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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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第412話 魔術現象における未観測作用因子の存在仮説と暫定的定義

魔術現象における未観測作用因子の存在仮説と暫定的定義


Hypothesis and Provisional Definition of an Unobserved Causal Factor in Thaumaturgic Phenomena


作成元:アメリカ合衆国連邦政府 異常空間研究合同班

研究対象:米国内で実施された水系魔術能力の実験・測定記録


要旨


 本稿は、異常空間由来のスクロールによって獲得された魔術能力について、これまでに実施された実験結果を再検討し、魔術現象の成立に関与する未観測の作用因子を仮定する。


 検討の中心としたのは、水を生成および操作する能力を持つ被験者について蓄積された実験記録である。当該能力は、使用者の意思によって発動および停止が可能であり、外部へ液体の水を発生させる。生成された液体について既知の物質との差異を調査した結果、通常の水として扱うことのできる性質が確認されている。


 一方、その生成過程については、実験環境内に存在した水分、被験者由来の物質、その他既知の供給源のみでは説明が困難な結果が継続して得られている。


 同時に、魔術発動時に新たな元素、粒子、その他の物質が検出された事実もない。


 本稿では、この不一致を説明するため、現在の観測手段では直接検出されない作用因子が魔術現象へ関与しているとの仮説を提示する。


 以下、この仮説上の作用因子を便宜上 mana と呼称する。


 なお、本稿はmanaそのものを直接検出したとの主張ではなく、その実体を物質、粒子、エネルギー、場、その他いずれかへ分類するものでもない。


1.背景


 異常空間の出現以降、既知の生物学および物理学のみでは説明の困難な現象が複数確認されている。


 その中でも、スクロールの使用によって人間が後天的に獲得する魔術能力は、実験条件を設定したうえで反復可能という点で重要である。


 火、水、雷、風などに分類される能力が確認されているが、本稿では比較的生成物の回収および定量が容易な水系能力の記録を主要な検討対象とした。


 水系能力については、能力使用者による水の移動だけでなく、周辺に利用可能な水源が確認できない条件においても水が発生する。


 この現象について、初期の研究では大気中の水分の凝縮、使用者の体内水分の排出、周辺物質からの水素および酸素の供給、観測装置外からの流入など、既知の過程による説明が検討された。


 現在までに得られた結果は、これらの仮説だけでは全観測結果を一貫して説明できないことを示している。


2.既存実験結果の再検討


 本研究では、新規の魔術実験ではなく、これまで実施された水系魔術の定量試験、環境測定、被験者の生理測定および生成物分析の記録を再検討した。


 特に、能力発動前後における物質収支を中心に比較した。


 生成された水については、通常の水と明確に区別できる未知物質としての特徴は確認されていない。


 一方で、その生成量を既知の供給源だけから説明しようとした場合、実験条件との間に不一致が生じる。


 大気中の水分のみを供給源と仮定した場合、観測された生成量を満たさない。


 被験者から供給されたと仮定した場合についても、被験者側で対応する物質損失を確認できない。


 実験設備および外部環境からの流入についても、確認された生成量を説明するだけの経路は特定されていない。


 この問題は、単に「水の供給源が発見できていない」という点だけにあるわけではない。


 能力発動中に、生成される水の前駆物質として扱える未知の元素または粒子が検出された記録も存在しない。


 観測可能なのは、能力発動前には存在しなかった量の水が、発動後には存在しているという結果である。


3.未観測作用因子仮説


 以上の結果に対し、本稿では魔術現象の成立に、現在使用されている観測手段では直接検出できない作用因子が介在している可能性を提示する。


 本稿ではこれをmana仮説と呼ぶ。


 mana仮説が要求するのは、未知の粒子が水へ直接変換されているという機構ではない。


 現時点で必要なのは、


 魔術能力の発動と、既知の過程だけでは説明できない物理現象との間に、未観測の作用が存在する


 という最小限の仮定である。


 したがって、


 mana → 水


 という直接的な変換関係は、本仮説には含まれない。


 水を構成する水素および酸素がどこから供給されたのかについても、本稿では結論を与えない。


 通常空間内の未確認過程によって生成された可能性、観測対象外から移動した可能性、現在知られていない物理過程が介在した可能性については、いずれも排除されていない。


4.manaの暫定的定義


 本稿におけるmanaは、以下のように定義する。


「異常空間および魔術に関連する現象へ関与すると推定され、既知の物質・エネルギー移動のみでは説明できない結果を成立させる、現在の観測体系では直接検出されていない作用因子」


 この定義は暫定的なものである。


 manaを元素とは定義しない。


 粒子とも定義しない。


 エネルギーとも定義しない。


 既知または未知の場であるとも定義しない。


 また、質量を持つか、空間を占有するか、通常物質を透過するか、真空中に存在できるかについても不明である。


 現在のところ、「mana」という語が指すものは特定の物質ではなく、複数の観測結果を説明するために導入された仮説上の作用因子である。


5.存在と観測の区別


 本稿では、manaの存在を仮定することと、manaを直接観測することを明確に区別する。


 現在までにmanaそのものを検出した装置は存在しない。


 顕微鏡観察、元素分析、その他既存の測定によって「これがmanaである」と同定された対象も存在しない。


 したがって、manaの直接的な存在証明が達成されたとは評価できない。


 一方、魔術現象そのものは観測できる。


 能力使用者の意思と発動の対応も確認できる。


 発動によって生じた生成物も回収できる。


 生成量や能力使用に伴う身体負荷についても測定できる。


 すなわち、仮定された作用因子そのものは観測できない一方、その介在を疑わせる結果は反復して観測可能である。


 この区別は、今後mana仮説を検証するうえで維持されなければならない。


6.使用者の身体負荷との関係


 既存の実験では、水系能力の使用量増加に伴って使用者の疲労が増加し、より大規模な操作では吐き気などの症状が発生することが確認されている。


 この相関は、能力使用者が魔術現象の単なる開始信号として機能しているわけではなく、現象の規模と何らかの形で関係している可能性を示す。


 ただし、この身体負荷をmanaの消費と解釈する根拠は現時点では存在しない。


 疲労がmanaの利用量を直接反映しているのか、能力発動に必要な生理的処理によるものなのか、あるいは別の要因によるものなのかは区別できていない。


 したがって「魔力」「mana容量」「mana残量」などの量的概念を人体へ適用することは、現段階では避けるべきである。


7.他の魔術への適用可能性


 mana仮説が水系能力だけに適用可能であるなら、それは水系能力固有の未知機構を別名で呼んでいるにすぎない。


 仮説として有用であるためには、異なる種類の魔術についても検証する必要がある。


 火、雷、風など、既に確認されている魔術について、発生した熱、電気的現象、運動量その他の測定可能な結果と、能力使用前の状態を比較する必要がある。魔術には複数系統が確認されており、外部へ通常の身体動作だけでは説明できない現象を生じさせるという共通点がある。


 異なる魔術においても既知の供給源だけでは説明困難な結果が再現される場合、共通作用因子を仮定する根拠は強くなる。


 反対に、各魔術がそれぞれ異なる既知または未知の機構によって説明可能となった場合、manaという統一概念を維持する必要性は低下する。


8.異常空間との関係


 mana仮説を魔術以外へ拡張できるかについては、現段階では判断できない。


 異常空間内部では、人間の身体能力変化を含め、通常環境との差異が複数報告されている。


 しかし、それらが魔術と同一の作用因子によって生じているとの直接的証拠は存在しない。


 同様に、異常空間由来の生物、回収品、特殊な物質についても、manaとの関連を前提として分類するべきではない。


 これらは今後の検証対象であり、本稿のmana仮説を根拠として遡及的に「mana由来」と認定することはできない。


9.検証可能性


 mana仮説を科学的仮説として維持するためには、「説明できないものをmanaと呼ぶ」だけの概念にしてはならない。


 今後の研究では、少なくとも以下について比較可能な結果を得る必要がある。


 異なる魔術使用者で同様の物質・エネルギー収支の不一致が生じるか。


 同一使用者の能力規模と観測される不一致の大きさに再現性があるか。


 異常空間内部と通常環境で魔術の結果に差が生じるか。


 能力を持たない人間では同様の現象が発生しないか。


 異常空間由来の物質または生物が、魔術発動時に再現可能な変化を示すか。


 これらの検証によってmanaを仮定する必要性が低下した場合、本仮説は修正または棄却されるべきである。


10.結論


 本稿で検討した水系魔術の既存実験結果には、既知の物質移動および化学的過程のみでは説明が困難な部分が残されている。


 その一方で、未知の元素、粒子その他の直接的な物質は検出されていない。


 この二つの事実を同時に扱うため、本稿では魔術現象へ関与する未観測作用因子の存在を仮定し、暫定的にmanaと呼称した。


 manaは発見された物質の名称ではない。


 現時点では、物質であることすら確認されていない。


 その存在は直接観測されたものではなく、魔術によって生じる観測可能な結果から間接的に要求される仮説である。


 今後、異なる魔術、異常空間内部における人体変化、異常空間由来物質について独立した検証を行い、同一の仮説によって説明可能かを確認する必要がある。


 manaという仮説が正しいのか。


 あるいは、現在一つに見えている複数の未知現象へ便宜的に同じ名称を与えているだけなのか。


 現段階では、その両方が残されている。

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