魔王軍、襲来 その一
よし、最初の一撃は綺麗に決まったな。『魔王軍』の皆から離れ、私が使ったのは【幻影召喚:神代闇龍帝】というフェルフェニール様の幻影を召喚して一回だけ攻撃してくれる能力である。非常に強力なのだが、一度使うとクランの全員がしばらく使えなくなるという代物だ。
しかし、今のように確実に何かを破壊したい時には最適と言える。フェルフェニール様は本物には遠く及ばない威力しかないと仰ったのだが、人が作った城門程度ならばこの通り簡単に粉砕する威力があった。
ただし、舌による攻撃だけでは城門が爆発することはない。あんなに盛大に爆発したのはパントマイム達のお陰だった。彼らはモグラに変身して接近し、地面の中にしいたけ製の爆弾を仕込んでおいたのである。
舌が激突したときの衝撃に合わせて爆発したことで、被害をより大きくすることに成功している。この時点で大活躍と行っても良いが、彼らの行った仕込みはもう一つあるのだ。本当に縁の下の力持ちであった。
「ここからは予定通り、崩れた城門から雪崩れ込む。そして好きに暴れて、好きに奪え」
「…………いやぁ、マジで城門が壊れるとは思ってなかったよ。うん、マジで」
私が皆の元に戻ってこれからの雑な方針について話すと、クランメンバー以外の者達の多くが顔を引き攣らせていた。いや、言ったではないか。城門を破壊してくると。もしや信じていなかったのか?それは少しショックである。
まあ良い。今は時間との戦いだ。強烈な一撃を目の当たりにして、間違いなく街中は混乱しているはず。スムーズに内部へと侵入するのは今しかない。少しでも初動が遅れれば激しい抵抗に遭うことだろう。それは避けたいところだ。
「オラ、テメェら!ビビってねェで行くぞォ!足の速ェ奴ァ突っ込みやがれェ!」
「「「「「へい、アニキ!」」」」」
「競走!?やるやるー!」
「あらあら、負けられないわね?」
「うん、頑張るよ」
ジゴロウが発破をかけると、まず最初に『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の五人が走り始める。すると一番乗りを狙ってかタマが走りだし、慌てて『ザ☆動物王国』のメンバーが追い掛けた。
その後ろを追うように邯那と羅雅亜が駆けていく。走るためにこのゲームを始めた二人は、競走と言われて血が騒いだらしい。彼らもまた全力で走っていた。
「我々も向かおうか。ウロコスキー、お前達も予定通りに頼む」
「合点承知の助ってなモンでござんす」
ウロコスキー達『八岐大蛇』のメンバーはここから少しだけ別行動である。彼らにしか出来ないことを任せることになっているのだ。上手くハマれば、この混乱はより大きくなることだろう。ふふふ、楽しみだ。
真っ先に突撃した者達に続いて、我々も崩れた城門から街中に足を踏み入れる。戦場はすでに崩れた部分よりも奥へと広がっており、少し離れた場所から怒号と破砕音が聞こえてきた。
「それでは皆、手筈通りに。撤退の合図を見忘れるなよ」
「おうよ!」
「わかった」
一緒に城門をくぐった『不死野郎』と『溶岩遊泳部』も行動を開始した。『不死野郎』のメンバーは幾つかのパーティーに分かれて動き、『溶岩遊泳部』は源十郎とルビーの二人と共に暴れることになっているのだ。
マック達は色々と入り用の物資を集められるし、トロロンは憧れの源十郎と一緒に動くことが出来てご満悦だ。我々もマック達のように複数のパーティーに分かれて動くことになっていた。
「さて…四人共、付き合わせることになって悪いな」
「気にしないで下さい。それに魔王様の護衛をしてるって思うと、ちょっとテンションが上がりますし」
「別にアタシは戦闘狂じゃないからね。こういう雰囲気も嫌いじゃないけれど、護衛くらいがちょうどいいわ」
「僕達もー、やることがあるからねー」
「悪魔からの依頼ね!」
私と共に動く者達はエイジ、兎路、ウール、そして紫舟の四人である。エイジと兎路は私の護衛として、ウールと紫舟は悪魔からの依頼のために私と行動することになっていた。
この襲撃そのもののリーダー的存在となった私が討たれてしまえば、全体の指揮が間違いなく落ちるし混乱もしてしまうだろう。メッセージなどで指揮を続けることも可能だが、戦闘中にメッセージを読むのは至難の技だ。殺られないように動くのが最も効率的なのだ。
一方でウールと紫舟は悪魔からの依頼を果たすために私と行動している。依頼の内容は教えてくれなかったが、二人は私と行動することでその条件を満たせるようなのだ。私と行動するだけで条件を満たせる依頼とは何なのか、非常に気になるが…彼らも他言無用とのことなので聞いてはいなかった。
「では、やるか。早速周辺の警戒を頼む」
「はいはい」
街の中に入る前に、私にはやるべきことがあった。それは戦力を増やすことである。魔物である我々に現地で募兵など不可能なのだが、私には一つだけ方法があった。
私は地面に無数に転がっている衛兵の死体に近付くと、杖の先端を向けて魔術を使う。すると、その死体はゆっくりとした動きで立ち上がったのである。
「【死霊魔術】だっけ?結構便利ね」
「それ用にアイテムを用意していないからあまり強くはならんがな。それでも使い捨ての戦力になるならば十分だ」
私が使うのは【死霊魔術】だった。これまでは魔物を倒した時のドロップアイテムで入手する骨などから作っていたが、別に死体をそのまま不死にすることも可能である。
この方法で不死にしてしまうと思っていたよりも弱い上にドロップアイテムが得られない。基本的にアイテム欲しさに魔物を狩っているので、本当に困った時以外では使おうとすら思えなかった。
だが、目の前に転がっているのは剥ぎ取るつもりのない衛兵の死体である。戦力が少しでも欲しい今、使い潰しても良い敵の死体はまさにうってつけの素材と言えた。
また、街の住民を恐怖させることも出来るだろう。素材としては最高と言える。仲間達が倒した衛兵諸君には、もう一度奮闘してもらおうじゃないか。戦う相手はこれまで守っていた者達になるがね。
「エグいねー」
「イザームは鬼畜だね!」
「そんなに褒めないでくれよ。さあ、下僕共。人類を襲え。この街を混乱させろ」
「「「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」」」
生ける屍となって起き上がった衛兵達は、雄叫びを上げてから私の命令に従って動き始める。人類を襲えと命令したので、魔物以外の住民にも襲い掛かることだろう。
決して強くはないので返り討ちに遭うかもしれないが、街を混乱させられるのならそれで良い。この調子で不死を作りながら街を闊歩させてもらうとするか。
◆◇◆◇◆◇
イザーム達が崩れた城門から街中に足を踏み入れる少し前のこと。無惨にも破壊され、まだ砂煙が立ち込める瓦礫の上に立つ二つの影があった。
「あらあら、ギリギリで一番乗りね」
「クッソー!先に駆け出したのに負けたっ!」
「ははは、馬の方が速いのは当然だよ」
影の一つは邯那を乗せた羅雅亜であり、もう一つはタマである。急に始まった一番槍の栄誉を懸けた競走の勝者は、邯那と羅雅亜の二人に決定した瞬間であった。
鬼ごっこだけでなく競走の類いが大好きなタマは悔しそうに地団駄を踏むが、羅雅亜にも妻である邯那を乗せる馬として負けられない意地がある。僅差ではあったが、ここは羅雅亜の意地が勝利を引き寄せたと言っても過言ではなかった。
「瓦礫は飛んで越えられるから大丈夫だと思ったのに!そっちも飛べるなんて思わなかった!」
「翼がなくても飛べる魔物もいるってことだよ、タマ君」
「そういうこと…ね!」
瓦礫の上で暢気に会話している三人に向かって何本もの矢が放たれた。矢を放った者は油断と捉えたようだが、邯那は軽く方天戟を振って矢を斬り払い、羅雅亜は角で弾いている。彼女らは全く油断してはいなかったのだ。
それはタマも同じこと。彼は翼を広げた衝撃波で矢を吹き飛ばし、それを免れた一本も口に咥えている。それを見せ付けるようにバキリと音を立てて噛み折った。
「じゃあ今度は倒した数で勝負だ!頑張るぞ!とりゃーっ!」
「あら?それだと絶対に勝てない相手が二人ほどいるのだけど…」
「まあ良いじゃないか。わざわざやる気を削ぐようなことを言う必要もないよ」
「うふふ、それもそうね」
邯那と羅雅亜の夫婦は朗らかに会話しているが、二人の眼下で行われているのは戦いとも言えない蹂躙であった。城壁に囲まれている街の内側において、プレイヤーは衛兵に勝てない程度にまで弱体化する。仮に城壁が残ったままならば、乗り込んだ途端にイザーム達も弱体化していただろう。
だが、以前の戦争イベントでそれを知っているイザーム達は真っ先に城門とその周辺を破壊した。これによって城壁内における優位性が失われている。そうなれば純粋なレベルの差が露骨に出てしまう。全力を出せる高レベルのプレイヤーを前にして、衛兵達に出来ることはほとんどなかった。
「ペッ!よっしゃー!ガンガン殺るぞー!」
「急げ!ボスを一人にするな!」
「必要なアイテムは先に集めろ!考えなしに全部壊すぞ、あの人は!」
喉笛を噛み切った衛兵を放り捨てながら、タマは一人で街中へと突っ込んでいく。その後ろをようやく追い付いた『ザ☆動物王国』のメンバーが追いかけていった。彼らが焦る理由を聞いてしまった二人は、顔を見合わせて苦笑していた。
『ザ☆動物王国』のメンバーに遅れて他の者達も次々と崩れた城門を登っていく。二人は不足の事態に備えて味方がある程度登り終わるのを待つことにするのだった。
次回は3月28日に投稿予定です。




