再びの建築と新たな住人
あけましておめでとうございます。今年も拙作をよろしくお願いいたします。
【国家運営】の能力を得てから一週間が経過した。全員の希望する公職はとっくに決まっており、今はこの街にいる他のクランにも希望する公職についての意思を確認しているところだった。
公職云々が出てくることからもわかるように、彼らにも【国家運営】という能力と国民となった時のメリットとデメリットについてきちんと説明している。その上で彼らは国民になることを選択した。形式上は私達がの下に付く形になるのを嫌がる者がいると思っていたのだが、意外とそうでもなかったようだ。
ただし、公職は無限にあるわけではないし、現状だと就けない公職も存在する。故に全員が公職に就くことは不可能だった。そこで各クランから最大で三名まで公職を募ることにしたのである。
「…という話なのだが、どうだろうか?君達はどうする、トロロン?」
「無論、国民にならせてもらおう。公職も欲しいからね」
以上のことについて私は『溶岩遊泳部』のトロロンに説明していた。地獄産のアイテムをかき集め、我々は彼女らの拠点となり得る溶岩溜まりを作り出すことに成功する。そこで彼女らを再び勧誘したのだ。
源十郎に憧れはあるものの、トロロンは他の仲間達に無理をさせることを嫌がったから共に来ることを泣く泣く諦めていた。しかしその一点を気にしなくて良いのなら断る理由はない。連絡を入れた次の日にはアン達の船に乗ってここまでやって来ていた。
彼女達が使う溶岩溜まりは、街から見て南側に用意してある。ここから面積を拡げるのはトロロン達に頑張ってもらおう。幸いにも地獄という溶岩だらけの彼女達にとって理想的な環境が存在している。存分に稼いでもらおうか。
「ところで、源十郎様はどんな公職に?参考までに聞かせてくれないかな?」
「…相変わらずだな。源十郎は『武術指南役』と『蟲将軍』…国民に戦闘術を授ける虫系種族の将軍だ」
源十郎の大ファンであるトロロンはきっと聞いてくるとは思っていたので、私は用意していた答えをスラスラと答える。彼は前から道場と称して剣術や槍術の手ほどきをしていたが、これを公職としてやると言い出したのだ。
この『武術指南役』の効果は他者に武術を教えた際、本当に能力の経験値が溜まるというもの。指南役の能力レベルが高いほど効果が高く、教えを受ける者達の能力レベルが低い方が得られる経験値は増えるようだ。
逆に言えば能力レベルが高い者には効果が薄く、外で探索した方が経験値が溜まるくらいだ。また指南役以上の能力レベルの相手には一切効果がない。戦力の底上げに向いた公職であった。
もう一つの『蟲将軍』は虫系の種族であることが条件の将軍職だ。将軍職は武官系の最上位の公職であり、戦闘に関するステータスと指揮に関してボーナスがある。誤差の範囲とはいえ、なるべく強くなりつつ他のメンバーに被らない将軍職は欲しかったようだ。
「『武術指南役』…なら、生徒になれば手取り足取り教えてもらえるのでは!?」
「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。あまり源十郎を困らせてくれるなよ?」
「もちろんさ!ところで…ずっとツッコミたかったんだけども、王様なのにそのヘルメットは何なんだい?」
「見ればわかるだろう?建築の最中なんだから、安全のためにヘルメットを被るのは当然だ」
トロロンは何とも言えない顔で私が頭に被っているヘルメットを指差すが、これは私にとってはもう被り慣れたモノである。これを被っているからにはやることは一つだけ。そう、建築だ。
現在進めているのは十一の女神を祀る大神殿と、この国の主神に据えさせていただく予定の『死と混沌の女神』イーファ様を祀る神殿、そして巨大な闘技場である。二つの神殿は最初から建立予定であり、建国に向けて予定を前倒ししたからに過ぎない。大神殿で全ての女神を祀っていないのは、私が『光と秩序の女神』アールルと敵対しているからだ。
ここまでは予定通りなのだが、闘技場は急遽必要になったモノだ。どうしてそんなモノが必要になったのかと問われれば…我が兄弟分、ジゴロウの選んだ公職のせいだった。
ジゴロウが選んだのは『英雄闘士』と『暴鬼将軍』。特に『英雄闘士』という公職を望んだからだった。この『英雄闘士』とは闘技場の英雄、つまりは看板選手ということらしい。
その効果は二つ。一つはこの公職を持つ者の戦いを闘技場で見ると、一定時間得られる経験値が増えるというもの。闘技場の英雄の戦いを見ることは単なる娯楽ではなく、実益のある催し物になるようだ。
もう一つは闘技場で戦う際に、対戦相手との総力とほぼ同等なステータスに調整されるというもの。相手が腕に自身のあるルーキーでも、レベル100のプレイヤーが百人がかりでも、良い勝負になるようなステータスに調整されるのだ。
ステータスの上昇値には限界があるようだが、どんな条件でも対戦相手との本気の戦いを見せること。それこそが『英雄闘士』に求められているようだ。戦いは勝てるかどうかわからないギリギリの戦いが最も面白いと語るジゴロウにはピッタリな公職だった。
そして今の私が従事しているのは闘技場とその周辺の区画を守る城壁の建築作業であった。建材を右から左に運ぶだけの単純作業であり、生産職でなくとも十分な戦力となっている自負はある。まあ、直々に城壁の工事などという肉体労働に参加する国王など聞いたことはないが…プレイヤーだし、そんなものだろう。
闘技場自体に利点があるとは言え、ジゴロウ一人のために闘技場を作るような形に思える。だが、実際はそうではない。闘技場は国民にも使えるようにするからだ。いくら私達が兄弟と呼び合う関係でも、そこまで依怙贔屓することはないのである。
「そのヘルメットへのこだわりはどこから…?いや、聞くのはよそう。しかし、これまた大規模な建築を行うようだね。このままだと闘技場のサイズは相当に広くなるんじゃないか?」
「ああ、そうだな。最終的な収容人数は千人ほどになる予定だ」
「…本当に広いな」
「街は徐々に増築する予定だから、街に対する面積の割合は少しずつ小さくなっていくだろう。ただなぁ…見ろ、あれを」
私が指差した先は、闘技場の敷地になる予定の整地された空間だ。そこにはアイリスにしいたけ、『賢者の石』と『生体武器研究会』と『マキシマ重工』の主要人物達、それに無数の戦術殻を装備した鉱人達が集まっていた。
彼女らは闘技場の敷地を整地した後、その地下になる部分を深く掘った。そうして生まれた空間を用いて、かなり大掛かりな工事を行っているのだ。
「コロッセオという古代ローマの円形闘技場は知っているか?」
「観光地じゃないか。流石に知っているさ」
「あそこの地下には色々な仕掛けがあったらしい。人力のエレベーターで猛獣を地上に出したり、水道から引っ張ってきた水を張って模擬海戦を行ったり…大昔の施設とは思えん凝りようだろう」
「おいおい。まさかとは思うけど、それを再現しようとしているのかい?」
「ハッハッハ。再現ならまだ良かったさ。アイリス達は言っていたぞ。『遥かに超える仕掛けを沢山作ってみせる』と」
私の乾いた笑いを聞いて、トロロンは溶岩魔人の分かりにくい表情でもハッキリとわかるほど顔を引きつらせていた。私が知る中で最も優れた職人であるアイリスとブッ飛んだ発想から意味不明な薬を作り出すしいたけ、行った実験で多大な被害をもたらした三つのクランに好奇心が強い鉱人が加わったのだ。思い付く全てのカラクリを仕込みたいと意気込んでいた。
予算について言及したのだが、何と彼らは自分達で捻出するから気にするなと言い出した。自腹で作ると言われればそれ以上強く言えないし、闘技場の主となるのであろうジゴロウも色んな状況を楽しめるなら言うことは大歓迎だと公言している。彼女らの好きに作らせるしかなかった。
「ということだから、気が向いたら建築を手伝ってくれ。心配するな。溶岩の身体でも手伝えることはあるし、源十郎も頻繁に来…」
「どんな仕事でも任せてくれたまえ!何をすれば良いのかな!?」
…源十郎の名前を出した途端にトロロンは乗り気になる。その様子に私よりもトロロンの仲間達の方が困ったように苦笑していた。
冷静に考えるとこれから源十郎の件で彼女に振り回されるのかもしれない。今度何かあったら優しくしてあげようかな。
「今日のところは何もやることは…」
「ああっ!?源十郎様っ!」
何もない、と続けようとしたところで目ざとく源十郎を発見したトロロンは彼の下へと突撃していく。私は口を半開きにしたまま見送ることしか出来ないのだった。
次回は1月6日に投稿予定です。




