花と太陽を結ぶ銀糸
「バースさん、何処にミーフェは居るの?」
エリーの問いに、バースはただ言葉を連ねる。
「候補は二つだ。まずはこの王宮内の部屋と言う部屋に居るか。それを確かめた後に…」
「?もう一つは…?」
「…もう一つは、昔帝国が利用していた大陸最大とうたわれる大監獄…【ヴォーンイレイズ】に居る可能性が極めて高い…」
バースの声に、エリーは口を覆った。
「大監獄ですって!?何故そんなところにミーフェが行くの?」
「昔、帝国の王族は、自分にとって最愛の…愛おしい人が目の前から去らぬようにと、大監獄や地下牢に監禁したと聞く。もしミーフェの存在が女王にとってかけがえの無い者だとすれば、辻褄が合う」
「そ…そんなこと、ミーフェに限ってないわ。だってミーフェは騎士なのよ?騎士がそう簡単に捕まるわけ…」
エリーの声が、だんだんと小さく、儚いものにかわる。
バースが嘘をつくとは思えない。それはエリー自身も分かっている。
だが、大監獄とも言われると、エリーは心にピンと張った糸を揺るがせた。
何故かは分からないけれど、ずっしりと、でも脆い銀の糸。
ずっと紡いで来た思い出が織り込まれた銀の糸は、絶対に切れることは無いと信じてきた。
それが今、消えかけようとしている。
エリーには、それが信じられなかった。
「――無いわ。」
だったら、紡ぎ直そう。
この手で自ら、銀の雫をかき集めて。
ミーフェとの思い出が消えることは無いから。
だから、きっと紡ぎなおせる。いや、また紡いでみせる。
「バースさん知ってる?私とミーフェはね、幾つもの運命が重ねってやっと出会えた、奇跡の二人組みなのよ。だから、そう簡単に離れたりしないの」
そう、自分があの時令嬢になると言っていなかったら、二人は出会うことは無かっただろうし、きっと存在すら知らずに生きていたことだろう。
ミーフェが帝国を出て、専属騎士にならなければ、あのリリアンとも会わずに人生を終えていた。
そう、全ては奇跡なのだ。偶然が折り重なって出来た、運命なのだ。
「だから私は、絶対に諦めたりしない。ミーフェが離れるときは、永遠に訪れることはないのよ。でしょう?」
エリーの言葉に、バースは一瞬ぼやめき、微笑んだ。
「そうだね。ミーフェは君と…」
ヴィアナ王国と共に生きるべきなんだ。
「行きましょう、バースさん。ミーフェの元へ…運命の銀の糸の先へ。」
エリーは、胸をはって立ち上がった。
揺ぎ無い心と眼差しに、バースも心を決めた。
「うん、行こう。そして、ここには二度と戻ってこなくていいように、キッチリかたを付けよう。」
やがて二人は王宮内の探索に取り掛かった。
二手に別れ、取りあえずは廊下を歩き回って見ることにした。
エリーの心の中では、直感が働いていた。
《ミーフェは、大監獄の中に居る》
それは、バースが青ざめて口にした様子からも容易く想像できる。
「サラさんは、余程ミーフェのことを大切に思っていたに違いないわ。それは分かるもの」
エリーは悟ったように一人呟いた。
それもそのはず。そもそもここにミーフェを呼び出したのは他でもない帝国女王なのだ。女王以外に閉じ込める者は考えられないし、そうと仮定するとミーフェが大監獄に居ることは間違いない。
そう考えていると、向こうからバースがやって来た。どうやら二人で王宮内を一周したらしい。
「エリーさん…」
バースの顔には、苦痛が滲み出ていた。
しかし、エリーは優しく、でも少し不安げに微笑んだ。どうせ悩んだって変わらないことなのだから。
「バースさん。やっぱりミーフェは大監獄に居るのよ。バースさんだって最初から気づいていたでしょう?」
「………だが、あそこは危険なんだ。君が向かうところじゃない。凶手や闇人が数え切れないほど溢れているんだ。いくら国営といわれていても、管理はされていない。つまり助けは来ないんだ」
バースはエリーを試すかのように言葉を重ねた。
「…私が求めている命は、ちょっとやそっとの価値なんかじゃないの。溢れ出るほどの凶手や闇人で満たされるような価値じゃないの。助けが来ないからって諦められるような価値じゃないの」
それが、バースが求めていた以上の答えだったと、エリーが気づくことは永遠にないだろう。
バースは暫し黙り込み、険しい表情でエリーに手を差し伸べた。
「君が望むのなら連れて行こう。ただし、いつも優先的に自分の身を守ることだ。いいね」
「…出来る限り、従います。でも、いつか約束を破るときが来ます。」
エリーは、力強く微笑んで見せた。
忙しくとも、やっとこさ三十話を突破できました!とーっても嬉しいです…!
ヴィアナもいよいよ核心に迫り始めましたね。
作者から言うのもなんですが、結構進んで嬉しい限りです。
なかなか更新が出来ない日々が続いておりますが、これからは出来うる限り最善の策を練って執筆し、皆さんにお楽しみいただけるような小説にしたいと思っておりますので、応援よろしく御願いします。