花は新たなる光を辿り
「あなた・・・どうしましょう・・・。あの子はこの事を望むと思いますか?」
夫人は心配を募らせた面持ちで夫であるグルニエール公爵を見た。
公爵は重大極秘事項が書き記された手紙を覗き込み、少しの間沈黙すると、手紙を分厚い封筒に仕舞いいれ引き出しに入れた。
公爵は、おもむろに口を開いた。
「もしかすると、エリーは・・・」
「エ、エリーは?」
「・・・王家の花となる運命なのかもしれん・・・」
「おや、エリー。ミーフェも。もう戻ったのかい」
公爵は夫人と一緒に書斎に居た。
エリーは空の弁当箱を侍女に預けると、夫人の隣のソファに腰掛けた。
「ええ、お父様、お母様。」
「ご機嫌麗しゅう、公爵様、並びに公爵夫人」
ミーフェは深く敬礼した。クスクス笑いが二人から見えないくらいに深く。
エリーはミーフェに侍女からのレモネードを渡し、自分もレモネードを口に運んだ。冷たくて、レモンのいい香りがした。
やがて、エリーは見事な彫刻が成されたグラスをコトンとテーブルに置くと、公爵と夫人の方に向き直った。
「あのね、お母様・・・それに、空いてればお父様も。」
公爵と夫人はキョトンとエリーとミーフェを見つめた。
「何?今日はエリーは何も用事はないはずだけど・・・」
「う、うむ。」
エリーは大きく呼吸をして、立ち上がった。
「私達、お父様とお母様と一緒に乗馬に行きたいの!!!」
「・・・・・・・はあ。」
公爵は公爵とは思えぬ眼差しでエリーを見た。
エリーは慌てた。怒られるかもとは思っていたが、まさかこんな反応を示すとは思いもしなかった。
「あ!別にいきたくなかったらいいの!全然・・・でも、やっと家族みんなで仲良くなり始めて、ミーフェも凄く仲良くしてくれた。
・・・・・私は、みんなにお礼が言いたくて。」
「エリー・・・」
夫人は喉を詰まらせた。目も潤む。
ああ、この子は、此処に来て、幸せでいる。
少なくとも、悲しい思いはしていないんだわ。
「あの、行ってあげましょうよ、2人とも」
ミーフェが加わった。
公爵は、暫くポカンとしていたが、その後立ち上がった。
「よし、行こう。エリーの頼みとあらば、何でも。」
夫人は、公爵を見ると、ふっと笑った。
「ふふ、そうね。」
そして夫人は一人の侍女を呼びつけた。
「御願いがあるの。・・・馬を四頭、それに・・・弓の用意を」
「畏まりました。」
夫人は、エリーのほうに向き直った。
「さっ、エリー!行きましょう」
「エリー!今よ!」
ミーフェの叫びに、エリーは矢を放った。
すると、一匹の猪を仕留めた。
最初は乗馬だけと思っていたものが、いつの間にか狩もしていた。
ミーフェは猪鍋が100個出来るかと思ったほど、多くの猪や野兎を仕留めた。
夫人と公爵もかなりの腕前で、次々と獲物に矢を放った。
「ふう、汗をかいたわね。向こうの川で少し休みましょう。」
夫人がそう言ってくれた事で、三人はやっと汗を拭う間ができたので感謝した。
川の水を馬に飲ませながら、エリーはふと思い出した。
「そういえば、私宛に手紙が来ていたわ。侍女さんが行く前にくれたの」
夫人と公爵は吃驚して飛び上がった。
「ま!?まさか!」
「だ、誰から!!」
「え!?誰よ、そんなモノ好きー。」
ミーフェはおやつのマーマレード味のサンドクッキーを頬張りながら、笑った。いかにもそんな人居るもんなんだ〜という感じで。
エリーは肩をすくめてクスクス笑った。
「実は手紙は二通あって・・・一つは、なんとバースから!」
「きゃーーーーーーー。」
ミーフェはエリーのドレスのポケットから差し出された簡素な手紙を自分に渡されて、顔を引きつらせながら叫んだ。
「でも、私宛じゃなくて、ミーフェ、貴方だった。きっとどうやって送ればいいのか迷ったのね」
エリーはすっごく微笑んでミーフェにニカっと笑いかけた。
夫人は、バースのことを知りたがった。
「バース??誰なのそれは。ミーフェの知り合い?」
「それがねお母様。知り合いどころじゃないのよ。実は・・・ミーフェとバースは幼馴染で、しかも運命の相手なの!」
エリーは興奮して言い切った。
「ちょ、ちょっとエリー!!!」
ミーフェは顔を真っ赤にして撤回しようとした。
「これは違うんです!エリーの聞き間違いで―――」
「まあまあ!ミーフェったら、やるじゃない〜♪」
夫人は公爵と一緒ににっこり微笑んだ。
「だから違うって―――」
「何かあったら、なんでも言ってくれ、ミーフェ。何でも協力するからな♪」
公爵はキラーンとガッツポーズをした。
エリーは封筒から真っ白な便箋をとりだして、ミーフェに渡した。
「さあミーフェ。なにが書いてあるのか、読んでちょうだい!」
ミーフェは観念した。
「んもう全く・・・いいわ、読むわよ。」
ミーフェは手紙を読めるように日光に照らした。そこには、丁寧な細い字で、こう書かれていた。
『 ミーフェ
この前は、ダンスパーティで一緒に踊ってくれて有難う。久しぶりだったね。
噂によると、大分剣の扱いが良くなったと聞く。
また何時か、手合わせは出来ないだろうか。
僕は騎士団長の仕事が世話しなく入っているため、出来る日にちは此方から決めさせてもらうが・・・大丈夫だろうか?
君はグルニエール公爵のご令嬢に仕えているといったね?
そっちの生活は楽しいかい?
僕は・・・毎日が戦いだよ。
朝は早朝四時に起きて、稽古をするんだ。
本当に大変だ。
だが、騎士はやはり僕にあっていると思う。
ミーフェは、自分もそうだとは思わないのか?
自分も、また騎士に戻りたいと、思わないのか?
いつか、日にちを記した手紙を送る。待っていてくれ。
カントラス地方ヴィアナ武力騎士団騎士団長 バース・エグフェイネス・クリエスト』
「あれ?ミーフェって前に騎士やってたの?」
エリーは初耳のことに驚いた。
「ああ、それね。うん、そう。専属騎士は、騎士を5年やってないとできないのよ。」
その影で、公爵と夫人は「若いわねえ」とか、「青春だ・・・!」とかなんとかを言っていた。
ミーフェは堪えきれず呟いた。
「・・・・・・・・・・もういいです。二人とも、応援なんて結構!・・・それでエリー!もう一つは!?」
「話題そらしたわねミーフェ。とにかくもう一通なんだけど・・・」
エリーは緊張気味に手紙をみんなの前に翳した。
「あの・・・王様からだったの。」
「・・・なんと!ヨーアン直々に・・・」
公爵はチョコレート・サンドを取り落とした。
「?何のこと?」
エリーには何がなにやらサッパリである。
そこで夫人は、エリーの口いっぱいにサンドを詰め込ませてから、静かに言った。
「あの、エリー。手紙・・・ヨーアンさんの、読んだ?」
エリーは首を横に振った。乗馬に行く直前だったので読む時間がなかったのだと言いたかったが、口にモゴモゴはいっているせいで何もいえなかった。
これが、夫人の狙いであったが。
夫人は「そう。」と言って公爵に目を向けると、公爵はいかにも不安げに夫人を見返した。
夫人にはそれが合図になった。
「あのね、エリーには今・・・・・・・・・王様への、なんて言うか―――お見合い話が来ているの。この意味、分かる?」
ミーフェはそれを聴いた瞬間、口を覆った。
王の嫁になる―――それは王妃になるという事でもあり、同時に、この王国の花と言うべき存在となることを示していた。
即ち、エリーはこれから沢山の責任と、国民の思いと、そしてこの王国を王と共に背負っていくべき存在となるということだ。
三人が揃ってエリーを見つめる中、エリーはただ、口に入っているあらゆる味のサンドを動かしながら、下を向くばかりだった。
随分長くなってしまいすみません〜。
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もう一度言いますが・・・待ってます!!!!