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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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大河の河口

 今回から新章に突入です!

 アルマーデルクス様の付与によって、予定よりも数倍速く進むシラツキは順調に設定していた航路を進んでいた。AIが自動航行してくれるので、ルビーは暇そうにしている。


 いざと言うときはプレイヤーが操作しなければならないのだが、逆に言えば危機が訪れない限りはやることが無いのだ。最初に説明したのだが…まあいいか。


「うわぁ…これまでの計算だと数日かかるはずだったんですけど、今日ログアウトするまでに到着してしまいそうです」

「さっすが龍神様!何をしたのか全くわかんないけど、とにかく凄い付与を掛けてくれたっぽいねぇ~」


 アイリスは少し引き気味だが、しいたけはどのような手段を使ったのかに興味が惹かれているようだ。私は勿論、しいたけ側であった。プレイヤーがあの術を使えるのかどうかは、魔術師の端くれとして気になって当然だろう。


「速く目的地に辿り着くのはいいことだ。何日も戦いが無かったらイライラし始める者が若干名いるからな」

「そうだねぇ…」


 海路で行くならば、海中からの襲撃もあるだろう。そうなれば海中や甲板に出て戦うこともあるに違いない。それだけ戦える機会があればその若干名の仲間達…ジゴロウ達も不満は無いだろう。


 しかし我々は空路で、しかも恐ろしい速度で移動している。なので戦いになる前に敵を振り切ってしまうのだ。実際、これまでも接近する空飛ぶ魔物をシラツキのレーダーが捕らえたが、数秒後には範囲内から消えてしまった。


 そもそも空中で戦うのはとても難しい。我々の中には飛べる者も多いが、縦横無尽に飛び回りながら戦えるのはカルとシオとモッさんの二人と一頭くらいのものだ。私と七甲はあくまでも後衛職で、三人ほど素早く飛ぶのは難しい。源十郎は翅はあっても飛行には向かない。ミケロはフワフワ浮かぶだけで、ネナーシの翼はハリボテだ。


 そして他のメンバーは飛ぶことすらままならない。これで今飛んでいる高度に生息する魔物に空中戦を挑むなど、勝敗はやる前から明らかだ。速度を上げてくれたことで戦闘を避けられて、しかも不満も溜まらないのはありがたい。アルマーデルクス様のお陰であろう。心から感謝致します。


「でもでも、折角ガッツリ武装も整えたのに、使う機会が無いのは複雑だにゃ~」

「損耗の具合とかを確認しておきたかったですね」


 アイリスとしいたけは、マクファーレンの遺した『35式龍型魔導式強化鎧』のパーツを流用して戦艦を武装していた。なのでその威力を試したかったようだが、今回は諦めて欲しい。機会はこれからいくらでもあるさ。



◆◇◆◇◆◇



 それから数時間の間、我々は空の旅を存分に楽しんだ。モニター越しではあるが、多くの空の営みを見物していたのだ。


 巨大な空の魔物による迫力ある戦いや、現実には存在しないパステルカラーの雲が集まる空域、雲の中を泳ぐイカやタコなど飽きるという事は無かった。スクショの撮影大会のようにもなって、誰がベストショットを撮れるかでも盛り上がった。これだけでも、シラツキを入手した価値があるというものである。


「む…?シラツキ、正面のモニターを拡大してくれ」

『了解シマシタ』


 様々な景色に魅了されていた私だったが、モニターに小さく映った黒い点が気になったのでシラツキに拡大させる。すると、そこには水平線の向こうから徐々にせり上がって来る大きな陸地があるではないか!


「トワ、あそこが目的地で相違無いか?」

「はい。入力した地図とこれまでの航行経路のデータから算出しても間違いありません」

「よし!シラツキ、艦内放送を流してくれ。ティンブリカ大陸が見えた、とな」

『了解シマシタ』


 艦橋にいるべき私やアイリスとは違ってやることの無いメンバーは、戦艦の他の場所にいる。より綺麗に外の景色を撮れる場所を探したり、戦艦の内部を探検したりしていたのだ。なので艦内放送によって、目的地が見えた事を伝えるのが最も手っ取り早いし確実である。


「何と言うか…過酷な地だな…」

「こりゃ、普通には暮らせない場所だわね」


 近付くに連れて、大きくそしてハッキリと大陸の全容が見えてくる。すると、その異常性が浮き彫りになってきた。


 大陸の全体を巨大過ぎる黒雲が覆っており、地上には青空という概念が無さそうに思える。紫色の砂で形成された砂漠からは黒雲にまで届きそうな程に高い同じく紫色の砂嵐が上がっているし、真っ赤な炎の枝葉を持つ火炎樹とも言うべき植物の樹海が広がっている地域もある。


 他にも吹雪が荒れ狂う氷原や、濁った緑色の沼地など遠くから眺めただけでも人外魔境としか言い様の無い地域が幾つも存在するようだ。こんな場所に棲んでいる知的生命体はいるのか、不安になってくる。


「とりあえず、接舷するのはなるべく危険ではなさそうな場所を選ぶとしよう」

「じゃあ…この辺が良いでしょうか?」


 アイリスがメインモニターに映したのは、岬のある大河の河口であった。大河はシラツキも航行可能な河幅があり、それなりに深くて波も穏やかである。港などに利用するのに向いている地形だ。


「良さそうだな。では、彼処に停泊しよう。シラツキ、行けるか?」

『スキャン開始…予測脅威度、低。問題アリマセン』

「なら高度を下げてくれ。着水しよう」

『了解シマシタ』


 シラツキはゆっくりと下降し、河口に着水する。空中と違って水上だと波で揺れるのだが、波そのものが穏やかな場所を選んだのであまり気にならない。アイリスの提案に従って大正解だったようだ。


 モニターで観察する限り、河口付近の岩場には大型の魔物などは見当たらない。シラツキのレーダーにも反応が無いので、危険な敵は居なさそうだ。


「おいおい、そんなに急がなくてもいいだろうに…」


 ある程度の安全が確保出来そうだと安心していると、モニターには早速上陸するジゴロウ達の姿が映っている。艦橋にいる我々を待ってくれても良いものを…はしゃぐ気持ちも解るがね。


「私達も上陸してみよう。折角こんな所まで来たんだから、外に出ないのは勿体ないからね」

「そうですね、行きましょう!」

「うひょー!素材~素材~、新しい素材~!」

「いってらっしゃいませ」


 私自身、気分が高揚するのを抑えられないでいる。アイリスとしいたけの二人と共に私も嬉々として上陸するのだった。



◆◇◆◇◆◇



 シラツキの甲板から大河の河原に降りる。地面はほとんど砂で、幾つか丸く小さな石があるだけで歩きやすい。これだけだと一般的な河原の風景のように思える。だが、やはりこの大陸は普通ではないらしい。


「砂…変な色ですね…」

「この世の光景とは思えんな…まぁ、仮想世界(ゲーム)なのだが」


 河原の砂や小石はどれも奇天烈としか言い様がない。砂と小石の大部分は黒褐色で、所々に暗い赤色や緑色が混ざっている。一応、背の低い草は生えているものの、葉には毒々しい色の斑点が浮かぶ物しか無い。どれもこれも何処と無く不気味であり、()()()とは言えないモノに満ち溢れていた。


 しかし、我々の目には新たな素材の原石としてしか映らない。私は屈んで足下にある砂と色の違う小石を幾つか拾うと、早速【鑑定】をしてみる。その結果は以下の通り。


――――――――――


瘴砂 品質:屑 レア度:C(普通級)

 ティンブリカ大陸にのみ存在する鉱石が、極小の粒となったもの。

 加工すると色が濃い黒色になる特性がある。


瘴黒石 品質:屑 レア度:C(普通級)

 ティンブリカ大陸にのみ存在する鉱石。その中でもかなり小さい物。

 とても硬く、更に重い。角張っている物が多く、手を切らないように注意が必要。


瘴赤石 品質:屑 レア度:R(希少級)

 ティンブリカ大陸にのみ存在する鉱石。その中でもかなり小さい物。

 とても硬いが、水に浮くほど軽い。ほんのり温かく、割れやすい。


瘴緑石 品質:屑 レア度:R(希少級)

 ティンブリカ大陸にのみ存在する鉱石。その中でもかなり小さい物。

 少しの衝撃で粉々になるほど脆い。崩れた時に美しい音色を響かせる。


――――――――――


 この大陸にしか無い、とは言っても価値はそこにしか無いらしい。その辺で拾えるアイテムは強力なモノとは言えないようだ。大地全てに価値があるとは最初から考えていなかったし、落ち込むようなことでは無い。


 それにきっとアイリスとしいたけに任せておけば、何かしらの利用方法を探しだしてくれるだろう。人任せになってしまうが、得意な者に任せるのが皆にとって幸せなのだ。


 新たな素材について考えるのは後にしよう。先に降りていた者達と合流するのが先決か。


「ん?ネナーシは何をやっているんだ?」


 ジゴロウ達は川縁に集まっており、そこに近付くと何故かネナーシが何本かの蔓を川に入れているではないか。目的がわからず、私は一番近くにいたエイジに尋ねた。


「あっ、イザームさん。今、釣りに挑戦中なんですよね」

「釣り?」

「はい。ネナーシさんが蔓の先端に携帯食糧を持って川に流してるんですよ。それで食い付いたら…」

「おおおっ!来ましたぞぉ!」


 エイジから説明を聞いていると、ネナーシが興奮したように声を張り上げた。どうやら餌に掛かった獲物がいるようだ。この辺りはまだシラツキのレーダーの範囲内なのだが、餌の臭いに引き寄せられたのだろう。


 戦闘になれば、この大陸の魔物のレベルがわかるかもしれない。水中の魔物で基準として良いものか悩むが、大まかにだけでもわかればそれで良い。とりあえず様子を見守るとしよう。


「ぐぬぬぬぬぬぬ!お、重い!蔓が引き千切れそうでござるぅぅぅ!」

「ネナーシさん、落ち着いて。自分がサポートしますよ」


 釣り上げるのは難しいようで、ネナーシはかなり苦戦していた。そんな彼を真っ先にフォローしたのはミケロだった。彼は幾つもある眼の内、ガラス玉のようなモノでネナーシを見詰めながら【治癒術】と【魂術】を掛け始めた。


 この眼球は【治癒の魔眼】といって、見詰めた生物の体力を回復させる効果がある。更にミケロは神官系の職業(ジョブ)に就いているので【治癒術】を使える上、イーファ様の神官であるので【魂術】をも使える。私も不死(アンデッド)でなければ【治癒術】を使えたのだろうが…無念である。


 我々も黙って見ていた訳ではない。私は【付与術】で筋力と防御力を上げて蔓の力と強度を上げ、他の全員はネナーシの蔓を掴んで一緒に引っ張った。この光景を見て、私は童話の『おおきなかぶ』を思い出した。だが全員が異形で、しかも一人として同じ種族(レイス)の居ないことも相まって、とても邪悪である。子供向けの絵本に載せてはならないだろう。


「どっせえええええええぇぇぇい!」

「ハッハァ!随分と大物じゃねェか!」


 全員の力が合わさって、餌に食い付いた魚が釣り上げられると同時に勢いよく水面から飛び出した。勢い余って空中に躍り出た魚は、想像以上に巨大であった。以前、狩りまくった巨大魔魚グレートイビルフィッシュ達の三倍以上もあるではないか。


 その姿はナマズに酷似している。だが、髭が二十本近く生えていて、しかもそれらが常に蠢いているのでかなり不気味である。何はともあれ、【鑑定】だ!


――――――――――


種族(レイス)古代賢魔魚エルダーワイズフィッシュ(キャットフィッシュ) Lv73

職業(ジョブ):賢魚 Lv3

能力(スキル):【剛牙】

   【堅魚鱗】

   【尾撃】

   【操髭】

   【体力強化】

   【防御力強化】

   【器用強化】

   【知力強化】

   【精神強化】

   【水氷魔術】

   【暴風魔術】

   【雷撃魔術】

   【水棲】

   【肺呼吸】

   【斬撃耐性】

   【刺突耐性】

   【水属性耐性】

   【風属性耐性】

   【雷属性耐性】


――――――――――


 レベル73!かなりの大物だ。しかも肉体を使った攻撃も魔術も使いこなせるらしい。加えて各種耐性持ち…隙が無い。正攻法で挑むしか無いだろう。


 それにステータスの中にある【肺呼吸】を見るに、巨大魔魚グレートイビルフィッシュとは違って地上でも戦えるようだ。現に河原に打ち上げられた古代賢魔魚エルダーワイズフィッシュ(キャットフィッシュ)は鰭を器用に使って起き上がると、我々に向かって猛然と飛び掛かって来るではないか!


 別の大陸に来た時に魚の魔物と戦う呪いにでもかかっているのか?そんな下らない思考を頭の片隅に追いやると、私は戦闘態勢に移るのだった。

 次回は9月22日に投稿予定です。

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