1.人形
「1年C組、冨野周くん、放課後にコソコソとなにをしてるのかな」
「うわっ……、ああ芹川さんか。もう友達はみんな帰ったの?」
「うん、私を待ってる間さみしくなかったかな?」
「僕は幼児かよ。地味に友達多いマウント取ってきてるし」
「あはは、ノートなんか開いて珍しく勉強でもしてるのかな?」
「暇だったからちょっとエッな小説を書いてたんだ」
「また学校でバカなことやってるね~。ホント君ってエッチなことならなんでも好きだよね」
「うん、芹川さんと付き合うまでがんばって隠し通してきた反動が出たんだと思うよ」
「いや全然隠せてなかったからね。あとさわやかな笑顔で言うな」
「彼女にはいつも良い笑顔見せたいじゃん」
「あ~あ、今更だけど変な奴を彼氏にしちゃったなぁ」
「我ながら大物の予感がしてるよ」
「口が減らないね。でも隠そうって努力してくれてたのは一応認めたげる。それで? どんなの書いてるの?」
「え、そこ聞くんだ?」
「だって危険物は目の届くところで責任持って管理しとかないと大変じゃん?」
「……僕って芹川さんのなんなの?」
「大切な彼氏だよ?」
「…………なんだよそれ」
「さあさあ、ニヤついてないで早く見せてみなさい」
「えっと、主人公は僕の分身である腐野臭」
「うん、名前が終わってるね」
「悪の組織の科学者だからね」
「かなりヤバいの発明してそうだね」
「あ。そうだ。いいこと思いついたよ。ヒロインの名前、芹川美月なんてどうかな?」
「いや、それのどこに『いい』要素があると思ったの?」
「悪の組織と戦う謎の魔法少女ミツキ。でも、組織の科学者腐野に怪しげな機械で手下にされちゃうんだ。でも今までの正義の味方の重圧から解放されて、とっても楽しそうに悪いことをいっぱいするんだよ」
「うん、やっぱ付き合う相手間違えてたみたいだね。今までありがとうございました。ばいば~い」
「ちょ、ちょっと待ってよ、帰らないで!」
「実は昨日ラブレターもらったんだけど、まだ返事してないからちょうどよかったよ」
「いやいやいやいや、マジで怖いこと言わないでって。機械は電池切れでヒロインは元に戻って、しかもそれをきっかけに覚醒して、腐野は無事退治されちゃうんだよ!」
「あはは、頭悪い設定だね。てかなんで私の名前使いたいの?」
「だってさ、そうじゃないとヒロインがかわいそうじゃん」
「はい?」
「だってさ、実在しないキャラをひどい目にあわせるのってかわいそうだと思わない?」
「えっとさ、実在するのに名前使われそうな私のことはかわいそうだと思わない?」
「架空のキャラはかわいそうなことがあるとそれが人生の全てで、かわいそうな運命しかないんだよ? ところがどっこい、本物の芹川さんは現実で僕と健全な付き合いをしてるから何の問題もないんだ、やったぜ」
「ちょっと言ってる意味がわかんないなぁ……。ま、いつものことだけど」
「例えば、アニメとか漫画で死んじゃったキャラのことをかわいそうと感じたりしない?」
「うん、それはわかるよ。好きなキャラが死んじゃうと悲しいし、本気で泣いたりするよね」
「でもさ、あるアニメに職業が俳優のキャラがいるとするよ。そのキャラが作中のドラマで死ぬ役をしても、アニメ内ではそのキャラは生きてるから、かわいそうだと思わないよね?」
「えっと、つまり何かな? ヒロインを私にすることによって、君の頭悪い小説のヒロインは劇中劇のキャラみたいなものでかわいそうでなくなって、同時にかわいそうな架空のキャラを生み出さないで済む平和的な方法だとでも?」
「そうそう! さっすが頭いい!」
「……まったく、よくそんな屁理屈思いつくね。だいたい君との付き合いはめちゃくちゃ不健全だし。君の小説以前に現実の私が悪堕ちさせられてる気分だよ」
「不健全ってもしかして昨日の件? やりすぎたなら謝るよ」
「うわやっぱこいつ変態だなって改めて思ったよ。てか学校でその話やめようか」
「だがしかしまんざらでもなかった」
「こら、めっ!」
「小さい頃可愛がってた人形、いらなくなったからってごみ箱に捨てるの後ろめたいでしょ?」
「まだ続くんだ、君の変態哲学。そりゃあ愛着があったら人形供養とかに出したりするけど……、でもそれがなんなの?」
「大切に扱われてきた人形は人間の役割を与えられた不完全な人間なんだよ」
「不完全な人間?」
「うん、お話の登場人物も人形も、ホントは人間じゃないのに人間のフリをさせられて役割を与えられてるんだよ。その関係が長く続くと、持ち主はやがて本物の人間と重ね合わせる。それってもうそこに『いる』ってことなんだよ。だから、持ち主は人形をごみに出せない。同じようにかわいそうなキャラは小説でも作りたくない」
「あ~なるほどね…………じゃなくって。そんなの君の勝手な都合でしょ。私の意思や立場は完全に無視してんじゃん」
「一瞬でも納得してくれる芹川さんのこと嫌いじゃないよ」
「ん? 誰に言ってるのかな? そういう時は愛してると言いなさい」
「え、えぇ……? えっと……僕は芹川美月さんを愛しています」
「ぎこちないなあ、半笑いだし。……まあ、よろしい」
「やった、名前使っていいんだ」
「いいのはそこじゃないよ。てか、どうせ私にマウント取りたくて屁理屈こね回してるだけで使う気ないんでしょ」
「バレてたか……。本当に使ってこのノート誰かに見られたら僕の立場も危うい」
「あはは、そこちゃんと小心者なのかわいいね」
「……ところでラブレターってマジ? まだ返事してないとか嘘だよね?」
「うん、嘘。私達が付き合い始めてからは1回ももらったことないよ」
「はあ……」
「ごめんごめん、そんな気になってたんだ」
「まあ有名だもんね。最初の頃すごい話題になって『何であいつと? 釣り合わない』って言われまくったもん」
「まだそれ気にしてるんだ。私は一度もそんなこと思ったないよ」
「別に、知ってるし……」
「さ、バカなことやってないで早く帰ろ」




