をしてくるのよ。ちなみに趣味は庭で花を眺めながらお茶を嗜むことらしいわ」

 さすが姫様って感じだ。僕の想像像もそんな感じだ。となると、剣を振るリリーには退屈そうだ。

 会話より剣を交え、一汗かく。そしてお互いをたたえ合う。ほかの言葉なんていらない。リリーにはそういうものがお似合いだと思う。

 じゃ、リリーは一体どんな話題を出すのだろう。すごく気になる。

 彼女はどんよりと顔を曇らせた。

「もちろん本や音楽、ダンスのことを。絵は苦手だから触れないようにしていたわ」

「すごいじゃない。リリーもそういうものに興味があったんだ。意外だよ」

 意外? リリーに睨まれ、最後の言葉は失言だったと慌てて口を隠した。

「まあ、そうよ。わたしには、まったく無縁なことよ。滅多に手に触れないことばかりよ」

「じゃどうして?」

 突然、リリーが悪夢でも見たかのように青ざめ、髪を掻き毟り始めた。

「エザベルや執事、使用人たちにマルセーヌ様と会う前日まで叩きこまれるのよ。朝から夜まで。椅子から離れることを許してもらえない生活。あれは地獄だったわ」

 死相な表情をしたリリーにあんぐりとなった。ジッとしていられない彼女には、まさに地獄だったのだろう。悶絶する姿が頭に浮かぶ。

「でもどうして。ちゃんと最初から自分を見せていたら」

「相手は領地位一位の姫様よ。そのような方を相手に、剣を突きつけるわけにもいかないし、お茶会の間ヒマにさせるわけにはいかないのよ」

「領地位?」

 また新しい言葉が出てきた。

「あ! それはギルには関係ないわ。上位貴族だけの話だから」

 上位貴族? もしかして、姫様とかそういう地位の人たちのことだろうか? 貴族様たちにも、いろいろあるんだろう。深く聞かないことにする。

「いわゆる、同じ姫でもマルセーヌ様は格が違うと思ってくれればいいわ」

 そこはかとなく理解した。そして、大変だなと同情した。

「だから、今、マルセーヌ様とお茶会なんてしたらボロがでるし、会話なんて碌にできないわ」

 リリーがため息をつくと、ちょうど魔導士学校の職員室にたどり着いた。

 彼女を笑みで元気づけ、ドアを開けた。

 エルゼ女史は見当たらない。近くにいた職員に声をかけ、訓練室の利用許可と魔術の使用許可を取ることにした。

 そして、すべての段取りが済むと僕たちは訓練室へ向かう。

 風の魔術を見ることがかなり楽しみなのか、さっきの話題も忘れ、リリーは上機嫌になっていた。

誤字脱字ありましたら報告をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ