力と解析
また、花火が足を一歩だけ踏み込む。その動きだけで、ミロンは一瞬で背後を取られる。
「遅い」
頭に、軽く手の平を乗せられる。それだけで、ミロンは一発殴られたくらいの衝撃を受けた。地面に薙ぎ倒される。
「で、わかったかね?」
転がるミロンに視線を合わせるように、屈む花火。花火が首に付けているチョーカーに、ミロンはすかさず指を触れさせる。
『操作』
を発動させようとして、それは不発に終わった。教鞭がなければ、ミロンは魔力を引き出せないのだ。
「おや、随分と良い作戦だな。だが、自分の持ち物以外から魔力を引き出すのは、難易度が高いぞ? 触らなくてはいけないしな」
もしも触らずに、敵の魔道具を使えれば、それは余りにも無敵過ぎる。と、花火は呆れたように言う。
「で? それだけか?」
ミロンはその場から飛び起きると、花火に背を向けて逃げ出した。
このような勝ち目のない戦いからは逃げることこそが最善策である。
だが、花火は甘くない。
寧ろ、冷酷であった。
「あああ!」
ミロンの背中で何かが弾けた。
けれども、音で理解する。耳を破砕するような轟音を、ミロンは聞いたことがあった。
音と衝撃の正体。
そして、ミロンたちが一斉に意識を奪われたときの感覚とその後に残った痺れ。
霧島花火の第一の神々の死体は、雷を操るものだ。
「ふむ。まあ、これはわかりやすいか」
ただし、ミロンはまだ納得できていなかった。あの時の痛みはこのようなものではなかった。もっと、鋭かった。
手加減したとは、思えない。
花火の性格はよくわからないが、この場で手加減をしてくれるほど優しくはないだろう。
「私の第一の能力『天人の喝采』」
ルベル、と聞いてミロンは思考する。ルベルは何を司る神であったか。
記憶が正しければ、ルベルは富の神である。その力の特徴は……範囲。
「思い至ったようだが、少々遅いな。私ならば、もう二つ目も看過しているが?」
「そりゃ、貴方の能力ですからね。知っていて当然でしょう」
「そうだ。これは私の能力だ」
ルベルは範囲に特化している。ならば、火力がそこそこなのも頷ける。
いや、正確には、先程の背中への電撃も、相当のダメージではあった。だが、動ける。
「と、すると、もう一つの能力が電撃のダメージを強めたのか?」
「ミロン・アケディ。その推理は正しい。だが、だ。思考を口にすれば、敵にも聴こえる。そういう閃きは、仲間にのみ告げるべきだが?」
でなければ、と花火がミロンの背後に出現した。彼は鋭い手刀をミロンの首筋に落とした。
ミロンの首が両断される。
ミロンに無理矢理死肉を喰わせると、花火は再び構えに移った。
一方で、ミロンはひたすら思考に耽る。
雷を強化する能力。それだけではない筈だ。
そこで、ミロンは他のおかしな部分に目を向ける。あの高速移動である。
例えば、アリア。彼女の足はかなり速い。それは強い踏み込みがあってのものである。
例えば、ネリー。彼女の動きも素早いが、それはおそらく敵の不意を突いて動いているからだろう。
両者ともに速い。
だが、花火はその次元ではない。目の前にいるのに、消える。最初の一歩しか視認できな
い。
それだけでなく、足音一つ聞こえはしない。
その上、速く駆け抜けたのならば、ミロンの背後に現れる時に風が起こる筈だ。
それもなかった。
故に、ミロンは判断する。敵は移動にも能力を使用していると。
次に考えるのは、と、どんどん思考を巡らせている間にも、花火の強烈な攻撃は止まない。
何度も、花火はミロンを殴る。蹴る。
その動きは実に鋭い。それだけでなく、見た目以上に威力がある。
見た目と結果がそぐわない。
そこに、花火の歪さが顕著に表れている。
神々の死体は規格外の力だ。おかしな力だ。であれば、おかしな点を探る。
花火という根本的におかしなキャラクターは置いておいて、その戦闘能力のおかしさを考える。
一歩だけ見せつけられる移動術。
見た目にそぐわぬ破壊力。
雷の威力の上昇。
「どうやら、貴君は失格のようだな!」
花火が左腕を右手で擦る。その瞬間、彼の左腕に紫電が迸る。
暴れ回る電撃を左腕に纏いながら、花火は静かに口元を三日月のように割かせる。
花火が足を踏み鳴らすと同時に、雷の大きさと音が数倍になった。
「じゃあな」
雷の放射が、ミロンに襲いかかった。
ーーしかし、その雷が命中することはなかった。
「……結果を倍にしている?」
ミロンが小さく呟いた。その言葉を聴き、花火が止まったのである。
ミロンの顔面スレスレの場所で雷がバチバチと放電している。直撃を避けたのだ。
「うん、惜しい! しかし、合格だ。私の能力はーー」
「タロン。運と運命を選び取る能力を持つ神、ですね?」
「正解。『選択する十全たる運命』! 能力は、結果を倍ではなく、十倍にする力だがな」
例えば、と花火は一歩を踏み出し、ミロンの眼前に出現した。
「私は一歩動くだけで、十歩分の距離を移動できる。そして、『選択する十全たる運命』を使えば」
花火は左腕に電撃を纏う。
バチバチと、火花が巻き起こる。
「半径一キロに電撃を起こし、敵の動きを一時的に止めるだけの『天人の喝采』も、アラハ系を超える火力を持てる」
ミロンの背中に電撃を命中させたときは、あくまで足止めの能力として使用した訳だ。故に、ミロンはあのとき肉体を失わずに済んだ。
「また、小さな切り傷も……」
花火が自身の人差し指に、ナイフで小さな傷をつける。滴る血を気にもせず、『選択する十全たる運命』を発動した。
それによって、小さな切り傷が十倍となり、花火の人差し指が落ちた。
「何て滅茶苦茶な能力なんだ」
「『創り者』の世界において、滅茶苦茶じゃないものは存在しない。あり得ないを想定するものなのだが」
花火は至極真っ当なことを言っているという調子で、実に無茶なことを述べる。
僅かに乱れた七三の髪型を元に戻しながら、花火は続けた。
「では、レッスンスリー。敵の能力を解析した後にやることは一つ。さあーー私を倒せ」
新たな無茶振りが振りかざされた。




