メペの街 その一
我々はダと共に彼がやって来た方向へと進んでいく。そこはこれまで通ってきた道よりも更に罠に溢れた場所だった。数もそうだが、二重三重に張られた罠は連動していてどれか一つでも起動するらしい。
罠の位置を全て知っているダが先行してくれたので無事だったが、罠を数が多すぎて私達だけなら絶対にどこかで引っ掛かっていたに違いない。そして一気に起動した罠で全滅という流れが見えている。ダがいてくれて本当に良かった。
「罠、ここまで。ここから、平気」
「やっとねですね…緊張しました」
ダが罠ゾーンを抜けたと教えてくれた時、我々全員が抱いたのは安堵であった。案内人がいたとは言え、正しく地雷原を歩いていたのと同じ状況だったのだ。気を使う必要がなくなって安心するのも仕方がないだろう。
「グオオン…」
「それにしても、ここは随分と低くなってきたな。カルが翼を折り畳まないと進めない」
ただ、奥に進めば進むほど、通路は狭くなっていた。通路の幅はそれなりに広いのだが、天井の高さがカルにとって少し低い。鉱人の乗る戦術殻の高さに合わせているからかもしれない。
身長と言えば、ダはどうやって戦術殻を操縦していたのだろうか?鉱人の体格からいって、あのサイズの鎧を着るのは難しいだろうに。戦術殻の内側は伽藍堂で、ロボットアニメのように操縦桿がある訳ではなかった。謎は深まるばかりである。
「ここ。えいっ」
「おおー」
私が頭を捻っていると、ダは洞窟の途中で急に立ち止まった。そして何の変哲もない洞窟の壁に触れる。すると一部が隠し扉になっていたようでカパッとコミカルな音を立てて開いた。
その中にあったハンドルがあり、ダが回すと今度は壁の一部が横開きにスライドする。そこにはそれなりに広いが何もない金属製の小部屋があった。
ここが何なのかは不明である。しかし、隠し扉とは最初のアジトのことを思い出させてくれるではないか。あそこは今どうなっているのだろうか?外に出てから数ヶ月経っただけなのだが、もう何年も前のことのように思えてしまう。
「…小部屋?でも何だか見覚えがあるわね」
「これ、昇降機。乗る」
私の感傷はさておき、この部屋は昇降機…すなわちエレベーターであるらしい。言われてみれば資材搬入用の大型エレベーターっぽい場所だ。きっと戦術殻を装着した鉱人の一団が纏まって出撃することが出来るように設計してあるのだろう。やはり、彼らは進んだ文明を持っているようだ。
私達が乗り込んだ後、ダがパネルを操作すると隠し扉が閉まりながら昇降機が下へと降りていく。エレベーター特有の浮遊感を十秒ほど感じた後再び扉が開いた時、我々の目の前には想像していたよりも広い空間が広がっていた。
私はマップを確認する。そこには『メペの街』と書かれていた。それがこの街の名前なのだ。
「明るいな。とても地下だとは思えん」
「街灯もあるけど、あの吊るされてる太陽みたいなもののお陰っぽいわね」
「建物はどれも金属製ですね。地面は…漆喰かアスファルトでしょうか?綺麗に塗り固められています」
「く、車が走ってますよ!?」
「現代っぽいねー」
鉱人の街であるメペは、まるでビジネス街のような場所であった。太陽のように光を放つ球体が吊るされる天井までの高さは推定二十メートルほどで、地面には角ばったビルが整然と並んでいる。ビルの建材は全て金属であるらしく、綺麗に磨かれていて鏡のようになっていた。
天井と地面は漆喰かアスファルトのような物質で塗り固められている。歩道と車道に分かれているようで、実際に車のような乗り物が街を走っていた。道が真っ直ぐに延びていることから、この街は碁盤の目のように区画整理されているのだと思う。
ビルにしても乗り物にしても、どれも鉱人用のサイズである。ビルの扉は小さくて一階層が明らかに低く、乗り物も小型で独特の形状をしている。ここに立って街を観察しているだけでも様々な発見があって面白かった。
そんな街にあって、我々はとても目立っている。近くにいた者達は全員立ち止まり、その後こちらに近付いてきた。そんな彼らとダは無言で握手をする。その瞬間、握手したお互いの手が液体状になって融合したではないか!
我々が絶句しているとその融合状態は数秒で解除されて普通の状態に戻る。ダと最初に触れた鉱人の二人はそれぞれ別の鉱人に同じことを繰り返す。あっという間に今集まっている全員が謎の行為を済ませていた。
「言葉、わかる!外の人!」
「お客さん!」
「初めて見る!」
「わーい!」
鉱人達は大喜びでピョンピョン飛び跳ねて私達を歓迎してくれているようだ。どの個体も少年や少女のような声であるので、種族としてこのような声色になるのだろう。
一言も発していないのに全員が我々について知っていることから、あの行為は鉱人にとっての会話に近い情報交換手段なのだろう。一瞬で伝達出来るのは便利そうだ。
「伝えなきゃ!」
「急ごう!」
しばらくはしゃいでいた鉱人だったが、蜘蛛の子を散らすようにして走り去って行った。きっとあの方法で我々の来訪を街中で情報を共有するのだろう。面白い生態である。
集まっていた鉱人が去った後、その場に残されたのは我々とダ…だと思われる鉱人だけだった。どうして疑問型なのかと言えば、鉱人は服を着ていないし身体的特徴もほぼないので見分けがつかないのだ。
常識的に考えれば、ここに残っているのはダなのだと思う。だが、断言出来ないほど似ているので自信が持てないのである。
「皆、着いてくる。街、案内する」
「あ、ああ。それは有り難いのだが…ダ、だよな?」
「ん?そうだよ?」
良かった!合っていた!そうでないと何を話せば良いのかすらわからなくなってしまう。未だに性別すら不明なダだが、親切なのは間違いない。とにかく、案内に従って進もう。我々だけで歩き回るよりも、この街のことがよりわかるはずだ。
「ここ。オススメ」
ダはそう言って一軒のビルに入っていく。他の建物と比べて入り口が大きく、カルでも入ることが出来そうだ。ここは何なのだろう?
言われるがままに着いていくと、そこには戦術殻が無数に並べられているではないか!しかし、武器庫という雰囲気ではない。それぞれの戦術殻は何かしらのポーズをとっており、武装や性能が書かれたプレートが足元に置かれている。まるで車のショールームを彷彿とさせる光景だ。
「うーん…新作、良い。迷う」
「すまない。ここはどういう場所なんだ?」
「ん?ここ、戦術殻置き場。気に入ったの、好きに使う」
せ、戦術殻置き場?気に入った物を好きに使う?ちょっと自由過ぎないか?彼らの社会システムが気になるが、とりあえず我々も見て回ることにしよう。
戦術殻は実に様々なものがあった。ダが使っていた四脚タイプや二足タイプもあれば、戦車のようなキャタピラータイプもある。さらに狼型や蜥蜴型などの動物タイプまで揃っていた。
また、武装も多岐にわたる。射撃用、近接用、魔術補助、自動攻撃、設置式爆弾…こちらも考え得る限りの種類が揃っている。どうやら規格はあるようで基本的に全ての戦術殻に全ての武装を装備させることは可能らしいが、ごく少数の武装は専用の戦術殻が必要になるようだ。一種のロマン兵器の類いだろう。
「何だか凄いわね」
「はわぁ~!ほわぁ~!」
「あ、アイリスさんが言語能力を失っている…!」
「おー!カッコいいー!」
私を含めて仲間達も戦術殻を眺めて楽しんでいる。個性的な戦術殻が、その戦術殻にとって最も格好いいと思われるポーズを決めているのだ。見物するだけでも楽しめるというものさ。アイリスの場合は武具の創作意欲が掻き立てられるだろうから、心行くまで見物していこう。
それにしても、やはり気になるのはどうやって鉱人がこの戦術殻を動かしているのかだ。戦術殻によって大きさが異なるし、それも問題はないのだろうか?ここは実際に動かす所を見なければ操作方法の見当もつかない。
「よし。これにする」
そうこうしている間に、ダは戦術殻を選んだらしい。それは先ほどと同じく人型上半身の四脚タイプで、武装は両腕と両肩に重火器が搭載され、背中にはランドセルのように大きな箱を背負っている。どうやらダはこの四脚タイプが好みであるようだ。
彼は戦術殻の脚をよじ登って胸の装甲を開くと、身体を液体状に変えて中に入ったではないか!すると戦術殻が動き始め、その右手で開いた胸装甲を閉じた。ひょっとして…
「液体状になって戦術殻の隙間に入っているのか?」
「そう。戦術殻、内側に管がある。そこに入ったら、動く」
乗り込んだ戦術殻の内部から、ダは私の質問に答えてくれた。思い出してみると最初に彼が戦術殻から脱出した時、内側から出てきたのは金属めいた粘体のような状態だった。あれは戦術殻から出るためにそうしたのだと思っていたのだが、まさか操縦するために必要な行為だったとは思わなかった。
ダが言うには、戦術殻には動力の類いは一切ないようだ。内側に血管のように通してある管に鉱人が入り、操縦者の技術と魔力で動かすのだ。正に鉱人が戦闘用に纏う殻であり、彼ら専用の兵器と言える。
我々ではこの戦術殻を使うことは難しい。しかし、応用すれば我々でも使える強固で様々な武装を搭載した兵器になる可能性を秘めている。是非ともこれを作っている者達を紹介して欲しい!
「うん、良い感じ。次、行こう」
「どこに案内してくれるんだ?」
「工房。戦術殻作る場所。面白い」
「行きます!行かせて下さい!」
真っ先に食い付いたのはアイリスだった。触手を用いて素早く接近していることからも、彼女の興奮具合がわかるだろう。かく言う私も見てみたかったのは間違いないので、彼女ほどではないが楽しみであった。
戦術殻置き場から出て少し歩くと、街でも特別に大きな建物まで案内された。ここもやはり大きな扉であり、我々の身長でも入ることが出来る。戦術殻を着たまま入るダに従って、私達も建物の中に入った。
工房には大型の工作機械が所狭しと並んでいる。私には何に使うのかすらさっぱりだが、どの機械もフル稼働しているようで工房の中は常に機械の動く音に満ちていた。
ダのような戦闘用ではなく、作業用と思われる戦術殻も見受けられる。それらがパーツをまとめて運んだり、戦術殻を組み立てたりしていた。
「学生時代の社会科見学で行った工場を思い出すな、これは」
「あ、それわかるわ」
「機械油の匂いがしますね」
「おお…おおおおお…」
「アイリスー?大丈夫ー?」
作業風景を眺めていると、工房の何処かに行っていたダが三人の鉱人を連れて戻ってきた。彼らはここの作業員なのだろうか?
「紹介する。皆、息子」
「息子!?」
「「「はじめまして」」」
「皆、ここの職人。案内させる」
ダ…あんた、少なくとも三人は息子がいたのか。しかも大人と思われる息子が。声が幼かったからか、そんな風には全く思っていなかった。冷静に考えれば声の高さは種族全体の特徴なのだが、第一印象は拭い難くて勝手に少年だと思っていたよ。
こうして案内人が四人に増えながら、我々は『メペの街』見物を続けるのだった。
皆さん、ロボットはどんな形状が好きですか?
次回は3月30日に投稿予定です。




