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花と王の一の誓い




サラの呟いた言葉の後に、ミーフェは座り込んで二人を見つめこんでいた薬師に囁いた。


「あなたたち、お父さんとお母さんでしょ。」


ミーフェが覗いたフードの置くには、見覚えのある懐かしい二人が居た。


「ミーフェ!どうしてそれを!?」


「あまりにも無理がある変装に見えたから」


ミーフェの言葉に、父はため息をついた。


「むう…母さんや、もうここでいいだろう」


変装した父の声に、母は微笑んだ。それは、ミーフェが久しぶりに見た母の笑顔だった。


「そうだねぇ…。ミーフェ。あんたの方に母さんたち住み込むことにしたよ。これから行くんだ」


「え!?何それ――」


驚くミーフェの隣で母が立ち上がり、ローブを脱ぎ捨てた。


「おい、あんたたち!」


突然のミーフェの母のどでかい声に、聞き入っていた兵士達が跳ね上がった。


しかし、ミーフェの母は止めずに続けた。


「私らはねぇ、このときを待ってたんだ!帝国の鎖から逃げるチャンスをな。そして今、そのときは刻一刻と近づいている!!」


扉の音やら母の大声に気づいた大臣が何処からか戻ってきた。大臣はミーフェの両親を見ると飛び上がった。


「おい!お前らなにをやってる!?奴隷の分際で、女王の前に立ち大声で叫ぶなどと!!恥を知らんか!」


「おや、これは大臣。最後に言っておくけどね、この世には奴隷なんて存在すらないのさ。あんたらが勝手に決めつけただけなんだよ!」


ミーフェの母は物凄い剣幕で大臣の胸倉を掴んだ。


「ああついでに、あたしは薬師でもないって、あんたの主人に言っときな。クスリなんてないってね」


母の囁きを聞いた。大臣は、目を見開いてヘナヘナと座り込んだ。


「そんな…これで女王陛下のお体をなおせると…」


「嘘だよ、嘘。そんなことも見抜けないなんて、あんたは大臣として失格だよ。消えちまいな」


それだけ言うと、満足したようにミーフェの母は大臣を突き放して戻ってきた。


ミーフェの呆れたような表情を見た母は、ミーフェに一言だけ言った。


「あたしたちは満足さ。あとはミーフェ、あんた次第だよ。」


ミーフェはエリーを見た。


エリーはミーフェを見返し、ミーフェに頷いた。


そしてミーフェは少しして、サラにまた話しかけた。


「サラ、あなたに会えてよかったと思うようにするわ。じゃあね、また会うときまで―――」


そう言うと、ミーフェは擦り切れた薄い上掛けを翻して、サラの元から去った。



サラは去ってゆくミーフェを見つめ、ただ複雑な顔をしていた。





そうして、サラとミーフェの関係は完全に断ち切られた。




ミーフェはそのまま王城を出て、エリーにヴィアナへ戻ろう、と伝えた。


エリーはようやくおわったのだと、ほっと胸を撫で下ろした。


いつも緊張していた糸が緩む。エリーは言葉に表せなくて、ただ笑った。



その後、援軍を率いてやって来たバースの部下達に出来事を伝えると、騎士達はミーフェの無事帰還を心から喜び、ミーフェを助けたエリーとバースに労いの言葉をかけた。


そして、エリーたちは馬に乗り、あのヴィアナへと戻ったのだった―――後に伝説とも言われる、ヴィアナの花の最初の武勇伝を土産話に。








騒ぎになるからということでこっそりと入った裏門には溢れんばかりの人の波で埋め尽くされ、大音量のマーチが鳴り響いていた。


「何これっ余計うるさいんじゃない、まったく迷惑ね。」


馬に跨ったミーフェは門を潜りながらエリーに舌打ちした。


エリーは苦笑いしながら頷いた。


「何だか申し訳ない気分ね。わざわざお出迎えなんて」


そう言いながらも、エリーは何処か嬉しそうだった。


「戻ってきたんだもんね、ヴィアナに…やっと」


エリーの言葉に、ミーフェはただ微笑んだだけだった。


けれど、エリーはミーフェの気持ちを汲み取って自分も笑った。



バースや他の騎士達と共に入城すると、エリーとミーフェとバースは真っ先に王に呼ばれた。




玉座の間へ一度足を踏み入れると、ヨーアンの眼差しに目が留まった。


思えば、結婚式はいよいよ明日に迫っていることに気づき、エリーは真っ青になった。



ど、どうしよう…絶対王様に怒られるよね。やば…



ミーフェの目の前で結婚式より大切だからとか言った手前、今更相談できずエリーはため息をついた。


三人が頭を垂れると、王が口を開いた。


「エリー殿、そしてバース殿。よくぞヴィアナの掛け替えの無い命を助けてくれた。心から礼を言わせて貰うぞ。

 ミーフェ殿を止められなかった事を、どうか許してもらいたい。」


ヨーアンは爛々と輝く瞳を二人へ向けた。


エリーは礼をしたまま言葉を連ねた。


「ミーフェの事を気づいてられなかった私の責任でございます。決して殿下の責任ではございません」


エリーがそう言うと、ミーフェは目を閉じたまま口を開いた。


「この一件は、全て私の責任です。エリーも王様も、そんなお互いに責任負わなくたっていいですけれど、どうされます?」


ミーフェの言葉に、その場にいた全員が笑った。ミーフェは礼儀も忘れて立ち上がった。


「皆さんに笑っていただいたことですし、そろそろ休みたいのですが、宜しいでしょうか王様?」


「ああ、ではエリー殿は残ってもらいたい。他の者達も退室せよ。ミーフェ殿とバース殿はゆっくり療養し、仕事に復帰するように」


王の言葉で、ミーフェとバースは足音をたてずに側近のネフルアードらと出て行った。エリーは更に顔を青くした。



や、やっぱり怒ってるわよね…そうですよねだって悪いのはこの自分だし別に怒られたっていいですけれどね…



エリーはため息をついて、王の次の言葉を待った。


しかし次にエリーの耳に飛び込んできた王の声は、意外な内容だった。


「エリー殿、あの約束の用意が出来ました。もう明日に迫っていることだし、今日は二人でゆっくり城を回ろうと思うと思ったのですが…別にあなたがお疲れならばいいのです。」


王の言葉にエリーは心底安堵した。ついでに頷いた。疲れを感じさせない、笑顔で。


王ヨーアンは、玉座を立ってエリーの元へ歩み寄った。


そして、優しく呟いて、エリーの手にキスをした。


「これまでよく頑張ってくれました。どうぞ、力を抜いて私に寄り添ってください。」


「まあ…ありがとうございます。では遠慮なくそうさせていただくやもしれませんわ。」


そして二人は、エリーの旅の思い出話で盛り上がりながら、夕時まで城を心行くまで歩いた。


エリーにとっては久しぶりの安息だった。しかし、何故か疲れがどっと流れ出ることは無く、むしろ心がすっきりとしていた。



二人が中庭の池のほとりまで歩いたとき、エリーが切り出した。


「侍女から聞きましたわ、セトのこと。きっとあの侍女は、本当の場所に帰ったに違いありません。きっと…」


「そうですよ、あの方は貴女のお付の侍女だった。きっと複雑な事情があったに違いない。」


「…貴方の事、これからヨーアンって呼んでもいいでしょうか?」


エリーの言葉を聞きながら池を見つめるヨーアンは、微笑んだまま答えた。


「いいですよ。敬語も使わなくたっていい。これから沢山語り合うだろうから、敬語じゃ不便でしょう」


「ええ、そうね。じゃあ敬語は使わないわ。わたしはあなたをヨーアンって呼ぶから、あなたもエリーって呼んでね。いい?」


「分かった。約束する」


ヨーアンも敬語を崩して答えた。


エリーはそんなヨーアンの優しさが伝わってきて、嬉しさに顔が綻んだ。


「ありがとう―――ヨーアン」














少々手を加えさせていただきました。

読んでくださった方、誠に申し訳ございません。


今回までの見直しで他の話にも少し修正する部分が出てくる可能性がありますので、修正をやり次第お伝えさせていただきます。

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