建国の日
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【邪術】レベルが上昇しました。
【錬金術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
【指揮】レベルが上昇しました。
従魔カルナグトゥールの種族レベルが上昇しました。
従魔カルナグトゥールの職業レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの種族レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの職業レベルが上昇しました。
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ログインしました。今日はついに建国の宣言を行う当日である。本当はもっと早く宣言を行う予定だったのだが、アイリス達が闘技場の仕掛けに凝りすぎて完成までの期間が大幅に延びてしまったのだ。
闘技場を囲む城壁や周辺の建物、それに闘技場へと続く通路などは全て作り終えた時、肝心の闘技場はまだ地下施設に掛かりきりだった。どれだけ時間と手間と金を掛けたのかわかると言うものだ。
それから急ピッチで闘技場そのものの建設も行われたが、その仕上がりは素晴らしいの一言に尽きる。疵人の職人達がこれまでの経験と技術の粋を詰め込んだ装飾は、彫刻という芸術の限界に挑戦したと言っても過言ではない出来だったのだ。
全体の形状は古代ローマのコロッセオに酷似しており、これはジゴロウの「闘技場っつったらこれだろォ?」という独断と偏見によって決められた。壁や柱にはこの大陸に自生する植物や生息する動物、周辺地域にあるフィールドの景色などが彫られていた。
この彫刻には『錬金術研究所』が作った塗料によって着色されており、躍動感のある彫刻に色彩が加わることで一層鮮やかで華やかな印象を受ける。周囲を眺めただけならば、この建物が闘技場ではなく美術館か博物館だと思う者もいることだろう。
ただし、入口の門を見ればこの建物が戦いに関する場所だということは誰もがわかる。何故なら、この縦に長い長方形の門には左側には武装したこの街で暮らす四つの種族の、そして右側には無数の獄獣のレリーフが飾られているのだ。
このレリーフは石材を彫り出したものであり、それを金属製の門に嵌め込んでいる。地獄穴から湧いて来た獄獣との戦いをモチーフにしているのは明らかだ。右側の扉には地上の石材と金属を使い、左側には地獄産の石材と金属を使うこだわりっぷりだった。
そんな入口の門の上辺には私達『夜行衆』の面々が彫られている。中央では両腕を開いた私が門の上で来る者達を歓迎し、その左右に並ぶ仲間達は挑発するようなポーズを決めていた。
建国後は他の大陸からプレイヤーなどが訪れることもあるだろうに、こんなポーズを見られたら結構恥ずかしいと思う気持ちはある。だが、門のデザインは住民にとって非常に好評だったこともあり、そのまま使うことになった。
外側も素晴らしい出来栄えの闘技場であるが、その内部もまた手が込んでいる。収容人数は千人と、街の住民を全員を集めても余裕がある広さだ。近所にあるスタジアムと同じくらいに広く、これを自分が作り上げたと思うと感慨深かった。
アイリス達が予定を大幅に遅らせただけのことはあり、中に仕掛けられたカラクリは無数の機能がこれでもかと詰め込まれている。中には本当に必要なのかと疑ってしまう機能もあるが、盛り上げるのに使うことだろう。
「よォ、兄弟。そろそろ始めろって、アイリスが言ってたぜェ」
「わかった」
そんな素晴らしい闘技場…ではなく、いつもの広場に我々は集まっていた。集められたのは今ここに来られる全ての住民と、立ち会うことを望んだプレイヤー達であった。
望んだ、とは言っているがログインしているほぼ全員がここに集まっているのだから興味津々な者達ばかりである。ああ、緊張する…だがやるしかない!覚悟を決めた私は広場に用意されていた妙に立派な舞台に立った。
クランメンバーに加えて数人の者達がいた壇上に私が上がったと同時に、ザワザワしていた広場は少しずつ静かになっていく。私の声が通るくらいに静かになったところで、私はゆっくりと口を開いた。
「親愛なる諸君。今日、この記念すべき日に立ち会ってくれたことに、まずは礼を言わせて欲しい。ありがとう」
ただ礼を述べただけなのだが、住民達は声を上げながら拍手をしていた。自惚れのように聞こえるだろうが、我々は住民から圧倒的な支持を受けている。我々はこの街を手に入れ、ここに彼らを迎え入れたからだ。
そのことに恩義を感じているからこそ、彼らは我々をこれほどに支持している。しかしながら、このことに浮かれ、調子に乗れば見放されるかもしれない。勝って兜の緒を締めよ、とは異なるが常に意識しておく必要があるだろう。
「そして今日、集まってくれた理由は他でもない。我らは今日ここに、一つの国家の樹立をするからである!」
「「「うおおおおおおおっ!!!!」」」
建国宣言をすると同時に、広場のボルテージは最高潮に達する。私はこの興奮が収まるまで待つことはしない。何故ならこの状況で自然と静かになるまでは時間が掛かることは明白であるからだ。
「その前に!我々は新たな同胞である半龍人達を守護しておられたアグナスレリム様。かの龍王がいなければ、我らはこの地を踏むことすらなかったであろう。アイリス」
声を張り上げた私が合図をすると、アイリスは私が立っている壇の横にある大きなモノに掛かっている布を取り払う。布の下から現れたのは、全長三メートルほどのアグナスレリム様の彫像であった。
これは勿論、シンキに注文していた彫像である。石で出来た台座の上に鎮座している彫像は、本物のアグナスレリム様にはなかった金属特有の光沢と重厚感がある。だが、アグナスレリム様の鱗の色に似ている金属をベースに作られていることもあり、まるで本物をそのまま小さくしたかのような存在感があった。
彫像はアグナスレリム様が頭を上げつつ、やや上の方向をじっと見つめるポーズをとっている。アグナスレリム様の気高さと凛々しさを全面に押し出したデザインだ。半龍人達には好評だったようで、感嘆の声と感涙にむせび泣く者に溢れていた。
疵人達などはアグナスレリム様に会ったこともないのだが、半龍人達から事情を聞いている者の方が遥かに多い。彼らが感動している理由もわかるからか、共感する者ばかりである。中には貰い泣きしている者達までいた。羨ましいほどに感受性豊かだな。
彫像はほとんどの部分が錆に強い素材で作られているものの、全てがそうではない。一部には地獄産の金属も使われていた。そこでしいたけ達が作った透明な薬品によってコーティングしており、水中でも錆びることなく半龍人達の信仰を集めることだろう。
「この慰霊碑は水路の中にある半龍人達の居住区に設置される。つまり、我らがこうして目にする機会に恵まれることは少ないだろう。今の内に目に焼き付けておいて欲しい」
アグナスレリム様の彫像は水路の底に沈むことになっている。半龍人の力を借りれば見に行くことは出来るだろうし、彼らがそれを拒否することはないだろう。
だが、わざわざそのようなことをする者はいないだろうことも事実である。これから一生、これを見ることがない者もいるだろう。目に焼き付けておけ、というのは純粋な私からのアドバイスだった。
「…さて、アグナスレリム様の彫像の話から建国の話に戻ろう。まず、我らの国は水路で繋がる二つの街から成り立つ。港町の名前は『エビタイ』。これは港町の建設に尽力したコンラートにつけてもらった名だ」
私が名前を出したコンラートは壇上で微笑みを浮かべながらヒラヒラと手を振っている。コンラートに建国の話をした際、こちらが驚くほどアッサリと港町を国に加えることに賛成した。
もっとゴネられるかかなりの条件を出されると思ったのだが、コンラートの出した条件はたった二つだけだった。それはこれまで通りの商売をさせることと、港町の名前を付ける権利を彼に渡すことだった。
条件と言われた時点で財務大臣などの経済に関する公職、それも要職を求められると思ったので、思った以上に軽い内容に私が困惑するほどだった。何か裏があるのではと疑ってしまう私だったが、コンラートは言った。公職などに時間を割くくらいなら、一つでも多く商品を売買したいのだ、と。
これまで払う必要がなかった税金に関しても払うことに忌避感はないと言う。むしろ他国よりも安いので、資産の多くをこちらに移すつもりのようだ。
他にも狙いがあるのだろうが、私はコンラートを信頼することにした。そうして名付ける権利を差し出したところ、彼は『エビタイ』と…『海老で鯛を釣る』ということわざからとった名前を付けたのだった。
「そして、首都となるこの街の名は『ノックス』!そして国の名は『アルトスノム魔王国』!今、この瞬間に建国を宣言するものとする!」
「「「うおおおおおおおおっ!!!!!」」」
最初の時とは比べ物にならないほどの歓声が広場に木霊し、声だけで立っている舞台がブルブルと振動する。それほどの熱狂が広場を包み込んでいた。
街の名である『ノックス』はラテン語で夜という意味であり、我々のクラン名である『夜行衆』から取ったもの。そして国名の『アルトスノム』は同じくラテン語で怪物を意味する言葉を逆さに読んだものだ。
これはクランメンバーとの話し合いで決まった名前だ。奇を衒わず、直接的な意味の方が良いという意見が多かったことによる採用である。国民にも迎え入れられたようで何よりだ。
歓声に包まれながら、私は【国家運営】の能力画面を開く。そして浮かび上がった仮想ディスプレイに浮かぶ『建国する』という文字に意を決してタッチするのだった。
次回は1月10日に投稿予定です。




