砂集めと遭遇戦 戦後のあれこれ
砂を掘っては樽に入れ、砂を掘っては樽に入れる。そんな作業を再開した我々だが、そんな単純作業を黙々と行うのは流石に退屈だ。作業をしながら雑談をしてしまうのは仕方がないことだろう。
「はぁ~。さっきの戦いでは何の役にも立たなかったでござる」
雑談の最中にため息と共にそんなことを口にしたのはネナーシであった。戦いが終わった直後からどこか元気がなく、落ち込んでいた様子だったのは知っている。その原因は本人も言っていた通り、命鋼狂鮫との戦いであまり活躍出来なかったかららしい。
確かにネナーシはあまり活躍出来ていなかったのは事実だ。彼が最も得意とする蔓を用いた拘束が通用しなかったのだから。そのことをとても気にしているようだった。
「相性が最悪だっただけですって。そこまで気にすることはないですよ」
「そーそー。このしいたけ様が保証してやろう!」
暗い声色のネナーシをエイジとしいたけが慰める。私も二人と同じく気にする必要はないと思っている。相性と言うものはどうしても存在するからだ。ただ、しいたけよ。慰めることを言い訳にして作業の手を止めるんじゃない。案の定、アイリスに脇腹をつつかれていた。
しかし、何を言われてもネナーシの雰囲気が明るくなることはなかった。きっと彼が求めているのは慰めの言葉ではなく、どうすれば良かったのかという解決案なのだ。私には妙案はなく、それ故に何も言えなかった。
「やはり武器系の能力を取得するべきでござろうか?しかし、今から能力のレベルをチマチマ上げるのは時間がかかるし…ううむ…」
「よっとォ…なァ、ネナーシよォ。お前、何で前に俺がやったみてェにやらねェんだァ?」
「前に?何の話?」
シャベルを地面に突き立てながら、ジゴロウはネナーシに尋ねる。前に、という言葉が気になったのかルビーがポヨンポヨンと跳ねて砂を樽に入れながら近付いた。
するとジゴロウは作業を続けながらエキシビジョンイベントのことについて語り始める。そこでジゴロウとネナーシの中身が入れ換えられたこと、そしてその時にジゴロウはネナーシのアバターで人型に擬態して戦ったことを教えた。
「ああすりゃァ縛る以外でも戦えるだろォ。殴ったり蹴ったりってな感じでよォ。殴った瞬間に表面を削られちまうかもしれねェが、ただ削られるよりゃマシだろォ?何でやらねェんだァ?」
「あー…ジゴロウ殿。あれは拙者には非常に難しいのでござるよ」
ネナーシ曰く、彼の擬態はシステムに頼っている部分が多いらしい。擬態可能な姿が幾つか保存することが可能で、その姿ならば問題なく動くことが出来るそうだ。
一番のお気に入りはペリカンっぽい鳥の姿で、その他も様々な動物の姿で埋まっているのだと言う。先程の戦闘では擬態していなかったが、仮に擬態していたとしても飛び掛かって触れた場所から鮫肌で削られていただろうから関係はあるまい。要は擬態した拳による打撃など、蔓による拘束に頼らない攻撃方法がないことが課題なのだ。
どうして保存する姿に人型を選ばなかったのかと言えば、単純に魅力がなかったからだ。武器を使う能力をネナーシは取得していないし、仮にこれから取得するとしても蔓のまま武器を握って振れば良いので問題ない。それは他の動物も同じこと。そもそも利点がほとんどないのである。
マニュアルでの擬態も可能なのだが、マニュアルの擬態を維持しながら戦うのは難易度が非常に高いそうだ。むしろ、それをぶっつけ本番でやってしかも英霊と渡り合ってみせたジゴロウには驚愕したのだとか。
やはり、ジゴロウは色んな意味で化物であるらしい。少なくとも普通のプレイヤーに同じことは出来ないだろう。だが、実際に擬態を成功させてそれを維持していたジゴロウならばネナーシにアドバイスも出来るのではないだろうか?
「ジゴロウ。擬態した時に意識したこととかはあったのか?それがあるのならネナーシの参考になると思うのだが…」
「そうだなァ…じゃあネナーシよォ。一回俺がやったみてェに人型になって見てくれやァ」
「承知にござる」
ジゴロウは何かを考えた後、ネナーシに擬態してみろと言い出した。彼は指示に従って、マニュアルによる擬態を行ってみる。すると一瞬で蔓の塊が大雑把な人型へと変貌した。
大雑把とはどういう意味か言うと、手足の指や顔などの造形は一切考慮されていないのである。指がない球形の手と円盤形の足という某ネコ型ロボットのような手足に、顔のパーツが全くないのっぺらぼうの顔。本当に形だけを模しただけなのだ。青々とした藁人形と言えば良いのだろうか?正直、かなり不気味である。
見た目はともかく、動くのならば意外と大丈夫なんじゃないかと思ったのも束の間、ネナーシが歩こうと足を上げた瞬間に彼のアバターはベチャリと潰れてしまう。再び人型になったのだが、やはり足を上げると奇妙な動きをしてから歩けずに倒れてしまった。
「うぐぐ、何度やってもこうなるのでござるよ」
「何て言うか、グニャグニャっすね。豆腐で出来た人形的な感じっす」
豆腐とは言い得て妙である。ただ立っているだけでも左右に揺れていて、とても不安定だと言うことが誰の目にも明らかだった。あれを動かすのは相当に難しいだろう。よくもまあジゴロウは戦えたものだな。
ただ、苦労するネナーシを見るジゴロウは心底不思議そうであった。あのなぁ、誰も彼もお前と同じくらい器用に身体を動かせる訳じゃないんだぞ?
「おいおい、それじゃァどうやったって無理だぜェ」
「何ですと?」
「ガワだけ作っても意味ねェのさ。大切なのは骨なんだよなァ」
ジゴロウが擬態した時、蔓で大まかな骨格を作ってから残りの部分を筋肉のように骨格の周囲に巻き付けていたのだと言う。骨格を作ると言っても蔓の強度は変えられないのだが、ジゴロウは縄を編むようにして強度を確保したらしい。
そんな細かいことが出来るとは知らなかったし、その状態をキープして戦っていたとは思わなかった。しかもあの時、ジゴロウは腕を増やしたり伸ばしたりしていたはず。身体のコントロールに関するセンスがずば抜けているようだ。
「骨を作る…編んで強度を…こうでござるか?」
ネナーシはジゴロウのアドバイスを反芻しながら再び人型に擬態する。するとシルエットは先程と同じであるが、フラフラと頼りない雰囲気はなくなっていた。そして恐る恐る歩き出すと、潰れることなく砂の上を歩くことに成功した。
「おおおおお!凄い!凄いでござるぞ、ジゴロウ殿!否、ジゴロウ師匠!」
「大したこたァ言ってねェよ。後は慣れりゃァ体格も弄れるようになるぜェ」
興奮気味のネナーシは人型になったまま走ったりその場でジャンプしたりと激しい運動を行っている。それなのに人型の姿が崩れる様子はない。ジゴロウのアドバイスのお陰で擬態の幅が広がったようだ。これからはこの姿で行動することが増えるかもしれないな。
ネナーシはついさっきまでの落ち込んでいた姿が嘘のようにイキイキとした様子でシャベルを振るっている。無論、その姿は人型のままだった。
「エキシビジョンイベントと言えば、偶然だが私と一緒に挑戦した全員が揃っているな」
「あっ、本当ですね。ルビー達はどんな英霊が相手だったんですか?」
「えっと、武器と発言が色々と気持ち悪い半魚人みたいなオジサンだったよ」
ルビーが言うには彼女達の相手は魚の鱗や鰭を持つ半魚人だったそうな。勝利条件は我々と同じ制限時間まで生き残ること。我々が戦った三人とは違って一人だった代わりに、フィールドは水中という完全に向こうのテリトリーでの戦いを強いられたそうだ。
水中で呼吸出来るようになる装備など準備していなかったものの、特別措置としてイベント中だけは呼吸を始めとした水中における制限が取り払われていて戦うこと事態は普段通りに行えたらしい。移動と同時に詰むことになりかねないので、その辺りは配慮してもらって当然だ。
「どんな戦い方だったんだ?」
「七甲に似てたっす。【召喚術】で喚び出した魚とかをけしかけて来たっすね」
「それだけじゃなくて、魚を武器として使ってたよ。頭の先が三叉槍っぽくなってる細長いサメがメイン武器で、投げナイフっぽいイワシやハリセンボンを投げたりイカとかタコとかの墨を煙幕にしたりね。色んな召喚獣を使いこなしてたよ」
「ほー!そないなことが出来るんか。参考にさせてもらうわ」
戦い方が似ていると言われた七甲は興味深そうにルビー達の話を聞いていた。【召喚術】を極めれば武装から消耗品まで揃えられるらしい。そのためには様々な用途に使える魔物と遭遇して召喚可能な状態にし、知識を蓄え、状況に応じて使い分ける応用力が必要になる。かなり上級者向けの戦術だ。
それにしても、【召喚術】のスペシャリストが現れたと言うのは興味深い。我々の場合は【魂術】を極めた者だけが使える魔術を体験することになったし、あのイベントは一つの究極を体験させるためのものだったのかもしれないな。
「さっき気持ち悪いって言ってたけど、それは何で?魚が苦手なの?」
「そっちは大丈夫だったよ。ちょっと生臭いのは辛かったけど」
「一番キツかったのはそこじゃないんすよね。あの英霊、一々キザったらしい台詞で自画自讃しながらポージングをしてきたんすよ…魚顔のくせにナルシストだったんす」
それは…何と言うか色々と濃い英霊だったようだ。私達と戦った英霊も個性的な見た目と性格だったし、英霊とは全員があんな感じなのかもしれない。観覧席から見た他のプレイヤーの挑戦を担当した英霊も個性的だったし、英霊とはそう言うものだと思った方が良さそうだ。
何はともあれ、今やるべきは砂の採集だ。我々は雑談に花を咲かせながらも、きっちりと砂を掘り続けるのだった。
次回は11月24日に投稿予定です。




