呪い撒く車輪 その三
「グルアアアアアアアアアッ!」
「おや?」
いつまでも終わらない戦いに苛立ったのか、カルが荒々しく吼えながら尻尾を振るう。いつも通りに骨の壁に防がれてしまったが、何度も繰り返したからか骨にヒビが入っている。いくら防御力が高くとも、防御に使っている骨も身体の一部に過ぎない。回復する手段がなければ磨耗し、いつか限界は訪れるものだ。
その点、カルは体力が減少する度に私がポーションを掛けて回復している。【魂術】を使えれば楽なのだが、奴の【呪骨】のせいでやりにくい。迂闊に強化してもどうせすぐに状態異常になってしまうために、解除すると強化の付与も外れてしまうからだ。
それでも此方は定期的に回復している事が功を奏したようだった。このまま押しきれるか?
「今までは攻撃に専念していたが、少しは工夫してみるとしようか。地穴」
私は何度か浄化によって大ダメージを狙っていた。カルの足止めによって直撃したが、やはり多すぎる体力のせいであまり減少しなかった。なのでここからは搦め手で攻めることにしよう。
先ずは落とし穴を真下に空けて沈めてみる。右の車輪だけを脱輪させて、動きを止める作戦だ。これが成功すれば、あとはカルと滅多打ちにするだけで終わりだ。
ジャキン!
「おぉ!?す、スパイクが出ただと!?」
しかし、最初の作戦は失敗であった。車輪は肋骨のような反りのある骨の集合体なのだが、その隙間から先端が鋭く尖った骨が勢い良く飛び出したのである。それをスパイクにして、私が空けた穴から直ぐ様抜け出してしまった。
死瘴砂のせいで少しだけスリップしていたが、落とし穴では動きを制限させられないらしい。ん?死瘴砂?
「試してみるか。星魔陣起動、砂風」
私は【砂塵魔術】の最も基本的な術、砂風を使ってみる。砂を含んだ風が吹き、死骨古戦車の車体を叩く。ダメージなど蚊が刺したがごとく微細なものだったが、効果は覿面であった。ギチギチと音を立てて動かなくなったのである。
前に精密機械と戦った時と同じで、可動箇所に入り込んだ細かな砂によって動けなくさせるのだ。どういう仕組みなのかは不明だが、生物のように可動部分を守る皮膚が無い者ならば隙間が埋められるのは辛いだろう。
ガタガタと震えることしか出来なくなった死骨古戦車に私とカルは攻撃を仕掛ける。ここが勝負の際と見た私は、カルを【付与術】で強化して一気に畳み掛けた。
「何だ…?カ、カル!下がれ!」
カルの尻尾と爪牙が死骨古戦車に大小の傷を付けていくが、どうにも様子がおかしい。何となくだが震え方が先程までと異なるように見えたのだ。まるで力を溜めているかのように。
ドンッ!
私の勘は当たっていた。何と死骨古戦車は荷台から骨を槍衾のように伸ばすと、車体の底から勢い良く骨を伸ばす事でカルに向かって無理矢理突撃してきたのである。
妙に勢いがあるのは、恐らく【突撃】の能力が働いているからだ。剣山が乗った戦車が飛び上がってくるなど、常識外れにも程があるぞ!?
「グオゥ!?ギャオオオオオオン!」
私の忠告を聞いていたカルは慌てて急制動してから回避したのだが、躱しきれずに骨で翼膜を貫かれてしまった。そして飛び上がった死骨古戦車が放物線を描いて墜落し、カルは地面に縫い止められてしまった。
「カルッ!クソッ…だが、向こうも動けないようだな」
苦悶の表情を浮かべているカルが可哀想だが、今度こそ死骨古戦車は終わりである。何故かって?無理矢理飛んでから放物線を描いて落ちた結果、引っくり返ってしまったからだ。
やはり動けないものの、車輪を前後に回したり車体から骨を出鱈目に伸ばして起き上がろうとしている。その度にカルが力任せに伸びた骨を叩き折って阻止していたが、伸ばされる骨によってカルの身体に細かい傷が付いていく。命の削り合いになっているが、これでは体力の絶対量で劣るカルが負けるのは明白だ。
魔術を使おうにも今の状態ではカルも巻き込まれてしまう。なのでカルには影響が無く、死骨古戦車にはダメージを与える最も都合が良い手段を取るとしよう。
「こういうときにケチってはいけない!ふん!」
私は懐から幾つもポーションを取り出すと、それを思い切りぶん投げた。ポーションは不死にとっては毒薬であるが、生者であるカルには無害どころか回復する。これ程に巻き込んでも問題の無いモノはあるまい。
使うポーションは今持っている中でも最も効果が高いモノを惜しみ無く使う。それが良かったのか、カルの体力はジワジワと回復するのに対して死骨古戦車の方は逆にかなりの勢いで体力を減少させていた。
「ハッハァ!此方は終わったぜェ!」
「助けは…要りそうじゃな」
私達が足止めをしている間に、大群は倒し終わったらしい。見れば邪霊戦馬と戦っていたハズの七甲とミケロも此方に来ている。どうやら我々は役目を果たせたらしい。
それからはもう一方的であった。【呪骨】による状態異常には驚いていたが、倒されるまでの時間が少し延びただけである。結局はカルに取り押さえられている状態から復帰叶わず、死骨古戦車は消滅してしまうのだった。
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戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魂術】レベルが上昇しました。
新たに大魂癒、鈍癒の呪文を習得しました。
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よし、戦闘は本当に終わったらしい。被害は甚大と言う程ではないが、それなりにアイテムを消費してしまった。レベルが上がったのは嬉しいが、このまま黒壁に突っ込むのは難しいかもしれない。
ちなみに、大魂癒と鈍癒は名前のままだ。更に回復量が増えた術と、鈍化の状態異常を治す術である。前者はともかく後者を使う機会はあるのだろうか?
「数は多かったですけど、強敵はこの戦車だけでしたね」
「また団体が来るかもしれないけど、どうする?」
「決まっている。進もう」
退くか進むかならば、当然のように進む事を選ぶ。まだ当初の目的である黒壁にすら辿り着いていないのだから当然だ。
進むと決めたところで、剥ぎ取り作業と体力と魔力の回復を平行して行う。効率を突き詰めるつもりは無くとも、同時に出来る作業があるならやるべきだ。
「おん?何じゃこりゃ?」
「どうした?」
倒した敵は多かったので全員で作業をしていると、しいたけが不思議そうな声を出した。生産職が剥ぎ取ると品質の良いレアな素材が出やすいという噂があったので、彼女とアイリスにはなるべく強敵の剥ぎ取りを任せている。
しいたけが剥ぎ取ったのは、私とカルが倒した死骨古戦車であった。ドロップはどうせ骨だろうと思っていたが、彼女の反応を見るに少々異なるようだ。
「骨系素材に混ざって変なのがあったぜい。『寄骨車輪』って…車輪がそのままドロップしてるわ。スパイクを出すギミック付き?何これ面白そう」
「…少し見せてくれるか?」
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寄骨車輪 品質:可 レア度:S
様々な骨が組合わさって形成された車輪。
車輪を持つ珍しい不死系魔物は珍しいが、性能は魔物のステータスに依存する。
何かの仕掛けが組み込まれている場合があり、この車輪は隠されたスパイクを伸ばすことが出来る。
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うん、間違いなく奴の車輪だ。名前は…寄木細工のようなものだろうか?私が穴に落としたり砂で車軸に負担を掛ける戦い方をしたせいか、品質は最低限の『可』となっているのが悔やまれる。
だが、これを使えば似たような不死を産み出せるのではなかろうか?そうなれば不死の戦車部隊を編成するのも不可能では無さそうだ。現状では実現可能とはとても言えないが、夢があるじゃないか。
「譲渡しとくよ。そもそもイザームが倒したんだから当然だけどね」
「ああ、悪い。ありがとう」
しいたけから受け取った後、我々は探索を再開した。近付けば近付くほど、霧の向こう側にある木が高いことが分かる。距離があるし霧でぼやけているので正確な高さは不明だが、少なくとも百メートルはありそうだ。
しばらく戦闘も無く進んでいると、遂に霧越しに黒壁が見えるようになってきた。伝承の通りに真っ黒な壁で、予想に違わず瘴黒石を積み上げて造られたようである。
ただし、その高さは想像以上だった。十メートルはあると思われる。思ったよりも立派であった。
自然の岩をそのまま使っているのは日本の城にある石垣を彷彿とさせるが、技術的に拙いのか隙間が多い。厚さはあるようだが、この壁って意外と脆いんじゃないか?
「人為的に造られた感がタップリだよ」
「そうっすね。造った誰かが居るって考えた方が自然っす」
ルビーとシオの言う通り、黒壁は自然に形成されたものでは無さそうだった。しかも黒壁の長さから、随分と統制の取れた大規模な集団だったようにも思える。もし一人の魔術師が魔術を駆使して一晩で造った、とか言われたら裸足で逃げ出すしかないが。
ただ、隙間が多い原因は何だろうか?経年劣化か、あるいはそもそも専門の技術者がいなかったのか。
ここで考えていても埒が明かない。所詮は推測に過ぎないし、真実は壁を越えてから調べれば明らかになるのだ。そうと決まればあとはどうにかして侵入するだけである。
「出入口を見付けるか、壁を登るか、穴を掘るか。さて、どれにするべきか…」
侵入方法はパッと思い付くだけで三通りある。一つ目は出入口から堂々と入ること。しかし、出入口があるかどうかすら不明であるし、もしあったとしても門番のような存在がいる可能性が高い。わざわざ出入口を確保しているのなら、むしろ居ると考えた方が自然だろう。
残り二つは完全なる不法侵入である。壁を越えるか、下から潜り込むかの違いでしかない。
「あの~、あたしゃあ壁登りなんて無理ですぜ?運痴だし、アバターの手足も短いし…」
「大丈夫ですよ、しいたけさん!こんなこともあろうかと、実は登山セットの改良版を作ってあります!」
壁越えルートを拒否するしいたけだったが、アイリスは興奮気味にジャラジャラと登山用品を取り出してみせた。前にバーディパーチを目指して断崖絶壁を登ったが、その時よりも器具が充実している。個人的に調べて再現してみたらしい。
間違いなく、皆に使って欲しいのだろう。折角造った作品が日の目を見る機会に恵まれたのだから、その気持ちは良く分かる。
「へぇ?面白そうじゃない」
「ぼくのサイズもあるんですね。助かります!」
飛べる者や壁を垂直な登る事が得意な者には不要だが、しいたけ以外の必要そうな者達は興味深そうに眺めている。エイジなどはウキウキしながら相撲取りが使う廻しのようなビッグサイズのベルトっぽい器具を巻き始めた。
少し考えてみれば当然の話で、アイリスは全員の武具の製作を担当しているのだからサイズを知っているのだ。なのでエイジのサイズだろうが烏状態だった七甲のサイズだろうが把握している。
周囲が乗り気になっているので、しいたけは固まっている。どれだけアスレチック的なことをしたくないのだろうか?
「あの~、カルちゃん?乗せてくんない?」
「はい!しいたけさんの分です!」
「あ、はい…どうもありがとう」
とても無邪気なアイリスだが、だからこそ有無を言わせない圧力があるらしい。しいたけは気圧されてしまったのか、反射的に受け取ってしまった。なので仕方なく器具を装着してノロノロと壁に向かうのだった。
しいたけ達が壁登りを始めたのを確認してから、その補助を兼ねて飛行可能組みが先行する。そのために先ずは金具を隙間に差し込んでロープを通す作業を行ったのだが、我々が壁の上に到着した時に通知音と共に一つのインフォメーションが流れた。
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イザームは隠しエリア『霧泣姫の秘都』を発見した。
発見報酬として20SPが授与されます。
【考古学】レベルが上昇しました。
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驚いた我々が黒壁の内側をみると、そこには霧の海に沈んだ街が広がっているのだった。
次回は11月29日に投稿予定です。




