表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
207/688

高級焼き肉

 シラツキに戻り、メンバーに連絡を入れた我々は、早速パーティーの準備を開始した。アイリスは料理セットを用いて食材の加工を始め、我々はBBQセットの設置やシラツキにあった椅子やテーブルを担ぎ出して並べたり、組み立てたりしていた。


「おーい!イザームさーん!」

「おーいなのー!」


 そんな時、呼び掛けて来たのはエイジと彼の肩に座ったアルヴィーだった。二人の側には紫舟とウールの二人もいる。連絡を受けて最初に戻ったのは彼らであるようだ。


 ナデウス氏族の者達との初接触の後も、アルヴィーは度々遊びに来ていた。その時に遊び相手になるのは主にエイジであったが、護衛も兼ねて他のメンバーも同行している。なので今ではアルヴィーはエイジ以外の仲間達とも随分と打ち解けていた。


「美味しいお肉が食べられるってホント!?」

「準備ー、手伝うよー」


 シャカシャカと駆け寄ってアイリスに迫る紫舟とは対照的に、ウールは準備の手伝いに参加する。羊系の魔物である彼には手が無いものの、角を器用に使って雑貨を運んでいた。


「エイジお兄ちゃん、何をするの?」

「ん?珍しい食べ物が手に入ったから、みんなで食べるんだよ」

「美味しいの?」

「きっと美味しいよ。アルヴィーも食べていくといい。いいですよね?」

「肉は大量にあるから問題ない」


 エイジならそう言うと思っていたので、あらかじめアイリスに聞いておいたのだ。


「んーとね、とっても美味しいならね、アルヴィーはねぇさまと食べたいの」

「そっかぁ。だったら来てもらえばいいんじゃないかな?」

「けどね、ねぇさまはお兄ちゃん達とあんまり遊んじゃダメって言うの…きっと来てくれないの…」


 アルヴィーは肩を落としてシュンとしてしまった。大好きな姉が仲の良い友達と遊ぶことに否定的なのが悲しいのだろう。しかし、ここで食べられなくても問題は無い。


「アルヴィー、いつものポーチに空きはあるか?」

「今日は何も入れてないの。どうして聞くの?」

「それならば幾つか包むから持って帰るといい。アイリスの所へ行ってごらん」


 実は肉を加工すると『薄切り肩肉200g』や『腿肉ブロック100g』のような形に名称が変化するのだ。肉の部位と重さの表記があったのには理由があったらしい。こうすれば売買も楽なのだろうが…何だかスーパーマーケットにいるような気分になってしまった。


 アイリスに頼めば適当に様々な部位を詰め合わせにして渡してくれるハズだ。それを持って帰って姉と食べればいい。渡す分は私のモノから出してやればいいだろう。私は食べられないし、カルは満足したのかシラツキの上で伏せて眠っているから全く問題は無い。


「いいの!?わぁい!」

「ただし、なるべく早く食べてくれ。腐りやすいらしいからな」

「わかったの!」


 アルヴィーは元気を取り戻すと、スキップしながらアイリスの元へ向かっていった。二人は一言二言話してから、アイリスが手早く大きな葉っぱで包んだ肉を幾つか渡していた。あれを姉と共に楽しむといい。


 アルヴィーはいつも以上にニコニコしながら帰っていった。手が千切れんばかりにブンブンと振っている。振る勢いがいつも以上に激しいのは、良いお土産があるからだ。子供は正直で良い!


「ありがとうございます、イザームさん」

「気にするな。それよりも、皆が着々と集まってきたようだぞ」


 アルヴィーと戯れている間に、BBQのために全員が集まっていた。行動が思っていたよりもかなり早い。やはり味のあるアイテムに興味津々なのだろう。さて、私も準備だけは手伝うとするか!



◆◇◆◇◆◇



「おぉ~、思ったより美味しいね!」

「焼いた方が旨ェな」


 BBQは好評であった。味を例えるなら、柚子胡椒の香りがする焼いた鶏肉だそうだ。部位によって食感や脂の乗り方が異なるようで、それぞれが好みの味のモノを食べていた。


「む?称号(タイトル)が増えたようじゃ」

「ワイもですわ。『新人美食家』っちゅうヤツですけど、みんな同じでっか?」


 新たな称号(タイトル)だと?私が驚いていると、次々に同じ報告が飛び交った。『新人美食家』の獲得条件は、『調理されたレア度がS(特別級)以上の食材アイテムを食べること』らしい。


 新人とあることもあって、特に効果は無いようだ。調理されているのが条件にあったので、ジゴロウが生で食べた時には獲得出来なかったのだろう。だが、ゲーム内で美食を究めることで得られる何かがあるかもしれない。私は無理だが、究めたいならば頑張ってくれ。


「お肉はまだまだありますから、ジャンジャン食べて下さいね」

「いや~、有り難いんだけどさ…もう満腹度が最大なんだよねぇ」

「アタシもそうだわ。回復量多いわね、これ」


 高級品であるからか、少ししか食べていないのに満腹度が回復してしまったらしい。それは男女に関係ないようで、ガツガツと食べているのはエイジとジゴロウの種族(レイス)によって大食らいとなっている二人だけであった。


 その二人の満腹度ももうすぐ最大まで回復するらしい。高級品なのに腹の足しにならない…という最悪の事態は免れたようだ。しかし、困った。残りの肉をどうやって処分しようか?


 実は満腹度を超えて食べる事は可能だ。だがそれを長く続けた場合、『肥満』という状態異常になってしまうと掲示板に書かれていた。体力と防御力がほんの少しだけ上昇する代わりに、敏捷と器用が大幅に下がってしまう。しかも直ぐにアバターが息切れするようになるというオマケ付きだ。


 戦闘にせよ生産にせよ、デブになっていて得な事はほとんど無いのである。それでもロールプレイの一環として肥満体であり続けるプレイヤーがいると掲示板にはあったが、我々にそんな趣味を持つ者はいなかった。ちなみに、エイジの体格はでっぷりとしているのがデフォルトなだけで肥満体では無い。


「腐らせるのは勿体無いし、棄てるのはもっと勿体無い。どうにかならんか…」

「あの、シラツキに冷蔵庫とか付いてないんですか?」

「あるには、ある。だが、しいたけの薬品の保存庫状態だぞ」

「げぇっ!?」


 シラツキはもともと古代人のNPCが使おうとしていた浮遊戦艦である。なので食料の備蓄用なのか冷蔵庫等も設備として入っていた。


 しかし、我々の中に誰も味のしない食事にこだわりを持つ者がいなかったのが運の尽きである。食材などを詰める必要が無いのなら、『冷やしたアイテムでポーションを作った時の反応を調べたい』というしいたけの主張を聞き入れた私が彼女に冷蔵庫を譲渡したのだ。


 結果、二人の工房にある冷蔵庫には薬草やら薬品やらがギチギチに詰まっていた。これはゲームなので取り出せば大丈夫だと思うのだが、リアルなVRゲームで直前まで得体の知れない薬品が入っていた場所に突っ込んだ肉を食べたいとは思えない。リアルさの弊害かもしれない。


 しいたけならば薬品がもたらす味の変化を調べたいとか言い出すかもしれんが、流石に付き合ってはおられん。なので彼女には決して提案したりはしなかった。


「ほならアルヴィーちゃんの集落にあげたらええんちゃいます?お近づきの印に、とか言うて」

「それはいい提案なのだが、場所がわからん。どうやら彼らナデウス氏族はルビーからも隠れられる手段を有しているようなのだよ」


 この大陸において弱者の立ち位置にいるナデウス氏族だが、彼らがどうやって暮らしているのかには興味があった。なのでルビーに頼んで近くにあるのだろう彼らの集落を探してもらったのだが、何故か見つからなかったのである。


 彼女はマップに違和感を感じたと言っていたので、どこかに集落ごと隠れているのだと予想していた。プレイヤーの視覚どころか斥候職の探知から逃れられるとは、どのような方法をとっているのだろうか?


「草の根分けてでも探しだして…なんてしたら警戒されるどころか敵認定されるでしょうし、今の距離感がいいんですかね」

「私もそう思…ん?あれは…アルヴィーじゃないか?」


 ナデウス氏族とのつきあい方について意見を交わしていると、遠くから見慣れた小さな影が此方に走ってくる。ついさっき戻ったばかりのアルヴィーが、何故かまた来たのである。姉と夕食の最中ではないのか?


「うえぇぇん!エイジお兄ちゃぁぁん!」


 アルヴィーはエイジの元まで全力でダッシュすると、勢いのままに彼に抱きついて泣き始めた。何か悲しい事があったのだろう。


「よしよし、どうしたんだい?」

「うぅ…あのね、アイリスから貰ったお肉がね、とられちゃったのぉ~!びえぇぇぇん!」


 わんわん泣いているアルヴィーをあやしつつエイジが聞き出した話を要約すれば、肉を持って意気揚々と集落に帰った彼女だったが、年上のガキ大将的少年に取り上げられたそうな。それで泣く泣く戻ってきたらしい。


 子供同士のこととは言え、とても可哀想である。肉を渡すだけなら余っているので問題ないが、根本的な解決にはならないだろう。下手をすると、また奪われて終わりになってしまいかねない。それでは同じようにアルヴィーがエイジに泣き付くだけになってしまう。ここは小賢しくも策を弄するとしようか。


「なあ、アルヴィー。村頼れる…いや、一番偉い大人は誰だ?」

「ぐすっ…それならオババさまなの。()()()()()()もオババさまにはいつも怒られてるの…」


 小腸…?いや、酋長か。集落の長であっても逆らえない長老がいる、と考えて良さそうだ。先代社長の時代から会社を支える古株の専務に二代目の社長が頭が上がらないようなものか。現実もゲームも世知辛いものである。


「だったら今度は二つ包みを用意するから、そのオババ様にも届けてくれ。ついでに渡した肉が美味しかったら、まだ余っているから欲しければ取りに来てほしいと伝えてくれ。いいか?」

「わかったの…。ごめんなさいなの」

「謝る必要は無い。悪いのは無理やり奪った子供なのだから。気にせずに受け取りなさい」

「はいなの」


 アルヴィーは落ち込んだままだが、私の頼みを聞いてくれたようだ。これが上手く行けばアルヴィーを虐めたクソガキは痛い目を見て、かつ我々にも利益があるように運ぶことだろう。さて、思ったように状況が動いてくれるかな?

 次回は10月16日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そんな時は満腹度を減らす呪術があるではないか!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ