砂集めと遭遇戦 その三
私とジゴロウは協力して命鋼狂鮫を討伐した。復活する兆しもないので、確実に倒したと言っても良いだろう。砕け散った破片はドロップアイテムとして持ち帰ることが出来そうだが、今はそれどころではない。今も戦っている仲間達の援護が優先だ。
「グルオオオオオッ!!!」
「キューッ!」
「おおっ!ヒビが入ったじゃん!」
「この隙を逃しちゃダメですよ!」
最も順調だったのはカル達であった。カルがその有り余る筋力と爪牙によって力ずくで押さえ付け、その頭の上にいるリンが魔術を連射している。リンの魔術は威力がまだまだ低いので焼け石に水であるが、アイリスとしいたけによる攻撃が効いていた。
しいたけが武技を使って投擲したガラス瓶がぶつかると、中に満たされていた液体が撒き散らされる。それは金属を腐食させる酸か何かだったらしく、命鋼狂鮫の表面が煙を上げて融解し始めた。
腐食して柔らかくなった場所に、アイリスが振り回す鎚が激突する。何度も何度も打ち据えられたことでそこから亀裂が入った。その亀裂にカルは爪を滑り込ませると、それを拡げるべく爪をねじ込んでいる。金属が軋む嫌な音と共に亀裂は少しずつ大きくなっているので、じきに倒すことが出来るだろう。
「むむっ、ボクの攻撃力だと傷付けるのがやっとだよ」
「自分の矢は…行けるっすね!その傷を広げれば良いっすよ!」
「うむうむ。のびのびと戦うが良いぞ、二人とも」
源十郎達は即座に片付きそうではないが、着実にダメージは与えているらしい。源十郎が体当たりや噛み付き、鰭による斬撃を全て大太刀で弾いて隙を作り出している。相変わらずの達人芸だが、その動きには余裕があった。きっと攻撃する役目はルビー達に一任しているのだろうな。
そして攻撃を任されているルビーとシオは、源十郎の作り出した隙を逃さずに攻めている。今はシオの矢が穿った傷をルビーの短剣が広げており、ペース自体はゆっくりだが、このまま危なげなく倒せるだろう。
「うっ、うおおお!?腕が!腕がもげるぅぅ!」
「ぎゃあああ!?食われたぁぁぁ!?」
「召喚獣が食べられたくらいでゴチャゴチャ言わないでよ…ね!エイジの腕は…一回千切られたことあるし大丈夫でしょ」
「大丈夫な訳がないでしょうに。回復します」
「胴体すらも蔓を引きちぎるとは…鮫肌のせいでござるか。これは天敵かもしれませぬなぁ」
最も苦戦しているのはエイジ達四人組だった。エイジが一人で防ごうとしているのだが、それが非常に難しいようだった。噛み付きだけでなく体当たりと鰭による斬撃にも警戒せねばならず、しかも砂に潜って逃げることも自由自在なのだ。
一人で対処し続けるのは無理だろう。今は一匹の体当たりを盾で殴り飛ばして防いだタイミングで、下から襲われて武器を持つ右腕に噛み付かれていた。
そしてエイジが盾で殴った一匹に接近していた七甲の召喚獣がまとめて食い殺されてしまう。召喚獣は魔術の産物なので、【魔力捕食】の格好の餌食だ。きっとご馳走に見えたことだろう。
食べられる姿を見て悲鳴を上げる七甲だったが、兎路は取り合わずに召喚獣を食べている命鋼狂鮫の腹部を切り裂いた。以前に仙人掌型の命鋼の魔物を斬った時もそうだったが、彼女の炎をまとわせた剣は相性が良いらしい。見た目よりも融解温度が低いのかもしれないな。
逆に相性が悪いのはネナーシだろう。彼は蔓による拘束を最も得意とするのだが、それがほぼ無効化されているのだ。口に差し込めば牙に噛み千切られ、鰭は巻き付く前にスパッと斬ってしまい、胴体もザラザラした鮫肌のせいで削られる。どこにも巻き付けることが出来ず、本領を発揮出来ていなかった。本人の言う通り、天敵と言っても良いだろう。
「エイジに噛み付いている個体から倒そう。魔術を囮にするさっきの戦法を試すぞ」
「はいよォ、兄弟ィ!」
私が作戦を伝えると同時に砂を蹴ってジゴロウは駆け出した。私は【浮遊する頭骨】を移動させてから、エイジに噛み付いている個体の近くに適当な魔術を放つ。すると本能に従って命鋼狂鮫は口を放して魔術を食らった。
「ぶん殴れェ、エイジィ!」
「はっ、はい!」
いつの間にか命鋼狂鮫の背後に回り込んでいたジゴロウは、やっと腕が解放されたエイジを怒鳴るようにして命令する。兄弟の命令に反射的に従ったエイジは、その場で力任せに握っていた斧を横薙ぎに振った。
斧が激突するのに合わせて、兄弟は背後から命鋼狂鮫に前蹴りを食らわせる。腹部からは斧、背部からは蹴りと強力な攻撃に挟まれては金属の胴体でも耐えることは出来ない。命鋼狂鮫は胴体の中央辺りで真っ二つに砕けてしまった。
二匹いたからこそ苦戦を強いられていたのだから、一匹倒してしまえば後はもうどうにでもなる。エイジは兎路によって傷だらけにされた命鋼狂鮫に突撃し、盾で殴ってから斧を振り下ろして刃を半ばまでめり込ませた。
「パクらせてもらうで、ボス!」
攻撃に使おうと思っていた召喚獣を食われて叫んでいた七甲だったが、私のやり方を見て召喚獣を自在に動く囮として運用するように発想を切り替えたらしい。エイジの斧から逃げようとする命鋼狂鮫の前を旋回するように飛ばせることで捕食の本能を刺激して逃げないようにしていた。
そうやって動きが止まったところに、兎路が怒濤の追い討ちを仕掛ける。炎の斬撃はついに命鋼狂鮫をバラバラの金属塊に変えてしまった。
兎路がトドメを差した時には、既に他の仲間達も戦いを終えている。カル達と戦っていた個体は原形がわからないほどグチャグチャにされていて、しかもジュウジュウと刺激臭を放つ煙を上げていた。薬品とカルのパワーが合わさった結果なのだろうが、もう少し綺麗に倒せなかったのだろうか?
一方で源十郎達が倒した個体はある意味最も原形を保った形で討伐されている。シオが穿った傷をルビーが短剣で広げ、そこを源十郎が大太刀で正確に斬ったらしい。ツルリとした綺麗な切断面は鏡のように弱い陽光を反射して光っていた。
「どうやら片付いたらしいな。ルビー、おかわりは来ているか?」
「ううん、これだけだよ。一安心ってところだね。一応、警戒は続けておくよ」
「ありがとう。助かる」
連戦はしなくても良さそうだ。私達はルビーに軽く礼を言ってから作業を再開する前に、素材を剥ぎ取ることにした。もちろん、その作業を行うのはアイリスとしいたけの二人である。生産職プレイヤーの方が剥ぎ取ったアイテムの品質が上昇するのはほぼ間違いないとされているからだ。
「ほうほう、こうなるんだねぇ」
「はい、どうぞ。【鑑定】してみて下さい」
剥ぎ取ったアイテムを一人で観察しているしいたけを尻目に、アイリスは剥ぎ取ったアイテムを自分でも【鑑定】してから渡してくれた。私はありがたく頂戴すると、早速【鑑定】を行ってみる。その結果は以下の通りだった。
――――――――――
命鋼狂鮫の牙 品質:良 レア度:S
鮫を模して成長した命鋼。その鋭い牙。
形状は鮫の牙にそっくりだが、全て命鋼で出来ている。
魔力を吸収して内側に溜め込む性質を持つが、容量を超えた魔力は吸収出来ない。
研ぐ必要がないほどに鋭く、様々な用途に用いることが出来るだろう。
命鋼狂鮫の刃鰭 品質:良 レア度:S
鮫を模して成長した命鋼。その刃物のような鰭。
研がれた刃物のように鋭く、そのままでも武器として利用出来るだろう。
命鋼狂鮫の楯鱗皮 品質:良 レア度:T
鮫を模して成長した命鋼。そのザラザラとした皮膚。
尖った細かい無数の楯鱗がびっしりと生えており、触れるだけで金属すら削られる。
かなり硬質であり、防具や盾の素材として利用出来るだろう。
命鋼のインゴット 品質:優 レア度:C
様々な生物を模して成長する命鋼のインゴット。
魔力を吸収する性質は失われているが、豊富な魔力を蓄積可能。
あらゆる属性の魔力と親和性があり、特定の属性を有する金属の素材となる。
――――――――――
牙と鰭が取れるのは予想通りだが、鮫肌こと楯鱗皮というアイテムは興味深い。アイリスならば防具だろうが盾だろうが、いい感じのアイテムに変えてくれることだろう。
それと命鋼のインゴットと言うのも面白い。魔術や武技に含まれる魔力を吸収してしまう凶悪な性質こそ残っていないものの、様々な属性の魔力を蓄積させられるので強力な武器の素材になりそうだ。もっと数が用意出来たら、また新しい杖でも作ってもらおうかな。
「楯鱗皮は薬品で腐食させて倒した個体からは出ませんでした。倒し方が重要なアイテムっぽいですね」
「ああ。能力や特徴も含めて共有しておこう。同じ魔物と遭遇する可能性は十分にあるのだからな」
最初に魔術と武技を食べられた時には驚いたが、それを囮にする戦法を知っていれば与しやすい相手である。それにドロップアイテムも美味しい方だ。頭数がいないと危ないが、積極的に戦っても良い相手と言えた。
何はともあれ、作業を中断せざるをえない戦いは終わった。また襲われる前に作業を終わらせてさっさと帰ろう。我々は再び砂集めの作業に戻るのだった。
次回は11月20日に投稿予定です。




