表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分と世界を救うには  作者: あるつま
第1章 目覚める記憶
9/83

9話 割と楽しい勉強

冒険者登録を終え、見習い冒険者研修を受け始めてから二週間が経った。ギルド内にある小さな教室で自分より一回りや二回り年下の少年少女と一緒に研修を受けるのは少し恥ずかしかったが、すぐ慣れた。今日は研修の卒業試験を受ける。この研修は冒険者として基本の知識ばかりを学習する研修なので、卒業するまでは依頼を受けさせてもらえないのだ。結構分量があったのだが、これ落ちる人結構いるんじゃないだろうか。

 試験時間とかは特にないらしい。試験用紙を受け取り、受付の近くの備え付けの机で試験を解く。


 第一問 六大国の国名を挙げよ

 始まりのファリス王国、獣人のセツナ連合国、信仰のサーディ教国、歴史のヨンド王国、機械のゴヴィルム帝国、魔術のロードル王国。他にも小さいドワーフの島国だの蛮族たちの島だのがあるらしいが、六大国は最初の六つだ。解答欄をうめる。


 第二問 魔術の属性を十種類答え、それぞれの特徴について述べよ。

火。攻撃性に優れるが汎用性に欠ける。火属性を主軸に据える魔術師は他の属性を修めるなり武器の扱いを習得するなど工夫が必要。

氷。戦闘に利用する場合、水辺以外では土属性の下位互換となりがち。生活にはものを冷やす手段としての唯一性を持つため役立つ。

土。攻守ともに補助として優秀で、自らの魔力で土を生み出さなくても操る対象がすぐ近くにある場合が多いので燃費がよい。

風。下位の魔術では目くらましか矢の飛距離を伸ばす程度しかできないが、上位魔術では風を用いた不可視の刃を飛ばせるようになり、これが一対一における六大属性最強の攻撃手段と言われている。

水。下級魔術で水を生み出せるため、人々の飲料水として利用されることが多く、これを副業とする商人もいる。また中級魔術で味方の傷をいやせる液体を生成できるため、そこまで希少ではない回復手段として需要が高い。さらに水辺では攻撃としても非常に有効な魔術である。

無。他の五つの属性に収まらないが使い手の多い魔術に便宜上設けられた属性。適正というものが存在しないため、魔術そのものを扱う才能を持っているなら訓練さえすれば大抵の場合は扱えるようになる。半透明の壁を作る「ウォール」、魔力の球を飛ばす「ショット」、魔力を放出して敵を押し返す「フォース」、などがある。単純だが戦闘に役立つ魔術ばかりなので、戦闘職に就く者が補助として扱えるよう訓練することが多い。

闇。光を奪いあたりを暗くする魔術、精神に干渉する魔術、アンデッドを生み出し使役する魔術の三種類を指す。いずれも強力な魔術だが、その性質上一般的なイメージが最悪であることから、たとえ自分にその才能があったとしても使おうとするものが少なく、研究もあまり進んでいない。特に精神に干渉する魔術は国際条約によって仕様を固く禁止されており、またアンデッドの作成、使役もほとんどの国で法律によって禁止されている。

光。光を操る魔術。光を集めて熱線として攻撃したり、単に光を放って目つぶしをすることもできる。光にはまだまだ別の使い道があると考えられており研究が待たれる。光属性には治癒の力があり、水属性の治癒魔術に比べて広範囲を癒せるためやはり軍属に多い。また国によっては見た目の派手さと神聖なイメージから騎士の条件として光属性魔術が使えることを掲げる国もある。

聖。瘴気を払う魔術。使い手は浄化院に集中している。今のところ瘴気に対抗する唯一の手段。これを魔術として定義するべきかどうかは議論が分かれる。

固有。上記の9つのいずれにも当てはまらず、使い手の極端に少ない属性のこと。

 

解答欄が狭すぎる。適当に短くして収めた。


 第三問 魔術の発動方法を三種類挙げよ

 詠唱を行う方法、事前に描いた魔法陣に魔力を込め、空中に投影して発動する方法、魔道具に魔力を込める方法。いずれも生まれ持った適性のある属性の魔術以外だと魔力の効率が下がる。魔道具に魔力を込める方法は魔術の才能がないものでも可能な場合が多い。


 第四問 浄化院について説明せよ

 浄化院とは、瘴気根絶と瘴気から人々を守るという目的を持つ組織である。市民は5歳になると浄化院による適性検査を受け、そこで聖属性の適性ありとされた場合浄化院に所属し世界の安寧のために尽くすことになっている。浄化院では聖属性を神によって与えられた奇跡としてあがめており、聖属性の力を持たないがこの教義のもとに浄化院に所属するという者も多くいる。


 第五問 瘴気について説明せよ

 瘴気とは今から約100年前、落日の日と呼ばれる勇者と女神がこの世界に降り立った邪神と戦い、これと刺し違えた日から爆発的に増えた謎の存在。そもそも通常の状態の瘴気は目にすら映らず、ごく一部の聖属性の使い手がこれを視認できるとされている。また浄化院では瘴気を視認できる者を聖者または聖女と呼び尊い存在としている。

 魔物の発生源と言われており、これは過去の浄化院の調べによりほぼ間違いないとされている。そのため瘴気の濃い空間では魔物の発生が増えるとされている。

 濃い瘴気が与える影響は多岐にわたり、人間が濃い瘴気に晒されると体調不良に始まり、長時間では精神に異常をきたし、さらに長時間晒されると完全に自我を失い凶暴化して暴れだす。この状態になってしまった人間は「幽鬼」と呼ばれ、聖属性をもってしても元に戻すことはできなくなる。幽鬼は魔物の特徴である赤い瞳を持ち、魔物の一種として定義されている。

 ほかにも濃い瘴気の中だと魔術の行使が難しくなるといった報告が多数寄せられており、魔術と瘴気の関係性なども研究が進められている。


 第六問 魔物について説明せよ

 瘴気によって発生すると言われている謎の生命体の総称。共通の特徴としては赤い目の他、通常の生物では考えられない生命力がある。心臓はなく、肉体のどこかにある結晶、通称「魔石」が急所であり、これを破壊するまたは肉体から引きはがさない限りなかなか殺すことはできないことが挙げられる。

 外見や特徴は様々だが、通常の生物と同じような繁殖はしないとされており、また魔物によっては人間が使う魔術に近いものを行使するものもいる。

 飲食は必要ないが睡眠はとり、また瘴気から隔絶された空間に長期間いると徐々に弱ってくることも分かっている。

 魔物の素材や肉は通常の生物と同様に食べたり加工して利用したりできるが、いずれも瘴気の影響を受けているため、聖属性による浄化を受けたもの以外の利用は禁止されていることがほとんどである。


 



「ショウさん?ずいぶんかかっていらっしゃるようですが……って、すごい量をお書きになってますね!」


 最後まで解き終わったところ、エマさんに声をかけられた。やっぱり書きすぎだったか。文字がかなり小さくなってしまった。


「今ちょうど解き終わったところです。やっぱり書きすぎですかね?」

「あ、お預かりします。いえ、たくさん書かれるのは結構なんですが、この研修を受ける方でこんなに長い文章を書いている方を初めて見たので。ショウさん、暗記がお得意なんですね」


 まあそうか。あの講習を受けないといけないような人間で勉強が好きとか得意とかという者はそうそういないだろう。だが俺は勉強は苦手じゃないし、これは今後必要な知識だと思えば頑張れた。なによりファンタジーな設定資料集を読んでるみたいで楽しかったし。





「ショウさん、採点が終わりました。ショウさんの回答はいずれも完璧。文句なしの合格です!やりましたね!これで以来の受注ができるようになりますよ!」

「ありがとうございます、エマさん。じゃあ俺は早速依頼を探してきます」


 エマさんから合格を告げられる。俺は早速、依頼の張り出された掲示板に歩み寄り今日の内容を確認した。

 たいていは魔物の討伐依頼やら町の外にしか生息していない薬草や鉱物の採取の依頼だ。時折商隊の護衛なんかもある。緊急性の高い依頼ほど目立つ位置に張り出されており、地方の村の付近にできたゴブリンの巣のせん滅の依頼などがあった。


「ショウさん!試験は終わったんですね?」


 事前に待ち合わせをしていたハルカに声をかけられた。登録試験を受けて以降、ハルカは毎回会った直後は尻尾を振っている。たぶん無意識なのだろう、かわいいので指摘しないようにしている。ハルカは年下だが冒険者としては先輩なので、しばらく依頼に同行してもらうことになっているのだ。


「ああ。今何の依頼を受けようか悩んでるんだ。おすすめはないか?」

「おすすめですか……あっ!村の近くにゴブリンの巣!?なんですこの依頼!急がないと犠牲者が出るかもしれません!ショウさん、これにしましょう!ショウさんの実力ならゴブリンなんてちょちょいのちょいです!」

「いきなり討伐依頼か?まあいいけど……。」

「じゃあ決まりですね!そうだ、手続きの仕方を教えてあげますから一緒に受付に行きましょう!」


 初対面のときよりずいぶん明るくなったな。あの時は俺のテンションが高すぎて引いていただけで、こっちが素なのかもしれない。

 意気込んで受付に向かうハルカの手を引かれながら、俺はそんなことを思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ