戦争の予感(非イベント)
画像を投稿するだけのイベントで、何をどうすれば戦争にまで発展するのか。しいたけの話によると、その原因はとあるプレイヤーが投稿した一枚の画像であった。
その画像は何の変哲もないクランメンバーによる集合写真だった。そのクランはかなり有名で、攻略組とも呼ばれるトップレベルに位置する者達だったらしい。
それぞれが思い思いのポーズを決めている姿が映っているだけの、投稿された中でもありふれたものでしかない画像。こう言っては彼らに失礼だが、決して話題になるような秀逸なものではなかった。
しかし、そこに映っていたメンバーの一人が首から提げていたペンダントが問題になった。それは他のプレイヤーが住人から受注して苦労して緊急クエストの報酬であり、そこそこ良い効果を持つ装飾品だったらしい。
これが報酬を受け取ったプレイヤーが納得して譲渡したものだったなら、誰も何も言わなかったことだろう。しかし、悲しいことにそうではなかった。そのペンダントは奪われていたのだ…PK行為によって。
画像に映っていたクランはPKクランではなく、ペンダントを装備していた本人もPKを行った証である赤いアイコンにはなっていない。直接奪い取った本人ではないと思われる。だがPK行為によって奪われたアイテムを所有していると言うことは、手を下した者と彼の間に間接的だとしても何らかの繋がりがあるのは確実だった。
他のプレイヤーを襲うことから嫌われやすいPKと繋がりがあると言うだけで毛嫌いするプレイヤーもいるらしいが、冷静に考えればPKから有用なアイテムを購入しただけだろう。その時点ではここまで大々的な話になるとは誰も想像していなかった。
強奪されたプレイヤーはペンダントを提げていたプレイヤーに直談判しに向かい、適正な金額以上に対価を払うからそれを返して欲しいと頼みに行った。強引に迫るのではなく、低姿勢で頭を下げて懇願したらしい。しかし、その時の対応が悪かった。
「『これは自分がつい最近探索で得たものであり、言い掛かりをつけるのは止めろ』って突っぱねたらしいよ。いやぁ、言い方ってものがあるよねぇ?」
「随分と強気な言い方ですね…バレるとは思わなかったんでしょうけども」
アイリスは呆れながらそう言った。証拠がなければここで泣き寝入りするしかなかったのだろうが、実は証拠が存在していた。彼はペンダントを受け取った時、そのスクリーンショットを撮影して普通の掲示板に投稿していたのである。
「それ、画像を投稿していたせいで狙われたのではないか?」
「いや、どうやらそうじゃないっぽいよ。ほれ、これ見てちょ」
しいたけはそう言って私達に一枚の画像を見せる。そこに映っていたのは金色のチェーンで繋がれた美しいペンダントであった。乳白色の石には天使のレリーフが彫られ、縁を小さな宝石で装飾されている。どうやらこれが件のペンダントであるらしい。
そのペンダントは特徴など全くない木の机の上に置かれていて、持ち主が誰なのかわかる情報は何一つない。掲示板にもペンダントの効果などは記載していなかったし、どうやらPK行為によって奪われたのは偶然であるようだ。
何にせよ、証拠と言える画像と共に例のクランの対応についての話が暴露されると瞬く間に拡散した。ペンダントを奪われたプレイヤーには同情の、ペンダントを持っているプレイヤーには侮蔑や怒りのコメントが集まっている。どちらが『悪』なのかがハッキリしていると、『正義』を振りかざす人々の攻撃が苛烈になるのは常識と言っても過言ではないだろう。
これでもまだ戦争云々に発展するほどの話ではなかった。本当の問題はここからである。一連の事実からクランメンバーの集合写真が注目を浴びるようになったのだが…あれは奪われたアイテムだと言い出すプレイヤーが次々と現れたのだ。
一部は愉快犯だったようだが、本当に奪われたアイテムが映っていたと主張するプレイヤーが何人も現れることとなる。急展開に混乱していた時、とあるプレイヤーが自分の名前を堂々と曝した上で自分の知る真実を語ると言って掲示板に現れた。
それが無名のプレイヤーであれば、目立ちたがりが何か言い出しただけだと鼻で笑ったことだろう。しかし、そのプレイヤーは有名人であった。それも相当に悪い方向で。
「ここで知り合いの名前が出てくるとは…」
「知り合いってか、王様は友達って言ってもいいんじゃね?一緒に悪巧みしたんでしょ、ウスバちゃんとさ」
そう、真実を語ったのはウスバだったのだ。彼が語った話によるとPKプレイヤーの入手したアイテムを購入してくれる住人が複数存在しているらしい。言うなれば故買屋である。
仮に本当にPKと関わっていないとするならば、その住人を利用して購入した可能性が高いとのこと。ただし、故買屋は自分と同じ臭いがする相手としか売買を行わない。つまり、その居場所を知っている時点でそのプレイヤーはPKと関係があるに違いないと締め括っていた。
最強のPKと悪名を馳せているウスバの書き込みに対する反応は罵詈雑言も多かったようだが、住人の犯罪者やPKを狩る賞金稼ぎのプレイヤー達が事実であると肯定した。そのせいで強奪されたアイテムを自分で得たと嘘を吐いた画像のクランの立場は一気に悪くなった。
そこで謝罪するなり奪われたプレイヤー達に適正な金額で譲渡するなりすれば良かったのだろうが…彼らも引っ込みがつかなくなったらしい。全て自分達のアイテムであり、言い掛かりであるという主張を変えることはなかった。
「そこからプレイヤー同士の大規模な戦争に発展するのは急展開にもほどがあると思うがな」
レスバトルと言う名の罵り合いが続くかと思われたのだが、しびれを切らして直接的な行動を起こした者達がいた。強奪されたプレイヤーの中に同じ攻略組のクランがあり、知り合いのクランに声を掛けて奇襲を仕掛けたのである。相当頭に来ていたのか、随分と性急な行為だった。
彼らの拠点は完膚なきまでに破壊され、瓦礫の山となり果てた。攻略組にまでなると大きな拠点を複数用意しているようだが、拠点を破壊されたせいで多大な損失が出ている。その報復として奇襲したクランの拠点を破壊し返して…何を思ったか瓦礫の上で勝ち誇るようなポーズの画像を投稿したのである。
この挑発が契機となったらしい。現在、最初に奇襲を仕掛けたクランが音頭を取って討伐軍を募っている。目的は画像のクランの拠点の完全破壊と、強奪されたアイテムを取り戻すことだ。その際、拠点の物資は取り戻そうとしているアイテム以外は早い者勝ちとのこと。攻略組の物資という餌で釣っているのだろうが…これではどっちが悪党かわからんな。
相手は分かりやすい『悪』であり、大義名分の下に攻略組の拠点から略奪出来るのだ。しかも旨味があるとなれば参加する者達はいくらでもいる。今も続々と参加希望者が集まっているそうだ。
対する画像のクランだが、徹底抗戦するつもりのようだ。言い掛かりをつけて自分達から合法的にアイテムを奪おうとしているとして相手を非難し、こちらも敵から奪ったアイテムは自分のものにしても良いという条件で義勇兵を募っているらしい。
そして意外にもそれなりの数が集まっているようだ。ただし、こちらに着く者は彼らに大義名分があると思っている者はほとんどいない。実際、集まっている者達は天邪鬼なひねくれ者か、不利な戦いを楽しみたい酔狂な者か…PKプレイヤーくらいのものだった。
そして両方の軍団は戦争に備えて準備を開始しているらしい。装備を整え、消耗品を買い込み、それぞれの斥候職の者達による情報戦などが行われているのだ。
「PKが集まっている時点で答え合わせしているようなものじゃないです?」
「その通りなんだが、仕方がないんだろう。庇うつもりはないが、彼らにしてみれば相手こそ略奪者だ。なりふり構っていられないんだと思う」
「そこにウスバちゃん達が助けに来てるらしいよ。ウケるわ~」
「えぇ…?やりたい放題ですね、あの人達…」
しれっとウスバが率いる『仮面戦団』の者達は画像のクランの側で参戦するらしい。疑惑が確信に変わった原因はウスバ本人だろうに、図々しいにも程があるだろう。
画像のクランとしても思うところはあるだろうが、今は一人でも多く戦力を確保したいと思っているに違いない。私だったとしてもここはグッと我慢して戦力となってもらうだろう…全てが終わった後に余力があれば背中を狙うかもしれないが。
「個人的にはこうなって欲しいと考えてリークした可能性まであると思うぞ」
「いやぁ、それは考えすぎじゃろ?」
「そうであって欲しいがな…」
しいたけは否定的だったが、ウスバならやりかねないと私は思っている。何故ならウスバには私と共通の友人であるコンラートがいるからだ。
ウスバはコンラートに頼まれて情報をリークしたのではなかろうか?つまり、この戦争はコンラートが儲けるために意図的に引き起こされたのではないか?私はそう推測していた。
この戦争の準備をするために、両陣営は入り用な物資を買い込んでいる。コンラートがその商機を逃したとは思えず、十中八九儲けたことだろう。いや、まだ準備段階と言うことは現在進行形で稼いでいるのだ。
コンラートは商機を掴み、ウスバは強者と戦う機会を得られる。Win-Winの取引と言えるだろう。証拠は何もないが、事実に近いと思っていた。
何にせよ、ティンブリカ大陸にいる我々には全く関係のない話である。どんな結末を迎えるのか、楽しみにさせてもらおう。そんなことを考えながら我々は街へと帰還するのだった。
次回は1月19日に投稿予定です。




