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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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霧吐き灰樫

 ルビーから救援を求められた訳だが、急がば回れという言葉に従って霧を迂回するように移動していた。というのも霧の中を真っ直ぐ進んだところで霧魔球(ミストボール)纏灰汚粘体アッシェダーティースライムに襲われて時間を食う羽目になるのは目に見えているからだ。


「ここからは霧の中に入る。一応私が魔力探知(マジックソナー)を使うが、必ず見落としが出るだろう。注意はしておいてくれ。カルはエイジを頼む」


 濃霧と足元の灰に適応した魔物がそこら中にいる以上、奇襲される危険性は常にある。しかし、奇襲が得意な魔物は総じて【暗殺術】のレベルがとても高い。そうなると私の魔力探知(マジックソナー)では発見出来ない可能性があるのだ。


 それを発見するのが斥候職の役割なのだが、そのルビーは絶賛戦闘中だと思われる。今居る者達でどうにかするしか無い。


「ご迷惑をおかけします…」

「アンタ、隠密とは無縁だもんね」

「一太刀で斬り捨てられれば楽なんじゃが、そう上手くは行かぬしのぅ」


 エイジは鎧のせいで動く度にガシャガシャという喧しい音を立ててしまう。なのでカルに担いで運搬してもらうのだ。この時、カルは前肢で掴むので背中には乗せない。どうやら巨体なのと重すぎるのとで嫌なようだ。


 それからルビー達の元まで一直線に霧を進む。その間、一度も戦闘にならなかった。奇襲されるどころか私の魔力探知(マジックソナー)に引っ掛かる影すら無い。移動中、それが途轍もなく不気味であった。


「その理由がこれか…」


 我々がルビー達の元にたどり着いた時、その理由が判明する。そこにいたのは十四体の霧魔球(ミストボール)と、一本の大樹であった。我々は運良くエンカウントしなかったのではなく、連中がここに集まっていただけなのだ。


 そして霧の中に聳える大樹が、単なる伐採可能なオブジェクトであるハズもない。実際にその大樹は奇怪な見た目をしている。樹皮は灰色と焦げ茶色が混じり合うマーブル模様で、全長は八メートルほどだろうか。枝振りは頗る良いが、葉が一枚も無い。


 代わりに幹だけでなく枝にも多くの樹洞が空いており、そこからモクモクと霧を垂れ流していた。まるで霧こそが葉であるようですらある。この大木は一体何だ?


――――――――――


霧吐き灰樫 品質:良 レア度:S(特別級)

 ルクスレシア大陸原産の霧を放出する樫の亜種。

 死瘴灰の影響で全体に灰色の筋が入っている。


――――――――――


 魔物では無く、霧を放出する性質の樹木であるらしい。だが、この霧を放出する性質というのが霧魔球(ミストボール)にとって最高の環境を作り出しているのだ。


「助かった!援軍だよ!」

「有り難いっす!」


 我々の到着にルビー達が歓声を上げる。彼女らのパーティーはルビー、シオ、モッさん、七甲、紫舟そしてウールの六人だ。やや防御力が低いが、機動力が高い面子が揃っている。そうでなければきっと誰かが欠けていただろう。


「援軍組は前衛を頼む。残りは下がって一旦補給!」

「任せて下さい!」

「いやぁ、助かったわホンマ」


 防戦一方で回復の暇も無かったのか、ルビー達の体力はかなり減少している。最もダメージの少ないシオですらもルビーから消費した矢を受け取っていた。かなりの激戦だったのだろう。


 援軍として来たのだから、ここは我々の踏ん張りどころだ。幸いにも既に【付与術】による強化は既に済ませてある。補給が終わるまで守るのではなく、むしろ数を減らしてみせよう!


「アハハ!耐性があると楽ね!」

「気兼ね無く斬り込めるわい」


 ここに来るまでに、私は全員の敏捷を強化している。なので元々スピード重視の兎路と源十郎は霧魔球(ミストボール)の速度に追い付く事が可能だった。しかも、昨日習得した耐性付与エンチャントレジスタンスによって煙霧属性への耐性を上げている。なので熱い霧だろうが酸の霧だろうが、ダメージは殆ど受けていない。事前の準備の大切さが良くわかる光景だ。


「グオオオオオン!」

「ふんぬぅ!」


 鋭く刃を振るう源十郎と兎路のコンビが技で攻めるとするなら、エイジとカルのコンビは逆に力で攻めていた。二人はとてもダイナミックな動きで叩き潰すスタイルが共通しているのだ。


 カルが霧魔球(ミストボール)を爪を立てて鷲掴みにして、全力でエイジに向かって投擲する。激突を避けたい霧魔球(ミストボール)は咄嗟に霧を噴射して軌道を反らすが、エイジが持っているのはバットではない。こういう戦闘に備えてアイリスが作成していた棘付き盾(スパイクシールド)だ。


 エイジのサイズに合わせた盾は大きく、針も長くて鋭い。霧魔球(ミストボール)は串刺しになり、大きく体力を減らしていく。霧の噴射によって距離をとろうとするが、その前にカルの尻尾が襲い掛かる。躱すことが出来ずに斬られる個体も多く、着実に削っていた。


「よし、これで付与は終わりだ。流石に魔力を回復せねば…集魔陣」

「こっちもー、掛け直すよー。メェー、メェー」


 私は一時退いていたルビー達に付与を掛け、ウールもまた鳴き声で強化を図る。耐性付与エンチャントレジスタンスは魔力の消費が激しく、この人数に使うと魔力が枯渇しそうになってしまう。何気に戦闘中に使うのは久々の集魔陣で魔力を回復させ、誤魔化しながら援護するしかないだろう。


「そろそろ偽物を出す体力になるっす!」

「想定よりも少し早いが…やるしかない。大魔法陣、呪文調整…」


 霧魔球(ミストボール)の最も厄介な点は、霧で仲間の偽物を作り出して逃げ回ることだ。鬱陶しいので拘束しようとしても素早い動きで逃げられ、縛ったとしても【軟体】によって隙間からすり抜けてしまう。逃げに入られてからが長く、苦しいのだ。


 それをさせない方法を、私は一つだけ思い付いていた。数がいようと幾つ偽物を出せようと、この方法が上手く行くけばこれからの戦いにも活かせるハズだ。


「偽物が出たよ!」

「まだだ!時間を稼いでくれ!」


 だが、大魔法陣を使うには時間が掛かる。威力を上げるためには必要なコストなのだろうが、即座に発動しないのは使いにくい。


 そうしている間にも、前衛組の偽物が何体も出現し始めている。源十郎達は必死に戦っているが、全てを捌ききれてはいない。煙霧属性への耐性を高めていても、このままでは数の暴力によって押し潰されてしまうだろう。


「もう少し…よし!行くぞ、暗黒穴(ブラックホール)!」


 私は霧吐き灰樫のすぐ上に最大限まで強化した暗黒穴(ブラックホール)を発生させる。墨で塗り潰したかのような漆黒の球体が出現すると、周囲の全てを吸い込み始めた。直下にある霧吐き灰樫は台風に煽られたかのように激しく枝を揺らしていた。


霧魔球(ミストボール)は逃げるか…だが、十分だ」

「霧が…!」

「おー、吸われてるー」


 暗黒穴(ブラックホール)霧魔球(ミストボール)を吸い込んで潰すことは無かったものの、奴等が使う霧は違う。どんどんと暗黒穴(ブラックホール)の中に飲み込まれて行き、偽物のシルエットが崩れていくではないか!


 完全に霧に戻った偽物は、そのまま暗黒穴(ブラックホール)の中へと消えてしまった。新たな偽物を作ろうとするが、出した霧が形を成す前に飛んでいくので新たな偽物が出現することは無かった。


「今がチャンスやで!」

「畳み掛けましょう!」


 七甲の召喚した烏の群れを率いたモッさんが突撃を敢行する。空中での小回りにおいて、彼らの方が上回っていた。モッさんは一人で一体を、七甲の烏は数羽で襲い掛かればもう逃げられない。


「ほっほ!これは楽じゃわい」

「髪が靡くからちょっと邪魔だわ」

「どんな魔術も使い方が大事なんだね」

「切り刻むよ!」


 霧を強引に吸い込んだことで、源十郎達は生き生きと戦えるようだ。霧魔球(ミストボール)の本体は敏捷以外が大して高くない。しかも主な攻撃手段であった【煙霧魔術】は全員に耐性を付与している。仲間の偽物さえ対処してしまえば、決して脅威とは言えないのだ。


「げっ、矢が反れるっす!修正っと!」

「それで当たるってー、凄いねー。メェー」


 暗黒穴(ブラックホール)のせいでシオの放つ矢の軌道が狂うようだが、即座に修正しているようだ。ウールは私の隣でいつも通りの平坦な声で感心しながら、淡々と鳴き声の合間に【暴風魔術】で援護していた。彼は前に出るタイプではないが、いぶし銀な働きをいつもしてくれている。


「グゴガアアアアアアア!!!」

「ブゥオオオオオオオオ!!!」


――――――――――


戦闘に勝利しました。


――――――――――


 そして最後に残った二体に、怒れる(ドラゴン)(エイジ)が止めを刺す。【付与術】による耐性と【魂術】による持続的な回復があるとはいえ、二人とも最前線で暴れて注意を引き続けていた。体力は三割近くまで減少しているのが、戦いの激しさを物語っていた。


 ログからもわかるように、どうにか状況を打破することは出来たようだ。今回はどの能力(スキル)もキリの良い数字にならなかったらしい。こういうこともあるよね。


「試験勉強の息抜きだったのに、すっごく疲れた!」

「ほんとーだよー」

「学生さんも大変やね。ワイも疲れたわ!」

「懐かしいです」


 危機的状況から脱して安心したのか、紫舟はへたり込んで愚痴を溢している。共に戦っていた七甲とモッさんは苦笑しながら同調していた。


「剥ぎ取りも終わったけど…この木、どうする?」

「もちろん、伐る。エイジ、頼めるか?」

「任せて下さい」


 ルビーはどうするべきか悩んでいるように私に判断を仰ぐ。この大樹こそ、霧を作り出す元凶であることは明白だ。これを放置する訳には行かないだろう。


 エイジは愛用の大斧を両手で振りかぶると、全身全霊の力を込めて叩き付けた。樫の一種らしくとても堅いようだが、エイジの斧は少しずつ幹に深くめり込んでいく。数十回振った時、メキメキと軋むような音と共に霧吐き灰樫は倒れた。


「おっ?これアイテムとして回収出来ますよ」

「アイリスへの土産になるだろう。持って帰ってくれ」

「わかりまし…!?」


 そう言ってエイジが倒れた木を回収すると、残された切株が光の粒子になって消えていく。すると、周囲に立ち込めていた霧が薄らぐではないか。


 おそらく、これがこの霧エリアを攻略する手段なのだ。霧を発生させる霧吐き灰樫を伐採し、霧を薄くしてから奥の黒壁を目指すのである。無視して進むことも出来そうだが、視界を塞がれた状態で無茶をするのは危険が過ぎるというものだ。丁寧に霧吐き灰樫を伐採していくとしよう。


「あの、イザームさん。アイテムにしたら、大きな木と小さな木って二つのアイテムになってるんですけど…」

「ほう?トレードで私に渡してくれ」


 エイジによると、伐採した大樹からは二種類のアイテムが選られたらしい。【鑑定】の能力(スキル)を持っていないエイジでは、大小しかわからないのだろう。ここは私の出番である。


――――――――――


霧吐き灰樫の原木 品質:良 レア度:S(特別級)

 魔力を含む霧を放出する、霧吐き灰樫の原木。

 非常に堅く、水属性、火属性、煙霧属性に耐性がある。

 伐採された後であっても、魔力によって霧を発生させられる。


霧吐き灰樫の苗木 品質:良 レア度:S(特別級)

 魔力を含む霧を放出する、霧吐き灰樫の苗木。

 成長させれば立派な大樹となるだろう。

 死瘴灰を多く含む土壌に植樹することでしか生育不能。


――――――――――


 原木と苗木か。苗木の方は五本もある。植林して育てることで原木をもう一度入手出来るようだ。今は伐採するが、いつか余裕が出来た時に植林してみてもいいかもしれない。もちろん、原住民との交渉は必須であるが。


 厳しい戦いを切り抜けたが、援軍で来た我々ですらかなり消耗してしまった。今日は随分と早いがここで切り上げるとしよう。ルビー達のパーティーと共に我々はシラツキへと帰るのであった。

 霧の原因は、RTAなら無視されそうなギミック植物でした。


 次回は11月17日に投稿予定です。

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