四脚人とふれ合おう
四脚人と共に『霧泣姫の秘都』を目指して進むこと約二十分。ようやく帰ってくることが出来た。少し時間がかかったのは、非戦闘員が多くいることを考慮して魔物を避けつつ進んだからである。
最初、灰が積もった場所に足を踏み入れることを躊躇っていた彼らだが、本当に敵対的な魔物がいなくなっていると知って安堵しているようだった。彼らが黒壁の内側に入った頃には、すっかりリラックスしていた。警戒心が強いのか弱いのか、よくわからない人々である。
「ここは使われていない家ばかりなので、好きな場所を選んで使って下さい。家の中に家具も何もありませんし、汚れている場所もあるかもしれませんが…」
「否、十分過ぎるほどである。そもそも我らは家など持てぬからな」
「ああ、その話はルシート殿から聞いています」
四脚人はその身体の形状のせいで建築作業などが苦手である。家が不要なほど頑強な肉体を持つとは言え、やはり屋根の下にいると安心するのだろう。
彼らは石が積み上げられただけの簡素な家を吟味していく。そして家族ごとに気に入った大きさの家へと入っていった。どうやら家具がない分、部屋が広々と使えるのが好評らしい。彼らが通ることの出来る入り口さえあれば問題ない様子だった。
家が決まったところで、大人達は集団で狩りに出掛けた。基本は夫婦で狩るようだが、今は獄獣のこともある。子供を預けられる場所が出来たのだから、今度は自分達の腹を満たす糧を獲るべく行動するのだ。
残された子供達は一斉にカルに群がった。ルシンのことを羨望の眼差しで見ているのは薄々感じていたが、やはり龍と遊びたかったようだ。カルは嬉しそうに、しかし傷付けないように慎重に遊んでいる。
…これはしばらく解放してくれないだろうな。カルと空を満喫するのはまた後日だ。少しだけ残念である。
それにしても、この都にもようやく人がやって来た。獄獣の問題が片付くまでの期間だけかもしれないが、街らしい雰囲気になりそうじゃないか。単なる廃墟から、人の集まる廃墟へと変わっただけだが、次は人の集まる街になるように頑張りたい。
「え?何これ?天国?」
「ちっちゃいモコモコがいっぱいっすね…」
広場でカルと子供達が遊んでいる様子を眺めていると、ログインしてきたらしいルビーとシオが呆然と立ち尽くしていた。状況が全く飲み込めていないようである。私が二人の立場なら、きっと同じ反応だっただろう。
「来たか。今から全員に連絡しようと思っ…!?」
「イザーム?」
「説明してくれるんすよね?」
二人は一気に詰め寄って、私に食って掛かる勢いで問い詰めてきた。気にするなと言っても無理な光景なのは確かだし、様々な動物の特徴を持った子供達が遊んでいるのは大きめのヌイグルミが戯れているようで愛らしい。ここまでグイグイ来るとは思ってなかったが、気になって当然だろう。
なので私は二人に事情を説明しつつ、クランチャットに四脚人の集団がしばらく留まることと獄獣の襲来のことを書き込んでおいた。イベントが終わり次第、この問題に着手することにしようと付け加えておいた。
「四脚人…話に聞いてはいたけど、本当に色んな動物がいるね」
「大人はどうか知らないっすけど、子供はどんな種族でも可愛いっす!」
「うわっ、何か増えてるよ…」
ルビーとシオに気が付いたのか、アバート君が微妙に嫌そうな顔で呟いた。彼と同世代の少年少女は狩りには混ざらず、都に残っている。半人前を伴うには今のフィールドは危ないと判断した結果らしい。
大人と子供の境目にいる彼らは、幼い子供と共にカルと遊ぶのは躊躇われるようで少し離れた場所に固まっていた。街の探索に出掛けた者達もいるが、ほとんどが広場にたむろしている。そして残った者達はこちらをチラチラと見ていた。
どうやら私達が気になるようだ。よし、ならば私の方から話し掛けてやろうじゃないか!
「やあ!久し振りだな、アバート君!」
「ちょっ!こっち来るなよ!」
「随分と嫌われたものだな。悲しいなぁ…ヨヨヨ」
芝居がかった言い方で絡む私をアバート君は当然のように邪険にする。予想通りの反応であったので、私はわざとらしく嘆き悲しむふりをした。どうみても演技であるし、それはこの場にいる全員が理解しているだろう。しかし、それを見てアバート君は慌てて止めにかかった。
「嘘泣きは止めろって!ルシンに見られたらどうすんだ!?」
「む?妹さんはカルと遊ぶのに夢中さ。カルのことがよほど気に入ったと見える」
「だからだよ!あれからルシンは『かるしゃんとあそびたい』っつってうるさいんだぜ!?俺があんたに怒鳴ってる所なんて見られたら…」
「にいちゃ!」
「げっ!?」
アバート君が私に向かって声を荒げていると、毛玉のようになった子供達の中からいつの間にか出てきていたルシンが足元にいた。彼女は耳と尻尾をピンと立て、毛を逆立てつつ口を膨らませて兄を睨んでいる。それだけでアバート君はタジタジであった。
「にいちゃ!がいこつしゃんと、なかよくするの!やくそく!」
「あ、ああ。仲良くしてるって…」
「やくそく、まもってね!あれ?がいこつしゃん、そのひと、だあれ?」
「おお、紹介しよう。私の仲間のルビーとシオだ。仲良くしてあげてくれ」
我々が仲違いしていると思ったのか、それを仲裁しようとわざわざ抜けてきたようだ。仲良しであるカルの主人と自分の兄がいがみ合っているのは悲しいのだろう。
私達しか見ていなかったからか、ルシンは今さらルビーとシオに気が付いたらしい。どことなく不安そうに二人を見上げていたので、私はなるべく怖がらせないように二人を紹介した。
「僕がルビーだよ。よろしくね?」
「シオっすよ!よろしくっす!」
「プニプニがルビーしゃん、とりしゃんがシオしゃん?ルシンはね、ルシンっていうの!」
二人が朗らかに挨拶すると、ルシンは笑顔になって自己紹介した。そして警戒心を解いたのか、ルビーの艶やかボディをつついたりシオの翼を羨ましそうに触ったりしている。
楽しくなってきたのか、ルビーはルシンを乗せてピョンピョンと跳ね回る。さらにシオは二人を抱きかかえて低空飛行してみせた。ルシンはキャッキャと喜び、他の子供達はそれにキラキラとした眼差しを向けていた。
「ルシンちゃん、みんなもボク達と一緒に遊んでいいかな?」
「うん!みんな、なかよし!」
「「「わーい!」」」
「よっしゃ、安全飛行でいくっすよ~!」
ルビーはその粘体特有の質感によって、シオは飛行能力によって子供達を手懐けていた。四脚人と良好な関係を築くため、というよりも普通にぬいぐるみのような子供達と遊ぶことそのものを楽しんでいるようだ。
二人に限らず四脚人の子供に魅了される者は現れるだろう。特にしいたけ辺りはアルヴィーの時に暴走していたことを考慮すると大興奮に違いない。後で釘を差すメッセージを送るとするか。
「…あんたら、案外普通なんだな」
「プレ…いや、風来者も色々さ。無論、私の仲間も多種多様だね」
「まだいるのかよ…」
「なあなあ!他にはどんな人がいるんだ!?」
「教えてくれよ!えっと…イザームさん、だよな?」
おっと、少年少女はカルよりも風来者が気になる様子。これから顔を合わせることにもなるだろうし、仮面を外した私やミケロのように初対面の者を驚かせる外見の者もいる。あらかじめ教えておくことは必要だ。
それから私は彼らに仲間達の容姿とどんな性格なのかを細かに説明していった。個性的な容姿に驚くのは仕方がないが、だからと言って避けてあげないで欲しいという私の願いが伝わっているといいものだ。
仲間達について説明した後、彼らは私達がこれまでどんな冒険をしてきたのか知りたがった。彼らにとっての世界はこの草原だけだろうから、外のことを知りたいと思うのは若者として当たり前のことだと思う。なので私の辿ってきた軌跡を、嘘や誇張を交えずに語って聞かせた。…語っている内に我ながら大冒険だな、と思ったのは内緒である。
「ほら。これがその途中で出会った、天巨人の少年から貰った羽根だ。大きくて美しいだろう?」
「でっけぇ~!」
「真っ白でキレイ!」
「父ちゃんと母ちゃんが狩って来る鳥の羽根と全然違うなぁ」
その際、口先だけだと思われないように実際に得たアイテムなどをインベントリから取り出すことも忘れない。子供達の中には数人だが【鑑定】が使える者がいて、私の話の裏付けをしてくれた。
仲間達の話にはあまり興味を示さなかったアバート君も、外の話となると事情が異なるらしい。熱心に話を聞くだけでなく、自分から質問するほどであった。
「天巨人は大きな雲と見紛うほどに大きな空飛ぶ羊の上で暮らしていると聞いた。いつかそこまで行ってみたいと私も思うよ」
「すげぇなー!俺も行きたい!」
「バカね、半人前の私達じゃ野垂れ死ぬだけよ」
「今は壁の外ですら危ないし、海の向こうに行くなんて夢のまた夢だろ。あーあ、俺達も早く強くなりたいなー!」
彼らはワイワイと楽しそうに外の世界に想いを馳せている。若者らしい反応で何よりだ。無論、その中にアバート君も混ざっている。彼も他の大陸に興味津々なのだ。
「そうだな…今は獄獣の問題があるから外に出ること自体が危険だ。せっかく壁の内側に入ることが出来たのだから、出歩くことはご両親に禁じられることだろう」
「そうだよなぁ…」
「心配するなよ、少年。私もそれなりに経験を積んでいるし、私の仲間はとても強い。君達のご両親や疵人、さらに鋼人の協力も仰げば、必ず獄獣を追い払うことが出来る。冒険がしたければ、その後に腕を磨いてから存分に楽しめば良いさ」
地獄から溢れ出ている獄獣の強さも数も、まだ調べがついていない。しかし、危険な相手が出現したとあれば同じ大陸に住む者として放っておく訳にもいくまい。彼らの協力は仰げると思う。
…いや、どうだろうか。疵人は紋章を駆使して優れた隠形でもって隠れられるし、鋼人は山に籠っていればやり過ごせるかもしれない。自分達は安全だと思っている者達を戦いの場に引きずり出すのは難しかろう。
最悪、四脚人と我々だけでどうにかしなければならない。覚悟は決めておこうか。
となれば、戦力の拡充は急務だ。幸いにも私には【死霊魔術】や【降霊術】など、使い捨てに出来る駒を用意出来る方法を幾つか持っている。ただ、私は石橋を叩いて渡るタイプなのでクランの仲間達の知恵も借りて万全の準備を整えたい。もちろん、リアルの都合が許す限りであるが。
「疵人は知ってるけど、鋼人ってホントにいるの?私、見たことないわ」
「母ちゃんはガキの頃に見たことあるって言ってたぜ!」
「イザームさんは会ったことあるのか?」
「ああ、つい先日ね。聞きたいか?」
「「「聞きたい!」」」
彼らは瞳を輝かせて期待に胸を膨らませている。それに応えるべく、私は『槍岩の福鉱山』に行って見聞きしたことを話し出す。結局、この日はログアウトするまで狩猟から帰ってきた大人達を交えて私の冒険やプレイヤーについてのことを語ることになるのだった。
密だけど、大丈夫です。
次回は5月17日に投稿予定です。




