魔王軍、襲来 その七
「どうぞ、イザームさん」
「ありがとう」
エイジは回収した魔導人形の核を私に手渡した。それを受け取った私は、そのまま【鑑定】を行う。その結果は以下の通りだった。
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神護人形の天核 品質:神 レア度:G
『生産と技術の女神』ピーシャが作り出した魔導人形の核。破壊不可。
国家に属する都市に設置することで、犯罪行為を感知して取り締まる。犯罪かどうかの基準はその都市に準拠する。
これを使用した魔導人形は神護人形と呼称される。
都市の機能が無効化している場合、性能が著しく下がることに注意。
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ほうほう。あれは正確には神護人形というのか。そして思っていた通り、都市の機能が無効化していたせいで機能が下がっていたらしい。本来ならあれほど簡単に倒せはしなかったのだろう。むしろ神護人形などと言う大仰な名前であの程度では、これを使った時の性能が不安になってしまう。
しいたけの目的とはこれを使って我々の街に神護人形を設置することだった。しいたけは純粋に神護人形の天核を調べつつ、神護人形を作りたいらしい。街の治安維持…が必要かどうかわからないが、そのためにも役立つだろう。
「神護人形の天核と言うのか。最低でも一つ確保出来れば良いと聞いているが、倒し方はわかっている。機会があれば倒すのも良いか」
「メェー。でもー、調子に乗っちゃー、ダメだよー」
「運が良かっただけだもんね!」
私はポロッと欲に満ちた言葉を溢すと、ウールと紫舟に叱られてしまった。いや、全く二人の言う通りである。あくまでも我々がそこまで苦労せずに戦えたのは神護人形が動きを止めていた上に、他の誰かに邪魔をされることもなかったからだ。それを忘れてはならないだろう。
私は誤魔化すように笑いながら、杖を付きながら魔力探知を使って周辺の警戒を行った。すると、そこに引っ掛かるモノが六つもあるではないか。
魔力の大きさから考えて、恐らくはプレイヤーだろう。そして相手はこちらを待ち伏せするかのように建物の陰に隠れている。ただ、私に気付かれたことに気付いているようで、連中は物陰から飛び出して襲い掛かってきた。
「やれ!畳み掛けろ!」
「一番油断してるタイミングだぞ!」
私が警戒を呼び掛ける前に、奴等は我々へと攻撃しようとした。確かに戦いが終わって一息付いている時というのは最も油断するタイミングだろう。現に私を含めた全員の反応は遅れていた。
このままでは私達はやられてしまう。そう、私に何の準備もなかったのなら、な。
「グオオオオオオオッ!!!」
「クルルルルルルルゥ!!!」
「なっ!?何だぁ!?」
「龍!?しかも二頭だって!?」
「片方はデカいぞ!?あのひ…ぎゃああああ!?」
万が一に備えて上空に待機してもらっていたのはアイリスとしいたけだけではない。二人が乗るシラツキとは別に、カルとリンにも即応戦力として上空から監視してもらっていたのだ。
既に二頭の活躍によって不利な状況を覆したことが何度かあったと感謝のメッセージを受け取っている。今回は我々が危ないと思って駆け付けてくれたのだ。賢くて強い子に育ってくれて、私は感無量である。
パワーファイターであるカルは、落下の勢いを一切殺さずに一人のプレイヤーへと突っ込んだ。カルはリン程ではないが相当な速度を出すことが可能である。そこにカルのパワーが加わればどうなるか?その結果はプレイヤーの断末魔が教えてくれることとなった。
リンはカルほどレベルが高くない上に、どちらかと言えば魔術の方が得意である。彼女はプレイヤーの手が届かない位置から一方的に魔術を放っていた。
彼女のレベルが足りていないので、大ダメージを与えることは難しい。だが、足止めをするにはそれで十分だった。プレイヤーの足は確実に止まり、我々への奇襲は失敗していたのだから。
「ブオオオオッ!」
「奇襲なんて危ないじゃない」
「反撃じゃー!おりゃー!」
「弱くなれー。メェー!メェー!メェー!」
奇襲された時には反応が遅れた我々だったが、それが失敗したとなれば話は別だ。即座に戦闘態勢へと移行して、迎撃するべく行動を開始した。
そうなったら可哀想なのは相手のパーティーだった。落下してきたカルは一人を踏み潰し、さらに駄目押しとばかりに喉笛を噛みきったので既に一人欠けてしまっている。それに加えてカルとリンのコンビと我々のパーティーに挟み撃ちにされる形になってしまったのだ。
しかも彼らはカルの偉容を見て動揺しており、明らかに浮き足だっている。彼らにとっては最悪なことに、カルが最初に倒したのがリーダーっぽい人物だったことも混乱に拍車をかけていた。
幾ら優れたパーティーであっても、今の状態では烏合の衆に等しい。彼らは実力をほとんど発揮することが叶わず、我々によって蹂躙されてしまった。
「カルもリンも、良く来てくれたな。危ないところだったよ」
「ありがとう!ほんとに助かった!」
「グオオオン!」
「クルッ!」
私たちが二頭に感謝すると、カルは得意げに咆哮し、リンは当然とばかりに鼻を鳴らした。二頭の反応の違いは、そのまま二頭の性格の違いと言っても良いだろう。
二頭の頭を撫でようと手を伸ばした時、カルとリンは同時に頭を上げた。そして空中の一点をじっと見詰めている。何かあったのだろうかと我々もつられて上を見ると、高い空に一つの影があるではないか。
その影は今は黒い点のようにしか見えないが、こちらに向かって近付いている。そして徐々にそのシルエットが明らかになってきた。
それは長い首と大きな翼、四本の脚に尻尾が生えていて、背中には細身の人が乗っている。この姿には見覚えがある。それこそ、私の目の前にいる二頭と酷似した外見だったのだ。
「龍…ですか?」
「プレイヤーも乗ってるわね」
「嘘!?カル君とリンちゃん以外の龍なんて…あ、いるんだった」
「でも、初めてみるねー」
空を飛んでいたのは一頭の龍だったのだ。カルとリン以外の龍を見ること自体は珍しい話ではない。定期的にフェルフェニール様と話しているし、龍神のアルマーデルクス様やファースの街の近くにいるアグナスレリム様にも会っているからだ。
しかし、プレイヤーが乗っているとなれば話は別だ。それは龍を従魔としているということであり、そんなプレイヤーは相当に数が絞られる。そしてそのプレイヤーの顔が見えてくると、それが見知った人物であることに気が付いた。
「久し振りだな、アマハ。本戦以来か」
「貴方…まさか、イザームなの?」
そのプレイヤーは『競龍』で優勝を争ったアマハだった。すぐにわかった私とは異なり、私のことが誰だかわからなかったらしい彼女は目を丸くしている。被っている仮面も持っている杖も、あの時とは異なるのだから仕方があるまい。
一方でアマハの乗る龍はリンのことがすぐにわかったらしい。ずいっ、と頭を前に出して嬉しそうな表情になっている。それはリンも同じなのだが、お互いを知らないカルだけは警戒を怠らずに低く唸っていた。
「その通り。その龍の名前は決めてもらえたか?」
「どうやら本物のようね。貴方の言っていた通り、北湖にいた龍王に名付けをしてもらったわ。最初は聞く耳を持たなかったのに、貴方の名前を出したら急に態度が軟化したの。貴方達、あそこで何をしたのよ?」
「仲間達と共に村を一つ救った、と言っておこう」
蜥蜴人の集落のために蛙人と戦ったのも懐かしい話だ。だが、今は昔話をしている場合ではない。今重視するべきは、彼女が敵となるのか否かである。
そこを確認した時、敵となるのならば残念だが倒さなければなるまい。彼女とその従魔は知らない仲ではないが、敵に情けをかけられるほどの余裕はないからだ。
「それで、アマハはどうしてここに?」
「そんなもの、貴方達のせいに決まってるじゃない。フォティンが襲われてるって話が掲示板に書き込まれてて、今の状況を確かめに来たのよ」
今の言い方だと彼女はあくまでも偵察のためにやって来たようだ。つまり、今すぐに戦いになることはなさそうであった。
顔見知りと戦う必要がないとわかって内心で安堵しながらも、同時に焦りを覚えていた。何故なら、彼女が偵察に来た時点で、正確な現状を他のプレイヤーに伝えられてしまったからだ。
現状を知ればすぐにこの街を目指す者もいるだろう。こちらも腕自慢が何人も抱えているが、人数によっては一気に押し潰されてしまう。その前に撤退しなければなるまいよ。
「そうか。それでこれからどうする?今から略奪に加わっても構わんぞ」
「それも面白そうだけど、今回はパスさせてもらうわ。依頼を裏切る訳にはいかないもの」
「それは残念だ。ならせめて情報を持っていったことの報復をしたいのだが…」
「私が付き合うと思う?」
「いや、全く」
アマハは偵察という本来の目的を果たしてしまった。ならばやれることと言えば憂さ晴らしとして彼女を討ち取ることくらいだ。
しかし、それはあくまでも彼女が戦いに付き合ってくれた場合の話である。アマハは龍に、それもリンよりも素早かった個体に乗っているのだ。全力で逃げられれば追い付くことは不可能と言って良い。倒すというのは諦めた方が良いだろう。
「それじゃ、そろそろお暇させてもらうわね」
「うむ。次は味方として会いたいものだ」
「私もね。まあ、多分だけど近い内にそうなる気がするし」
最後に気になることを言い残してアマハは空高く上昇していった。その背中を見送った我々は、急いで目的を果たすべく移動を開始するのだった。
次回は4月21日に投稿予定です。




