18.悪堕ち
「冨野くん、珍しく難しい顔してるね」
「あ、芹川さん。悪堕ちジャンルの本質がなんなのか考えてたんだ」
「またエッチなシチュ考えてるの? 頭の悪そうなことに頭使ってるね」
「なんで悪堕ちってこんな興奮するのかな? エッチじゃなくても普通に最高だと思わない?」
「私に同意求めないでよ、頭の中で補完できるんでしょ? 君の頭の中はピンク色で染まってるから無限の可能性があると思うよ、がんばれ」
「……そういやこないだ友達に誘われて、よくわからない講座を受けたんだけど」
「自己啓発みたいなやつ? 何か怪しいやつあるよね、いろいろ」
「その講座の内容はどうでもいいんだけど、最初に心理テストで『今頭に思い浮かんだ色を言って』ってのがあったんだ。僕だけピンクだったよ」
「それは冨野くんらしいね。自分を客観的に見れてそれだけで参加した価値あったと思うよ」
「他の参加者は全員爆笑、講師の人引き気味で苦笑いしてたよ。すごく自然に思い浮かんだんだけど、ピンクそんなに変かな?」
「その時の様子、想像に難くないね」
「てか、そんなことはどうでもいいんだよ。人間がピンクなのはいいとして、問題はなぜ悪堕ち作品がピンクなのかだよ」
「ギャップ萌え? 今まで高潔だった人が悪いことするようになった落差とか」
「まあ確かに、悪堕ちするのは普通正義の味方とか清廉潔白な人だよね」
「あとは……、もう取返しがつかない、とかありそう」
「わからんでもないけど、何で取返しがつかないと興奮するのかな?」
「開き直ってなんでも好きなことできるからじゃない?」
「束縛からの解放か。今までできなかったことを堂々とできると気持ちいいよね。文化祭が終わって、今まで作り上げてきたものを全部壊して破いて捨てる時みたいな。謎のカタルシスがあるよ」
「そっか、わかった。私は君に悪堕ちさせられたんだ」
「あ、やばい流れ変わった」
「君にはだいぶ人生には不要な知識植え付けられちゃったからね。知ってしまったことは忘れられない。もう戻れない」
「いや、自分だってノリノリだったでしょ……。だいたい今だって、頭悪いとか言いながら普通に意見してくれてたよね」
「だからそれは悪堕ちしたからじゃん。君と付き合う前は行儀のいい子だったし、こんな話絶対参加しなかったよ」
「たしかに今は性格悪いよね。普通に毒吐くし。正直びっくりした」
「実は我ながら驚いてたりしてるよ」
「なんか一抹の責任感じちゃうね」
「……でも、束縛からは解放してくれた」
「あ、うん……えっと……。よし、じゃあ今日は束縛シチュで行こう」
「『よし』じゃないよ、すぐそっちに行くね」
「嫌なら無理にとは言わないよ」
「誰がそんなこと言ったの? ついてきて」




