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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十四章 山海と先住民達
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コンラート

 茜に連れていかれた場所は、無人島にある小高い丘の上にあるコテージだった。そう、コテージである。それもかなり立派な建物で、二階建てで庭にはプールまで備えてある。無人島なのに、どうしてこんな豪邸が建っているんだ?


「ここに兄弟がいるのか?」

「いる。ここはボスの友達が建てた家。入って」


 無人島にいるウスバの友人とは一体何者だ?少なくともこれだけ大きな建造物を作り出せる職人プレイヤー本人か、そんなプレイヤーに依頼出来るほど顔が広くて財力のある者ということになる。しかもあのウスバとも交友があるとなれば、どんな人脈を有しているのやら…何者だろうか?


 私は茜に促されるままに大きなコテージの敷地に入っていく。とても石造りの門構えをくぐった先には煉瓦の屋敷があって、我々が近付くと内側から誰かが開けてくれた。


 開けたのは人間(ヒューマン)の男性と獣人(ビーストマン)の女性だった。男性は髪をオールバックに固めたダンディーなミドルエイジの男である。細身で引き締まった体つきと微動だにしない姿勢は、いかにも有能そうな雰囲気を醸し出していた。


 一方で女性は茶色い癖毛の間から垂れた耳が生えていることから、犬の獣人(ビーストマン)だと思われる。オドオドしているからか落ち着きがなく、男性とは逆にドジっ娘のような印象を受けた。


 彼らの種族(レイス)は何でもいいのだが、見た目について嫌でも気になることがある。それは服装だ。男性は燕尾服を、女性はメイド服を着ているのである。執事とメイドとしか言いようがない格好であるが、これはそう言うロールプレイだと解釈すればいいのだろうか?


「お帰りなさいませ、茜様」

「ただいま。ボスと鬼さんは?」

「ウスバ様とジゴロウ様は若様と共に遊戯室におられます。其方の方が例のお客様でしょうか?」

「そう。ボスの貴重な友達」


 …ウスバのいないところで彼が悪く言われているような気がする。彼は仲間に孤独な男だと思われているのだろうか?もうすぐ顔を合わせるが、優しくしてあげた方がいい気がしてきた。


 それにしても『若様』と来たか。執事らしき男性の言い方は板に付いており、呼び慣れているように感じられる。なので筋金入りのロールプレイヤーか、本当に仕えているかのどちらかだと思われた。繰り返し何度も抱く疑問であるが、ここの主人は何者なんだ?


「ようこそおいでくださいました、イザーム様。私は当家の執事を勤めさせていただいております、セバスチャンと申します。こちらはメイド見習いのアスカ。以後、お見知りおき下さいませ」

「お、お見知りおき下さいっ!」


 セバスチャンはスラスラと歓迎の言葉を述べると、慇懃な態度で頭を下げた。アスカはそれを見て慌てて続くように頭を下げる。このまだ慣れていない感じ…確かに見習いであるようだ。


「最初に確認しておきたいのだが、私やジゴロウのことはウスバから聞いたのだろうか?」

「はい、仰る通りでございます。ウスバ様は若様の大切なご友人でして、イザーム様のことも話されたようです」

「それで興味を惹かれたから招いたということか」

「はい。それではご案内致します」


 ウスバは口が軽いタイプだとは思えないので、その若様をよほど信頼していると見える。と言うことは私の正体について、知っていることは話しているかもしれない。


 その上でコンタクトを取ってきた理由は何なのか。目的が何なのかを知るには実際に会って話す必要がある。ここは素直についていくのが得策だ。


 セバスチャンに先導される形で屋敷を移動するのだが、その調度品はとても凝ったものばかりであった。美術品もさることながら、廊下にもきちっと絨毯が敷かれているのだ。骨しかないのでただでさえ軽い私の身体が更に軽くなっているような錯覚すら覚える。


 まだイベントが始まってから少ししか経っていないのに豪邸を建てて、内装まできっちり整えている。もう驚かないぞ、私は。


「こちらでございます」

「遊戯室…なるほど?確かに遊戯室だ」


 私と茜が通されたのは、実に雰囲気の良い部屋であった。廊下と同じく柔らかな絨毯が敷き詰められた室内の中央にはビリヤード台があり、壁にはダーツの的が掛けられていて、他にも数種類のボードゲームが乗せられた机が複数置かれている。


 これに高級酒が並ぶバースタンドでもあれば、大人の遊び場としては完璧だろう。趣味の良い空間だ。


「よっ…だァー!手玉が入っちまったァ!」

「ふふふ、次は私の番ですか」

「おおっ?バックスピン掛けてるの?なかなかやるね~。っと、やあっと来てくれたみたいだ」


 そんな部屋でジゴロウとウスバ、そしてもう一人の男がビリヤードに興じていた。あれが若様だろう。その若様は私達がやって来たことに気がついたようで、ビリヤードのキューを壁に立て掛けると手をヒラヒラと振って笑っていた。


 若様はスラッと背の高い、黒い長髪を後ろでまとめた細目の青年だ。種族(レイス)人間(ヒューマン)だろう。少し着崩したカッターシャツと黒のスラックスがよく似合う、洗練された空気を纏った洒脱な男だった。


「よォ、兄弟。やっと来たかァ」

「待たせてしまったなら、悪かった。それと久し振りだな、ウスバ。乱闘騒ぎは楽しめたか?」

「ええ、もちろん。腕が鈍るどころか磨きがかかっているようで安心しました」

「それで…私を招いた貴方は何者だ?」

「やっぱりご存知ない?それなりに有名だと思ってたんだけどなぁ~…ま、仕方ないか」


 若様はニヤリと笑うと戯曲の登場人物のように優雅な一礼をしてみせる。その動きは堂に入っていて、気障ったらしい動きであるのに不思議と似合っていた。


「やあ、イザーム君。僕はクラン『コントラ商会』の会長、コンラートさ。お見知り置き願いたいね」

「『コントラ商会』…商人のプレイヤーだったのか」


 イベントエリアに豪邸を建てる資金力に、そのための職人プレイヤーを集める人脈、いやお抱えの人材だろうか?どちらにしてもその両方を兼ね備えている大きなクランなのだろう。


 ただ我々はゲーム内における人類社会とは隔絶した環境で活動しているので、有名なクランについての情報などは持ち合わせていなかった。正確に言うと戦闘になる可能性があるところは少しだけ調べているが、商人や職人のクランはどうせ関係ないと高を括って調べていなかったのだ。


「そうだよ~。ところで『コントラ商会』の名前の由来ってわかるかい?」

「わざわざそう言うからにはコンラートという名前の()()()ではないのだろうな」

「良い推理だね!ヒントは商売に関係する言葉だよ~」

「商売に関係する言葉…コントラ…矛盾(コントラディクション)か?」


 矛盾。一人の商人が己の商品を『あらゆる盾を貫く矛』と『あらゆる矛を防ぐ盾』だと紹介したが、客の一人が『お前の矛でお前の盾を貫いたらどうなるのか』と問われて答えに窮したという故事成語である。その英訳した単語の一部だと推理した。


 私の答えに対して、コンラートは満足げに頷いている。おい、それでは正解なのか不正解なのかわからんぞ!


「正解さ。さっすが、ウスバ君の友人だ」

「少しは期待に応えられたようで嬉しいよ。それで、そろそろ我々をここに呼び出した理由を聞かせてもらおうか」

「そうだねぇ。商談の前のお喋りはこのくらいにしておこうか」


 そう言ってコンラートはビリヤード台に腰掛ける。ここからは彼の言い方を借りるならば『商談』が始まるのだ。


「単刀直入に聞くよ、イザーム君。君達、僕のクランと同盟を結ぶ気はないかい?」

「クラン同士の同盟…見ず知らずの私達とか?」


 クラン同士の同盟とは、文字通りの意味でクラン同士で協力関係を結ぶことを意味する。ゲーム的に有利な効果は複数あるのだが、それ以上に大切なのはやはり外聞だろう。


 つまり『あのクランはあのクランと親密である』と情報が広まった時、そのクランが問題行動を繰り返すような相手であった時に同盟相手の評判も下がるのである。大人数のプレイヤーが存在するゲームで、特に商人プレイを行っている者にとって我々のような怪しい相手と取引していると知られることは問題となり得るのではないだろうか?


「見ず知らずでも良いのさ。重要なのは『魔物プレイヤーのクランとも取引がある』という箔だから。それに有象無象のプレイヤーが何を言おうが、僕のクランの財力があればどうにでもなるしね~」

「ふふふ、コンラートは私達と取引があることも宣伝材料にしているほどですから」


 顔が広いことを売り物にしているということか。それもまた商人の実力を示す手段の一つなのは確かだ。PKクランと取引していても有無を言わせない財力と影響力…私が思っている以上に大手のクランであるようだ。


「コンラートの方が良いなら私個人としては問題ない。決定するまでに他のメンバーと話し合いをさせてもらうが、そこは許して欲しい」

「おっけ~。今すぐに決めろとは言わないよ。でも、色好い返事を期待しとくね?さあ商談は終わったことだし、イザームも一緒にどうだい?」


 コンラートとしても今すぐに決断するように迫るつもりはなかったらしい。私としてはありがたい話だ。ただ腹黒そうではあるが嫌いになれないタイプの男なので、連絡手段を確保しておくためにもフレンド登録は互いにしておいた。


 それからは男四人に紅一点の茜を加えて遊戯室で様々な遊びに興じた。ビリヤードとダーツは楽しいのだが、初心者である私はほぼずっと最下位であった。これは経験の差もあって仕方がないのだが、最下位争いになるのはジゴロウが多かったのが意外だった。


 一転してカードゲームやボードゲームになると、最強なのはやはりコンラートであった。正確な読みと的確な戦略、切り札を使うタイミングが絶妙で勝ちをもぎ取れたのはほんの数回だけだった。本人曰く、久々に楽しくやれる相手だったと言ってくれたがきっとリップサービスだと思う。


「ほう?と言うことは『コントラ商会』は他の大陸とも取引があるのか」

「そうだよ。武装商船は高かったけど、良い買い物だったね~」


 ゲームをしながら私達は世間話という名の情報交換を行っていた。『コントラ商会』はプレイヤーのアイテム買い取りやお抱え職人プレイヤーへの武具製作依頼の斡旋など、様々な事業を展開している。それに加えて大陸間貿易にも手を出していて、急成長を遂げているようだ。


 しかも大陸間貿易で儲けた金によって造船所を買い上げ、急ピッチで新造艦を造らせているのだとか。先行投資なのだろうが、豪快過ぎる金の使い方である。


 無論、NPCの大店と揉めたこともあったらしい。だが巧みな交渉や根回し、時には武力をチラつかせることで吸収合併して大きくなったと言う。その話をした時のコンラートはとても無邪気な顔をしていたのが印象的だった。


「コール。なァ、兄弟。コイツら、いつか俺達のいるとこに来るんじゃねェの?」

「そうなるだろうな…コールだ」


 五人でポーカーをしている時、ジゴロウは私にそう言った。コンラートが造らせているのは武装商船だけではなく、探索用の長距離航海に耐えられる船もあると言う。我々は海ではなく空を経由してティンブリカ大陸にたどり着いたが、完成した探索用の船によって発見されるのも時間の問題だ。


 そうなった時、秘密にしていたのとしていなかったのとで印象は大きく変わる。この情報は武器となり得るが、ここで教えておくべきかも知れない。


「コール。君達がいる場所?興味あるなぁ~?」

「そうですねぇ。私も気になります…コール」


 ジゴロウの発言に、コンラートとウスバが食い付いた。無言のままだが茜もこっちをじっと見詰めているので、きっと気になるのだろう。


「キングのフルハウス…我々がいるのはティンブリカ大陸という、人類が誰一人存在しないとされる特殊な場所だ」


 隠すのはためにならないので、私はカードをオープンしながら真実を告げた。

 次回は4月11日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転移装置を見つければ比較的簡単に行ける浮遊大陸と違い ティンブリカ大陸は普通にエンドコンテンツ領域だからねぇ… 秘匿するメリットはあんまりないのよな。
[一言] 名前や存在さえ消されている「ティンブリカ大陸」を出しちゃいますか。 まずは浮遊大陸の話からするのかと思いましたが。 そしてこのクランの大目標は、「人類を擁護する神殺し」。 仲間には悪魔もい…
[一言] ああ、これって魔王フラグなのか! 商人は国家に必要不可欠ですからね。 舐められてる感があるので前回の乱闘回は嫌いで、読み返す時にも外してるんですよ。UOの時代ですらそんなプレイヤーいません…
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