首無しの番兵 その三
ジゴロウと源十郎は二人で首無精鋭近衛騎士を相手取っていたが、戦況は膠着状態に陥っていた。二対二、しかし相手の方がレベルが高いという状態で互角以上に戦えているのは偏に二人の技量が優れているからであった。
「オイ、爺さん!アッチはもう終わりそうだぜェ!?」
「では、此方も急ぐとするかのぅ!」
二人が急ぐ理由はただ一つ。自分の腕前に自負があるからこそ、仲間達が敵を倒す前に勝利したいと思っていたのだ。
無論、これで終わりではないと理解しているので、使用回数が限られたり、長時間のステータス低下などのデメリットがあったりする能力を温存する理性は残っている。その上で素早く決着を付けてやろうと言うのだ。
「行くぜェ、オッラァ!」
最初の一手として、ジゴロウは姿勢を低くして間合いを詰める。そのままタックルして脚を掬い上げ、転倒させるつもりであろうか。
しかし、大盾がその突進を阻むべく翳される。このままでは頭から衝突し、ジゴロウだけがダメージを受けることになってしまう。
「読んでたぜェ!その動きはよォ!」
激突する直前、口角を吊り上げたジゴロウは低い姿勢から急に跳び上がると、大盾の上辺を足場にして背後に控えるハルバードを持つ方に飛び掛かった。即座にハルバードの突きが迫るが、なんと空中で柄を掴み取ってしまった。
「あらよっとォ!」
着地したジゴロウはハルバードの斧頭を叩き付け、その付け根を踏みつけて深く地面に食い込ませる。そしてハルバードの柄を足場に駆け出し、その勢いのまま押し倒した。
飛び越えられた方の首無精鋭近衛騎士は素早く助けに入ろうと動く。しかし、それは悪手でしかない。
「儂に背を向けてはいかんじゃろう」
無防備な背中を見送るようなことはせずに、源十郎は装甲の薄い膝の裏を斬り裂くと同時に槍を投擲してシオが繰り返したように鎧の首元へと投げ入れる。回転しながら飛んでいった槍は、天霊島で源十郎自身の角を素材にした業物だ。盾を持った首無精鋭近衛騎士は膝から崩れ落ちるように前のめりに倒れながら大ダメージを食らっていた。
「手首ィ!肘ィ!肩ァ!ハッハァ!これでもう武器は持てねェよなァ?」
一方のジゴロウは、地面に押し倒した首無精鋭近衛騎士の右腕を破壊していた。手首、肘、そして肩の関節を捻って挫いたのである。鎧の上から骨を折ることは難しくとも、関節ならばその限りではなかったのだ。
これがイザームのように全身が骨で関節が魔力によって繋がっていたり、幽鬼のように透けている相手であったりしたなら無意味だっただろう。だが、首無精鋭近衛騎士は鎧を着ているだけで肉体を持つ不死だ。種族としては邯那の英雄僵尸と同じ生ける屍系になる。なので治癒する手段が無ければ破壊された関節は治らないのである。
ジゴロウは流れるように今度は腕ではなく両脚を折りにかかった。足首、膝、そして股関節をも徹底的に外していく。ミシミシ、ベキベキという軋んだ音が鎧越しにも聞こえてきた。
源十郎も負けてはいない。立ち上がろうとした盾持ちの首無精鋭近衛騎士に翅を使って加速しつつ接近し、槍を引き抜きつつ脇を下から斬り上げた。鎧下ごと肉と骨まで断つ見事な一撃である。鎧こそ断てなかったが、その下では腕がほぼ切断されていた。
「これで後はトドメを差すだけだなァ」
「向こうも終わったようじゃし…此方も仕舞いにするかの」
無力化された首無精鋭近衛騎士は、片方は這いずることしか出来ず、もう片方も膝立ちの姿勢から動くことは出来ない。このまま嬲る趣味は無い二人は、同時にトドメを差すのだった。
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【魔力精密制御】レベルが上昇しました。
【大地魔術】レベルが上昇しました。
新たに落岩の呪文を習得しました。
【大地魔術】が成長限界に達しました。限界突破にはSPが必要です。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
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あの二人、本当に倒してしまった。彼らにも『下剋上』の称号はあるが、まさか進化の段階が一つ上の相手を普通に倒すとは恐れ入る。本当に、本当に味方で良かったとつくづく思う今日この頃です。
崩れた宮殿に入る前から中々の激戦だったが、大きな損害も無く突破したのは大きいだろう。簡単に治療を済ませ、剥ぎ取ったら早速宮殿に殴り込むとしよう。
「おぉ~…おぉ?」
「この鎧は…イザーム、見てください」
私はアイリス達が剥ぎ取ったアイテムを【鑑定】してみる。するとこのような結果が返ってきた。
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セプテン公国近衛騎士の鎧 品質:劣 レア度:S
かつてルクスレシア大陸にあった、亡国セプテン公国に仕える近衛隊の鎧。
良質な鉱山を持つセプテン公国は、品質の良い武具の生産国でもあった。
当事の輝きは見る影もないが、その性能は未だに全ては失われていない。
装備効果:【魔術耐性】Lv5
【物理耐性】Lv5
【全ステータス強化】Lv1
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ふむ、これはセプテン公国という国の近衛騎士に支給された鎧だったらしい。国が滅びた原因も、ルクスレシア大陸からこのティンブリカ大陸まで来た理由も不明だ。これから明らかになっていくのだろうか?
アイテムの背景はともかく、鎧としての性能は高い。物理と魔術に耐性があり、加えて全ステータスを向上させるのだ。装備効果はシンプルだが、汎用性は非常に高い。【魔術耐性】のお陰か呪われている様子も無いし、仕立て直せば良い防具として使えるだろう。
「ハルバードと大盾が一つずつ、鎧は三領、剣は四振り、残りは魔石だね。ドロップはちょっと渋いかな?」
「それなりに強かったけど、その分経験値は美味しかったわ」
しいたけが報告し、邯那は感想を述べる。ドロップの総数は敵の数だけあるが、どの魔物からも出ることがあるという意味でハズレの魔石が多いのは少し残念だ。
経験値に関しては彼女の言う通りである。私とカルはレベルアップしたし、ジゴロウと源十郎に至っては遂にレベル70になって進化の時を迎えたのだ。
「ウハハ!角が増えちまったぜェ!」
「ほっほ、ずいぶんとまあゴツゴツした格好になったのぅ」
ジゴロウは金色修羅という種族になった。額から三本目の角が生えた以外に外見の変化は見てとれない。しかし、ステータスが向上して特殊な能力が追加されたようだ。
源十郎は|豪傑武士甲蟲人《サムライハイマスターインセクター・エッジビートル》という、とても長い名前の種族になっている。ジゴロウとはうってかわって、本人も言うように外骨格の全体的にゴツゴツした突起が生じていた。防御力は完全武装の重装戦士に匹敵しているらしく、生半可な武器では傷一つつけられないだろう。
それに二人とも『奥義』か『秘術』を増やせるので、戦闘力は飛躍的に上昇している。レベルアップの度に上昇するステータスの数値は人類よりも低いが、進化すると一気に強くなるのがたまらないね!
「進化した後の調子を確かめる時間は無いが、そろそろ先に進もう。宮殿にも強敵はいるだろうからな」
「わかってンよ、兄弟」
「うむ。行くとしよう」
二人がはしゃぐ気持ちは良く分かるが、ここは未攻略のフィールドだ。前に進んで、あわよくばボスを倒してやりたい。そこまで行けるかはわからないが。
落ち着いたところで、我々は宮殿の探索を開始した。宮殿にも魔物はいるが、それは首無近衛騎士や不完全人造人類という見覚えのあるモノ達だけだった。数も多くはなく、二、三体という少数であった。
「身体が軽いぜェ!」
「ううむ、毎度のことながら調整が難しいわい」
ジゴロウは新しくなった身体に素早く順応したらしい。肩慣らしだと言って敵を蹴散らしている。逆に源十郎はステータスの上昇によって武器を振るう感覚が微妙に変化しているらしく、慣れるのに時間がかかっている。これはいつものことなので本人に頑張って貰うしかないが。
一つ気になるのは街には魔物の気配すら無かったのに、宮殿の内部にはそれなりの頻度で敵が現れることだ。その理由は何なのだろうか?
「ルビー、宝箱とか無いの?」
「うーん、探知に引っ掛からないよ。あったのも全部罠だったしね」
「擬態宝箱って奴っすよね」
ルビーはシオの質問にプルプルと身体を上下に揺らして肯定した。上下に揺らすと肯定、左右に捻ると否定である。顔も手足も無いのに、感情表現や意思表示が伝わるのは慣れであった。
そして探索するフィールドや迷宮でお約束の宝箱だが、確かに幾つかの部屋で確認されていた。しかし、その全てが擬態宝箱という魔物であった。
掲示板によると擬態宝箱は宝箱やそれに準ずる容器に擬態した魔物で、強さは然程ではないが宝箱を開けようとした者を捕食して即死させるらしい。倒してもアイテムがドロップするとは限らず、戦うだけ損な場合も多いようだ。
そんな擬態宝箱ばかりが転がっている。崩れている外側と同じく宮殿は内装もとても酷いものだった。なのにやたら綺麗な見た目の宝箱や箪笥があれば露骨に怪しい。ルビーが調べるまでもなく誰もが警戒していた。
「もしかしたら、宝物庫があって纏めておいてあるのかも」
「宮殿やからなぁ。あり得ると思うで」
七甲も頷いているが、誰かが宝を管理しているのなら一ヶ所に纏めて隠していてもおかしくはない。私なら強固な金庫に罠を満載させて、侵入を難しくしつつ万が一侵入されても確実に排除するように設計するだろう。可能か不可能かは別にするが。
そうして雑談しつつ、現れる敵をジゴロウ達の調整を兼ねて戦って貰いながら探索を進めていく。部屋の数は多かったのだろうが、宮殿を貫くように聳える巨大すぎる霧吐き灰樫のせいで瓦礫で埋まっている場所が多い。そのせいで隈無く探索するのは然程難しくはなかった。
「ここが、最奥か」
「思ったよりサクサク進めましたね」
アイリスの言う通り、想定よりも早くいかにもボスが居そうな大きい扉の前にたどり着いた。高さは五メートルほどあるだろうか。重厚な木の扉には美しい幾何学的模様が彫られており、ここだけは当事の美しかった宮殿の姿をそのままに残しているようだ。
扉の横には二体の扉と同じくらい大きな巨像が立っている。背丈ほどある両手剣を両手で握り、切っ先を下に向けるポーズをとっていた。
像の鎧の形状は首無精鋭近衛騎士と酷似している。ただ、巨像の方にはちゃんと首があった。バケツのような形状で側頭部から角飾りが伸びる、特徴的な兜だったようだ。個人的には格好いいと思うが…好みが分かれそうではある。
「さぁて、ブチ破るかァ?」
「とりあえず壊そうとするんじゃない。普通に開けてみればいいだろ」
「じゃあぼくが押してみましょ…う…?」
掌に拳を打ち付けて扉を破壊しようとするジゴロウを嗜めて、エイジが扉を押そうとした。だがその前に左右の巨像が回転し始め、それに呼応するように扉も自動で開いていく。
来い、と言われて誘われたようにも感じる。罠の香りがしないでもないが、虎穴に入らずんばなんとやら、だ。ここは進む以外に選択肢は無かろう。我々は互いに目配せしてから扉の向こうへと入っていくのだった。
次回は12月16日に投稿予定です。




