魔王軍、襲来 その六
「ふむ、侵攻のペースが落ち始めたか」
私は定期的にもたらされる情報から、我々の侵攻が膠着状態に陥りつつあることを察していた。その原因はただ一つ。死に戻りしたプレイヤー達の参戦であった。
我々が死亡すると入り江に戻されるのに、プレイヤーは宿屋からなのだ。復帰するまでの時間が断然異なるのは大きなハンデと言っても過言ではない。
それを防ぐべくミケロが神殿の乗っ取りを画策しつつ、トロロン達が宿屋を爆撃しているのだが、まだ大きな成果は出ていない。後から効果が確実に出てくるはずなので、今は耐える時間と考えるべきだろう。
「どうするの?」
「どうするもこうするもないさ。まだ致命的な状況ではないし、目的を一つも果たして…と言っている間に見つけたぞ」
大きな建物を物色しながら徘徊していた私達だったが、それには目的が幾つかあった。その目的の一つを私達はようやく見付けたのである。
それは街を守る魔導人形だった。街が機能している間ならば衛兵よりも遥かに強く、時折腕自慢の無謀なプレイヤーが挑んではボコボコにされて収監されるまでがセットという話を聞いている。やられたという話を聞いていても未だに挑戦する者が後をたたないというのだから、人とはわからないものだ。
そんな魔導人形は現在、完全に沈黙していた。これは私の目的、と言うかしいたけの目的だった。彼女からの頼みは、この魔導人形を回収することなのだ。
魔導人形が属する国家によってそのデザインは異なるらしい。このリヒテスブルク王国の魔導人形は金属製の全身鎧であった。
鎧は純白で、形状は全体的に角張っている。兜は目の部分に一本の細いスリットが入っているだけで、王家の家紋と思われる紋様が金糸で刺繍された臙脂色の豪華なサーコートを羽織っていた。
武装は身の丈ほどもある大剣とサーコートと同じ紋章が掘られた円盾である。それが地面に片膝立ちになっているので、まるで主君の命令を待つ騎士のよう見えた。
絵になるなと思いながらも、今から私達はこれを破壊する予定だった。アイテムとしてそのままインベントリに放り込むことは出来ないはずなので、ある程度解体してからバラバラになったパーツを回収することになる。このまま無抵抗なら楽なのだが…まあ、まず間違いなく動き出すことだろう。
「先ずは私が動きを止める。そうしたら一斉に攻撃してくれ」
「わかりました」
「強化するねー。メェー、メェー」
私が魔術の準備をすると同時にエイジは一歩前に出ながら大鎚を肩に担ぐ。彼は斧や鎚のような重量武器を使うのだが、相手によって使うべき武器を切り替えるようにしていた。今回は堅牢そうな鎧が相手ということで、ウォーピックと呼ばれるツルハシのような大鎚を用意していた。
あのウォーピックは鎧を貫いて内側にもダメージを与えられる武器である。それをクランでも随一のパワーで叩き付ければ、魔導人形の内部機構を損傷を与えられるだろう…どんな中身なのかは知らないが。
それと同時にウールも鳴き声で全体を強化する。兎路も腰の双剣を抜き放ち、紫舟は金属質な節足を擦り合わせてジャリンジャリンと音をさせた。二人もやる気満々と言ったところか。
「では、行くぞ。星魔陣、呪文調整、闇腕」
「行きます!ブオオオオオオッ!!!」
【暗黒魔術】にいって私が作り出した五本の腕は、魔導人形の四肢と首の付け根をガッシリと鷲掴みにして固定する。そこへ大きく踏み込んだエイジが両手で握り締めるウォーピックを胴体部分に叩き込んだ。
尖っている部分が胸部を強打し、金属が軋む耳障りな音と共にめり込んだ。甲冑の胸部は大きく凹み、ヒビが入っている。おや?ひょっとしてこのまま終わるのでは…?
『敵対行為を確認。対象、人類外。機能不全により捕縛は不可能と推測。討伐します』
「やはりそう来たか。三人とも、畳み掛けろ!」
「わかってます、よ!?」
「え?あれが中身なの?」
エイジは応えると同時にウォーピックを引き抜くが、その時に尖端に引っ掛かったのか胸甲が外れてしまった。それによって魔導人形の内部が露出してしまう。そこにあったのは我々の予想する魔導人形とは異なるものだった。
一言で言い表すならば、甲冑の中にあったのはフワフワと浮かぶ一つの球体だった。無色透明なこともあり、占い師が使っていそうな見た目である。
ただ、単なる水晶玉ではないのは明白だ。何故ならその球体からは無数の白く、糸のように細い光が伸びていたからだ。その光は甲冑の内側で複雑に絡み合って、球体しかない空間を埋め尽くしている。あれが魔導人形の最も重要な部分、核と言うものなのだと私達は直感した。
まさか空っぽの鎧に核が浮かんでいるだけだとは思っておらず、意外なことに驚きを禁じ得なかった。だが、むしろちょうど良い。あれを引きずり出せば間違いなく魔導人形は機能を停止するのだから。
「目的はあの球体だ。外側の鎧はおそらくハリボテだろう。つまり…」
「全力で行って良いってことだね!」
「その方がわかりやすくて良いわ」
「まあ、間違ってはないんだけど…雑だなぁ」
私の拘束から逃れようとする魔導人形に対し、紫舟と兎路は容赦なく斬り掛かった。何とも言えない顔付きになったエイジだったが、それはそれとしてウォーピックを今度は魔導人形の頭部に上段から振り下ろした。
魔導人形の装甲は紫舟と兎路によって深く傷付き、エイジの一撃は兜の装甲を貫いてそのまま圧潰させる。このまま鎧の部分を破壊して丸裸にしてやれば、意外と簡単に勝てるのではないか?
『装甲の損傷を確認。補修を行います』
「何だと!?」
希望的な予想をした直後、我々を驚愕させる事態が起こった。絡み合って鎧の内側を埋め尽くしていた光の糸が解けると、それらが破壊された部分を修復してし始める。あっという間に私達が傷付けた部分は元通りになってしまった。おいおい、それは聞いていないぞ?
唖然とする我々のことなど意にも介さず、魔導人形は私の魔術による拘束から逃れようと身体を激しく動かし始める。その力は凄まじく、ゆっくりと、しかし確実に立ち上がろうとしていた。
「拘束は長く保たない!今のうちにガンガン攻撃しろ!今を逃せばどうなるかわからん!」
「わかってるわ!」
「手伝うよ!」
「ぶっ壊しますよ!ブガアアアアアッ!!!」
回復されるとわかっていても、いやわかっているからこそ攻撃の手を緩めることは出来ない。私は全力で攻撃を加えるように頼んだ。
エイジは盾を背負うと両手でウォーピックを握り、それを力強く何度も振り下ろす。大振りの攻撃は本来ならば簡単に回避されるのだろうが、今の魔導人形は動けない状況だ。彼の攻撃は全て直撃しており、その度に装甲の一部が破損していた。
兎路は炎を纏わせた双剣によって、目にも止まらぬ速さで双剣を振るう。一発の威力はエイジに劣るので装甲を簡単に破壊することは出来ないが、その代わりに手数で言えば彼の倍以上であった。削り取るようにして装甲を傷付け、一部は剥がれ落ちていた。
二人が攻撃に集中する一方で、紫舟は拘束する手助けをしてくれている。元が蜘蛛だった彼女は様々な糸を使うことが可能だ。彼女は魔導人形の手足の関節に糸を放つ。異物が差し込まれたことで抵抗力が明らかに落ちており、拘束していられる時間は間違いなく延びていた。
「くっ、やっぱり回復するか」
「でも、無駄じゃないみたいよ」
「光の糸が間違いなく減っています!このまま攻撃を続けましょう!」
二人が幾ら攻撃しても、魔導人形は即座に修復していく。一見すると無意味にも感じるのだが、最も近くで魔導人形を見ている兎路は気付いていた。修復のために内側に満たされていた光の糸を消耗していることに。
少し距離が離れている私にはわかりにくかったのだが、二人には確かな手応えがあるようだ。光の糸が完全に尽きた時、あの魔導人形はきっと動きを止める。そう信じて我々は諦めず、攻撃の手をさらに強めた。
「ぐおおっ…!拘束が外れるぞ!気を付けろ!」
「兎路、下がって!」
「わかってるわ」
攻撃し続けることで鎧を破壊していたものの、無力化する前に私と紫舟による拘束は終に限界を迎える。五本腕と糸を振り切った魔導人形は、背負っていた大剣を抜き放ちながら横薙ぎに振るった。
エイジは私が警告すると同時に構えていた盾で、この斬撃を受け流す。兎路はしれっとエイジの背後に回り込んで彼を盾にしていた。流石のコンビネーションである。
最初に畳み掛けることに成功したとは言え、強敵が自由を取り戻したのは事実だ。ここからは厳しい戦いになる。私はそう確信していた。
「ふっふっふ!今さら動いても遅いよ!えい!」
「何だと!?」
だが、私の予想は良い意味で覆されることになる。紫舟は糸で何か仕込みを行っていたらしく、魔導人形は四肢をピンと伸ばした状態で固まってしまった。
その隙を逃さず、エイジは胸部へとウォーピックを叩き込む。そうして再び鎧が砕けたことで、再び核が露出した。エイジと兎路が言っていた通り、鎧の内側を満たしていた光の糸は随分と減っている。隙間だらけと言っても良いだろう。
「もう一丁!」
「おおっ!?」
紫舟が気合いを入れると、鎧の内側に入り込んでいたらしい糸が核に絡み付く。そしてそのまま鎧の破損部分から外へと引きずり出したのだ。
核を失った魔導人形は、文字通り糸の切れた人形のように力を失って崩れ落ちた。核は糸を魔導人形の脱け殻に伸ばそうとするが、その前にエイジがそれを拾い上げた。
「えっ…?ああ、そう言うことか」
「どうした?」
「えっと、これに触れた時点で所有権が僕に移ったみたいです」
「つまり…大勝利ってことだね!」
自慢気な紫舟の言う通り、我々の勝利と言えるだろう。いや、この勝利は紫舟のものだろう。私は手放しに彼女を称賛するのだった。
次回は4月17日に投稿予定です。




