16.おべべ
「冨野くんて犬か猫でいうとどっちだと思う」
「まあどっちかってえと犬の方が好きかな表情豊かで」
「いや、君自身がどっち属性かって話だよ」
「ああ、それなら対芹川さんでは犬だね。服従、ワンワン」
「……」
「ん、呆れてる?」
「……いや別にそんなことないよ」
「芹川さんは……、まあ間違いなく猫でしょ」
「む、ひどい偏見」
「いや偏見だけどひどくはないよ」
「あらゆる偏見は古来よりひどいものなんだよ」
「猫とコミュニケーション取るの好きだし、あと……そうだな、例えば、江戸の町を商人が歩いてると……」
「急にタイムスリップしたね」
「向かいからお得意さんの金持ちの一人娘が歩いてくるじゃん?」
「いや聞かれても知らんけど?」
「きれいなおべべ着てさ」
「おべべ?」
「透き通るような肌で人形が服着てるのかと思っちゃうくらいだけど」
「はあ……」
「でも実際会話してみると、意外に明るくて気さくで、誰とでも話を合わせれる」
「ん? もしかして私の話してんの?」
「でも、どこか憂いを帯びてるというか影もあって怪しい魅力があって」
「え? 私、影あるの? まじ?」
「ある日そのお得意さんのお屋敷に商品を届けに行くと夜が遅くなってしまって。それで屋敷を出る時、ふと庭を見ると向こうの渡り廊下を歩く娘の姿が……」
「一体何を聞かされてんのかな?」
「つい気になって目で追っていると、部屋の障子をあけるんだ。そして、長~い舌で行燈の油をぺろ……ぺろ……とおいしそうに…」
「流れ変わったね」
「すると、突然ものすごい勢いでこっちに振り向いて『み~た~な~?』、その目はもうにゃんこの目……ね?」
「いや、なにが『……ね?』なの」
「そういうことだよ」
「だからどういうことなの」
「だから……猫?」
「なんでそれで納得すると思ったの?」
「え~と? ……あ、おーい斉木」
「ん、どした~?」
…………
「あ~、江戸のお屋敷に行燈の油ね、うんうん、なるほどなるほど」
「納得しないで。こっち見ながら二人して頷かないで」
「「……ね?」」
「やかましいわ、え? なに、それ流行ってんの?」
「芹川今度うちの猫見に来なよ、仲良くなれるよ。ついでに冨野もきていいよ」
「ついでは余計な」
「なんか納得いかないな、まあ前から行こうとは言ってたけど」




