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REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
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第四章:硝煙の糧 [第五十三話] 硝煙の糧


 グランド・アークの大爆発から、八時間が経過した。

 湿り気を帯びた朝靄あさもやが、藤沢市役所のロビーに冷たく立ち込めている。

 東の空が白み始め、夜明けの光が差し込むのと同時に、

 建物内にはどす黒い沈黙と、それを上回るほどの「殺気」が充満していた。


「……これだけか。命懸けで行って、手に入れたのはこれっぽっちかよ」


 竹本が、ロビーの中央に置かれた数少ない食糧の山を、つま先で乱暴に突いた。

 恭二たちが命からがら持ち帰った十トントラックの荷台。

 しかし、途中で脱出を余儀なくされたため、実際に積み込めたのは半分にも満たない量だった。

 飢えに狂った避難民たちは、その「少なさ」に絶望し、怒りの矛先を恭二たちへと向けていた。


 恭二は、床に膝をつき、血の滲んだ拳を固く握り締めたまま動かなかった。

 彼の瞳からは光が消え、視線はただ一点、仲間を置いてきたあの方角だけを見つめている。

 正人は壁を拳で殴りつけ、その場に崩れ落ちて号泣し続けていた。

 康二は、壊れた機械のように、震える手で何度も眼鏡を拭い直していた。


「新井。……あの子を、一人で見捨ててきた。……それは、軍事用語で言えば『遺棄』だ」


 黒田一尉が、冷徹な声で追い打ちをかける。

 彼は、絶望に沈む恭二の肩を、見下すようにして強く踏み付けた。

 奈々や暦、小林先生は、彼らを庇うように前に立とうとしたが、

 周囲を取り囲む数百人の「空腹という名の暴徒」の圧力に、言葉を失っていた。


 その時だった。


 地響きのような、重厚な地鳴りが地平線の彼方から響いてきた。

 それは、高機動車の軽快な音でも、十トントラックの唸りでもない。

 数十トンの質量が、アスファルトを力任せに削りながら進む、圧倒的な重低音だった。


「……なんだ。……レヴァナントの群れか?」


 誰かが怯えた声を上げ、窓際に駆け寄る。

 霧の向こう側から姿を現したのは、化け物ではなく、一台の「鋼鉄の巨体」だった。

 車体は爆発の熱で塗装が焼け落ち、フロントガラスには無数のクモの巣状の亀裂が走っている。

 至る所がひしゃげ、火を噴きながらも、その二十五トントラックは、

 市役所の正面ゲートを強引に突き破って進入してきた。


 キィィィィィィィィッ!


 鼓膜を裂くようなブレーキ音が響き、トラックがロビーの目の前で急停止した。

 凄まじい熱気が、開いた窓から室内へと流れ込む。

 恭二は、弾かれたように顔を上げ、震える足でトラックへと歩み寄った。


「……沙、耶……?」


 バキン、という金属音が鳴り、歪んだ運転席のドアが力任せに蹴り開けられた。

 そこから転げ落ちるように降りてきたのは。

 血塗れの制服を纏い、左肩を貫通した傷口を布切れで固く縛った、沙耶だった。

 彼女の肌は煤で黒ずみ、顔の半分は乾いた血で覆われていたが、

 その瞳だけは、依然として冷徹なまでの光を失っていなかった。


 沙耶は、ふらつく足取りで恭二の前に立つと。

 血に染まった鍵を、彼の胸元へと無造作に投げ渡した。


「……遅れた。……積み込みに、少し手間取った」


 彼女は、喉の奥から絞り出すような声で、微かに口元を歪めた。

 恭二が震える手でトラックのリアゲートを開放した、その瞬間。

 ロビーにいた全員が、その光景に息を呑んだ。


 二十五トンの荷台に、天井まで隙間なく詰め込まれた「糧」。

 米の袋、大量の缶詰、ミネラルウォーター、乾パン、そして肉の加工品。

 それは、市役所にいる全員を数ヶ月間は支えることができる、文字通りの「希望の山」だった。

 沙耶は、大爆発の瞬間にこれだけの物資を一人で積み込み、

 崩壊する建物の中から、死の淵を走り抜けて帰還したのだ。


「……ミッション、完了だ。……恭二。……これで、文句はないな」


 沙耶はそう呟くと、糸が切れたように恭二の胸の中へと倒れ込んだ。

 恭二は、彼女の傷だらけの体を、壊れ物を扱うように強く、強く抱きしめた。

「ああ……ああ! おかえり、沙耶! おかえり!」

 恭二の絶叫が、夜明けの空に響き渡る。


 竹本も、黒田も、そして飢えた避難民たちも。

 圧倒的な物資の量と、それを届けてみせた一人の少女の執念の前に、

 ただ言葉を失って立ち尽くしていた。

 奈々と桜が、涙を流しながら救急箱を抱えて駆け寄る。


 硝煙の匂いと、朝露の匂い。

 そして、今、この場所で確かに繋がれた「命」の匂い。

 湘南の廃墟に、初めて本当の意味での「朝日」が差し込んだ。


 第四章:硝煙の糧 ――完。

第四章『硝煙の糧』完結までお付き合いいただき、感謝いたします。狐目の仮面です。

私のつたない物語をここまで追ってくださる方がどれほどいらっしゃるのか、

仮面の裏でいつもドキドキしています。


正直、最初の方から今に至るまで、自分でも読みづらい部分が多々あるとは自覚しております。

厳しい意見や、「もっとこうしてほしい」といった愛のあるご指導、大歓迎です。


もちろん、本音を言えば「面白かった」と褒めていただけると、

単純なので心の底から「書いてよかった!」と舞い上がります(笑)。

そこまでの作品になっているかは自信がありませんが、皆様からの激励の一つ一つが、

私が次の章を書く何よりの動力源になります。ぜひ、少しでも感想をいただけると嬉しいです。


次は、物語も盛り上がりキャラクターも増えてきましたので、

一度「キャラクター紹介」を挟みたいと思います。

これからも、彼らの過酷な生き様を見守っていただければ幸いです。


引き続き、本作『REVENANT: SHONAN ZERO』をよろしくお願いいたします!

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