素晴らしき秋の一面・動 その十三
着地の直後に襲われるも逆に仕留めた私だったが、全く気を抜いてはならない状況にいる。私が仕留めたロボットの背後から近寄ってくる別のロボットがいたからだ。
そのロボットは二足歩行タイプの脚を使ったバランス型らしい。全てにおいて平均的な性能のパーツを採用しており、両腕にライトマシンガン、両肩には小型のミサイルポッド、背中には増設ブースターを装着している。それなりの機動力とそれなりの火力を両立させたバランス型と言って良いだろう。
そのロボットは私を見るや否や、両腕のマシンガンを連射しながらミサイルを斉射して来る。獲物を横取りされてご立腹のようだ。
「悪いことをしたとは思うがね、罰ゲームがかかっている以上は私も負けられん!」
私は脚部のタイヤを全速力でバックさせつつ、右腕のライフルと右肩のチェーンガンを撃ちまくる。向こうは私をロックオンしているようだったが、それは私も同じこと。黙ってやられはしないのだ。
だが、敵もさるもの。ジグザグに動いて銃弾を回避しようとしつつ、マシンガンとミサイルを撃ち続ける。私は盾でそれを防ぐが、全てを防ぐことは出来ない。盾をすり抜けた銃弾と小型ミサイルの爆風がロボットにダメージを与えていた。
「おおおっ!?爆風でこうも揺れるとは…!だが、効かん!効かんぞ!ふははは!」
ただ、私は防御力を重視してロボットを設計していた。威力の低いマシンガンや小型ミサイルの爆風でコクピットは揺れるものの、受けるダメージは微々たるもの。しかも盾のお陰でその半分以上を防いでいる。焦る必要は全くなかった。
逆にライフルとチェーンガンを完全に回避することは出来なかった敵はそれなりにダメージを負ったらしい。バランス型だからこそ撃墜されていないが、バランス型故に回避し切れなかったのだろう。徹底的な防御も完璧な回避も出来ないのは、バランス型の宿命と言えた。
想定外の激しい反撃によって冷静さを取り戻したのか、ロボットは背中のブースターを噴射して逃げ始める。タイヤの脚部なので地上では以外と速度を出せるものの、バランス型の機動力には及ばない。このままならば逃げられてしまうだろう。
「逃がさん!」
私は両手の親指で同時にスイッチを押す。すると私の背中にある大型ミサイルポッドを斉射する。ロックオンする前にぶっぱなしたので、ミサイルは集弾せず、広がるように飛んで行った。
散らばったミサイルは道路やビルに着弾し、それと同時に爆発する。道路は深く抉れ、ビルは倒壊してしまう。それを見た敵は、巻き込まれる前に真っ直ぐに逃げることを選択した。
「真っ直ぐ逃げたくなるよなぁ?知ってたよ」
それは私の狙いでもあった。今度は左肩の無反動砲を発射する。後方からガスを噴射して飛んで行った巨大な徹甲榴弾は敵のロボットに直撃して、装甲に突き刺さってから激しく爆発した。
爆風によって飛ばされた細かい破片が装甲を叩き、カンカンと小気味良い音を立てる。撃破数もちゃんと増えているし、この調子で撃破を続けて行きたいものだ。
「さて、十分に警戒しながら進も…う?」
私がタイヤを動かして前進しようとした時、後ろで何かが動く音がした。上半身を反転させて後ろを向くと、そこには両腕に鉤爪を着けただけのシンプル極まりないロボットが…ジゴロウのロボットが立っていたのである。
悪い予感がした私は盾を掲げてライフルを構える。それが合図であったかのようにジゴロウのロボットはブースターを噴射してこちらに向かって猛然と前進を開始した。うわっ!速い!さっきのロボットよりもかなり速いぞ!
私はライフルとチェーンガンを連射するが、ジゴロウは大きく上へ跳んで回避する。それを追い掛けて射撃しようかと思ったのだが、ジゴロウを良く知る私はそれを選ばずに急いで前進した。
「あ、危なかった…!」
背後は崩れたビルで埋まっていることを考慮して前進したのだが、その判断は正しかった。大きくジャンプした後、ジゴロウは鉤爪を前に突き出した状態で加速して突っ込んできたからだ。
もしもあそこで足を止めて射撃することにこだわっていたら、盾ごと貫かれて撃破されていたかもしれない。再び上半身を回転させてジゴロウの方を向き、私は無反動砲を一発発射してから後退していく。着弾と同時にジゴロウがいた辺りが爆発したが…爆風の中からやはり凄まじい勢いで飛び出して来た。
怖い怖い怖い!メチャクチャ怖い!声は聞こえて来ないけども、きっとコクピットの中でいつもの凶悪な笑みを浮かべていることだろう。とにかく近付かせないことが重要だ。私は後退しつつ、チェーンガンを連射した。
「げっ!曲がり角か!」
私がいたのはあまり荒れていない道路だったが、後ろをチラリと確認すると丁字路にぶつかってしまう。曲がらなければビルに突っ込み、動きが止まったところを鉤爪で貫かれる。それだけは避けたい。
減速せずに曲がれるか?いや、曲がらなければどちらにせよ撃破されるのだ。無理やりにでも曲がるしかない!幸いにも『競龍』で急カーブのために磨いた技術を応用出来る。やるしかない!
「ここっ…がががががっ!?」
私は丁字路に差し掛かった瞬間に、左腕に装備している盾を近くのビルに激突させる。するとそこを支点にして急カーブを曲がりきることに成功した。
ただし、そのせいでコクピットは大きく揺れてしまう。私は歯を食い縛ってその揺れに耐えながら、後退を続ける。ジゴロウのことだ、こんな小細工だけで見逃してくれるほど優しくはないだろう。
「やっぱりな!これでも食らえ!」
予想通り、ジゴロウのロボットは追撃し続けている。曲がらなければ私は背中からぶつかっていただろうビルに鉤爪を突き立てたジゴロウだったが、そのビルを蹴って鉤爪を引き抜くと再び猛然と私を追い掛けてきたのである。
私は逃げながらチェーンガンと無反動砲、それに加えてライフルを撃ちまくる。しかし、ジゴロウはまるで弾丸の軌道が見えているかのような動きで回避している。無反動砲の爆風でダメージは受けているようだが撃破するには至らない。
「うおおおっ!来るなああぁ…あぁ?」
後退しながら乱射していると、私は道の先にあった開けた場所に出てしまった。そこはビルが倒壊し、その瓦礫すらも破壊され尽くした更地に近い場所。今も十人を超えるプレイヤーが銃撃戦を繰り広げる激戦区であった。
そんな場所に勢い良く飛び出してしまった私は、当然のように銃弾の嵐に襲われる。上下左右から降り注ぐ銃弾に対して盾を構えつつ、急いで辛うじて残っている遮蔽物…一階部分だけが残った大型の駐車場の中に隠れた。
ギャギャギャギャギャ!
逆にジゴロウの方は私に向かって銃口を向けていたロボットに襲い掛かっていた。左右を合わせて十本の鉤爪がロボットを千々に切り裂く。廃車のようにグチャグチャになったロボットの残骸が地面に転がっていた。
駐車場の中に隠れた私は急いで体力の残りを確認する。げっ、もう半分を下回っているじゃないか!たった数秒間であっても、集中砲火を浴びれば防御特化のロボットでも無事ではすまないのだ。ここで無理をすれば、一瞬で私も撃破されてしまうだろう。
「とは言っても攻撃するにはここから身体を出さないといけないし、少しでも出せば…これだもんなぁ」
私がそろりと駐車場の中から身体を出そうとすれば、すぐに何処かから銃弾が飛んでくる。しっかりと周囲を見ている者がいるようだ。
撃つためには前に出ねばならず、前に出れば撃たれてダメージを負う。私は実質的にここに閉じ込められたことになる。うぐぐ、どうにかして脱出しなければ。
待て。落ち着け、私。ここで自棄になって一か八かここから飛び出したとしても再び撃たれてゲームオーバーになるのは目に見えている。今はとにかく、ここで好機を待つのだ。
銃声とミサイルの噴射音、ロボットが撃破された爆発音が自分の頭上と前後左右から聞こえてくる。ここから出たら私もグチャグチャにされてしまうと考えると怖すぎる。生存時間もポイントになるので、やはりここは耐える時だ。
「むっ、何かが近付いてくる…ここに隠れるつもりか?」
私が隠れている場所は、この激戦区にあって数少ない安全地帯である。ここに逃げ込もうとする者がいてもおかしくはない。むしろ私が入る前に誰もいなかったのは運が良かったと言うべきだ。だが、ここに二人は入れない。ならば、追い払わなければなるまい。
私は隙間からヌッと身体を曝す。すると盾を構えながら後退する一体のロボットがいた。姿を表した瞬間に私にも砲火が集まるが、それを盾で防ぎつつ私は無防備な背中に向かって無反動砲を直撃させる。ただでさえ傷付いていたロボットは、背後からの一撃で撃破された。
間髪入れずに私は背面のミサイルポッドを斉射する。ミサイルは拡散して激戦区を広く爆撃し、私は即座に後退して陰に隠れた。おっ、撃破数が『4』になっているぞ。さてはさっきの爆撃で一機破壊したらしい。これは運が良いな!
「この引きこもり戦法で…うおおおおおっ!?」
ここに立て込もって戦う戦法を続けようかと思った矢先、私のいる駐車場の残骸に砲火の嵐が襲い掛かる。どうやら私を最優先で討伐するべき敵だと多くの者達に判断されたらしい。私が彼らの立場だったら鬱陶しいことこの上ないし、そりゃあこうなるわな!
銃弾やミサイルが駐車場の残骸をさらに傷付けていく。ええっと、ここからどうすればいいんだろう?逃げ出して生還するのはもう諦めた。選ぶべき選択肢は二つ。一つは駐車場が完全に崩れるまでここにいて、生存時間のボーナスでポイントを稼ぐこと。そしてもう一つは一機でも道連れにするべく飛び出すことだ。
前者を選ぶとポイントは微々たるものだが、ポイントを確実に得られる。後者を選ぶと一機も道連れに出来なければポイントも増えないが、上手く行けばよりポイントが稼げるだろう。ふむ…なら、選択肢は一つしかないか。
「こうなったら、派手に死に花を咲かせてやろうじゃないか!うおおおおおっ!」
腹を括った私は後者を選んだ。盾を構えながら駐車場から飛び出すと、全速力で前進しながら全ての武装を最も近い敵に乱射する。ゴリゴリと体力が減っていくが、その一機は火力にものを言わせて撃破した。
だが、ここが限界だ。コクピットは椅子に座り続けるのも難しいほどに大きく揺れ続け、目に見える速度で体力が減少している。せめて破壊される前にもう一機道連れに…え?
「何だ、あれは?」
揺れるコクピットの中で私は思わず呟いた。空から光輝く何か大きな物体が落下していることに気付いたからである。それは私の体力が尽きる直前に激戦区のど真ん中に落下した直後、私の視界は真っ白に染まり…気が付けば待合室に戻っているのだった。
次回は6月21日に投稿予定です。




