神のみぞ知るエピローグ
玉座にゆったりと腰掛け、瞳を閉じている青年が一人。
彼こそは遊戯の神、クゼルである。
先程までは微動だにしていなかったクゼルであるが、彼は急に目をパチリと開いた。そして、失笑を零す。
「ミロンくんとラウルくん。実に面白かったよ。また、遊びたいものだね」
クゼルにとって、彼らとの戦闘はただの戯れであった。クゼルの計画に、ラウルの存在は邪魔だが、そこまで問題視している訳ではなかったのだ。
何故なら神は絶対。
神を殺せるような者は、神しかいないのだから。
故に、クゼルは笑う。
そのような彼の目の前に、煙が漂った。それは白い、煙草の煙であった。
神の御前で、煙草を吸う者がいたのだ。
「旦那」
「何、カヤ?」
「計画の方は進んでるんですかい? あたいはあんまり気が長い方じゃないよ」
クゼルの目の前に胡座をかいて座り込み、煙草を吹かしている少女がいた。
しかし、無礼で豪快な態度を取る反面、彼女の姿は地味であった。
黒の長髪を三つ編みにしており、大きな丸眼鏡を掛けている。如何にも文学少女、という姿なのだ。
それが煙草を深く吸う様子は、実に奇妙である。
「そういえば、カヤ。あの子が彼にあったよ」
「へえ。ってことは、ツェツィーリヤの馬鹿もいるんで?」
「ああ。いたよ。あれが男の娘って言うんだね! 僕、遠くから見てたけど、興奮しちゃったよ!」
「ああん? あいつは男の娘とやらじゃない。あいつは、男の中の男ですぜ? 幾ら旦那といえど、あいつを馬鹿にすんのは許さねえ」
さっき、自分で馬鹿って言ってたのに。と、クゼルは頬を膨らませる。
クゼルは思う。
己の配下には不敬な者しかいない、と。仮にも、いや、事実神であるクゼルに対して、信仰を傾ける者があまりにも少ない。
それはこの世界の宗教観が原因だろう。
この世界には神がありふれている。
神の奇跡、神々の死体を手にしている者があまりにも多いのだ。
無論、神々の死体持ちの数はそこまで多くない。
けれども、本来ならば神々の死体を持つ者はゼロであるべきなのだ。
また、神を信仰して得られるメリットなど、この世界には存在していない。それも信仰者が少ない原因なのかもしれなかった。
「まあ、信仰を損得勘定で決められるのは、神としては微妙な気分だけど」
クゼルが愚痴を吐いていると、王座の間の扉が開かれた。
クゼルの部屋に入る為にノックをする『創り者』は少ない。しかし、今回現れたのは『創り者』ではなかった。
残り者。
かつてのミロンの姿をした者であった。
「おや、帰ってきたんだね、ユグドラ。その身体、どうだい?」
「……」
「まあ、感情表現が少ない子ねっ! クゼル、おこだよ」
ユグドラは何も言わない。ただそこに棒立ちをしているだけだ。
その光景を見て、クゼルはやはり笑う。
「いやあ、ごめんね? 僕の采配ミスさ。僕はてっきり、人形園には祭子ちゃんが来ると思ってたからさあ」
クゼルたちがあの場にいたのは、六星長である祭子を始末する為であった。目論見は外れ、代わりにミロンたちがやってきたのだ。
「まあ、いいか。で、例の戦況はどうなってるの?」
クゼルは相変わらず煙草を吸っているカヤに向けて、質問を送る。カヤは頷き、思い出すように天井へと視線を向けた。
「霧島花火戦は未だに継続中。あいつは本物のバケモンだからね」
「ふむ。じゃあ、まだ戦ってるんだ? 凄いね。まあ、花火くんなら可能か。で、被害は?」
「アルルを含めると、既に三人やられてますぜ。援軍を念の為に三倍送ってるんで、今は膠着してるかと。なんなら、あたいも行きますかい?」
「いや、カヤはいいや。他は?」
「ゴルズは相変わらず。愛だの恋だの煩いままだよ」
「ゴルズちゃんも変わらないなぁ。僕、あの子のそういうところ好きだよ。愛する者の為に、仲間を平然と裏切る感じね」
僕にはない部分だから、とクゼルは続ける。
「ラジタータは人造機人を完成させたそうですぜ」
「ああ、第二から持ち帰ったあの子ね」
ふふ、とクゼルはミロン戦に用いた魔道具を見やる。かなりの完成度であった。
満足のいく魔印である。
「今考えてみると、僕たちの陣営の幹部クラスは、ミロンくんたちと因縁を持っているようだね。面白いよ」
クゼルは、まるで仕組まれたような今の状況に、かなりの面白さを覚えた。
ここから盤面をどう動かそうかと、遊戯の神は思考する。遊戯の神というだけあって、クゼルは遊びにかけては他の追随を許さなかった。
遊戯に関してだけ、クゼルはアラハにすら負けたことがない。そして、今回も負ける気はなかった。
「カヤ。きみは残りの神々の死体を探してきて?」
「あとは、髪と奪われた心臓、魂。それと骨とかですかい?」
「プラス皮膚と肩ね」
肩って、とカヤが呆れ返る。
そのような反応をクゼルは気にせず、今度はユグドラへと指示を出す。
「きみは。そうだね。ラウルくんに一方的に負けていたし、任務変更かな。きみは隠されたドーム、第八ドームを探して」
「……」
「あは。全ドームの位置が判明し次第、戦争を仕掛けよう。全『壊れ者』対全『創り者』さ!」
ここは第零ドーム。
遊戯の神が住まう、神域である。
神たる威厳を持たぬクゼルは、しかし、神たる故の余裕を見せて微笑んだ。
そう。
遊戯の神が笑うのは、全て、
「始めようか。『壊れ者』と『創り者』、残り者を救う為の聖戦を!」
かわいい子どもたちの為である。




