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自分と世界を救うには  作者: あるつま
第3章 百年祭と白金級冒険者
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58話 邂逅する2匹の……

決勝トーナメント一回戦最終日。

ハクさんとキツネ忍者の試合を見るため俺たち三人はコロシアムに向かったが、席に着いてから飲み物を買ってくるのを忘れていたことに気が付き、俺は買い出しを引き受けて近くの屋台で買い物をしようとしていた。


「……ん?」


なんだか騒がしい。ハクさんか?

いや、コロシアムで試合が始まるまではもうそれほど時間がない。ここに彼女がいるとは考え辛いな。


人垣を全く眼中に入れていないかのように、その注目されていた誰かがこちらへ歩いてくる。

全身を覆う黒い装備、包帯で隠された右目、そして晒された蒼い左目。白金級冒険者の片割れ、ヴォイド・マキナだ。

なぜかこちらへ向かって歩いてくる。

そのまま俺の前まで来ると足を止めた。


「………何か用、か?」


俺よりランクは上だが、立場上明らかに目上というわけでもない。

どう接すればいいのかわかりかねる俺に対し、ヴォイドは言葉をかけた。


「普通に接すればいい」

「…………」


態度に出ていたか?

俺の困惑にそのまま答えるような発言に少し面食らう。


「ショウ。元気そうだな」

「元気、だが。えーと、俺たち、会ったことあったか?」


久しぶりに会う友人に対するかのような会話の切り出し。

相手と自分の、お互いへの距離感の違いのようなものが若干居心地悪い。


「そうか。よかった」

「俺になにか用事があるのか?」

「ある。ただ、その前にもう少し話をさせてくれ」

「…………まあいいが。何の話をするんだ?」



ぎこちない会話。かみ合わない会話。

ほとんど口数はないはずなのに、疲れる。


ヴォイドがパチンと指を鳴らす。


すると、突如真っ暗な……いや真っ黒な空間に移動していた。

先ほどまで目の前にあった人垣も、それ以外も一切が見当たらず、聞こえない。

ヴォイドが何かをしたことは明白だ。


「これで邪魔は入らない。話を続けよう」

「………」


こいつが何をしたのか、何をしたいのかもわからない。

今は何でもいいから情報が欲しい、そう思った俺は会話に応じることにした。


「ショウ。お前、いつここに来た?」

「いつ?いつって……百年祭が始まる少し前だ」

「違う」

「違う?」

「……いつ、テミスに来た?」

「!!!!」


とっさに後ずさる。

こいつは知っている。俺がこの世界、テミスの人間でないことを。

なぜ?どうして?

そしてなぜ今俺にそんなことを聞いた?


「あんた、一体……」

「ショウ。その様子だと、自分に起きたことを理解していないんだな」

「何故だ。なぜあんたがそんなことを?」

「ショウ。お前は不幸だ。いずれお前は同族にも、信頼する世界にも追われる身になるだろう。……女神の魂から得られる情報はほとんどなかった。ただそれでも感じる。お前の中に、女神の魂の一部が宿っているのを」

「なんだ。何の話だ?女神の魂から得られる情報…………?あんた、女神リオラになにかしたのか!?」

「したとも言えるし、されたとも言える。俺は奴の被害者だ。そしてショウ、お前も……」


次々に与えられる断片的情報。それらはしかしいずれも大きな衝撃で俺の頭を襲う。


「俺に女神の魂が宿ってるってどういうことだ?俺は勇者の魂から作られたんじゃなかったのか?」

「勇者の魂から……?そうか。そういうことだったのか。やはり俺は巻き込まれただけだった。俺は奴の都合と、くだらないミスですべてを奪われたのか。それならショウに埋め込まれた奴の魂にも説明がつく。楔だ。楔を打ったのか。別の世界で死しても、自らの手元に戻せるように……」


俺の言葉になにかを理解したらしいヴォイド。

なにを言っているのかはさっぱり理解できないが、何かに怒っているらしいことだけは理解できた。


「あんた、何を知っている。なぜ俺にこんなことを話す?」

「ショウ。必ず優勝しろ。そして俺と戦って勝つんだ。もしそうなれば、俺はもう何も迷わなくていい。すべてを話してやる」

「今話す気はないってことか。……わかった。ただし俺が勝ったら、必ず知っていることを話してもらう」

「もちろんだ。頼んだぞ、ショウ」


再びヴォイドが指を鳴らす。

俺たちを覆っていた黒い何かが引いてゆき、元の町中に戻っていった。



「ショウさん!大丈夫ですか!?」

「離れなさいよ、包帯男!」


ハルカとマリアが武器を構え、ヴォイドを睨みつけていた。


「二人とも、なんでここに!?」

「戻りが遅いので探しに来たら、町の人が二人がさっきの黒い四角に入ってるって教えてくれたんです!」

「どうしたら飲み物買うだけでこんなことになるのよ!」


警戒をあらわにする二人に対し、ヴォイドは動じるどころか、武器すら取り出さずにいた。

二人が警戒しているだけで攻撃してこないだろうと踏んでいるのか、攻撃されても問題ないほど強いのか……。多分両方だ。


「ショウ。いい仲間を持ったな。」

「そりゃどうも。あんたに仲間はいないのか?」

「そんなものはいらない。ショウ。忠告だ。仲間や絆なんて、持つものじゃない。最後までそれを守ることができなければ、最後に残るのは虚無だけだ」

「…………何も知らないあんたが口出しするな。俺は、後悔の無いように生きるだけだ」

「知ってるさ、ショウ。誰よりもな」


ヴォイドが懐に手を入れ、こちらに近づいてくる。

ハルカたちの警戒が増したのを感じた。


「これは餞別だ。機械帝国製の量産品じゃない。俺の作ったオリジナルだ。窮地にお前を救ってくれるだろう」


奴が取り出したのは黒い液体の入った注射器。

その見た目は以前ヨンドで戦った蜥蜴男や、ベリルの予備シリンジを彷彿とさせた。


「なぜだ……あんた、何がしたい?なぜ俺に構う?」

「ショウ、信じられないだろうが、それでも言っておく。俺はお前の味方だ。たとえ、何がお前の敵になろうともな」

「……………………」

「また会おう」

「待って」



立ち去ろうとする奴を呼び止めたのはマリアだった。

全身に力が入っているのだろう、小さく震えていた。



「どうして、なんであんたが………」

「……見た目だけではなかったか。お互い、秘密を抱えているようだな。その情報をどうするかはお前たちに任せる。ショウという鍵が見つかった以上、俺が正体を隠す必要ももうないからな」


そう言うと、ヴォイドは去っていった。





「なんだったんだ、あいつ…………」

「黒かった」

「なに?」

「あいつの目の奥……見えたの。黒いもやが」

「マリアさん、それって……!」

「ええ。またよ……聖女を閉じ込めておく弊害ね。今まで誰も気づいていなかったんだから」

「だが、あいつの目は蒼かったぞ?もしあいつがそうなら、目は赤くなるはずだ」

「わかってる。でも見えたの」

「……つまり、あいつは」

「ええ。いわゆる……同族かしらね」


マリアがヴォイドの目の奥に見た黒いもや。

それは奴もまた、魔物であることを示していた。


「はあ……頭がこんがらがってきた」

「お肉たべます?」

「あんたねえ……」







わけのわからないこと続きで疲れた俺たちは、ひとまずコロシアムに戻って試合を見ることにした。ヴォイドと戦うためには優勝が前提だしな。


と、思ったのだが。


「…………私を笑いに来たのか?」

「え!?ええと……試合は……?」


キツネ忍者とコロシアムの出口付近で出くわした。


「知っているだろう!完敗だ!手も足も出なかったのを見ていただろう!…………え?まさかお主……」

「あ、ああ!いい試合でしたよね!」

「見ていなかったな!試合、見ていなかったな!!ぐぬぬぬぬ……」


いかん、涙目になってる。


「あの、でも、ほら!私も一回戦まででしたし!決勝に残ってるだけでも十分凄いですし!」

「うう……そうかあ……?私はすごいのかあ……?」

「そうですよ!だからほら、元気を出して!えーと……」

「……ナズハ」

「ナズハさん!」

「…………うわあぁぁぁぁぁん!!!今に見てろぉ!!」

「ご、ごめんなさいぃ!!」


名前すら認識されていなかったという現実に、キツネ忍者……ナズハが泣きながら走り去っていった。


「ししょー」

「!!」


いつの間にか、ハルカの足元に小さいほうのキツネ忍者、コノハがしがみついていた。

目をキラキラさせながらハルカを見上げている。


「今日こそはあの魔術を教えてもらうござる!!」

「ござりません!あれは秘密なんですってばあ!」


今日は俺もハルカも厄日かもな。

コノハの揺れ動く尻尾を見ながら思った。




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