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30話 よくある 魔術測定

 白い半そでの運動着の上に、黒い上着を着こみ、ひざ丈のズボンをはく。朝トレーニングの時もこの運動着を使っているのだけど、すごく動きやすい。授業も、ごわごわとして動きづらい制服ではなくて、この姿で受けたいと思う。

 そう愚痴をこぼし着替えていると、机の上に紙切れが置いてあることに気がついた。

 シャマルさんからだ。いつの間に? 僕は驚きながら手紙に目を通してみた。

 今日から洗濯物を取りに来て、部屋を掃除してくれることになったらしい。

 ふと、気がついた。そう言えば布団が綺麗に整っている。

 さらに続きを読む。

 困ったことがあればメモを書いておくと、わかる範囲で助言してくれると書かれていた。

 それはとても助かる。

――人間関係など、いろいろと難しいことがあると思いますが、頑張ってください。疲れたり、悩んだりした時はいつでも相談してください。愚痴だけでも聞きますので、一人が抱え込まないでください――

 なんだかすごくうれしい気持ちになった。お姉さんができた気分だ。兄弟のいない僕には、理想のお姉さんだ。綺麗で優しくて。

 そこはかとなく胸の奥がむず痒い。メモを手にベッドに倒れこんだ。

――追記。

 毎日、制服のシャツと下着は履き替えるようにしてください。不潔です。洗面所に籠を用意していますので、脱いだものはそこへ入れてください――

 ううっ。高揚していた気持ちが消沈していく。

 脱いだものがないことで着回ししていることがバレている。文面から怒っていることが見て取れる。

 以後気を付けよう。そう反省した。

 夜、お詫びとお礼を書いておこう。ふと、そんな手紙のやり取りを楽しむ自分に気がついて顔が緩んでしまった。


 午後の授業は、訓練場へ移動して行われる。

 職員室、会議室の前を通り、さらに進んだドアの中にある。とはいっても、最奥の講堂との間に壁が建てられているただの屋外広場だ。そこには僕たちのほかに、黒いケープを纏った二人の魔術使いがいた。

「彼らは今回手伝ってくれる魔導士、八年前に卒業をした君たちの先輩だ」

 エルゼ女史の説明を聞いて僕たちは彼らに挨拶をする。

「では、初めに火の属性の魔術からだ。前に出ろ」

 マードリック様とメイスター様、そしてユウキ様と僕が歩み出て並ぶ。

 助手の魔導士たちは、エルゼ女史と共にノートとペンを手に、僕たちの前に立った。

「ファイヤーボールを全力で出してみろ」

 ファイヤー……なに、それ? 知らない単語に目を瞬く。

 マードリック様は拳を突き出し、声を上げ、火の球を作り出した。

 メイスター様は木の棒を取り出し、同じく声を上げ、火の球を出す。

 ユウキ様は手のひらから。

 察するにファイヤーなんとかは、火の球のことらしい。

 僕も手のひらから火の球を作製し従順する。

「ギル。君も道具なしで魔術が出せるの?」

 ユウキ様の驚きに、バルンツ領の関所でも似た場面があったことを思い出した。

 目の前の魔導士も驚いている。

「おい。どういうことだよ。詠唱もなしに」

 マードリック様が僕に怒鳴ってきた。

「いえ、そのう、僕の街には魔石も木の棒も取り扱っていなくて……」

「じゃ、どうやって魔力を出しているんだよ」

「どうって……イメージをしたら勝手に出せる? みたいな」

 僕の説明に、みんながポカーンとする。そこでエルゼ女史が手を挙げ、みんなを注目させた。

「集中力とイメージ力をしっかり訓練すれば可能だ」

 エルゼ女史が手のひらを上に向け、僕と同じように火の球を出した。すると、助手の魔導士が口を挟んだ。

「しかしエルゼ様。彼はまだ生徒です」

「魔術の熱量に、生徒だとか、歳が関係ないのは君たちもわかっていることではないか」

 そうですが、と納得できていない魔導士はメモを取る。そこで、エルゼ女史がニヤリとしたのを目にした。

「ワタシは全力だと言ったはずだが、お前たち、それが全力なのか?」

 お前たち、と言ったわりに、目線は僕を睨んでいることがわかった。

 マードリック様とメイスター様の火の球は表面がオレンジ色だ。ユウキ様の炎は赤みを帯びている。

 僕もそれに倣ったんだけど、エルゼ女史は明らかにそれについて怒っているんだとわかった。

 炎の火力を上げる――感じとしては、千切った魔力を追い足すイメージだ。すると、一気に炎が青くなる。

「なに!」

 炎の変化に魔導士が驚愕した。

 隣に並んでいた三人も似たような表情に。

 背後からはマルセーヌ様とユーディー様の驚きの声を耳にした。

「完璧だな」

 と、エルゼ女史だけは平然としている。

「全員よく見ておくように。これが、最高潮に近い硬度を持った魔力の熱量だ。表面の青い部分でおそらく六百度を超えているだろう。中心の白い部分に関しては、想定千度と言われている」

「エルゼ様待ってください。これでは彼は」

「そうだなワタシと対等の魔力熱量だな」

 血相を変える魔導士にエルゼ女史が口の端を上げる。そして、彼女は再び火の球を出した。先ほどのオレンジの炎とは違い、僕と同じで青い。でも、中心の白い部分は明らかにエルゼ女史の方が多い。

「危うく、講師の面目が潰れるところだったな」

「いいか。ギルを除く三人。ここまでとは言わない。せめて表面が青くなるぐらいの熱量で魔力が出せることが、S組の火の属性の合格ラインだ。最終試験、そこまで達さなかった者は最終試験を受けられない。つまり、A組扱いで卒業となる。肝に銘じておけ。ちなみにマードリック。魔力を蓄積できる魔石で試験を受けるつもりなら、青の炎が出せるのが合格ラインだ。これらは国王が出した試験内容だ。変えられんぞ」

 国王の、とエルゼ女史の説明は貴族様たちの顔を蒼白させた。

誤字脱字の報告受け付けています。


ここまで読み進めていただきありがとうございました。

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