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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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隠し扉の先に

 掲示板回と同時に投稿しています。ご注意下さい。

 ルビーが見付けた隠し通路は地下へと向かって延びている。横幅は狭いが、都合の良いことに高さはそれなりにあって巨漢であるエイジも共に行くことが出来た。ただ、カルは流石に入らなかったので待機である。先程の戦いで疲れたらしく、セイの従魔達と一緒に眠っているので寂しくは無いと思う。


 隠し通路は思っていたよりも長く、かなり深くまで降りることになった。一応、【暗視】はあるが腰に吊り下げるランタンを装備しておく。自分でも臆病が過ぎるとは思うが、万が一に備えるのは大切だ。


「ここが扉か。ルビー、行けそうか?」


 通路の先には飾り気の無い、しかし金属製の扉があった。大きな鍵穴が付いており、これを開けない限りは内側に侵入することは出来ないだろう。


 そして錠前破りと言えば盗賊、即ちルビーの出番である。暗殺者系という戦闘重視の職業(ジョブ)構成の彼女だが、鍵をこじ開けるのは得意であった。何故なら…


「うーん…お!外れた!元々脆かったから楽勝だね!」


 粘体(スライム)の身体を鍵穴に入れて変形させれば、ピッタリの鍵を作ることが出来るからだ。能力(スキル)のレベルや職業(ジョブ)による補正が低かったとしても、鍵があるならだれでも開けられる。


 時代劇の盗賊が鍵穴に蝋を流して型をとる描写があり、それを源十郎が話して参考にしたら出来たそうな。何事も試してみるものだ。他にも狭い隙間や水中から侵入するのも得意なので、本気で暗殺しようと目論む彼女の魔の手から逃れるのは至難の業であった。


「んじゃ、やりましょうか」

「行くぜェ!せーのォ!」


 鍵が開いたら次は扉を開けなければならない。錆び付いた金属の重い扉を開けるのは至難の業で、全員の筋力を【付与術】で強化してようやく動いてくれた。


――――――――――


イザームは隠しエリア『秘都の宝物庫』を発見した。

発見報酬として30SPが授与されます。


――――――――――


「うっひょぉ~!」

「これは…凄い!」


 ガリガリと錆びが擦れる嫌な音をさせながら開いた扉の先には、山のように積まれた金銀財宝が眠っていた。期待を裏切らないだけのお宝に、我々は思わず歓声を上げる。発見報酬も非常に美味しいが、今は目の前のお宝が優先だ!


 ゲーム内でも貴重品として取引される金の延べ棒や、見事な芸術品の数々。【鑑定】してみても実用的なアイテムではないものばかりだが、芸術品としての価値は計り知れない。好事家に売り飛ばせば一財産出来るだろう。


 他にもしいたけが食い入るように見ている薬品や、源十郎が軽く素振りをしている宝剣など思わず手にとってほくそ笑んでしまう強力なアイテムも多い。霧の立ち込める『灰降りの丘陵』の攻略から考えると、それなりに時間が掛かっている。苦労に見合った報酬を貰えると、やはり嬉しいものだ。


「うーむ、どれから見るか…おや?この箱は何だ?」


 私も物色して回ることにしたものの、色々と有りすぎて何から見れば良いのか目移りしてしまう。その時、ふと気になったのが大小様々な宝が飾られる棚にある一つの木箱が気になった。


 棚に並べられている宝物は、どれも美しく見えるような角度で飾られている。差し詰め博物館か宝飾品店の様相を呈しているが、その中にあって目立たないように宝物の裏にさりげなく置かれていたのだ。私が気付いたのは偶然に過ぎず、宝物に夢中になっていると見逃していただろう。


 一見すると地味なのだが、箱の彫刻は非常に細緻で美しい。蓋の中央にある紋章を祝福するように飛び交う鳥のレリーフが、側面には小さな花を咲かせる蔓植物が刻まれていた。派手さは無いが、きっと中には大切なものが入っているのだろうと思われる。開けてみるとしよう。


「翡翠の印章…まさか、玉璽か!?本当にあったとは…」


 箱の中身は正しく玉璽であった。翡翠特有の半透明な深緑色が美しい拳大の印章である。飛び立とうとする鳥のような形をした握りには蓋のそれと同じ紋章が刻まれていた。


 まさか本当にあるとは思っていなかったので、正直に言って感動ものだ。ゲーム内ではあるが、歴史の教科書に出てくるようなアイテムに若干ながら指が震える。私は恐る恐る玉璽を掴むと、それを【鑑定】してみることにした。


――――――――――


亡国の玉璽 品質:神 レア度:G(神級)

 今は亡き国に伝わっていた、由緒正しき王の証の一つ。

 玉璽とは神によって造られるものであり、故に権威の象徴となる。

 これを持たねば王は名乗れず、玉璽は常に王を求める。

 己が主を持たぬ玉璽に、何の意味があるというのだ?


――――――――――


 やはり玉璽であったか。『亡国の』とあることから、この玉璽を持っていた国はもう滅亡していることがわかる。例のセプテン公国の玉璽だったのだろう。品質とレア度は最高だが、説明文にあるように神造のアイテムだというのだから納得だ。


 果たしてプレイヤーである我々に必要なものなのかはさておき、とても希少なアイテムであることは疑いようもない。何かに使えるかもしれないし、大切に保存しておこ…


――――――――――


称号(タイトル)、『王の資格を持つ者』を獲得しました。


――――――――――


「は?」

「あァ?」

「へ?」

「ん?」

「ほう?」


 私が新たな称号(タイトル)を得たと同時に、皆もピクッと動きが止まる。彼らもきっと称号(タイトル)を得たに違いない。困惑が大きくなる前に、事情を話さねばなるまい。


「あー、皆!先ずは何があったのか聞かせて欲しい」

「何があったも何もよォ、『資格者の朋友』ってェ称号(タイトル)が急に増えたんだよなァ」

「私もです!」

「皆、同じようじゃのぅ。そして資格者とはお主じゃろう、イザームよ」

「それしかないよね?」


 …皆の間で私はどういう目で見られているのだろう?若干不安になるが、事実なので反論出来ない。とりあえず、今分かっている事実を伝えるとしよう。


「概ね、その通りだ。この箱の中に玉璽があってな、それを持った瞬間に私にも『王の資格を持つ者』という称号(タイトル)を得たんだ」

「王の資格って、王様になるってこと?」

「さあな。王になろうと思えばなれるのかもしれん。国の運営など微塵もわからんが…」


 王と言われても、何をどうすれば良いのかわからない。どこまで行っても、一般人な私としては戸惑いの方が強い。具体的に何をすれば良いのだ?


 そもそも、たった従魔を含めて二十人ちょっとしかいない集団で王様を名乗るとか笑い話も良いところだ。国民と言える者達もいないし、自他共に認める指導者でなければただの変な奴でしかない。


称号(タイトル)も大切な話だけどさ、何はともあれ今日はログアウトしない?疲れちゃったよ」

「そりゃあ同感や…おん?ちょ、こりゃどういうこっちゃ!?」


 ログアウトの話になった時、七甲が素っ頓狂な声を上げた。彼がメニュー画面を操作していたのは動きでわかっていたので、私も開いてみる。すると、何故か私達の居る場所が『拠点内』という扱いになっているではないか!


 え?何で?いつの間にこの宮殿が我々の持ち物になったんだ?バグか?いや、落ち着け。ログを調べよう。どこかで所有権を得たタイミングがあるハズ…これか!


「…ボス討伐の特別報酬らしい。この『霧泣姫の秘都』の全域が、シラツキようなクランの所有物になったようだ」

「こっちも確認しました。随分と豪勢な報酬ですね!」

「大地主じゃん!やったね!」

「地主じゃなくてー、王様だよー」

「あっ、そっか!」


 紫舟とウールがほのぼのと会話しているが、これは喜ぶべきか悩むところだ。都市をまるごと掌握したと言えば聞こえは良いが、その都市は都市として機能していないのだから。しかも宮殿には敵対的な魔物が徘徊しているかもしれない。


 まあ誰にも気兼ねする必要の無い土地を得られたのは僥倖だ。何も無い上に拠点として利用する前に魔物の大掃除と未探索エリアを隈無くチェックすることは必須だが、逆に言えばほぼ最初から全てを計画可能ということでもある。魔改造していくしか無かろう。


「これからどうするかを決めるのは後日、ということで今日は解散しよう。私も色々と有りすぎて一度頭の中を整理したい」

「そうしましょうか」


 こうして『霧泣姫の秘都』の攻略と、予定に無かった強奪は終わりを告げた。シラツキを呼んだりムーノ殿達に報告したり、都市の調査をしたりとやることは盛り沢山だ。


 しかも他の種族(レイス)との交流も持ちたいし…これはイベントに行けるかどうかも怪しくなってきた。まあ、行けたら行くくらいの感覚でいるとしよう。



◆◇◆◇◆◇



「うわっ、マジで勝っちゃったよ!」

「あらあら、凄いわねぇ」

「すごーい」

「イーファの言う通りになった」


 『死と混沌の女神』である私とイザーム様達の戦いを見守っていた彼女達大神(管理AI)は、彼らの勝利にとても驚いていました。大神(管理AI)としてボスとなった魔物のスペックを調整していたのですが、『霧泣姫の秘都』の難易度はそれなりに高く設定していたからです。


 パーティーが一つだけならレベル100のフルメンバー、イザーム様と同じ人数なら最低でもレベル85は欲しい所。それでも普通なら半数は死に戻りする。そのくらいの難易度でした。


「言ったでしょう?彼らならやってくれる、と」


 高難易度のフィールドに低レベルで挑むということもあって、彼女達は全滅すると予想していました。それを覆せるだけの力があの一団にはあると私は確信していましたが。


「ただ、運が良かったのも理由ではあるでしょう。普通なら先にクロードが倒されるでしょうから」


 姫を守るために己の身体を削る騎士。確かに美談ですが、生死を掛けた戦いに臨むならただの足手まといを抱えているだけのこと。自分のことをかなぐり捨ててでも必死に守るため、イザーム様のように状態異常への耐性を持つ者がカトリーヌをチクチク攻撃すれば案外簡単にリソースを失ってクロードを先に倒す事が可能になります。


 ただし、この場合は後半戦が地獄と化します。イザーム様達が戦っていた時に出現した、クロードを背後から抱き締めていたカトリーヌ。あれこそ【死スラ二人ヲ別ツニ能ワズ】という能力(スキル)の効果。先に死亡した方が無敵状態の霊体となって、遺された方を補助するようになるあの二人専用の能力(スキル)でした。


 そしてクロードを失ったことで狂乱し、強化された【不死女王の呪界】を戦場一杯に広げたカトリーヌと彼女を守るべく剣とハルバードを振るう当たり判定の無いクロードの二人を同時に相手取る必要が出てきます。仕様を知らなければ軽く全滅するであろう戦いを強いられるのです。


 一応、本体の耐久力がクロードと比較して貧弱なので、状態異常に耐えつつ彼の猛攻を掻い潜れば勝機はあります。無敵状態で大暴れするレベル100の近衛騎士団長を相手にそれが出来るかどうかは別の話ですが。


「…玉璽を手に入れられたようですね」

「これでプレイヤー初の王が誕生か。そこまで計算してたの?」

「いえ、流石にそこまでは。王国を築く権利を得たのは、イザーム様達の努力によるものです」


 王へ至る条件は王の証を三つ以上集めること。ただし、同じ種類のアイテムは認められません。これを成し遂げるのは様々な冒険を乗り越える必要があります。他のプレイヤーにも二つを入手した方はいらっしゃいますが、三種類を集めたのはイザーム様達が一番乗りのようですね。


 プレイヤーが国家を樹立し、NPCや同じプレイヤーを国民として迎え入れて富国強兵に努める。その結果、元々あった国と対立したり、場合によっては戦争に発展するかもしれません。ですが、それこそが私の求める混沌。期待していますよ、『夜行衆(ナイトウォーカー)』の皆様?

 次回は1月22日に投稿予定です。

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[一言] めっちゃ面白かった
[一言] 今章は長かった割に内容が微妙だったなぁ
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