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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第4章 昇級試験と地下の陰謀
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79話 本部長の悪戯

「こちらがギルド長の執務室です」


要塞のようなギルド本部の最上階。

受付のお姉さんは両開きの扉の前で立ち止まった。


「すみませんが、武器と荷物を預からせていただきます」

「はい、どうぞ」


さすがに危険への警戒が強い。

ギルドの最重要人物のいる部屋に入るのだから当然か。


「ギルド長からの指示で、一人ずつ入ってくるようにとのことです。ショウさんからどうぞ」

「はあ」


なんで一人ずつ?

まあいいか。特に危険も感じないので、素直に一人で執務室に入る。




窓、といってもガラス張りではない、木製の扉を開け閉めするタイプの窓だが、その窓の縁にもたれかかるようにして立つ、黒い長髪が特徴的な女性が目に入る。

身長が高い。多分180センチはある。冒険者のトップという肩書の割に細身だ。もっとガタイのいい人物を想像していた。


女性がこちらに向き直った。


「やあ。初めまして。私が冒険者ギルド本部長、アレンだ」


アレンさんが近づいてくる。ひとまずこちらも名乗ろう。


「初めまして、銅級冒険者のショウ……え?」


何かを手渡される。


黒い球体、伸びた紐の先端はバチバチと爆ぜるように燃え、燃えた紐はみるみる短くなっていく。




………………爆弾?




アレンさんを見る。

こちらを見たままその場を動かない。脅威も悪意も感じない。


爆弾を見る。

不思議なことに、何の脅威も感じない。


視覚から入ってくる情報とは裏腹に、第六感は現在の状況の安全を伝えてくる。


渡された爆弾の意図も、この状況の意味も全くわからないが、ひとまず導火線を掴み、力任せに引きちぎった。

火元を失い、ただの球体と化したそれを、俺はアレンさんに手渡した。



「面白い」

「はい?」

「面白いと言ったのさ。私は興味のある人間によくこれをやるんだが、君のような反応をした人間は初めてだ」

「よくやってるんですかこんなこと」


楽しそうに話すアレンさんに思わず呆れた声が出る。


「悪く思わないでくれ。ちょっとした性格診断のようなものだ。唐突な窮地に陥った人間の反応は、その者の性質をよく表すんだよ」

「はあ。俺の反応は珍しかったってことですか?」

「ああ。唐突に火のついた爆弾を渡された人間が取る行動は大きく三つ。部屋から逃げる。爆弾の火を消そうとする。慌てるだけで何もしない。しかしこの三つのどれを取るにしても、共通項がある。それは必死になるということさ。生命の危機が目の前にあると感じたら、誰でも反射的に焦るものだ。だが君は違った。君、この状況で全く焦ってなかっただろう?」

「それは、まあ」


よく見てるな。

確かに第六感が大丈夫と言うからには大丈夫だろうと思ったが。


「この爆弾が不発になるように作ってあることに気づいていた?」

「いえ、そういうわけじゃ。ただ危険な状況じゃないとは思いましたが」

「ふむ、具体的根拠はなかったわけだ。それなのに危険でないと判断した。判断基準は奇妙だが、特技の『危険の察知』は嘘ではないらしい」


危険の察知。それは俺が冒険者になった際、書類に特技として記入した内容だ。

アレンさんの立場上、知っていてもおかしくないな。


「興味が尽きないが、これ以上待たせると二人に悪い。ショウ君、そこに座っていてくれ。次はハルカ君を呼ぼう」







「初めまして。冒険者ギルド本部長、アレンだ」

「は、初めまして!銅級冒険者のハルカで……へ?え!?え!!??」


爆弾を渡されてワタワタするハルカ。


「えい!」


しかしすぐさま気を持ち直し、アレンさんが最初にもたれかかっていた窓へ爆弾を投げ、外に放りだした。


「ふーむ、これもなかなか珍しい。火を消そうとするタイプに近いが、観察力のあるタイプだね」







「初めまして。冒険者ギルド本部長、アレンだ」

「初めまして。新米鉄級冒険者のマリアちゃん……え?ちょ、なにこれ!?」


手渡された爆弾を落としかけるマリア。

相当慌てている。


「えっと、えっと……ショウ、よろしく!」

「おい!」


何を思ったのか、俺に向かって投げてきた。

とりあえず導火線を切る。

その様子を見ていたアレンさんは声を上げて笑った。


「あ―――っはっはっは!!そう来たか!!し、信頼されてるねえショウ君!くくく……ひひひ……」


こいつ……。

少し腹が立ったので、導火線の切れた爆弾をやや球威強めに投げつけた。


「おふっ!いい球投げるね!」







「性格診断ん?」

「びっくりしました……」


事情を聞いた二人が落ち着く。

アレンさんはご満悦といった表情だ。


「いやー、なかなかいいものが見られたよ。やっぱりこのいたず……性格診断は興味深いね」


今いたずらって言いかけてたな。


「アレン本部長、済みましたかな?」


部屋の入り口から、筋骨隆々の大男が入ってくる。

ギルド副本部長のドドムさんだ。


「やあドドム。君の言う通りだったよ。実に興味深い3人組だ」

「そうでしょう。さらにショウ君、ハルカ君は戦闘能力も折り紙つきですぞ」

「百年祭の予選突破者と優勝者だ。弱いはずがない。ショウはあのグレタ君と正面から打ち合ったと聞いたけど、本当かい?」

「ええまあ」

「うーん、人外。でも、興味が湧くね。ちょっと手合わせしてもらいたいな」

「本部長、お戯れはほどほどに。今は厄介な問題が山積みなのですから」


若干話の流れがおかしくなったところにドドムさんのフォローが入る。

なんだ、アレンさん案外武闘派?




「厄介な問題ってなんです?」

「うん、私が先日ちょっとした……体調不良に陥っていたことは知っているね?」


アレンさんの体調不良。

百年祭中にドドムさんが棄権することになった原因だ。


「確か、寝たきりになって目を覚まさなくなったとかいう?」

「そう、それだ。その時に、私が肌身離さず持っていたあるものを盗まれてしまったんだ」


盗まれた、か。

ギルド本部長に害を加えてまで奪いたかったとなると、それ相応の価値があるものなのだろう。


「それは何なんです?」

「……ドドム、どう思う?」

「彼らになら話してしまってもよいかと。そもそも、選ぶ余地がありませぬ」

「そうだね。では話そう。三人とも、私たちのいるこの大陸から死の大陸に行く方法がどうなっているか、聞いたことはあるかい?」


死の大陸への行き方。

言われてみれば聞いたことがない。

ハルカが口を開く。


「噂くらいなら。大船団を率いて向かうとか、海の底にトンネルが掘られていてそこを通るとか、すごいのになると、巨大なパチンコで打ち出してるんじゃないかとかっていうのも聞いたことがありますね」

「昔なら船団を率いていたっていうのが正解だけど、今は違うね。じゃあ、白金級冒険者の片割れ、『遠出』のナーシャは?」


これも初めて聞く名前だ。

そうか、白金級冒険者はヴォイドの他にもう一人いた。どこかで少し話に聞いた覚えがあるな。


「確か、転移の魔術を使えるっていう魔術師よね」

「そう。彼女は戦闘を好まないが、唯一無二の人材として、白金級冒険者として冒険者で最高の地位を与えられている。で、さっきの話に戻るけど、このギルド本部の地下には彼女が描いた死の大陸への転移魔術の魔法陣がある。それを通して、我々は人材や物資をあちらへ送っているわけだ」

「なるほど、初めて聞きました。それが盗まれたものと関係があるんですね」

「そういうこと。私はその魔法陣を起動させる鍵となる魔道具を持っていた。それを盗まれたというわけさ」


落ち着いて言っているが、結構な大ごとだと思う。

死の大陸に人や物を送れなくなったら、冒険者の存在する意義が大きく損なわれるだろう。


「それって、今死の大陸にいる人たちは帰って来られるんですか?」


ハルカが俺の思ったものとは違う問題を口にする。

確かに、そこは重要なポイントだ。


「無理だね。追加の物資も送れず、今死の大陸は完全にこちらと遮断されている。食料やその他の物資は常に多めに備蓄してあるし、その気になれば魔物の肉を浄化して食べれば食糧には困らない……が、加えて大きな問題がある」


まだあるのか。

俺もハルカも首をかしげるなか、口を開いたのはマリアだった。




「浄化院、でしょ?」

「……その通り。この件を公に出来ないことは言うまでもない。しかし、浄化院の介入がある。死の大陸の浄化師はひと月ごとに交代する。そして次の交代は一週間後だ。その時浄化師が帰って来られなければ、この不祥事が浄化院によって世界に公表されるだろう。そうなればギルドの面目は丸つぶれだ」


……そうか。浄化院と冒険者ギルドが裏では敵対的であることは有名だ。

相手方の不祥事を見逃すはずもない。

だが、ナーシャさんが書いた魔法陣が起動できないっていうだけなら、ナーシャさん本人がいれば解決しそうだ。


「ナーシャさんを呼ぶっていうのは?」

「ナーシャ本人も今、死の大陸にいる。あちら側の魔法陣の点検でね。半年に一度の最悪なタイミングに重なったということさ」


そんな不運があるのか?

窃盗の実行犯の意図がわからないが、何か裏がありそうに感じる。


「……さて、本題に入ろう。この件について、窃盗犯の足取りを掴む手がかりがある。君たちにはその手がかりを追い、盗まれた魔道具を取り戻してほしい」


真剣な面持ちでアレンさんが言う。

有無を言わさぬ圧力がその言葉にはあった。

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