ツェツィーリヤとアリア
ツェツィーリヤは自宅を飛び出した。後ろには、珍しいことに自主的にアリアがついてくる。
外の現状を見て、ツェツィーリヤは顔を掌で覆った。空を仰ぎ、怒声による絶叫を上げた。
「見つかったのか! 見張りは何してやがる」
はぁ、とツェツィーリヤは息を吐いて、冷静さを取り戻す。
悔しい。
自分の家、故郷を踏み躙られているのだ。
だが、そのことについて何かを思っている暇はない。
師匠曰く、苦しいときこそにっこり笑え。その方が萌える。
「よし。笑う。……行くぞ、アリア。ここは放棄される」
「行きません。御主人様を探さねばなりません」
「だな。お前ならそう言うと思ったけどよ」
ツェツィーリヤは頭を掻きながら、自宅に口付けをした。それによって『自作する災厄の匣』が発動する。
彼の能力に、大きさは無関係である。彼の口内には
何でも問答無用で叩き込まれるのだ。
これには、流石のアリアも呆れたような視線をツェツィーリヤに向けざるを得ない。
「神々の死体はどれもズルいとは思っていましたが、ここまでなのでございますか」
「ああ。ちなみに、エレノアのときは敵の数が多くて使わなかったが、やろうと思えば敵の拠点も収納できるぜ」
建物すらも収納できてしまうツェツィーリヤにとって、壁などは飾りでしかない。
「ミロンならネリーといるだろうよ。合流地点は決めてある。取り敢えずは、そっちに行くぞ」
「ちっ。御主人様以外に従うのは癪でございますが、仕方ねえでございますね」
「お前……何だその口調は」
「自分は不服です。メイドである自分よりも、雌豚である髪長い奴の方が一緒にいる時間が長いとは」
「仕方ねえだろう?」
「自分は、御主人様といる時間よりも、お前といる時間の方が長い気が致します。屈辱!」
ツェツィーリヤは困り果てる。
ミロンのような無垢で個性の薄い『創り者』とは付き合いやすいが、アリアやネリーなどは扱いに困る。
けれども、大切な仲間であることには変わりない。
「じゃあ、その鬱憤は目の前の敵にぶつけようぜ!」
ツェツィーリヤは口から拳銃を取り出した。
アリアが拳を構える。メイド服が風に揺れた。
「多分、『壊れ者』だ」
二人の目の前には無数の残り者と二体の『壊れ者』らしき個体がいた。
「おーけー。個体名『頭』と『爪』だな」
ツェツィーリヤが頭と名付けた個体には、頭に無数の頭が付着していた。どの頭にも頭髪はなく、捲れ上がった皮膚の下には肉が見えている。
爪という個体は、全身から小さな爪が伸びている。身体中を覆い隠す爪は、鱗のようである。
「アリア、お前は爪だ!」
ツェツィーリヤが踏み込む。
魔道具により魔力を抜き取り、頭との距離を一気に詰める。
動けずにいる頭の顎の一つに拳銃を突きつけると、そのまま発砲した。
頭の一つが消し飛んだ。
血飛沫に晒されながら、ツェツィーリヤは拳銃で頭を殴り飛ばす。
後方へと吹き飛ぶ頭に銃弾を撃ち込みつつ、ツェツィーリヤは背後から現れた残り者を蹴り飛ばした。
「残り者の数が多いな。仕方ねえ」
ツェツィーリヤは唇に魔力を捧げる。
『自作する災厄の匣』の応用技。魔力消費は激しいが、現状を打開するのには最適の技。
「『放出する絶望』!」
空間に亀裂が生じる。その亀裂は徐々に大きくなり、やがて崩壊する。
と、同時に、上空から無数の道具が落下してきた。
トラックや重火器、ナイフや剣。死肉や小さな建物までが、無数の敵目掛けて投下された。
ツェツィーリヤは距離を取り、それらを見ているだけだった。それだけで決着が決した。
「潰れとけ」
天を揺るがす程の鳴動。
残り者と『壊れ者』の血肉が飛散する。だが、それに動じることもなく、ツェツィーリヤは笑う。
「片付けねえとな」
一方で、アリアも死闘を演じていた。いや、これは死闘ではない。
虐殺である。
「汚れてしまいます」
「ぐうううう!」
呻き声を上げながら、爪が接近してくる。爪の生えた指による薙ぎ払い。
アリアは前進することによって、それを躱す。けれども、敵の爪が伸び、アリアの柔肌を斬り裂いた。
アリアが舌打ちを漏らしながら、爪の腹を拳で貫いた。爪が後方へと吹き飛んだ。
爪が時間稼ぎをしている間に、残り者が無数に接近してくる。
前後左右を覆い隠されても尚、アリアは平然と構える。機人の舞踏が開始された。
前方に踏み込むことにより、地面を砕き、前方の敵を全て転倒させる。
左右から押し寄ってきた敵に対しては、その拳をただゆっくりと振り抜く。それだけで残り者たちの胴体は引き裂かれた。
後方からの襲撃に対しては、ただ足を後ろへと向けた。それだけで、数匹の残り者の身体が吹き飛んだ。
「弱えのでございますよ」
振り向き、殲滅できなかった分の敵へと襲撃する。
「ぬつうつう」
残り者の拳を首の動きだけで回避して、反撃の拳を返す。敵は腕をクロスさせて防御を行うが、無意味極まりない。
腕ごと、敵を破砕する。
「雑魚の癖に、血だけは吹けるのでございますか……調子に乗りやがって」
容赦なく、足元にいた残り者に足を振り下ろした。
残った『壊れ者』爪へと、ゆっくりと近づいて行く。深紅のメイド服を揺らしつつ、アリアは冷徹な表情で拳を握る。
爪は立ち上がり、その全身の爪を伸ばした。針鼠のようになりながらも、爪はアリアへと飛び掛ってくる。
クーマと同じ異形種でありながら、耐え切れずに心を壊した、哀れな元『創り者』。
しかし、そのようなことはアリアには関係ない。
爪だらけの肉体で、敵はアリアへと迫る。彼女は呆れて、モノも言えない。
地面に落ちている残り者の残骸を拾うと、アリアはそれを投げた。
爪はそれだけで、身体を吹き飛ばされる。
アリアが駆け抜ける。地面を砕きながらも、怒涛の勢いで吹き飛んでいる最中の爪に迫る。
「失せろ」
爪の全身に、満遍なく高速の拳を突き立てていく。数秒後、爪の存在は木っ端微塵となり、消滅してしまった。
微かに残った残骸のみが、風に流されて消え去った。
「さて、行きましょうか。御主人様の元へ」
「派手な戦い方だな。まったく……」
アリアはメイド服を血だらけにし、ツェツィーリヤは口紅を塗ったかのように、唇を血に染めていた。
「俺の方も、回収も終わったし、行くか」
二人は合流地点へと歩き出した。




