第五章:泥濘の祈祷 [第六十二話]静かなる誓い
(視点:新井 恭二)
キィィィィィィィィィィィィィィンッッッ!!!!!!
脳髄を直接破壊するような超高周波が鳴り響く中、
反撃の蹂躙は、あまりにも一方的だった。
「オラァァァッ!!」
正人が咆哮と共に鉄パイプを振り下ろし、
耳を押さえてうずくまる狩人の頭部を兜割りで粉砕する。
小林先生は一切の無駄がない動きで警棒を振るい、
狂乱して振り回されるマチェットを潜り抜けると、
狩人の両膝の関節を的確に打ち砕いて地に這わせた。
そこへ、
陣内さんの長槍が死神の鎌のように襲いかかる。
「シィッ!」
鋭い呼気と共に放たれた刺突が、狩人の頸椎を正確に断ち切り、
トドメとばかりに、顎下に押し当てられた散弾銃が火を噴く。
ズドンッ! という轟音と共に、バケモノの頭部がスイカのように弾け飛んだ。
統率と平衡感覚を失った彼らは、もはや暗殺部隊でもなんでもない。
ただの、的の大きな肉の塊だった。
「……ふぅ。終わりっスね」
最後の狩人の頭部が粉砕され、床に崩れ落ちた瞬間。
プツンッ、と。
スピーカーから鳴り響いていた高周波のモスキート音が鳴り止んだ。
ロビーに、不気味なほどの静寂が訪れる。
耳鳴りだけがキーンと残る中、
床には機能停止して異常な熱を放つ狩人たちの死体が転がり、
むせ返るような死臭と、視界が白むほどの蒸気が立ち込めていた。
「……恭二! みんな!」
廊下の奥から、足音が近づいてくる。
情報分析室から駆けつけてきた、暦と康二だった。
「暦、康二。ナイスタイミングだったぞ」
俺が砕けた右腕を押さえながら言うと、
康二は安堵からか、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「とりあえず、全員急いで医療スペースへ戻ろう。
山口一曹の状態も確認しなきゃならねぇ」
小林先生の言葉に頷き、
俺たち生き残ったメンバー全員は、
破壊された鉄扉の奥――仮設医療スペースへと足を踏み入れた。
「……先生。班長は」
陣内さんが、血まみれの部屋の隅に横たわる山口一曹の傍らにしゃがみ込む。
「一命は取り留めました。
内臓の損傷が激しいですが……止血は間に合っています」
稲美先生が、疲れ切った顔でそう告げた。
傍らでは、奈々が涙ぐみながら山口一曹の包帯を強く握りしめている。
「……無茶しすぎっスよ、アンタは。
でも、さすが俺の班長だ」
陣内さんは、いつもの飄々とした態度に戻りながらも、
深く安堵したように息を吐いた。
だが、
戦いの傷痕が色濃く残るその部屋の中で、
暦だけが、呆然としたように手術台の前に立ち尽くしていた。
「……これ」
暦の視線の先。
そこには、深い昏睡状態のまま横たわる、沙耶の姿があった。
彼女の全身に刻まれた凄惨な裂傷から、
シュー、と微かな『白い湯気』が立ち上っている。
そして、むき出しになった筋肉の繊維が、
まるで自らの意志を持っているかのように蠢き、ゆっくりと傷口を塞いでいたのだ。
「すげぇ……。治って、いく……」
正人が信じられないものを見る目で呟く。
だが、暦の表情は違った。
彼女の目は、沙耶の傷口から上がる『湯気』をじっと見つめ、
やがて、廊下に転がる狩人たちの死体から立ち上る『異常な蒸気』へと視線を向けた。
(……同じ……?)
暦の唇が、音もなく動く。
(細胞が限界を超えて稼働する時の、熱暴走……。
あのバケモノたちと、沙耶の自己修復機能は……根源が同じ……?)
そこまで思考を巡らせた暦は、
ハッと我に返り、強く首を振った。
(いや、気のせいだ……。ただの考えすぎよ。
沙耶は……私たちを救ってくれたんだから)
暦は自らの疑念を振り払うように、
両手で自分の頬をパチンと叩いた。
俺は、手術台の傍らに歩み寄り、
沙耶の冷たい左手を、そっと握りしめた。
彼女の顔は蝋人形のように蒼白で、まだ目覚める気配は全くない。
だが、
この小さな体の中で、彼女は今も必死に命を繋ぎ、戦い続けている。
「……ゆっくり休め、沙耶」
お前が戦い続けているなら、俺たちも絶対に折れない。
お前が目覚めるその日まで、
何があっても、俺たちがこの場所を死守してやる。
血の匂いと、微かな湯気が立ち込める密室で。
俺たちは、静かに、だが確かな決意を胸に刻み込んだ。




