鉱石だらけの洞窟で
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種族:鋼玉鱗大蜥蜴 Lv63~67
職業:暗殺者 Lv3~7
能力:【体力強化】
【筋力強化】
【防御力超強化】
【敏捷強化】
【砕牙】
【宝鱗】
【重尾】
【石食】
【暗視】
【隠密】
【忍び足】
【奇襲】
【暗殺術】
【物理耐性】
【魔術耐性】
【状態異常耐性】
【土属性無効】
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現れた蜥蜴は鋼玉鱗大蜥蜴という防御に長けた魔物であった。レベルは我々よりも低いものの、見たことがない進化済みらしき能力をいくつも持っている。油断をすれば大怪我をしてしまいそうだ。とにかく、戦ってみるとしよう。
「物理にも魔術にも耐性がある、防御力の高い相手だ。土属性は無効だから使うなよ」
「最初から使えないから、関係ないわ!」
「カルは足止め、アイリスは拘束、兎路は斬ってみてくれ。ミケロは下がって魔眼で攻撃だ。ウール、兎路の援護に敏捷と器用が上がる歌を頼む」
「グオオン」
「任せてー。メメェ~メメェ~」
大きな身体を活かして前に出るカルと敵を挟み込むように兎路は立ち回る。アイリスの触手が捕縛しようと伸ばされ、ミケロの魔眼からビームが発射された。その後ろから私は魔術を使うのだが、隣にいるウールの声は二重に聞こえる。これはバグでも何でもなくて、今の彼には口が二つあるからだ。
大きめで色の変わった羊にしか見えないウールだが、実際は夢魔という悪魔の一種である。柔らかい体毛に隠れているが、腹部に大きな口が増えたようで頭部の口とは別に声を出すことが可能であった。
二つの口で同じ歌を歌えば効果が上昇し、別の歌を歌えば二つの効果を同時に発揮出来る。特に睡眠に関しては【状態異常耐性】では防ぐことも難しいほど強化されるらしい。ウールは援護のエキスパートとなりつつあるのだ。
その特性を活かし、兎路に必要な歌を同時に歌っている。二種類以上の歌を同時に歌うことは魔物にしか出来ないだろう。装備を揃えるのが難しい分、こういう点で魔物は有利なのだ。
「グオオッ!ガルルルル!」
「おっ!重いですぅぅぅ!」
カルは一匹を牙で噛み付くが、鱗が堅すぎて傷を付けることも難しいようだ。アイリスも触手を伸ばして縛り上げるが、拘束するだけでも辛いらしい。
彼女は戦闘が本職ではないが、重い金属など様々なアイテムを扱うこともあって筋力は高い。私なんかよりも圧倒的に力持ちなのだ。その力をもってしても鋼玉鱗大蜥蜴を持ち上げるのは困難なのか。
カルの牙が通用しないこともあって、鱗は鋼玉と同じ硬さと重さがあるのだろう。素材としては一級品に違いない。これは今からドロップアイテムが楽しみである。
「アハハハハ!思い通りに動けるのは楽しいわね!」
苦労しているカルとアイリスに比べて、ステータスを底上げされた兎路は二本の曲剣を巧みに使って鋼玉鱗大蜥蜴を傷付けていた。狭い場所での戦闘は難しいはずなのだが、彼女は普段と変わらず舞うように戦っている。
彼女は【軽業】という能力によって壁走りや空中での宙返りなどを自在にやってのける。派手な動きと共に振るわれる剣が洞窟内の光を反射して閃き、鋼玉鱗大蜥蜴の鋼玉と同じ固さだと思われる鱗の隙間から切り裂いていたのだ。
「ジュラアアアア!」
「ギシャアアアア!」
しかし、鋼玉鱗大蜥蜴もやられてばかりではない。強靭な顎で噛み付き、硬い鱗に包まれた尻尾で殴り付ける。良く見ると牙はドリルのように螺旋状で一噛みされれば大怪我をしそうだし、ゴツゴツした尻尾は凶器にしか思えない。
「菱魔陣、呪文調整、魔力槍」
その隙を与えないようにするのが、私の仕事であろう。後方という安全な位置にいるのだから、しっかりと働かなければ申し訳が立たない。
魔術への耐性があるようだし、ここは威力よりも燃費が良くて連発しやすい呪文を採用した。やはりと言うべきかダメージは据え置きだったものの、攻撃の出鼻を挫けるのならば十分である。このまま牽制を続けよう。
「グルル…グオオオオオン!」
「うわぁ…」
何度噛み付いても牙が通らなかったことに、カルはしびれを切らしたらしい。鋼玉鱗大蜥蜴を荒々しく洞窟の壁に投げつけたあと、そこに思い切り尻尾を叩き付けた。結果、カルの凄まじい力と剣のような尻尾は鋼玉鱗大蜥蜴の鱗を粉砕しながら胴体に食い込んだ。
それでも体力が尽きていない生命力には驚愕を禁じ得ないが、カルによる追撃の尻尾が残った体力を吹き飛ばして止めを差す。流石はカル、ただの蜥蜴など歯牙にもかけない強さである。
「こっちも負けてられないわね!」
「ええ、同感です」
カルが一匹を片付けた姿に触発されたのか、兎路とミケロはその攻勢を一層強くした。アイリスが捕らえている個体を魔眼から放たれた光が焼き尽くし、それ以外は縦横無尽に動き回る兎路が翻弄しながら切り裂いていく。
ウールは鳴き声で、私は魔術で援護を欠かしていない。数の上では同等であった鋼玉鱗大蜥蜴の群れだったが、我々は危ない場面に陥ることもなく倒すことが出来た。
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戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
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「終わったか。弱くもないが、別段強すぎもしない程度か」
「空の飛龍とは大違いね」
「全くです」
「それよりも素材ですよ!」
「良ーのがー、あればいーねー」
我々は早速、魔物から素材を剥ぎ取った。荒々しい戦い方でカルが倒して個体からは土属性の魔石しかドロップしなかった。これはドロップアイテムの種類と品質が倒し方によっても変化する仕様上仕方がない。しかし、残りの個体からは興味深いものが入手出来た。
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無色の鋼玉鱗 品質:可 レア度:S
鋼玉鱗大蜥蜴からとれた無色透明な鱗。
食らった岩石を多く含む鱗は非常に硬い。
金属と同じように加工が可能であり、優れた武具の素材になるだろう。
赤色の鋼玉鱗 品質:良 レア度:T
鋼玉鱗大蜥蜴からとれた赤い鱗。
食らった岩石を多く含む鱗は非常に硬い。
色の着いている鱗は珍しく、同じ大きさの宝石よりも珍重される。
優れた武具の素材だけではなく、上質な装飾品にも使えるだろう。
大蜥蜴の掘削牙 品質:良 レア度:S
鋼玉鱗大蜥蜴からとれた螺旋状の牙。
硬い岩石を削ることに特化している。
加工すれば特殊な効果を持つ短剣や鏃となるだろう。
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色つきの鱗がレアドロップと言うことだろうか。確かに樹木の年輪めいたラインが入った紅玉のような鱗は独特の美しさがあって、装飾品に使えるというのも頷ける。指輪にするには大きすぎるので、ペンダントなどにすると良いだろう。
汎用素材である無色の鱗とネジのような牙も色々と使い道がありそうだ。特にシオにとって待望の新たな鏃の材料の発見は朗報である。多めに持ち帰ってやりたい。
「鉱床だけじゃなくて、魔物のドロップも良品揃い!ここは素材の宝庫ですね!」
「確かにその通りだが、当初の目的である鉱人との接触を忘れていないよな?」
「あっ、そうでした」
ウキウキしていたアイリスはそもそもここに来た目的を忘れかけていたらしい。まあ彼女の気持ちもわからないでもない。まだ実物を見てすらいない存在を探しだすことよりも、目先の素材に目移りするのは自然な反応だからだ。
急いでいる訳でもなし、この調子で採掘ポイントをチェックしながら見たことのない魔物を狩りながら進めばいいだろう。もちろん、鉱人のことも頭の片隅に入れておいて貰いたいが。
それから我々は探索を再開した。採掘ポイントは尽きることなくそこら中にあり、素材集めは順調に進んでいる。それだけではなく、見たこともない様々な魔物と遭遇した。
鋼玉鱗大蜥蜴と同様の鉱石のような殻を背負い、口から強い酸を吐き出すつつ雷撃魔術も使いこなす雷鉱蝸牛。その天敵だと思われる、洞窟の壁を自由自在に走り回って強靭な顎で襲い掛かる暴食蝸牛被。
特に面白かったのが、洞窟内のノシノシと歩く黄金甲陸亀王というレベル90オーバーの魔物だ。名前の通り黄金の甲羅を持つ巨躯の陸亀で、身体の大きさはカルよりも大きかった。
非常に温厚かつ人懐っこいようで、我々が近付くと鼻を寄せて挨拶するように可愛い鳴き声を出した。向こうから敵意を感じない上に戦うのを躊躇う高レベルに対応を悩んでいる内に、カルが仲良くなってしまった。なので倒すどころか戦ってすらいない。
だが、倒す必要はなかった。何故なら黄金甲陸亀王の背中には採掘ポイントがあって、それを快く使わせてくれたからである。怒らせたりしないだろうかとビクビクしながら勇気を振り絞って採掘した鉱石がこれだ!
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黄金鼈鉱 品質:優 レア度:T
黄金甲陸亀王の金色に輝く甲羅に生える瘤から採取された鉱石。
生きた個体からでなければ品質の良いものを採取することは出来ない。
黄金甲陸亀王の上質な魔力をふんだんに含んでおり、加工は難しいが万能な素材となることだろう。
黄金鼈甲の欠片 品質:優 レア度:T
黄金甲陸亀王の金色に輝く甲羅の破片。
生きた個体からでなければ品質の良いものを採取することは出来ない。
黄金甲陸亀王の上質な魔力をふんだんに含んでおり、加工は難しいが万能な素材となることだろう。
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まさかの『倒さないのが正解』だったのである。鼈甲の上に乗っている鉱石と鼈甲そのものが入手出来た。と言うか、あの採掘ポイントは黄金甲陸亀王の瘤だったらしい。採掘した時に気持ち良さそうな鳴き声を上げていたので、採掘されるのがむしろ嬉しいのかもしれない。似た個体に出会ったら友好的に接してみよう。
また黄金甲陸亀王の進化前だと思われる黄金甲陸亀や白銀甲陸亀、子供らしき鉄甲陸亀等が列を成して歩く微笑ましい光景にも遭遇した。黄金甲陸亀王の世話になった直後だったこともあり、これらの魔物とは戦っていない。
「探索は楽しいし実入りも良いけど、目的の鉱人が全然いないわね」
「痕跡すらありませんね?」
洞窟を歩いている途中、ふと兎路とアイリスがそう呟いた。私も同じことを考えていたのだが、これだけ探して影も形も見当たらないとなると…ひょっとしたらこの洞窟にはいないのかもしれない。もしそうだったら探索を切り上げて帰り道を探す方向にシフトするべきか…
「んー?何かー、聞こえないー?」
「音?そういえば微かに魔物の吠える声が聞こえるな」
私の隣を歩いていたウールが何かの音に気が付いた。言われてから耳を澄ますと、確かに魔物の声だと思われる何かが聞こえてくる。魔物同士のぶつかり合いだったなら、漁夫の利の狙っても良いだろう。我々は音のする方へと歩みを進めるのだった。
次回は3月18日に投稿予定です。




