地底の氷原 その二
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戦闘に勝利しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【知力強化】が成長限界に達しました。限界突破には10SPが必要です。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】が成長限界に達しました。限界突破には10SPが必要です。
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「素早いだけじゃったのぅ」
「源十郎がー、凄いだけじゃーないかなー?」
氷妖精は思っていた以上に体力が少ない魔物だったようで、至極あっさりと倒すことが出来た。まだまともな攻撃すら受けていないのに、である。
本来は小さい身体で【飛行】と【軽業】を組み合わせた空中での機動力を遺憾なく発揮し、攻撃を回避しつつ魔術を使うのだと予想される。源十郎の剣術もそうだが、閃光の呪文が非常に効果的だったからこそ楽が出来たことを忘れないようにしておこう。
そして、遂に私の基礎ステータスを向上させる能力がレベル50に達して進化した。代わりにSPが枯渇しそうになっているが、これはどうにかして稼げば良い。今は素直に喜ぶべきだ。
「ルビー、紫舟。ドロップアイテムはどうだった?」
「ええっと、はいコレ!」
「これは翅か?どれどれ…」
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氷妖精の水晶翅 品質:可 レア度:S
氷を自在に操る妖精の青み掛かった透明な翅。
とても冷たく、水属性の魔力を含んでいる。
脆いために加工は難しいが、優れた装飾品の素材となる。
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紫舟から渡されたのは、氷妖精の背中から生えていた翅そのものであった。精巧なガラス細工のようだが、【鑑定】の説明文にあるように手にとってみるとヒンヤリとしているのがわかる。
翅のドロップは一つだけで、残りは例の如く魔石だけだった。倒すのに面倒なプロセスはないが、低確率でレアアイテムがドロップするタイプは回数をこなす必要に迫られる。出来るなら六人分に加えて、お土産になる数の翅を用意しておきたいところだ。
「キレイな翅っすね~。自分を襲った時の顔とはえらい違いっすよ」
「私もそう思う。ところで、天井の氷柱は採取出来たのか?」
「あっ、忘れてたっす」
「次は三人で取りに行こうか」
「オッケー!」
と言うことで、我々は氷妖精によって邪魔された採取作業を再開する。天井にぶら下がっている氷柱、その内の採取可能な幾つかを実際に取ってみた。
きっと氷結鉱か万年氷が採取されるのだろうと最初は思っていた。だが、その予想は覆される。何と、氷柱がそのまま手に入ったのだ。
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魔氷の氷柱 品質:良 レア度:C
魔力を多く含む、自然に発生した氷柱。
魔力の影響によって溶けにくい。
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うん、氷柱だ。ちょっと溶けにくいだけの氷柱である。何かに使えるという記載すらない。危険を犯してまで取りに行くものではなさそうだ。それを知ったシオは非常に悲しそうな顔をしていた。こう言うこともあると納得してもらうしかあるまいよ。
気を取り直して我々は探索を再開した。時折氷妖精が頭上から襲ってくるが、源十郎が斬り払ったり閃光で叩き落としたり、ウールの鳴き声による範囲攻撃で一掃したりしたので楽であった。
「ボク達、あんまり活躍出来てないね」
「相性が悪いっすからね~」
「むー!当たらない!」
我々男衆がガンガン戦っている一方、ルビー達女性陣は暇をもて余しているようだった。その理由はシオの言った通り、三人とも致命的に相性が悪いことが原因である。
氷妖精は小さい上に飛行し、素早い回避と遠距離から水と氷によって攻撃するのが得意だ。ルビーの速度であれば追い付けないこともないが、飛び掛かっても中々短剣が当たらない。シオの矢は正確な狙いであっても躱されてしまうのは初戦の通りである。
紫舟はルビーに匹敵する速度を持ち、糸を飛ばしてシオと同じく遠距離攻撃も可能だ。しかし彼女の刃めいた節足と糸は悉く回避されている。紫舟の技量に問題はないので、相手の回避能力を褒めるべきだと個人的には思った。二匹までなら必ず同時に斬ってみせる源十郎の達人ぶりが異常なだけなのだ。
ちなみに、紫舟の節足を回避して馬鹿にしたように笑った氷妖精はウールの声による衝撃波で爆散している。その時のウールは珍しく少し頭に来ていたようだった。仲が良いことで何よりである。
「素材はたくさん集まってきたけど、氷妖精しかいない何てことないよね?」
「それはないと思うぞ。マック…昨日会った『不死野郎』というクランのリーダーが嘘を吐いたのでなければ、だが」
「嘘じゃなかったっぽいっすよ?ほら、あそこ」
採取を続けつつ代わり映えのしないフィールドを探索していると、氷妖精とは大違いの魔物が現れた。それは軽自動車ほどもある様々な骨の集合体であり、それが骨同士をガリガリと擦り合わせつつノシノシと歩いている。
これは何だろう?何かの動物の形をしている訳ではなく、ただ骨の塊が意思をもって動いているように見える。恐らくは動く骸骨の一種なのだろうが、私の遠い親戚と言うのは憚られるほどデタラメであった。
骨になった不完全人造人類言う表現が最も近いだろうか?どことなく既視感を覚えているのだが…その正体が何なのか、実際に【鑑定】して確かめてみよう。
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種族:大骨塚 Lv45
職業:蒐集者 Lv5
能力:【体力強化】
【筋力強化】
【防御力強化】
【器用強化】
【骨変化】
【射出】
【暗視】
【状態異常無効】
【光属性脆弱】
【打撃脆弱】
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大骨塚…聞いたことのない魔物だがこれで既視感の原因は判明した。地下墓地で遭遇し、私の作った迷宮でも活躍した骨壁に近い、あるいは進化した魔物なのだ。
引っ掛かりが解決したところで、観察してみよう。奴の動きはゆっくりだが、確実にこちらへ近付いてくる。狙ってこちらに来ているのか、ただ彷徨っているだけなのか判断がつかない。無数の骨の集合体であり、顔が何処なのかわからないので表情が読めないのだ。
いや、それ以前に顔や頭と言える部分があるのかも不明である。身体を構成する骨にはもちろん頭蓋骨もあるのだが、どれかが中枢となる頭として機能しているのだろうか?それともそのような部位を持たないのか?それすらも不明であった。
「どうするのー?」
「どうするもこうするも、一応戦ってみるしかないだろう」
「じゃあボク達に任せて!」
「ストレス解消だーっ!」
ウールの質問に答えた途端に、ルビー達三人が待ってましたと言わんばかりに襲い掛かった。余程フラストレーションを溜め込んでいたらしい。それだけ氷妖精は厄介な存在ということだ。
「しーちゃん、行ってきまーす!」
「はいっす!」
ルビーは真っ先に斬り掛かったのはルビーである。シオの肩に乗って近付いた彼女は、そこから跳躍すると短剣で大骨塚の骨を滅多切りにしていく。細かく裁断された骨が宙を舞い、大骨塚の表面を削るようにして体積を減らした。
「ギギギギギ…」
攻撃されたことで戦闘モードに移ったのか、地面を這いずるように動いていた大骨塚は動きを止めて反撃に出る。その方法とは、無数にある骨を射出すること。自分を構成する骨を武器にしているのだ。
ルビーはそれを回避せず、表面を硬化して防いだ。現在は神代暗殺宝玉粘体であるルビーは、動けなくなる代わりに宝石の硬度を持つことが出来る。これと粘体が最初から持っている【物理耐性】が合わされば、止まっている間はジゴロウの拳ですらかすり傷に抑える防御力を誇るのだ。
高速で跳ね回って撹乱しつつ接近し、短剣によって奇襲を仕掛けるのがルビー本来のスタイルだ。しかし、それが失敗としても鉄壁の防御で耐えつつ逃げ出す隙を窺えるのは彼女の強味だろう。
「旋刃削殺!おりゃー!」
そこへ突撃したのは紫舟だった。刃蟲悪魔となった彼女は、武技によって種族通りに刃と化した節足を大きく広げて回転しつつ体当たりを行う。
巨大なシュレッダーの刃のようになった紫舟は、大骨塚の身体を大きく抉った。普通の魔物であれば致命傷でもおかしくない威力だが、大骨塚は骨の塊だ。多少削り取られたとしても、まだ動きに支障をきたすことすらない。それどころか、大骨塚は予想外の反撃をしてみせた。
「うえぇ!?手になった!?」
大骨塚はその身体を巨人の腕のように変形させ、武技を放って着地した紫舟を鷲掴みにせんと迫る。彼女は悲鳴を上げつつも、八本の節足をカサカサと動かして魔の手、もとい骨の手から逃れた。
これは【鑑定】した時に見た【骨変化】の効果だろう。少し形状が変わるだけだと思っていたが、まさかここまで大きく変形するとは思わなかった。
「急所がわからない相手は苦手っすけど、これなら問題ないっすよね?破砕射!」
弓矢を主武装とするシオは狙うべき急所がわからない相手は苦手である。しかし、それを克服する手段として、属性を付与した矢によって弱点を突くことだった。
彼女は光属性の矢を弓に番えると、打撃属性のダメージを与える武技を使った。放たれた矢は紫舟を捕らえようとして空振った腕形態の大骨塚の手首辺りを射貫き、着弾した場所を大きく吹き飛ばして手の部分を前腕の部分から千切れ飛んだ。
光属性と打撃によるダメージは相当大きかったらしい。二つの部位に分けられた大骨塚は、分割された両方の部分を動かして再び一つに統合しようとしていた。
両方とも動いたということに驚きを禁じ得ないが、その動きは致命的なまでに鈍い。合流させるものかと、ルビーは手の部分を、紫舟は前腕の部分を徹底的に切り刻んだ。
「ギギ…ギギギ…ギ…」
「しぶといにも程がある、よっ!」
それでも動く大骨塚に向かってうんざりしたように罵りながら、ルビーは短剣を振るった。すると終に膨大な体力を削りきったようで、大骨塚はピクリとも動かなくなるのだった。
次回は6月22日に投稿予定です。




