水霊と新たな冒険
神秘的な光景に言葉を失っていた私達だったが、ハッと我に返ってから輝く玉をしげしげと観察した。目を凝らしてよく見ると、玉だと思っていたのはメダカくらいに小さな魚の形をした青色で透明な何かだった。
指を伸ばすとその魚は近付いてきて、籠手の上からコンコンと指を啄むようにして遊んでいる。まるでドクターフィッシュのようなコミカルな動きであった。
「キリルズよォ、こりゃァ何だァ?」
「これは水霊…水属性の魔力の化身さ。こいつらは生命体じゃなくて、魔力そのものが意思を持って動き出したものだよ。イザーム、【鑑定】してみたらどうだ?」
「なら、お言葉に甘えて…」
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水霊 品質:神 レア度:C
水属性の魔力が動き出したもの。
生命体ではないが、最低限の意思を持っている。
水属性の魔力がある場所ならば何処にでもいるが、姿を表すことはほとんどない。
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キリルズに言われるまま【鑑定】したところ、彼の言った通りの説明文だった。品質は最高クラスの『神』だが、レア度は最低クラスの『C』である。生きているように見えるが、あくまでもアイテムという判定らしい。植物などと同じなのだろう。
試練の報酬のように神が直接作成したものだが、数が無数にいるからレア度は低いらしい。姿を見せることは稀なようだが、実際は無数に存在しているのだろう。
「この池は水霊が特に沢山いて、我々の呼び掛けに答えてくれるのさ」
「姿を見せてもらう為の条件は知っているか?」
「さあ?俺が子供の頃から呼べば来てくれるしなぁ。ただ、俺達の一族は誰でも『水霊使い』って職業に就けるぞ。水霊と交信出来るから職業を得られるのか、それとも職業の条件を満たしているから水霊と交信出来るのかはわからんね」
よ、呼べば来るのか。子供の頃からそれが当然な環境だったせいで、彼にも条件はわからないらしい。加えて未知の職業の情報だ。こちらも条件は不明、と。
とても面白い情報ではあるが、条件がわからないのだから目指すことすら難しい。水霊を呼び出すアイテムなどがこの里にあれば融通して欲しいものだ。
「そうか…しかし、その言い方だと他の属性の霊もいそうだな?」
「ああ。属性魔術に対応する霊と、その他にも色々な霊がいるそうだ。詳しいことが知りたいなら、爺ちゃんに聞いてくれ。そこまで詳しく知ってるかどうかもわかんねぇけど」
ふぅむ、確実とは言えないが長老ならば何かを知っている可能性があると。今日はもう帰らなければならないが、今度来る時に話を伺ってみるとしよう。その時は他の仲間達も連れて来てこの光景を見せてあげたいものだ。
「素晴らしい景色をありがとう。近い内に他の仲間達と共にまた来ても良いだろうか?」
「もちろん!お前の仲間だけでも歓迎するさ!ただし、今度は危ない果物を食べないようにちゃんと仲間に言っておくんだぞ?」
「わかっているとも。なあ、カル?」
「グオォ~!」
カルは麻痺して動けなくなったことに相当懲りたようで、悲しそうに唸った。その様子が可愛らしくてガリガリと首を撫でてあげてから、私達は森に来た時と同じようにカルの背に飛び乗って『闇森人の里』を後にした。
◆◇◆◇◆◇
ログインしました。あの後、特にこれと言ったトラブルもなく無事に帰還した私達はそのままログアウトした。今日はログインするのが少し遅くなったので、もうペナルティの二十四時間は経過している。なのでイベントエリアに行こうと思えば何時でも行ける状態だ。
しかし、昨日のことがあったのでとりあえず今日はイベントエリアに行くのは止めておこう。何、イベントで好成績を残そうとは思っていないのだから問題はないさ。
「おや?珍しい組み合わせだな」
私がラウンジに入ると、そこに居たのはアイリスとミケロ、兎路にウールという変わった組み合わせだった。私が思わず口に出してしまうくらいには珍しい。アイリスはしいたけ、ミケロはネナーシ、兎路はエイジ、そしてウールは紫舟と共に行動することが多いからだ。
アイリスは生産職繋がりで、残りは最初からの相棒だ。付き合いの長さから、連携も他の仲間よりもやり易いし気安い関係でもある。それが綺麗に片割れずつ揃っているのだから、珍しいと言わざるを得ないだろう?
「あっ、イザーム。こんにちは」
「おお、イザーム様。昨日は大変でしたね」
「聞いたわよ。ジゴロウと兄弟分コンビで暴れたんですって?」
「なっ!何故それを!?」
「掲示板にー、載ってるよー」
「…おのれ、情報化社会め」
どうやら全員が私の暴れた事実を知っているらしい。些細な情報でもすぐに知れ渡る世の中だし、大衆の面前で戦った情報が出回らない訳がないか。
アイリスは何時も通りに、ミケロは心配そうに、兎路は口の端を上げて面白そうに、そしてウールは淡々とそう言った。三人はともかく…兎路さん?人が困っていることを面白がるんじゃありません!
「周囲の評価はさておき、昨日はイベントに行けなかった代わりにジゴロウと闇森人の里に行ってきた。これがそのマップ情報だ」
「おお!」
「アイテムはアイリスに渡しておこう。何かに使えるだろうし、創作のヒントになるだろうからな。しいたけにも自由に使っていいと伝えてくれ」
「助かります!」
私は昨日の探索で得た情報を伝え、アイテムを預けた。ついでにマップ情報と里であったことをまとめて記述してからクランの全員に送信しておく。これで行きたくなったら何時でも行けるし、万が一キリルズ達に警戒されても私の仲間だとわかってくれるだろう。
「それで、皆はどうだった?イベントエリアには行ったのだろう?」
「それなんだけど、人外だと多少のトラブルは付き物っぽいわね。迷宮は結構楽しかったけど、しつこくナンパされたのよ。鬼娘がどうのこうのとか言う連中に」
「私は十回以上、野良の魔物に間違えられて攻撃されました。それはネナーシさんも一緒です」
「私も引かれちゃいました。ジロジロ見られてちょっと嫌でしたね…」
「僕はー、平気だったよー。けどー、紫舟はー、怖がられてたねー」
彼らは彼らで苦労しているらしい。鬼娘が何なのかは良くわからないが、兎路は額の角などから明らかに人外だとわかる特徴はあれど客観的に見て豊満な美女である。しかもそれが扇情的な踊り子の衣装を身に纏っているのだから、声を掛けられてもおかしくない。
浮かぶ触手付き巨大眼球としか言えないミケロは恐れられても仕方がない。私も最初に見掛けた時はビクッとなったし。アイリスも似たような理由だろう。
例外はウールくらいのものだ。遠目に見たら色の変わった羊にしか見えないから、警戒されなかったのだと思われる。ただ、同行していた紫舟は巨大な蜘蛛なので苦手な人は一定数いるはずだ。まあ実際は二人とも悪魔の一種であり、かなり邪悪な存在なのだが。
「私達のように暴れてはいないだけで、苦労は絶えないのだね」
「そういうことよ」
「イザームは今日はどうします?ここにいる皆でイベントに参加しますか?」
「いや、今日は自粛しようと思ってね。それを期にこの大陸にいるとされる最後の人類モドキと接触しようと思っている」
「確か、鉱人でしたか」
ミケロの確認するような問いに私は頷いた。ナデウス氏族から聞いた情報によれば、このティンブリカ大陸には四つの人類モドキと呼ばれる種族がいる。刺青のような紋様を持つ疵人、浅黒い肌と長い耳の闇森人、下半身が四本足の四脚人、そして小柄で金属っぽい鉱人だ。
これらの内、三つの種族とは既に接触している。深く交流しているとは言えないが、何れも友好的な関係を築くに至った。となれば最後の鉱人とも友誼を結ぼうと画策するのは自然な流れであろう。
「私もご一緒させて下さい!」
「面白そうね。アタシも行くわ」
「では、私も」
「僕も行くー」
皆が乗り気なのは私にとって頼もしい限りである。しかし、何時ものコンビを待たなくて良いのだろうか?てっきり待ち合わせをしていたと思っていたが…聞いてみるとしよう。
「アイリスはともかく、三人とも何時もの相方は良いのか?」
「エイジのこと?別にアタシ達はセットじゃないわよ」
「ネナーシさんは所用でログイン出来なさそうだと伺っております」
「紫舟はー、ちょっと熱が出てるからー、今日は来られないよー」
待ち合わせている訳ではないのか。ならば気兼ねなく連れ回せるというものだ。では、カルを含めた六人パーティーで鉱人の住むとされる山に向かうとしよう。山がどのような場所なのかは不明だが、それは行ってみてのお楽しみとしておこうか。
◆◇◆◇◆◇
我々はカルの背中に乗ってしばし空の旅を楽しんだ。ただ、全員が乗れるほどのスペースは無いので、アイリスと兎路が背中に乗り、ウールはカルに抱えられ、私はカルの隣を飛んでミケロは触手をカルの後ろ足に括り付けてぶら下がっていた。
毎度のことながら、カルの飛行能力には助かっている。歩きの移動ではどうしても地形によって煩わしい思いをすることも多いし、何よりも戦闘する場面が極端に少ない。攻略したい場所に到着する前に消耗してしまう事態を避けられるのだ。
「目的地って、あの山ですよね?」
「煙が上がってるわ。活火山って所かしら?」
「フィールドの名前は『槍岩の福鉱山』だと聞いている。雪山と火山のどちらかだろうとは思っていたが、火山の方だったか」
早くも見えてきた山は、山頂からモクモクと噴煙が立ち上る火山であった。山肌にはほとんど樹木はなく、代わりに槍のように尖った岩がまるで剣山のようにそこら中に並んでいる。なるほど、これが『槍岩』の語源という訳か。
どうしてもフィールドは草原か森、もしくは洞窟が多くなってしまう分、火山を訪れるのは心踊るものがある。出現する魔物も得られる素材も楽しみだ。
「グル?グオオオオオン!」
「カル?敵襲か!」
火山での冒険に胸を膨らませていた我々だったが、何かを察知したカルが威嚇するように吼えた。我々が慌てて武器を構え、カルの視線の先を追う。すると、そこには雲の上からこちらに向かって急降下してくる一体の巨大な影が見えた。
「ド、龍!?」
襲撃してきた敵を見て、アイリスは思わず悲鳴を上げている。彼女が言う通り、硬質な鱗に覆われた空を舞う爬虫類という点でその姿は龍に酷似していた。しかし、私はそれが龍ではないと知っている。
「いや、違う!前足が翼になっている。あれは…!?」
「ギャオオオオオオオオオオオ!」
私が魔物の正体を言い当てる前に奴は特大の火炎球を口から発射した。回避は間に合わず、我々は爆炎に包まれて落下することになるのだった。
次回は3月10日に投稿予定です。




