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目覚めた太陽は静かに輝く





「女王陛下、少し宜しいでしょうか」


「どうしたの大臣?そんな顔をして」


「それが…ヴィアナ王国の公爵令嬢がミーフェ殿が居られる地下牢へ乗り込んだようなのです。」


「……まあ、意外と早かったようね。エリーさんは賢い騎士をお持ちのようだわ。」


「どうされます?地下牢へ乗り込みますか」


「…いいえ。此処で待ちましょう。いずれあのこたちは此処へ来るわ。――――決着をつけにね」


「承知いたしました。では門兵に伝えておきます」



女王のみが残った部屋の中で、サラは一息をついた。


頭の中では、既に最愛の騎士との夢の生活が繰り広げられていた。


「夢だけでは終わらせないわ。絶対にミーフェは私が取り戻すのだから」


そう呟いたサラの顔には、ミーフェに対する溢れるほどの愛情がうつりこんでいた。









エリーとバースは、ミーフェの母と別れた後、石畳の地下牢を絶え間なく見渡しながら走っていた。



やがて、先頭を切って進んでいたエリーの目に、一番無くしたくないものの姿が映った。


エリーは走るのを止め、静かに歩きながら、ミーフェが倒れている牢によった。



「…ミーフェ。やっと、やっと見つかった…!こんなところに居たなんて―――」


エリーはミーフェにやっと会えた嬉しさと、ミーフェの気を失っている状態に対しての衝撃で喉を詰まらせた。


バースは、震える手でやっと鍵を取り出し、そっと錠の鍵穴に差し込んだ。


ゆっくりと開け放たれた扉を二人は急いでくぐり、ミーフェの元へと駆け寄る。



「ああ、ミーフェ!起きて、起きて。私やバースさんが見えないの。ねえ、御願いだから、目を覚ましてよ―――!!」


エリーはやっとのことで声を絞り出し、ミーフェを力いっぱい揺さぶる。しかし、ミーフェは揺れるばかりで瞼はピクリとも動かない。


バースは放心したように、衝撃をうけたときの表情のまま立ちすくんでいた。エリーは、なおも大きな声でミーフェの名を呼び続け、懸命にミーフェの頬を引っ叩いた。



しかし、ミーフェは目を覚ます気配すら見えなかった。


「―――ミーフェ――!!」


エリーの悲痛の叫び声は、遂にミーフェには届かなかった。バースが我に返って、エリーの肩を叩いた。


「エリーさん、ミーフェはきっと生きているはずだ。だが、私達だけではどうにもならない。まずはここから運び出そう。」


「…ええ。そうですよね。きっと、きっと生きてるわ。だってお母さんが看病してくれてたんだものね。―――ミーフェ…」



バースはミーフェをそっと抱きかかえ、牢の入り口をくぐった。エリーもあとについて、ひっそりと牢をでようとした。


その時――――



エリーは、抱えられたミーフェの首筋から、何かがすり抜けて落ちていくのを見た。


「今ミーフェから何か落ちたわ…何かしら」


エリーは屈みこんで、ミーフェから落ちてしまったロケットペンダントをすくいあげた。


「ロケットペンダント?」



ミーフェが好んでつけるようなデザインではなく、ずっしりとして重みのある、古風なロケットだった。


「ミーフェのかしら…」


エリーは裏返し、ミーフェの名が書かれているかどうかを確かめた。


すると、裏には小刀で文字が刻まれていた。


「まあ…」


エリーは、その宛名がミーフェということに気づき、そして差出人の名を見たとき、これは誰のものだったのかを瞬時に理解した。


「エリーさん、急いで。置いて来た部下に事情を説明しないと」


「御免なさい、行きましょう。」



二人は、急いでもと来た道を辿った。





一方、残されたバースの部下達は、これでもかという数のの襲い掛かる地下住人を斬りつけ、やっとのことで落ち着いていた。


「あーあ。剣が刃こぼれしちまったよ。隊長に怒られるよぉ、うわーん」


「俺だって、隊長に日ごろは使うなって言われてたオナラ攻撃しちゃったんだぜ。絶対殺される!」


「あーじゃあさっき臭かったのお前のオナラ?なんだよ、お前にはプライドってもんが無いのかよ…ったく。」


「ちょっと、うるさいぞそこ。また住人の軍団が来たらどうすんだよ!…あ、なんか来た…もう、またかよ…」



騒がしい騎士たちの目に、二人の走ってくる人影が映った。一人の騎士が立ち上がって目を光らせた。


「おい!あれ隊長とエリーさんじゃねえ?おーーーい!」


他の騎士達もぞくぞくと立ち上がって敬礼をする中、バースとエリーはやっと入り口までたどり着いた。


「隊長ー。ミーフェさん大丈夫でしたか?」


「ああ、お前達は…大丈夫そうだな。」


エリーと騎士団員、そしてバースは、お互いを見て、ゆっくりと笑った。


「良かったです…みんな無事で。あとはミーフェだけですが―――」


エリーの言葉に、騎士が眉を跳ね上げた。


「何だって!?ミーフェさんがどうかしたのかい?」



「どうもしてないわよ。みんな揃って、気持ち悪いわね」


久しぶりの声を聞き、皆が振り向いた先には―――


「ミーフェ!!」


エリーは迷わず、よろよろと立ち上がったミーフェの元へ駆けた。


「エリー…なんでここに居るのよ?もうすぐ結婚式でしょ。」


ミーフェは、さっきまで眠っていたことも見せない素振りで、エリーに呆れた表情を見せた。どっと周囲が笑った。


「うるさいわね、ったく。こっちは寝起きだってのよ、さっさと行くわよ。ほらっ」


ミーフェは心なしかいつもよりピリピリした様子で騎士達の集団を掻き分けてその場から出た。


エリーが驚いてついて来た。


「ミ、ミーフェ!まだ怪我が治ってないじゃない。何処へ行くのよ?」


「何処って…サラのとこに決まってるでしょ。決着、つけに行かないの?私今すっごくサラに復讐してやりたいんだけど」


「あ―――!サラさんって分かってるの?あなたを閉じ込めた人」


「ええそうよ。だってサラの目の前で私が失神したんだから、閉じ込めるのはサラ以外いないでしょう。すぐ終わるから、怪我なんてどうでもいいわ」


エリーは、ミーフェのあまりのさっぱりぶりに、思わず言葉を失った。


「エリーも来る?私がサラに向かって捨て台詞はいて出てってやるの、見届けたいでしょ。」


ミーフェは、エリーに土で汚れた手を差し出した。


エリーは暫く黙ってたが、やがてその手に自分の手を重ねた。


「ええ。行くわ。結婚式よりも、そっちの方が気になるもの」


「おー!今の爆弾発言!!」


一人の騎士が口を挟んだ。皆がまた笑った。


そして、バースとエリーとミーフェは、馬に乗って先にサラの待つ王城へと向かった。


残りの騎士達は、ヴィアナへ援軍を要請するということで、後から出発することになったのだ。




馬に跨ったエリーは、馬を走らせながらミーフェに問いかけた。


「ねえ、ミーフェ。さっきあなたが落としたロケットペンダントを拾ったんだけどね…メッセージ、見た?」


「何をよ?なんか書いてた」


「裏にね、お母さんから。あなたを、永遠に愛していますって。」


「…嘘よ。そんなのただの社交辞令にすぎないわ。あいつは母親なんかじゃない」


口をへの字に曲げるミーフェみて、エリーはあのときのことを思い出した。あのミーフェの母の顔を。


「私、さっきあなたのお母さんに会ったの。…本当にミーフェのことを愛しているようにしか見えなかったわ。きっと、気持ちはうまくつたえられないけれど、ミーフェのことが一番大切に違いないわ」


「………。」


固く口を閉ざしたままのミーフェの顔には、少しだけの期待があった。


本当に嫌われているのなら、こんなロケットペンンダントをよこしたりはしないはずだ。これは、母が身に付けていたお気に入りのロケットだということを知っている。


エリーとバースは微笑んだ。


ミーフェは、嬉し泣きにも近い笑みを一瞬浮かべて、またいつもの表情に戻った。過去はどうであれ、今は関係の無いことだ。


「さっさとサラをギャフンと言わせて、帰るわよ。結婚式が待ってるんでしょ。」


「…うん!」


三人のは、間もなく城門に到着しようとしていた。





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