願い事【5】
その行方不明者の偏り具合や、サイトの投稿者を見るに、ジュニア・ハイスクールやハイスクールの生徒にこのまじないを試しているものは多いらしい。
幸いと言うか、この第三班にいるのは十五歳から二十歳までの青少年たち。さて。誰を派遣するか。
「じゃあ、私が行く」
と名乗り出たのはローレンである。確かに、年回り的にも、臨機応変に対応できることを考えても、彼女は前戦向きの人間である。しかし。
「却下」
「何故!?」
フェイ、オスカー、ハリソンから却下が入り、ローレンはわざとらしくむくれた。フェイは「ダメ」と繰り返す。
「あんたとハリソンは悩みなさそうだし、大人びて見えるからダメ」
「俺もかよ! つーか、悩みなさそうってどういう意味だよ!」
ハリソンがかみついてきた。そのままの意味である。この二人、基本的にポーカーフェイスなので悩みがなさそうに見えるのである。まあ、ハリソンの場合は仕方のない面もあるのだが。
「じゃあ、選択肢、クリスかアサギかロデリックしかないじゃん」
「……オスカー、どうしようか」
ローレンの中で、初めからハイスクールの年齢を越えているフェイとオスカーは対象外なのだろう。そのために上がった三名の名前だが、そのうち二名はびくっとした。自信がなさそうに視線をさまよわせている。
「……じゃあいいよ。僕がやってくるよ」
「そうだな……それがよさそうだな……」
怯えているクリスティーナとロデリックを見て、さすがにオスカーもかわいそうかな、と思ったらしい。名乗り出たアサギの申し出を受けることにしたらしい。
「でも、どうすんだ。何かあった時に戦闘力面で不安が……」
「ハリソン、うるさいよ」
「心配してやってんだろーが!」
アサギに邪険にされたハリソンはかみつく。ローレンはそれを見てわれ関せずとばかりに笑っているし、この三人、本当に仲がいい。
「クリスを護衛に付けよう。美少年と美少女のカップルに見えるだろ」
オスカーが提案したが、フェイはアサギの顔を見て言った。
「むしろ、美少女二人組と思われるんじゃない?」
「フェイ、いくら君でも怒るよ」
と、アサギに怒り顔で言われてフェイは肩をすくめた。かわいらしい美少女顔なのに、アサギは怒りの表情が極悪である。
「もうどっちでもいいよ。選択肢少ないんだから、二人で行っておいでよ。アサギの力があれば、事前に回避できるでしょ」
「じゃあ初めから護衛いらないじゃん!」
アサギは面倒くさそうな声をあげたローレンにつかみかかった。確かに、アサギの能力があれば、面倒が起こる前に回避も可能だろうが。
「あの……心配だから、私もついていきます……」
クリスティーナの主張により、二人で行くことが決定した。アサギががっくりする。
「……僕って、そんなに頼りなさそうなんだ……」
何しろ栄養失調で入院するくらいだからね。当然である。
△
二人でお出かけと言っても、尾行はする。珍しく待機組はおかず、全員が出てきた。ハリソンは上の方から見守り、オスカーとロデリック、そしてローレンとフェイに分かれて追跡である。うまく男女に分けてもよかったのだが、フェイが狙われている可能性がある以上、最も戦闘力の高いローレンの側に置くのが良いだろう、ということになったのだ。
「あ、ナンパされてる」
「え、マジで?」
ローレンの言葉に、フェイはそっと建物の影からアサギとクリスティーナの方を見た。まだ花屋に入る前、大通りを歩いているところである。確かに、男性二人組に声をかけられていた。
「……やっぱり美少女二人組だと思われてんじゃない?」
「まあ、そうなんじゃない? アサギ、私と歩いてても『妹さんですか』って言われるしね」
ローレンとアサギは似ていないのだが、年齢差を考えて関係を考慮した結果の言葉だろう。本人は嫌がっているが、女装とかさせてみたい。
前方を気にしていたので、フェイは自分たちのことをあまり気にしていなかった。あちらも『美少女二人組』に見えるが、こちらも『美女二人組』に見えるのである。
「お姉さんたち、ちょっと今、時間ある?」
声をかけられて、フェイは思わず振り返った。ローレンは顔を見せまいと、かぶっていた帽子を目深にかぶり直し、アサギたちの方を見つめている。
「悪いけど、暇じゃないから」
そう言ってフェイはすげなく追い返そうとする。ナンパ……ある意味ナンパであるが、これはスカウトである。フェイも声がかかるのは初めてではない。ローレンと比べられると普通に見えるフェイだが、不細工ではないし、何しろスタイルがいい。ローレンの美貌は申し分ないだろう。
「少し! 少しでいいから話を聞いて! 今、ライバルの事務所のモデルの方が売れててピンチなんだよ!」
知るかそんな事情。そもそも、一応犯罪歴のあるフェイやローレンがメディアに進出することはほぼ不可能だ。
「何してるの、早く行こう」
「一人だけ関係ない、みたいな顔してるんじゃないわよ」
ローレンのせかす声に、フェイはツッコミを入れる。ローレンの横顔を見たスタントマンががぜん勢いづく。
「君、テレビ女優になる気はないかな!? 君なら絶対に売れる!」
まあ、顔がいいからね。ついでに言うなら、ローレンは演技も得意な方だ。何しろ、自称詐欺師である。というか、自称詐欺師ならとっとと追い払ってほしいものである。
「あなた、L&A事務所の人よね。そちらのモデルだけど、某事務所の美形俳優と不倫してるから、調べておいた方がいいわね」
「えっ」
スタントマンが動きを止めた。その隙にローレンがフェイの腕をつかんで走り始めた。引きずられるようにフェイは走る。
「ちょ、速い! ローレン速い!」
そもそも戦闘力の高いローレンは足が速い。一般的な女性並みの身体能力しかないフェイが追い付けるはずもないのだ。フェイが音を上げて少ししたところで、ローレンは足を止めた。フェイは膝に手をついて息を整えようとする。息が苦しい。けろりとしているローレンを睨んだ。
「……さっきの話、ホントなの?」
「え? 何が?」
「……不倫してるとかどうとか……」
「あー……」
ローレンの表情を見て悟った。口から出まかせ言いやがった、こいつ。
「まったく……あとで訴えられても知らないわよ」
「私を訴えられるなら訴えてみてほしいものね」
その自信はどこから出てくるのか。何とか落ち着いたフェイは尋ねる。
「で、アサギとクリスは?」
「ん」
ローレンが裏路地の奥の方を示す。アサギとクリスティーナが花を選んでいた。彼らも無事にナンパを振り払えたらしい。まあ、クリスティーナはともかく、アサギはしっかり者だしね。
「……後姿見ると、アサギ、ホントに女の子みたいね」
「細いからね、あの子。たぶん私より細いよ」
「あんたはほとんど筋肉でしょうが」
「そこまでムキムキじゃないんだけどなぁ」
腹筋が割れている人間が言うことか、それは。だが、確かにきれいな筋肉のつき方だ。背の高いフェイが一緒だから目立たないが、ローレンもかなりスタイルがよい。
花の苗を買ったアサギとクリスティーナが裏通りから出てくる。花屋の方には、オスカーとロデリックが話しを聞いてくれるだろう。なので、フェイとローレンはそのままアサギたちを追う。まあ、行先はわかっているのだが。
アサギとクリスティーナが入っていったのは教会だ。一応誰でも入ることができるということなので、見学、という言い訳の元、二人について中に入る。
「……きれいなところね」
「まあ、視覚的情報は大切だからね」
駄目だ。ローレンと話していても情緒も何もない。フェイは再びため息をついた。
庭もきれいに花が植えられていた。花がまばらな花壇は、そのまじないをしにやってくる人たちがまばらに花を植えているせいだろう。見る限り、結構な量だ。
少し離れたところにある花壇で、アサギが花の植え替えをしていた。そんな彼らに、教会の神父のような服を着た男性が話しかけている。何気なくそれを見ていたフェイは、話をしている男性の隣にいる男性と目があった。フェイはローレンを見る。
「眼があっちゃった」
「は? そのまま気づかなかったふりを……ん?」
気づかないふりをしろ、などと言いかけたローレンだが、何かを感じ取ったのか、彼女もその男性の方を見た。しばしにらみ合う。
「……行こう、フェイ。あとでアサギとクリスが報告してくれる。私から離れないでね」
「わ、わかったわ」
素直にうなずいたフェイは、ローレンに続いて庭を出た。ローレンはわざわざ回り込むように教会の裏手に向かった。
そして。
「来ると思ったよ!」
ローレンはフェイを押しやって自分は振り返ると、強烈な蹴りを襲撃者の顔面に叩き込んだ。
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