オリジナル技を試そう その四
新しいレビューをいただきました。精進していきたいと思います。
リンが早期に発見し、正確な位置を掴んでから魔術による先制攻撃を成功させた。それによって燻り出された八匹の魔物は、いずれも怒りを露に突撃してくる。
その見た目はイヌかその仲間のようにみえるが、やはりその全身はメタリックだ。この環境なら当然とは言え、連中もまた命鋼の魔物なのだろう。それではさっさと【鑑定】してしまおうか。
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種族:命鋼砂狐 Lv63~68
職業:鋼狩人 Lv3~8
能力:【鋭牙】
【爪】
【筋力強化】
【防御力超強化】
【器用強化】
【敏捷強化】
【隠密】
【忍び足】
【奇襲】
【暗殺術】
【連係】
【聴覚鋭敏】
【潜砂】
【鋼毛】
【物理耐性】
【魔力捕食】
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命鋼砂狐?あれは狐の一種なのか。言われてみれば耳が大きいし、顔付きも犬とは少し違う気がする。生物に詳しくない私としては犬と言われたら『そんな犬もいるのか』程度にしか思わないだろう。
私の無知ぶりはどうでも良い。命鋼砂狐は全長二十センチメートルもないくらいと、決して大きくはない。レベルも60代と我々からすれば雑魚である。しかも私の先制攻撃によって三匹はダメージを受けているとなると…よし。
「リン、あっちの焦げた三匹はお前に任せる。なるべくフォローもするが、基本的には一人で倒せ。やれるな?」
「クルルッ!」
既にダメージを負っているのならば、リンの訓練相手になってもらう。このフィールドでは当然であるらしい【魔力捕食】の能力があるので、魔術師タイプである彼女とは相性が悪い。それはわかっているものの、やはり彼女には経験を積んで欲しいのだ。
私の考えがわかっているのかは不明だが、リンは短く鳴いてから空へと飛翔する。そして私が指定した三匹の近くに弱い魔術を放った。
ちょうど良く端に固まっていたこともあり、狙いの命鋼砂狐はそれに反応して追い掛けていく。さあ、我々は残りの五匹を手早く仕留めるか。
「カル、今回も前衛を頼む。アイリス、何匹まで捕まえられる?」
「最低でも三匹、上手く行けば全て捕らえてみせます!」
「わかった。カル、アイリスの拘束を避けた奴の相手をしろ。私は少し試したいことがある」
「グオオッ!」
カルの返事を聞きながら、私は大鎌を構える。私が試すのは武技と魔術を組み合わせたオリジナル技。私が大鎌を振りかぶると、刃が黒いオーラを纏い始める。これでこっちはいつでも行ける。さあ、どこからでも掛かってくるがいい!
「ガルルルル!」
「行きます!」
機敏な動きで駆け寄ってくる命鋼砂狐に向かってアイリスが触手を伸ばす。命鋼砂狐は当然のように回避しようとした。
しかし、彼女の器用さはクランでも飛び抜けている。複雑な軌道で触手を伸ばすことで五匹いる命鋼砂狐の内、四匹を縛り付けてしまった。
「グオン」
「ギャイィィン!?」
まだ動くことが出来た最後の一匹はアイリスの触手を噛み千切って仲間を助けようとしている。しかし、その前にカルが無慈悲にも前足で踏みつけてしまった。
機敏ではあってもそこまで力があるわけではないらしく、暴れているがカルを押し退けて下から逃げ出すことは出来ていない。よし、今のうちに試してみるか。
「死斬」
「ギャッ!?」
私は大鎌を勢い良く振り下ろす。私は非力な魔術師なので、金属の塊である命鋼砂狐の身体を深く傷付けることは不可能だ。しかしながら、武器の性能が良いこともあって刃がほんの少しだけその身体にめり込んだ。
その効果は劇的である。命鋼砂狐は短い断末魔と共にそのまま死んでしまったではないか。
これは【鎌術】の斬撃と【邪術】の死を組み合わせたもの。【鎌術】には即死させる武技が存在するが、どれも限定的な状況に限られてしまう。だが、こちらは触れるだけで低確率ながら即死させられるのだ。運任せではあるが、即死させるととても楽であった。
「次はこれだ…死突」
「ギャン!?ギャオン!ギャオン!」
今度は私のローブの裾から飛び出した尻尾の先端が次の命鋼砂狐の身体に突き立つ。これは【尾撃】の尾突に【邪術】の死組み合わせたもので、要は死斬の尻尾バージョンだ。
やはり非力な私では金属を貫けず、かすり傷にはなったものの今回は即死してくれなかった。命鋼砂狐は触手を千切ろうとしながら吠えている。ううむ、格下が相手とは言え確実に即死が発動するわけではない。頼り過ぎると痛い目を見そうだ。
「まあ、今は連発するのだが」
「ギャウッ!?」
私はもう一度死突によって命鋼砂狐を突く。すると今度こそ即死してくれたようでそのまま動かなくなった。
「ギャウギャウ!」
「グオォ!?」
「むっ!?」
私が即死のオリジナル技を試していると、カルが踏みつけていた命鋼砂狐に動きがあった。何と奴は踏みつけられたまま地面を掘って地中に逃げてしまったのだ。
きっと【潜砂】という能力の効果だろう。カルは珍しく慌てたように喉を鳴らし、私は急いで魔力探知を用いる。そうやって位置を掴んだ時、奴は地中を移動して…既にアイリスの足元に到達していた。
「アイリス!」
「ガルルルルル!」
「きゃあ!?」
私が叫ぶのと命鋼砂狐が襲い掛かるのはほぼ同時であった。急なことにアイリスは短い悲鳴を上げ、そんな彼女に命鋼砂狐は口を大きく開けて噛み付いた。
「ガウガウ!?」
「…びっくりしたじゃないですか!」
「ギャイィン!?」
しかし、レベルが20以上も下の魔物の噛み付きではアイリスの細胞壁は貫くことは出来なかったらしい。全くの無傷という訳ではなさそうだが、悲鳴を上げるほどの被害はなかったらしい。アイリスは素の防御力が高いのだ。
彼女は叫んだという醜態を曝したことを恥ずかしいと思ったのか、珍しく怒気を露にして噛み付いている命鋼砂狐へと戦鎚を何度も連続で振り下ろす。金属同士が激突する喧しい音を鳴らしながら、命鋼砂狐はバラバラになるまで砕かれてしまった。
剥ぎ取りのことを考えていない辺り、本当に恥ずかしかったようだ。私が苦笑していると、背後から断末魔の絶叫が聞こえてきた。驚いて振り向くと、そこではカルが捕らえられたままの命鋼砂狐を蹂躙しているところだった。
「グオオオオオッ!」
カルは私の次にアイリスのことが大好きだ。そんなアイリスを傷付けようとした魔物の仲間を許してはおけないのだろう。まだ生き残っていた三匹は、一匹は頭を噛み砕かれ、一匹は前足で首を握り折られ、そして最後の一匹は尻尾によって胴体を両断されていた。
魔術や武技の検証をしようとしたせいで少しヒヤリとしてしまった。アイリスに牙が届いてしまった原因は、どう言い繕っても私の慢心が原因だ。レベルが20以上違うからと言って油断してはならない。時々慢心してしまうのは私の悪い癖である。
「落ち着け、カル。アイリスも無事か?」
「あっ、はい。大丈夫です…取り乱してすみません」
「グルル…」
熱くなっていたアイリスとカルだったが、敵を始末したことで落ち着きを取り戻したようだ。この一戦は色々な意味で反省するべき点が多いものだった。
自分に呆れながらも、私は一人で戦っているリンに目を向ける。すると彼女は華麗に空を舞いながら優勢に戦いを進めていた。
「クルルッ!」
「ギャイイン!?」
魔術師タイプであるリンは魔力を捕食してしまう命鋼の敵と相性が悪い。そしてカルほどの膂力もないので力任せにどうにかすることも出来ない。そこをどう工夫するのかを考えて欲しかったのだ。
その解答をリンはしっかりと見付けていた。彼女は一匹の命鋼砂狐の首根っこに噛み付くと、そのまま高く飛翔する。そして空中で口を離すと、自由落下し始めた命鋼砂狐を尻尾で殴ったのだ。
命鋼砂狐は殴られた勢いのままに地面へと落ちていく。それは地上から上を見上げながら吠えていた残りの命鋼砂狐に激突した。
その結果を見ることすらせず、リンは急降下して命鋼砂狐を咥えると同じように空中から尻尾で叩き落とす。弾と化した命鋼砂狐は再び別の個体と激突していた。
二度も激突したとなると、これは偶然ではない。彼女が何をやっているのか、私には心当たりがある。それは【龍眼】による短時間の未来予知だ。きっと地上の命鋼砂狐が動く方向を見てから飛ばしているのだろう。私よりもよほど頭を使っているではないか!
武技や魔術を使っていないのでダメージはそこまでないのだが、自分もダメージを受けるリスクを減らしながら着実に削っている。時間はかかったものの、リンは一人で傷を負うことなく三匹の命鋼砂狐を倒すのだった。
次回は1月11日に投稿予定です。




