砂集めと遭遇戦 その二
砂の中から現れる金属の鮫。ジゴロウを食らおうとした一頭と周囲を囲む四頭を合わせて五頭の鮫と戦うことになった。さて、どうしたものか。
「飛んで逃げるのって無理?」
「無理だ。少なくとも数人は残さなければならん」
戦闘が苦手なしいたけは早速逃走しようと言い出したが、それは不可能だ。私を含めて飛行可能な者は何人かいる。しかし、一度に飛べない仲間達全員まとめてを運ぶことは出来ない。それはエイジやアイリスのように重量のある仲間がいるだけでなく、人数もそれなりに多いからだ。
また、撤退するとなれば行き先はシラツキになる。現在のシラツキはかなり高い位置で停止しており、飛べない者達を抱えた状態でそこまで一瞬で到達することは出来ない。我々のクランで最も重いエイジがいるので、かかる時間はどうしても長くなるのだ。
つまり、ここに残した仲間達は往復して戻ってくるまで耐え続けなければならない。そのくらいなら全員で戦って仕留めた方が手っ取り早いのだ。
「前衛組は円陣を組め。後衛組はその内側へ。ルビー、真下にも注意を払ってくれ」
「了解!二回も奇襲させないよ!」
ジゴロウを奇襲した時のように、我々の真下に潜って噛み付くことも可能である。注意を怠ってはならない。ルビーのことは信頼しているが、別のことに意識が割かれるかもしれない。私も魔術での探知を小まめに行おう。
少しずつ包囲を狭めていた鮫の群れだったが、一定の距離になると同時に襲い掛かって来た。五頭の鮫を受け止めるのはジゴロウ、源十郎、エイジ、カルの四人である。人数がこちらの方が少ないので、誰かが二頭受け止めねばならない。その役割を買って出たのは、我がクラン最強の盾であった。
「オオッラァ!」
「ぬぅん!」
「ガルルルル!」
「ふぅんっ!」
ジゴロウが口を開いて突っ込んで来る鮫の鼻先を殴り付けて勢いを殺し、源十郎が四本の腕で握った長大な刀を振り上げて弾き飛ばし、カルは上から覆い被さって頭部の辺りに噛み付き、エイジは二頭の突撃を受け止めて見せた。
四者四様の方法で迎撃した所で、ダメージを与えることが守られた我々の役割だ。私を含めた仲間達が魔術や武技によって反撃していく。しかし、その際に思いもよらぬことが起きていた。
「何!?」
「魔術と武技が、食べられた…!?」
私達の攻撃の幾つかを、目の前の鮫は食べてしまったのである。胴体や鰭など口以外の部分に当たった魔術や武器そのものによる物理攻撃は効いているので、無敵という訳ではないらしい。
しかし、魔術や武技を食べられたことへの衝撃は大きかった。私のように魔術を使うのが前提となる者にとっては天敵であるし、戦士にとっても武技が無効化されるとなれば攻撃を躊躇ってしまう。
「シャアアアッ!ボサッとしてんじゃねェぞォ!」
「然り。無効化されるとわかっておろうとも、攻撃せねば永遠に倒せんわい」
「キュウウウッ!」
「ふん!ふん!ふんがっ!」
そんな我々を叱咤したのはジゴロウだった。源十郎も優しげな口調で攻めるのを止めてはならないと諭す。その間も力でねじ伏せているカルの上に乗っているリンは魔術で攻撃し、エイジは盾の後ろから一心不乱に斧で鮫を横殴りにしていた。
二人の言う通り、我々が手を緩めてはならない。鮫を受け止めている兄弟達の方が必死なのだ。食われるとしても攻撃し続けるべきである。
「皆、胴体を狙って攻撃だ!近くのメンバーが押さえている鮫を狙え!」
「わかったっす!」
細かく指示を出す余裕がないので、私はかなり大雑把なことを言った。しかし、仲間達にはそれで十分であった。源十郎の援護はルビーとシオが、二頭を受け持ったエイジの援護は兎路と七甲とネナーシが、カルの援護はアイリスとしいたけが努めることになった。
残ったのは私とミケロだが、ミケロは全体の回復役だ。そうなると私の役目はジゴロウの援護を努めることになる。最初に全員を【付与術】で強化した後、私は慌てずに【鑑定】を行った。
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種族:命鋼狂鮫 Lv84
職業:狂戦士 Lv4
能力:【刃牙】
【刃尾撃】
【刃鰭】
【筋力超強化】
【防御力超強化】
【体力超強化】
【敏捷強化】
【土魔術】
【隠密】
【忍び鰭】
【奇襲】
【暗殺術】
【連係】
【振動察知】
【砂泳】
【鮫肌】
【物理耐性】
【魔力捕食】
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種族名は命鋼狂鮫で、レベルは我々と同格の80越え。ジゴロウが戦っている個体しか【鑑定】しなかったが、特別に大きな個体はいなかったのでどれも同じだろう。レベルに差があるかもしれないが、誤差の範囲だと思われる。
このラインナップから考えて、我々に気付かれずに接近したのは【忍び鰭】で、魔術や武技を食らったのは間違いなく【魔力捕食】という能力だろう。攻撃方法は物理に偏重していて、魔術はほぼ使えないようだ。牙はもちろんのこと、鰭も刃と化しているらしい。全身凶器のような魔物だな、こいつは。
「援護する。鰭にも気を付けろよ、兄弟」
「はいよォ!」
ジゴロウに殴り飛ばされた命鋼狂鮫は、再び砂の中を泳いで突撃してくる。砂から外に出ている背鰭がザリザリと音を立てて砂をかき分けながらこっちに迫るのはジゴロウ越しでもかなり恐ろしかった。
「シャラァ!」
「はあっ!」
砂を撒き散らしながら飛び出した鮫の鼻先をジゴロウはヤクザキックで蹴り飛ばし、私は伸ばした尻尾と大鎌による飛斬で攻撃する。両方とも直撃したのだが、所詮は魔術師でしかない私の筋力では防御力にも優れる命鋼狂鮫に痛打を与えることはできなかった。
私程度の物理攻撃は通用しないらしい。それなら別の方法を試すだけだ。私は自分を叱咤してから【浮遊する頭骨】を蹴り飛ばされた命鋼狂鮫の真上から魔術を当てるべく移動させた。
魔術を食べる相手だが、口は一つしかない。胴体などに当たった魔術は無効化されていなかったことから、あくまでも【魔力捕食】…食べなければならないのだ。
再びの突撃に対して牽制すべく二つの方向から魔術を連射すると、命鋼狂鮫は驚きの挙動を見せた。まだジゴロウまでは離れていたと言うのに、回避するのではなく砂から飛び出して魔術を食べたのである。こいつ、ひょっとして魔術を食べることを何よりも優先するのか?試してみるか。
私は【浮遊する頭骨】から命鋼狂鮫に当たらない軌道で上から魔術を放つ。すると奴はその場で飛び出して魔術を捕食した。どうやら奴らは【魔力捕食】を何よりも優先していると考えて良さそうだ。
それならば戦い方はいくらでもある。それこそ魚類を討伐するのに最も相応しい方法、釣りで倒してやろうじゃないか。
「兄弟、目の前で釣り出すから思い切りぶん殴れ」
「ハッハァ、任せろォ!」
ジゴロウは私を信頼しているのか、その場で腰を落として弓を引き絞るように腕を引く。回避することを考慮していない、拳を叩き込むことだけを考えた構えであった。
私に信頼を寄せてくれるのは嬉しいが、その分責任は重大である。落ち着け。タイミングを見誤るな…ここだ!
「今だ!」
「シィッ!」
私は合図すると同時に上空から魔術を放つ。それに釣られて命鋼狂鮫は飛び出した。それはジゴロウの目の前であり、無防備な腹を兄弟に曝すことになる。その好機を逃すジゴロウではない。彼は握り締めた拳を真っ直ぐに突いた。
ジゴロウの拳は命鋼狂鮫の腹部を突き破り、手首の辺りまでめり込んだ。命鋼狂鮫は拳から逃げようと身体を動かすが、試しに【浮遊する頭骨】から魔術を放つとそれを食べようと口を開閉して牙をガチガチと鳴らしていた。
こんな状態でも【魔力捕食】を優先しようとするとは、執着と言うよりも本能的な行動と考えた方が良さそうだ。背面に当たるように放った魔術を食べることは出来ず、捕食を優先したせいでジゴロウの拳は抜けていなかった。
「余所見してんじゃねェぞ、このド阿呆」
どっち付かずになった者に勝利はない。冷たく言い放ったジゴロウは、突き刺さった拳が燃え上がると同時に、激しくスパークするほど凄まじい電流を流し込む。炎と雷、ジゴロウの代名詞とも言える攻撃だ。
拳の周囲が溶解すると同時に全身に電撃が走り、拳を中心とした放射状にヒビが入っていく。やはり口以外からは魔力を捕食出来ないのだろう。数秒後、獰猛な捕食者だった命鋼狂鮫はジゴロウの放つ炎と雷によってバラバラに砕け散り、ただの金属塊となるのだった。
次回は11月16日に投稿予定です。




