交換会と同盟締結
カルに乗ってコンラートの下へ戻った我々は、屋敷の一室にて男四人で集まって話し合いを始めていた。本来なら茜も交えたかったが、彼女は「カルと遊びたい」と言って庭でカルと戯れているはずだ。
「さて、色々と協議すべきことはあるけど…先ずは報酬の交換会と行こうか」
会議の音頭を取ったのはコンラートであった。彼がどこかウキウキした調子なのは、きっと金になるであろう様々な情報とアイテムを拝めるからに違いない。どこまで行っても商売人ということなのだろう。
コンラートの言うように我々は報酬として得たアイテムを机の上に置いていく。それにはある共通点があった。
「魔導人形の核の欠片と神鉄のインゴット。どうやらこれは全員が同じ数を貰っているようだ」
特別報酬の確定アイテムは大量の魔導人形の核の欠片と神鉄のインゴットであった。欠片の方は大きな魔導人形の核を幾つも作ることが出来そうである。もう片方の神鉄のインゴットを【鑑定】した結果がこれだ。
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神鉄のインゴット 品質:神 レア度:L
『生産と技術の女神』ピーシャにのみ作成可能な神造金属のインゴット。
インゴットそのものの製造は女神にしか出来ないが、腕の良い職人ならば加工は可能。
神造金属の中では最も加工しやすく、あらゆる武具・装飾品の素材となる。
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万能な金属素材という認識で良いだろうか。アイリスに渡せば、大幅な装備の更新が可能かもしれない。今から帰るのが楽しみで仕方がないな!
それはともかく、問題は二種類のアイテムの他にあったものである。と言うのも全員が一つずつ、ドロップ限定と思われる武具かアイテムを持っていたからだ。
全員の運が良かった、と考えるのは無理がある。単純に神鉄鎧人形からはドロップ限定の何かが入手出来ると考えるべきだ。本体からの剥ぎ取りが不可能なのだから、そのくらいでちょうど良いと個人的には思う。
ただし、問題があった。それはドロップしたアイテムを確認した時、皆のアイテムが全て異なっていた。しかも他人の得たアイテムに欲しいモノがあったのだ。
「では、私のアイテムから出していこうか」
そう言って私が取り出したのは、一本の剣であった。【鑑定】結果は以下の通り。
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神鉄の長剣 品質:優 レア度:G
『生産と技術の女神』ピーシャが作成した神鉄の剣。
片手・両手問わず扱える使い勝手の良い武器だが、所詮は数打ちの一本である。
装飾は一切施されていないが、腕の良い職人ならば効果を付与させられるだろう。
装備効果:【筋力超強化】 Lv3
【器用超強化】 Lv3
【防御貫通】 Lv1
【不壊】
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私のドロップアイテムは、あの長剣であった。シンプルな作りだが、こういう機能美溢れる武骨な武器は個人的には好ましい。装備効果も優秀だと思うのだが…これは数打ち、すなわち量産品のようだ。
そのせいか、品質が『優』となっている。つまり、同じ品質のものをプレイヤーでも作成可能だと思われるのだ。この性能を越えた時、『生産と技術の女神』の領域に近付いたと言えるようになるのかもしれない。
「次は俺だなァ。ほれ」
次にジゴロウが取り出したのは、私の出した長剣に近い大剣であった。こちらは合体した時に二本の長剣が融合した剣に間違いない。名前はシンプルに『神鉄の大剣』で、性能は重くて使いづらい代わりに攻撃力が高いようだった。
品質とレア度に関しては上記の長剣と同じである。そしてやはりと言うべきか、量産品の数打ちだと記されていた。流石は女神としか言い様がない。
「では、次は私が」
セバスチャンのドロップアイテムは、拳大の水晶玉のようなアイテムだった。無色透明ではあるものの、その中心からは蛍光灯に近い無機質な光が漏れている。
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神造魔導人形の核 品質:神 レア度:G
魔導人形の心臓部である核。その中でも女神が扱う特別なもの。
女神にしか製造出来ず、非常に強力な力を秘めている。
器となる人形に使用することで、都市防衛を行う魔導人形を作成することが出来る。
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欲しい!とっても欲しい!今、我々が拠点としている『霧泣姫の秘都』は非常に広いが、これを再建するという話がある。その時に警備用の魔導人形があればきっと便利だと思うのだ。セバスチャン、そしてその主人であるコンラートと交渉しなければなるまい。
「最後は私ですか。どうぞ」
ウスバはそう言って神鉄の甲冑と盾を見せる。彼が二つもアイテムを持っている理由は、凄まじく運が良かったからではなくて片方は茜の分であるからだ。
彼女はカルと遊ぶため、ウスバに交渉を丸投げしたのだ。うん、自由だね。ウスバ君、振り回されてない?いや、単にウスバを信頼しているからだと思いたい。
彼の持つ鎧は『神鉄の甲冑』と言って、長剣や大剣と同じ量産品である。なので性能が高い防具だと思えば良い。もう片方の盾であるが、これは核と同じ当たり枠だった。
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三位一体の神鉄盾 品質:神 レア度:G
『生産と技術の女神』ピーシャが作成した神鉄の盾。
三枚の盾が融合したものであり、魔力によって浮遊する盾を作り出すことが可能。
装飾はほぼ施されていないが、腕の良い職人ならば効果を付与させられるだろう。
装備効果:【防御力超強化】 Lv5
【精神超強化】Lv5
【属性耐性】 Lv3
【双盾招来】
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神鉄鎧人形が融合した後に使っていた盾と同じカイトシールドだと思われる。あれをセバスチャンが使えば、ただでさえ防御力が高い彼がさらに背後への備えまで可能になるのだ。
作り出せる盾の強度とサイズ、そして実際の使い心地がどうかはわからない。しかし、盾使いならばきっと欲しくなる装備だと思う。
「さてさて、キレイに他の人のところに行っちゃったねぇ?欲しいモノが、さ」
私たちは深く頷いた。私はセバスチャンの核が欲しく、セバスチャンはウスバの鎧と盾が欲しいし、ウスバは私とジゴロウの長剣に興味があるからだ。
なので回すように交換することにした。つまり、長剣と大剣の二つと核と交換し、それを鎧と盾の二つと交換し合うのだ。
「でもこれってさぁ、僕たちがちょっと得し過ぎだよね?そう言うのはいけないなぁ」
交換し終えた後、コンラートがそんなことを言い出した。彼の理屈によると、この交換会では自分たちだけが利益を得ていると言うのだ。
私とジゴロウは二人分のアイテムが、一段階上とは言っても一つのアイテムになってしまっている。ウスバと茜はアイテムの個数は同じでも、片方の品質が一段階落ちている。これは公正な取引とは言えない、と言い出したのだ。
「私は満足しているのだが…ジゴロウはどうだ?」
「俺ァ剣も鎧も興味はねェな。武器にも困ってねェし、核が兄弟の役に立つってンならそれで良い」
「ふふふ。強力な鎧と盾ですが、重装備を使う者は我が『仮面戦団』にはおりませんからね」
私達三人は揃ってこれで構わないと言ったのだが、コンラートは首を振って言った。それでは自分の気が済まない、と。
「商売敵ならともかく、せっかく仲良くなった相手だよ?満足してるって言われてもさぁ、サービスしてあげたいじゃない?商人の性って奴さ」
「そう言われても…なら、いつか大口の取引をすることになったら割り引いてもらうと言うのはどうだろう?」
今すぐに欲しいモノもないし、だったら何時か彼の商会を利用させてもらう日がやって来た時に割引してもらった方がいいと思うのだ。その時がずっと先になるのか、はたまた数ヶ月後や数日後になるのかはわからないが。
「ふふふ。私もイザームと同じようにしてもらいましょうか」
「そんなのでいいのかい?三人とも無欲だねぇ~。じゃあ、そうしようか!それで、次の話なんだけど…聞くしかないよね?あの龍君と『暴食』のことを、さ」
コンラートは窓から庭を見下ろしつつそう切り出した。そこではカルと茜、そしてメイドのアスカが二人と一頭で遊んでいる。カルが楽しそうで何よりと思う反面、秘密にしておきたかったことではあるので複雑な気持ちであった。
ただし、話さないという選択肢は存在しない。コンラートは急に現れたカルを当然のように受け入れて庭へ通してくれたからだ。世話になっているのだから、筋は通さねばなるまい。
「カルはクエストの報酬で得た卵から産まれた龍だ。最初から龍の卵とは書かれてなかったから、どうしてこうなったのかは私にもわからん」
「特殊な卵を貰えるクエストねぇ~。調教師連中に売れる情報、ありがとね」
コンラートは良い話を聞けたと喜んでいるようだ。この情報をコンラートへ正直に伝えたのは、彼に情報操作を依頼したからだ。
私と共にセバスチャンがいる場面を目撃したプレイヤーは多く、彼らはきっとコンラートまで辿り着く。その時にこの情報を売ることで、彼らの目を『私とカルを探し出すこと』から『クエストを探し出すこと』へ変えさせるのだ。
女神であるイーファ様からのクエストを達成した報酬だったので、同じものを手に入れられるクエストを発生させるのは困難を極めるだろう。仮に卵を得たとしても、龍が産まれるとは限らない。それでも不可能ではないのだから挑戦する者は出てくるに違いない。
「『龍の聖地』の話をしても良いが、現地を荒らさないと約束出来るプレイヤーだけにしてくれ。龍神様の逆鱗に触れそうな奴は絶対にダメだ」
「いいよ~。そっちは売る相手を選ぶさ。商売どころじゃなくなりそうだからね」
より可能性が高いのは、『龍の聖地』へ赴いて幼龍を手懐ける方法だ。人懐っこい個体も多いようだったので、龍神であるアルマーデルクス様の許可さえ貰えれば仲間に出来そうな気がする。
しかし、『龍の聖地』に入ったとして、アルマーデルクス様を怒らせるような態度をとるプレイヤーを行かせたくはない。自分の宝物を盗まれたと知り、配下の龍を総動員して第二文明を滅ぼした御方だ。激怒させて他のプレイヤーに迷惑をかけるような者は行かせられないのである。
「『暴食』については?」
「【召喚術】に似て非なる魔術に【降霊術】というものがある。これには地獄の魔物を召喚する呪文があるのだが、それを使ったときに『暴食』の舌に酷似した何かが飛び出したことがあった。つまり…」
「『暴食』の本体が封じられているのは地獄である可能性が高い、と」
「多分な。地獄へどう行くのかは皆目見当もつかないがね」
人面鳥から逃れるため、一か八か【降霊術】の地獄の魔物をランダムに呼び出す獄獣召喚を使ったことがある。その時、地面に空いた穴から『暴食』の舌らしきものが出てきたのをルビーがスクショに納めている。その画像をウスバに見せたところ、ほぼ間違いないと言っていた。
『暴食』が地獄に封じられたのはほぼ確定だが、そこへ行く道筋に関する手掛かりはない。なのでウスバはPKと同時進行的に地獄の行き方を調べることになりそうだ。
「これだけ情報の共有をしといて、同盟を結ばない…何てこと言わないよね?」
「そうだな」
ニヤリと笑いながら尋ねるコンラートに、私は頷いた。我々は互いのことを知りすぎている。私はカル、ウスバは『暴食』、そしてコンラートはセバスチャンの奥義というそれぞれの奥の手を見せてしまったのだ。こうなると同盟関係を結び、結束して秘密にし合うのが最も合理的であろう。
「元々乗り気ではあったが…仕方がない。他のメンバーには事後承諾してもらうしかないか」
「楽しくなってきたねぇ?」
「ふふふ、これからは同盟相手としてよろしくお願いします」
魔物と商人とPK。奇妙な組み合わせのクランが同盟を結ぶ。今日はそんな記念すべき…かどうかはわからないが、きっとFSWでは初の組み合わせとなる同盟が結成された日となるのだった。
次回は5月8日に投稿予定です。




