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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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第419話 パラ

 白い空間へ入ると、大樹は前と変わらずそこにいた。


 白と緑だけの景色の中で、青年の姿をしたそれがこちらを見る。何度来ても、この場所だけは距離感が掴みにくい。


「やあ。幸子とポチはどうだった?」


「無事ですよ。人が多い所にも連れて行ってみましたけど、特に問題はありませんでした」


「それは良かった」


 大樹は嬉しそうに笑った。


 実際、サチも師匠も外へ出ること自体にはだいぶ慣れてきた。研究学園では師匠がひたすら目立ち、サチは商業施設まで歩いた。帰ったあとに別方向から大問題が発生したものの、それは二人の責任ではない。


「それでさ」


「はい」


「幸子とポチのこと、色々やってくれてるでしょう。何かお礼した方がいいと思うんだけど、何がいいかな」


「いえ、色々情報頂いてるんで」


 こっちとしては、それで充分だった。この世界について俺が知っていることの中には、大樹から聞かなければ一生分からなかったような話がいくつもある。寄生体のことも、ダンジョンについてもそうだ。


「そう?」


 大樹が少し考えるように言った。


「情報が対価ねえ。うん、なるほど。それなら今聞きたいことある?」


「それじゃあ、せっかくなんで。ええと……」


 急に言われると困る。聞きたいこと自体はいくらでもあるはずなのに、いざ好きに聞いていいとなると、頭の中で順番が決まらない。


「あ、そういえば」


 大樹が先に声を上げた。


「まだ名前言ってなかったっけ」


「名前?」


「私の。名前、名前……」


 本気で思い出そうとしているらしく、視線が少し上へ向く。


「忘れちゃったな。いろんな呼び方されてたから」


「忘れるものなんですか」


「長いからねえ」


 その一言で済ませていい年月ではない気がする。


「パラでいいかな。元が寄生虫だし」


「……分かりました」


 ネーミングセンスには触れまい。


「じゃあ、パラさん」


「うん」


「パラさんと似たような存在って、異世界にはいるんですか?」


「似たような存在……」


 パラさんは少し考えた。


「外来生物って考えると、魔王かなあ」


「魔王?」


 外来生物ってザリガニみたいなノリで、とんでもない固有名詞が飛び出てきた。


「そうそう、魔王。もとは私もその括りに入ってたんだけど、この世界に私が居るくらいなら、他にもいると考えた方が自然だね」


 このパラさんはいくつの属性を持っているのか。寄生虫で、神様みたいな存在で、元日本人で、今度は元魔王枠まで増えた。


「それって危険なんですか?」


「うーん」


 また少し考える。


「正直、そこまでかなあ。発生しても現地の人達と協力して袋叩きにしてた記憶しかないな」


「袋叩き」


「うん」


 師匠とサチにパラさん、そこへ現地の人達まで加わって一体を囲む光景が頭に浮かんだ。事情を聞く限り倒される側なのだろうが、そこまで人数を揃えられた魔王には少し同情する。


 ……哀れ、魔王。


「発見方法と、それと……私でも勝てますか?」


「見つけるまでがちょっと難儀だねえ。勝負としては余裕?」


「余裕」


「たぶん」


 疑問形が付いたのが気になる。そこだけは言い切ってほしかった。


「発見方法、どうにかなりますかね?」


「近くに行けばポチなら気付くんじゃないかな」


「師匠が?」


「うん。まあでも大丈夫さ。どんなに育っても、ポチ以上にはならないと思うよ」


 さらっと言われてしまったが、師匠の評価がまた一段おかしくなった気がする。


「困ったらポチも幸子も連れて行くといい。それくらいの恩が君にはある」


「……そこまでですか」


「そこまでだよ」


 パラさんは当然のことのように答えた。


「魔王は報酬がおいしいから、駆除を推奨するよ」


 そこだけ急に探索者向けの情報になった。なんとも義理堅い。今度からアイスもドーナツも食べ放題にするべきだな。


 それはそれとして、魔王の話は俺だけで抱えていい情報ではなさそうだった。発見方法まで含めれば、国へ共有する意味も大きい。そろそろ腹をくくらないとな。


「ありがとうございます」


「他にはある?」


「他ですか」


 聞かれ、少し考えたところで一つ思い出した。


「ああ、そうだ。これについて知ってますか?」


 持ってきていた瓶を取り出す。中身は光を通す気配もないほど真っ黒で、改めて見ても飲み物には見えなかった。


 パラさんは瓶を見ると、すぐに頷いた。


「ああ。それね」


「知ってるんですか」


「君達基準で考えると、アークポーションという感じかな」


「アークポーション」


「見た目は悪いけど、かなり効くよ。四肢欠損くらいなら当然として、病気にも効く。癌とか白血病とかも治るよ」


「……」


 言葉が出ず、手元の瓶を見る。どう見ても飲んでいい色ではない液体が、急に人類の医療事情をひっくり返しかねない代物へ変わった。


「万病って言っていいくらいかな」


「……これが?」


「うん」


 九層で拾ってから正体の分からなかった真っ黒な液体を、もう一度眺める。


「後はエリクサーとアムリタかね」


「上があるんですか」


「あるよ」


 即答だった。


「ファンタジーにはありがちだよね。アークでそれなら、なんとなく効果は予想がつくでしょう」


「いや……」


 癌も白血病も治る薬の上位と言われて、何を想像すればいいのか。予想したくないというより、予想したところで当たりそうな気がしなかった。


 手に持っていた瓶を慎重にしまう。これは扱いを考えないとまずい。


「あっ、そうだった」


 パラさんが、本当に今思い出したような声を出した。ここまでの流れからして、ろくでもない予感しかしない。


「このダンジョンなんだけど」


「はい」


「この階層の次を作成中って言ったの、あれ嘘だからね」


「……今それ言います?」


「ごめんごめん」


 軽い。


「私が居るから、容量いっぱいいっぱいみたいなんだ」


「容量?」


「たぶんそんな感じ。私の分が重いんだろうね」


 パラさん自身も複製された存在だという話は以前聞いている。それがダンジョンへどの程度の負担をかけているのかまでは分からないが、本人の口ぶりではかなりの割合を使っているらしい。


「だから、もっと奥に進みたいなら別のダンジョンに行く必要があるからね」


「別のダンジョン……」


「うん」


 魔王の存在を聞いた直後に、黒い液体がアークポーションだと判明し、その上にはエリクサーとアムリタまであるという。さらに暗渠の先を求めるなら、今度は別のダンジョンへ行く必要があるらしい。


 さすがに一度に入れる量を越えてきた。


「……今日はさすがにこれくらいにしときます」


「そうかい? まあいつでもいいからね」


「本当に助かります、と言っていいのやら」


 パラさんが笑った。


 そこから先は、サチがアイスを気に入っている話や、師匠へドーナツを買った話になった。パラさんはドーナツのところで少し興味を示したので、次に来る時は何か持ってこようと思う。


 そんな他愛のない話をしているうちに、その日は終わった。今日聞いた内容を頭の中で並べ直すには、それくらいの時間がちょうどよかった。


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