10.バイオリン
「今日は来てくれてありがとね」
「なんかすごくて何弾いてるかわからんけどなんかすごかったよ」
「あはは、ありがとう」
「あとその衣装?のワンピースもすごくいいと思う。なんか髪型とかもいつもと違うし。てかそっちしか見てなかったわ」
「まあ、一応普段着枠かな。あとハーフアップ。んでちょっとは聴けよ」
「普段制服とかしか見ないから、なんかすごく新鮮に感じたし、なんか本当に綺麗だったよ」
「『なんか』ばっかで語彙力崩壊してるよ」
「この後どうする?」
「普通なら先生や他の人達と打ち上げ行くんだけど……」
「一緒にどっかいく?」
「……うん、お母さんにバイオリン持って帰ってもらうわ」
……
「わ~もう外は真っ暗だね、どうする? サイゼでも行こっか?」
「ちょっといい店に行こうよ、僕が出すからさ」
「え? そんな悪いよ」
「いいのいいの、今日はそのつもりで貯めてきたから出させてよ」
「……そっか、ありがとう。その唯一持ってるって言ってたジャケット着てるのも久しぶりに見た気がするな」
「まあ実際久しぶりに着たよ」
「付き合い始めの1週間だけ感じた彼氏っぽさがあってちょっと感動してるよ」
「あ、あはは……」
「えへへへ」
「わっ、腕組むのって何気に初めてだね。てかめっちゃ周りに見られてるけど」
「もう暗いから大丈夫だよ」
……
「おいしいね、君がこんな良いお店知ってるなんて正直ちょっと意外」
「うん、まあね」
「わざわざ探してくれたんだね」
「まあ、いろいろね……、あれ? 演奏した曲なんてったっけ」
「何度も言ったでしょ、ヴィニアフスキーの『伝説曲』だよ。渡したプログラムにも書いてるし」
「あ、そうだった、伝説だから『エーペックスレジェンズ』で覚えようと思ってたんだけど結局それも忘れてたよ」
「まあいいよそれで。思考がゲームに支配されてる気がするけど」
「そういえばさ……」
「なにかな、チュートリアルでもらった音楽スキルに振るべき育成素材を煩悩に全振りしてしまった冨野周君」
「え? もしかしてさっきの感想根に持ってる?」
「冗談だよ。聞きに来てくれる人はみんなそんな感じの感想くれるよ」
「てかその言い方、芹川さんだってしっかりゲームに浸食されてんじゃん」
「それは君の部屋にゲームが多すぎるせいだよ」
「いや一人で勝手に次から次からハマっていったでしょ」
「あれ~? そうだったかな~」
「……しかも人のベッド占領して」
「私がゲームやってるといっつも横で髪いじったりして遊んでたよね。勉強でもしてればいいのに」
「だって女の子の長い髪ってさらさらしてて触ってて気持ちいいもん、ダメだった?」
「別に。イヤではないけど」
「……付き合う前はバイオリンやめるかもって言ってたけど、いい感じに続いてるよね」
「うん、あの頃は結構いろいろ悩んでたからね。弾いててもあんまり楽しいって思えなかったんだ」
「じゃあ今前向きになれてるのは全部僕のおかげだね」
「あはは、そこは私に言わせるとこでしょ」
「でも楽しく弾いてるのは見ててよくわかったし、僕もいろいろ初めての体験で新たななにかが芽生える気がしたよ」
「音楽に関心が芽生えたのは素晴らしい……といいたいところだけど、どうせ芽生えたのは性癖でしょ?」
「うわ、バレてる」
「当たり前でしょ、君は全てを性癖に変換して消費するモンスターじゃん」
「その恰好の芹川さんに罵倒されるのも新鮮でいいなあ……」
「もう救いようがないね」




